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第28話

last update publish date: 2026-01-12 19:00:00

「……気にするな。ちょっと、不手際があっただけだ」

氷室様は気まずそうに顔を背けた。

もしかして、このおかゆを作ってくれるときに?

普段、何億円という契約書にサインをするその指が、私のために慣れない包丁を握り、鍋を火にかけ、傷ついたなんて。

その事実が、胸の奥をぎゅーっと締め付けた。

「冷めないうちに、早く食べろ」

有無を言わさぬ声だけれど、優しい。まさか、食べさせてもらえるなんて。

私は恥ずかしさと熱で顔が真っ赤になるのを感じたが、逆らえず口を少し開けた。

温かいおかゆが、口の中に広がる。

薄い塩味と、微かな生姜の香り。シンプルなのに、これ以上ないほど優しい味だ。

私は、ゆっくりと飲み込む。

「……美味いか?」

その心配そうな目に、私は堪えていたものが決壊するのを感じた。じわりと、涙が溢れる。

「……はい」

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