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第5話

Penulis: 藤永ゆいか
last update Tanggal publikasi: 2025-12-24 19:00:00

「さあ、始めよう」

氷室様の言葉に、私の心臓が跳ねた。

氷室様は、無言で私を見つめている。その黒い瞳には、一切の感情が見えない。

まるで、値踏みされているような、そんな錯覚に陥る。

神崎さんも、静かに私たちを見守っている。

そして、氷室様が口を開いた。

「君は、俺がどんな人間か見抜けるか?」

「え……?」

「30秒で答えろ。俺の好きな色、嫌いな食べ物、趣味」

予想外の質問に、頭が真っ白になる。

好きな色?嫌いな食べ物?そんなこと、どうやって分かるの?

そもそも、家政婦に観察力なんて必要?

初対面なのにそんなことを聞くなんて、おかしいよ……。

「観察力のない家政婦は不要だ」

「……っ」

氷室様の冷たい声が、私を現実に引き戻した。

そうだ。ホテルのコンシェルジュとして、私は何をしてきた?

『完璧なサービスとは、相手が望む前に、その願いを叶えること』

先輩の言葉が、脳裏に蘇る。

お客様の好みを、僅かな仕草や持ち物から読み取る。それが、私の仕事だった。

私は深呼吸をして、彼を観察した。

黒いスーツ。シンプルで無駄のないデザイン。

リビングのインテリアも、白と黒を基調としている。一切の装飾がない。

そして、彼の左手首に光る腕時計。銀色の文字盤に、シンプルな針。高級品だが、派手さは一切ない。

机の上には、ビジネス書が整然と並んでいる。

そして──この部屋にはテレビがない。

情報がひとつひとつ、頭の中で繋がっていく。

「……好きな色は黒。もしくは白」

私は、はっきりと答えた。

「嫌いな食べ物は……甘いもの。趣味は、読書とピアノ」

氷室様の眉が、わずかに上がった。

「根拠は?」

「部屋の色、スーツの色、腕時計のデザイン。全てシンプルで無駄がない」

私は、さらに続けた。

「そして、氷室様の指……第一関節が少し厚くなっています。これは、長年ピアノを弾いている方の特徴です」

氷室様の目が、初めて僅かに見開いた。

「そして甘いもの……デスクのコーヒーカップに、砂糖もミルクもない。キッチンにも、お菓子の気配が一切ありません。甘いものが生活の中にないということは──」

私は、彼の目を見て続けた。

「お嫌いなんだと思いました」

「……」

「外れていましたか?」

氷室様は、じっと私を見つめている。

数秒の沈黙の後、氷室様は小さく口角を上げた。

「……正解だ。よく観察していたな」

「それでは……」

「ああ、合格だ」

その言葉に、私は思わず息を吐いた。

良かった……。

緊張で、肩が凝り固まっていたことに気づく。

神崎さんが、小さく笑った。

「さすがですね、森川さん。氷室様が合格を出すのは珍しいことです」

「本当ですか?」

「ええ。これまで3人の家政婦候補が来ましたが、全員不合格でした」

3人も?私は4人目の候補だったのか。

氷室様は、ソファに座るよう促した。

「座れ」

私は慌てて、ソファに座った。背筋を伸ばし、膝の上に手を置く。

「次は面接だ」

氷室様の声に、わずかな変化があった。

それは……期待?それとも、試練の予告?

私は、覚悟を決めて彼を見つめた。

この面接が、私の運命を決める。

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