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第3話

Author: 桃ちゃん
柚乃は以前、光也の写真を見たことがあった。

ときどきママはその古びた写真をじっと見つめ、長い間ぼんやり眺めていたから。

でもさっきのおじさんは、ほかの女の人を連れているだけじゃなく、氷みたいに冷たくて、すごく怖かった。

「ねえママ、あたしのこと、いらなくなったの……?」

小さな顔を必死に上げながら、涙がぽろぽろとこぼれそうになった。

ママが、写真のおじさんにあたしを預けようとしている――子ども心にそう察し、柚乃はこんなにも怖くてたまらなかったのだ。

すぐにママの足にぎゅっとしがみつき、顔を上げ、必死に哀願した。

「ママ、あたしを捨てないで!ケーキもチョコも、もう欲しいなんて言わないから。朝も絶対遅刻しないから。もうワガママ言わないから……だからお願い、置いていかないで」

幼く必死な声が、鈴夏の胸を引き裂いた。

しゃがみ込んで娘を抱きしめた時、彼女の張り詰めていた糸はもう限界だった。

二人は夜の道端で抱き合ったまま、声を上げて泣いた。

しばらくして、鈴夏はようやく気力を取り戻し、震える指で娘の涙を優しく拭ってやった。

でも自分が死んでしまったら、もう二度とこの子の涙を拭いてあげることはできない。

込み上げる嗚咽を必死に胸の奥へ押し込み、できるだけ穏やかに、優しい声で囁いた。「捨てたりしない。捨てるわけがないでしょう。ママは柚乃のことが世界で一番大好きなんだから」

でも今回は……約束を破ることになる。

一度だって柚乃に嘘をついたことなどなかったのに。

最初で最後の嘘が、この世を去ることだなんて。娘をこの冷たい世界に一人残して、孤独に生きさせることだなんて。

翌日、柚乃は幼稚園の転園手続きを済ませた。

年中組の柚乃は、登園時のぐずりはとっくに卒業していた。これまでも転園するたびに、すぐに馴染んでいた。

でも今回だけは、手続きを済ませて新しい担任の先生に連れられていく時、何度も何度も振り返った。

最後にピタリと立ち止まり、不安でいっぱいに揺れる瞳で鈴夏を見つめる。

「ママ、今日のお迎え、絶対に来てくれる?」

その言葉を聞いた瞬間、鈴夏は鼻の奥がじんと痛くなり、喉が詰まり、息すらできなかった。

柚乃はまだ恐れていたのだ。捨てられることを。

鈴夏は思い切り力強く頷いた。

「もちろん。ママが一番最初にお迎えに来るからね。約束する。ママが生きている限り、ずっと柚乃のそばにいる。絶対に離れないよ」

ただ、自分がいつまで生きていられるかは、もう誰にもわからないけれど。

柚乃の顔に、ぱっと明るい笑顔が戻った。

「ママはこんなに優しくていい人なんだから、絶対に百歳まで生きられるよ!そしたらずーっと一緒にいられるね!」

絶対に泣くまいと心に決めていたのに、娘の「百歳まで生きられる」という言葉を聞いた途端、鈴夏の目にこらえきれない涙が溢れ出した。

その日一日、柚乃は幼稚園でとても元気に、楽しく過ごした。

しかしお迎えの時間になり、教室の外へ連れ出されると、そこには背が高く細身で、どこか威圧感を放つ男の姿があった。

途端に柚乃の笑顔が凍りつき、小さな体が警戒に固まる。

ママが一番最初に来るって言ってたのに。

なんで写真のおじさんが来てるの?

あ……違う、パパか。

夢の中でずっと会いたいと願っていた人。なのに、初めて会った昨日の夜、大好きなママをあんなに悲しませた人。

ちっとも好きじゃない。

それでも彼女は教えられた通り礼儀正しく、「おじさん、こんにちは!」と言った。

光也がしゃがみ込んで目線を合わせると、大きな身体から発せられる威圧感は少し和らいだ。それでも柚乃は少し後ずさりし、顔いっぱいに警戒心を浮かべて彼を見つめた。

「おじさん、あたしに何か用なの?」

光也は伸ばしかけた手をそっと引っ込め、柚乃の明らかな緊張を見て、抱き寄せようとするのをやめた。

静かな声で言う。「園庭の遊具で、少しだけ遊ばないか?」

柚乃は光也から目を離さないまま、小さな頭でぐるぐると考えた。

このおじさん……あ、違う、パパは、あたしをどこかへ連れていこうとしてるんじゃないよね?

その不安を見透かしたように、光也が言葉を継ぐ。「大丈夫だ、少し遊ぶだけだよ。ママがお迎えに来たら、俺は帰るから」

「……わかった」柚乃は警戒を解ききれないまま、しぶしぶ頷いた。

大きな手が小さな手をそっと包み込んだ。その掌の中で、小さな手は緊張に耐えるようにぎゅっと硬く握りしめられていた。

滑り台のそばまで来ると、光也はできるだけ声を穏やかに潜めた。子どもを怖がらせないよう、意識して優しく。「行って遊んでおいで。ここでちゃんと見ているから」

実のところ、彼はただ、柚乃の姿を見たかっただけなのだ。

遊ぶのは子どもの天性だ。すぐに柚乃も夢中になって遊び始めた。

アスレチックのロープを登ろうとした時、地面から一メートルほどの高さで足が滑った。

「危ない!」

光也は血の気を失い、反射的に手を伸ばしていた。

しかし小さな体はすばしっこく、くるりと身を翻して見事に着地した。

光也はそこで初めて気づいた。さっきの一瞬、心臓が止まりそうになるほど自分が激しく恐怖していたことに。

目の前の小さな女の子は服についた砂をぱっと払い、にっこりと屈託なく笑ってこちらを見た。「ふふ、大丈夫だよ!転んでも自分で起き上がれば平気だって、ママが言ってたもん」

光也には到底想像もつかなかった。この五年間、鈴夏がたった一人でこの子を育ててきたことが。

柚乃は強く、勇敢に育っていた。顔つきも、鈴夏の幼い頃にそっくりだ。

着ている服は少し古びていたが、丁寧に洗い込まれて清潔だった。

光也の胸の奥底に、じわりと焼け付くような痛みが広がる。

もし柚乃が本当に自分の娘なら、五年前、自分は鈴夏を完全に誤解していたということになるのか。

その時、柚乃の耳に補聴器が付いているのを見て、光也は思わず息を呑んで固まった。「その耳、どうしたんだ?」

柚乃は自分の右耳をちょんと指さした。「こっちのお耳はね、聞こえないの。だから、お話しする時は左のお耳にお話ししてね!」

胸の奥で、言いようのない怒りが燃え上がった。

「鈴夏のやつは……いったい何をやってたんだ!」

こみ上げる怒りに任せて、無意識のうちに声が荒くなっていることにも気づかなかった。

その声は、柚乃の耳にはひときわ大きく響いた。彼女は怯え、全身を再び強張らせた。

光也はハッとして我に返り、内心で激しく後悔しながら声をぐっと落とした。「……すまない。もっと小さな声で話すよ」

柚乃は頬を膨らませて不満そうに言い返した。「ママのせいじゃないもん!あのとき、あたしもママも刑務所にいたの。お熱が出たのにお医者さんに診てもらえなくて、そのせいで耳が悪くなっちゃったんだから。ママの悪口を言うのは絶対に許さない!」

誰が何を言おうと、大好きなママを責めることだけは絶対に許さない。

あたしのママは、世界で一番いいママなんだから。

「なんであなたがここに来たんですか?」

凛とした声に光也が振り返ると、柚乃は弾かれたように鈴夏へと飛びついていた。

「ママ、お迎え来てくれた!ずっと、ずーっと待ってたんだよ」

「ごめんね、少し遅くなっちゃったね」

親子の姿を見て、後ろで光也が口を開いた。「鈴夏、どこか静かな場所で話せないか」

鈴夏は彼を見据えたまま、淡々と答えた。「ここで構いません。ここでも十分です」

光也は小さく頷いた。「……それでもいい」

鈴夏は柚乃の頭を撫でて、「もう少し遊んできてもいいよ」と促した。

二人は並んで立ち、再び滑り台へ駆け出していった柚乃の小さな後ろ姿を静かに見守った。二人の視線は、その小さな影から離れなかった。

それからしばらくの間、重苦しい沈黙が続いた。光也も鈴夏も、何も言わなかった。

かつては話しても話しても尽きることがなかった。隣にいさえすれば、たとえ体調が優れない時であっても、互いの顔にはごく自然に幸福の笑みが浮かんだものだ。

でも五年という歳月は、すべてを変え果ててしまった。

重い沈黙を破ったのは、光也だった。「柚乃は……本当に俺の娘なのか?」

柚乃から視線を外し、隣の鈴夏を見た。

「鈴夏、どうか正直に答えてくれ。今度こそ……俺を騙してはいないか?」

この二日間、ずっと考え続けていた。

鈴夏が柚乃を自分に預けようとし、確固たる自信を持って髪の毛まで渡し、自ら鑑定を求めてきた。

五年前のあの件は、自分の誤解だったのではないか。

もしそうであるなら、あの夜、理性を失った状態で彼女に浴びせた冷笑と罵倒は、最低の所業だったことになる。

彼女に謝らなければならない。

自分と彼女、実奈、そして柚乃の人生が、すべて書き直されるかもしれない。

これはすべての人の運命に関わることだ。

ただ一言でいい。本当のことを言ってほしかった。

鈴夏は正面から答えなかった。赤く染まる夕日の中に立ったまま、静かに問い返した。「では小野寺さん、親子鑑定は済まされましたか?」

「小野寺さん」という呼び方が、光也の端正な顔をわずかに歪ませた。

「鈴夏、本当のことを一言だけ聞かせてくれ。もし本当のことなら、過去のことはすべて水に流す。子どものことも、これからのことは俺が責任を持つ。だが、もう一度俺を騙そうとしているのなら……」

光也が言い終える前に、鈴夏はひどく静かな声で遮った。

「まず鑑定を受けてください。結果が出れば……それで十分なはずです」
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