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癌になった私、彼氏は親友の顔合わせへ

癌になった私、彼氏は親友の顔合わせへ

Par:  風扶Complété
Langue: Japanese
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私はがんと診断された。七年付き合った彼氏・氷川颯太(ひかわ そうた)は、私をひとり病院に残したまま、彼の親友・黒沢静江(くろさわ しずえ)の結婚を急かす親への対応を手伝いに行った。 検査結果が出て、診断書を手に病院で号泣しながら彼に電話をかけた。 「颯太、わ、私……」言葉につまり、声を詰まらせる。 末期がんだと、どう伝えればいいのか。 颯太が慰めてくれると思った。 でも、電話の向こうから聞こえたのは、いらだちを含んだ彼の声だった。 「もういい加減にしてくれ!静江は親友なんだ。家族に会うのを手伝って何が悪い?結婚を約束したのに、まだ不満なのか?」

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Chapitre 1

第1話

「渚、お願い!颯太に私の彼氏のフリしてもらえない?一生のお願いなの。渚ってキレイで優しくて気前もいいんだから、断らないよね?」

私・桐原渚(きりはら なぎさ)の顔色は青白く、全身は痛みで冷や汗にまみれていた。黒沢静江(くろさわ しずえ)と顔を上げて会話する気力さえなかった。

でも――それでもわかっていた。彼女が今、とても得意げになっていること。私の彼氏・氷川颯太(ひかわ そうた)が私を置いて、彼女のもとへ行ってしまったのだから。颯太を巡るこの恋愛ゲームで、私は完全に負けてしまったのだ。

「渚、今回だけ静江の頼み聞いてやるよ。静江の母親がもう急かしてんだ。お前はおとなしく検査受けて、結果出たら俺に連絡くれ」

颯太は私の苦しみが見えていないようで、その口調には、かすかにうんざりした色が滲んでいた。

「うん……」私は診察室の外に座り、泣きそうな声を押し殺して俯きながら返事をした。涙なんて流したくなかったのに、それでも涙は言うことを聞かずに、ポタポタとズボンの裾に落ちていく。

潰れた方の目も、ズキズキと痛んでどうしようもない。

彼らは一緒に振り返り、立ち去った。静江の少し大きめの声が聞こえてくる。

「颯太、渚があなたを騙そうと、わざと病気のフリをしてるんじゃないかって思わない?

私のことまで疑うなんて……ひどいよ。だって、私たち親友でしょ?あんたなんかに惚れるわけないじゃん」

「おいおい、手伝ってほしいんじゃねーのかよ」

二人の耳障りな笑い声が聞こえてくる。まるで誰かが私の心臓を力いっぱい絞っているかのようだった。
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第1話
「渚、お願い!颯太に私の彼氏のフリしてもらえない?一生のお願いなの。渚ってキレイで優しくて気前もいいんだから、断らないよね?」私・桐原渚(きりはら なぎさ)の顔色は青白く、全身は痛みで冷や汗にまみれていた。黒沢静江(くろさわ しずえ)と顔を上げて会話する気力さえなかった。でも――それでもわかっていた。彼女が今、とても得意げになっていること。私の彼氏・氷川颯太(ひかわ そうた)が私を置いて、彼女のもとへ行ってしまったのだから。颯太を巡るこの恋愛ゲームで、私は完全に負けてしまったのだ。「渚、今回だけ静江の頼み聞いてやるよ。静江の母親がもう急かしてんだ。お前はおとなしく検査受けて、結果出たら俺に連絡くれ」颯太は私の苦しみが見えていないようで、その口調には、かすかにうんざりした色が滲んでいた。「うん……」私は診察室の外に座り、泣きそうな声を押し殺して俯きながら返事をした。涙なんて流したくなかったのに、それでも涙は言うことを聞かずに、ポタポタとズボンの裾に落ちていく。潰れた方の目も、ズキズキと痛んでどうしようもない。彼らは一緒に振り返り、立ち去った。静江の少し大きめの声が聞こえてくる。「颯太、渚があなたを騙そうと、わざと病気のフリをしてるんじゃないかって思わない?私のことまで疑うなんて……ひどいよ。だって、私たち親友でしょ?あんたなんかに惚れるわけないじゃん」「おいおい、手伝ってほしいんじゃねーのかよ」二人の耳障りな笑い声が聞こえてくる。まるで誰かが私の心臓を力いっぱい絞っているかのようだった。
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第2話
長い長い待ち時間が過ぎ、診断書を手にした瞬間、全身が震えた。医師の口から発せられた「乳がん末期」という言葉が頭の中で反響し、もはや人目も気にせず、待合室で声を上げて泣き崩れてしまった。震える手でバッグからスマホを取り出し、颯太の番号を押した。「颯太、わ、私……」生死を分ける言葉を、どう伝えればいいのか分からず、すすり泣きながら言葉を詰まらせた。「ごめん、渚。今、静江の両親と話してるんだ。診断結果はラインで教えてくれればいい」電話が切れる音と共に、胸が締め付けられるような痛みを感じた。数秒の呆然とした後、もう一度彼に電話をかけた。この世界で私には彼しかいない。彼の慰めの言葉を聞きたくて仕方がなかった。恐怖が全身を覆い、骨の髄まで浸透していくようだった。しかし、電話が繋がった瞬間、聞こえてきたのは彼の怒りを含んだ声だった。「もういい加減にしてくれ!静江は親友なんだ。家族に会うのを手伝って何が悪い?結婚を約束したのに、まだ不満なのか?」彼の叱責の言葉をぼんやりと聞きながら、再び電話が切れる音がした。今や呼吸をするのも辛く、周りの人々の冷ややかな視線がさらに苦しさを増していた。ぼんやりとした意識のまま、颯太との小さな家に帰り着いた時、がらんとした部屋を見て、もう抑えきれずに大声で泣き叫んだ。でも……死んでしまえば……颯太は私という重荷から解放されるのかもしれない……
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第3話
颯太からの電話を受けた時、泣きはらした目で時計を見ると、もう11時近くだった。スマホが手の中で震え続け、涙が画面に滴り落ちる。彼からの3回の着信を無視したあと、意外にも4回目は静江からだった。スマホの電源を切ろうとした瞬間、颯太からメッセージが届いた。【もう怒るなよ。今夜は帰れない。一人で気をつけてな。病気、大したことないんだろ?】思わず嘲笑してしまい、返信した。【全然大丈夫よ。楽しんでね。もう寝るわ】彼は「おやすみ」のスタンプを送って、それっきりだった。いつからこんな関係になったのだろう。二人とも孤児で、互いに救い合いながら、つまずきながらここまで来た。子供の頃は、おとぎ話のように幸せな結末を迎えられると信じていた。でも、大人になる途中で静江が現れた。親友という名目で颯太に近づいて。でも……静江の目には、私と同じ愛情が宿っていた。颯太は本当に気づいていないの?午前1時、画面が突然明るくなった。静江からのメッセージだった。【ごめんね、渚。両親が颯太と同じ部屋に泊まるよう言い出して……気にしないでね。何もしてないから】続いて写真が送られてきた。颯太が静江のベッドの横に布団を敷いている様子。颯太は寝ていたが、唇に明らかな口紅の跡が。静江は颯太のことは好きにならないと言い続けてきたけど、陰で何度も私に挑発するような行動をとり、颯太は自分のものになると露骨に主張していた。高校1年の時、二人の関係に静江が割り込んできた。彼女は男勝りで、男子がやるスポーツはほとんどこなした。颯太も静江も体育科。だんだん颯太は私の前で静江の話をするようになった。彼女がどれだけ義理堅いか、普通の女の子みたいに気取らないこと。一緒に罰を受けたり、授業をサボってネットカフェに行ったり、喧嘩したり……静江の話は尽きることがなく、私は試すように聞いた。「じゃあ、彼女のこと好きなの?」颯太はその言葉を聞くと、まるで大笑い話を聞いたかのように笑い転げた。笑い終わると、こう言った。「静江は男みたいなやつだよ。ただの親友さ。あんな子は好きじゃない。俺が好きなのは……」その後の言葉は口にせず、颯太はただ私を見つめて微笑んでいた。その眼差しは熱く、純粋だった。私はすでに彼の瞳に答えを見出していた。その瞬間、胸の鼓動が激しく
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第4話
海辺の小さな家を借りた。大家さんは優しいおばあちゃんだった。異常なほど親切で、よく話しかけてくれて、手作りのおいしいものをくれる。七十過ぎのおばあちゃんは、私と同じように明日と不測の事態のどちらが先に来るかわからない。でも、おばあちゃんは少しも焦っていない。「一日一日を大切に生きるのよ」と言う。死を受け入れることを学んだ。死んでしまえば、何も考えなくていいのだから。三日が経った。颯太からメッセージが来た。まだ帰れないという。静江の両親が彼を気に入って、もう少し滞在するよう頼んでいるらしい。静江も黙っていない。SNSに投稿した。【やっと両親の願いを叶えて、婿を連れて帰ってきた】添付の写真には、颯太が静江の両親と談笑している様子が写っていた。毎日のように更新される静江のSNS。颯太と親戚回りをする写真、お揃いの服を着た二人の写真、そして静江が颯太の頬に顔を寄せている写真まで。その角度が絶妙だった。静江の唇が颯太の頬にほんの少し届かないくらいの距離。とてもあいまいな雰囲気を醸し出している。颯太は硬い笑顔を浮かべていた。静江のコメントには【バカな颯太、驚いた?】颯太は返信していた。【君の「親友役」って、マジで骨が折れるな。芝居までさせやがって】【芝居が嫌ならさ。本気で付き合ってくれてもいいけど?ハハハハ】私は携帯の電源を切った。気持ちを落ち着かせようとしたのに、これらを見ると、やはり胸が痛む。高校三年間、私と颯太は言葉にせずとも互いを意識し合っていた。卒業の日、やっと彼が告白してくれた。そして私たちは付き合い始めた。今でも、あの日の彩り豊かな街の灯りの下で立つ彼の姿を覚えている。彼の瞳は夜空の星のように輝いていた。緊張のあまり、少しもたついた口調で彼は言った。「渚、俺が、俺が君の彼氏になりたい。そして……少しずつ夫になって、君の一番大切な人になりたい。君も俺の一番大切な人だ」躊躇なく彼の手から花を受け取り、私は声を上げて泣いた。幼い頃から、私は颯太に寄り添ってきた。大人になったら、彼と家庭を築くことを夢見続けていた。幸いにも、その願いは半分叶った。涙で曇る目を通して、颯太に助言を与えていた静江の姿が見えた。彼女は寂しげな表情で、颯太の後ろ姿を見つめていた。やはり、私の直感は間違ってい
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第5話
約一週間後、やっと颯太から電話がかかってきた。電話越しの彼の声は苛立ちと焦りに満ちていた。「どこにいるんだ?何がしたいんだ?俺が静江のことを好きになるはずがないし、彼女も俺のことを好きにはならない。そんなことで家出する必要なんてないだろう?」「早く居場所を教えろ。迎えに行くから。もうすぐ結婚なんだぞ。こんなことして何になるんだ?」「渚、お前は俺のまわりから友達を全部消すつもりか?」胸の奥がズキズキと痛むのを我慢しながら、彼の言葉を聞き終えた。声を押し殺して答えた。「別れましょう、颯太。結婚式もする必要はないわ」そう言って電話を切り、彼をブロックしようとした瞬間、喉に違和感を覚えた。嫌な予感がして、急いでトイレに駆け込んだ。口と鼻から大量の血が溢れ出た。濃厚な血の匂いがトイレ中に広がる。体が徐々に冷たくなっていくのを感じた。頭はぼんやりして、めまいがする。呼吸も苦しくなり、口を大きく開けて必死に空気を吸い込んだ。よろめきながらドアに向かって走り出したが、あと少しのところで重々しく床に倒れ込んだ。闇が少しずつ私を飲み込んでいく。全身に寒気が走る。頭の中で、孤児院を走り回る二人の子供の姿が走馬灯のように流れた。「颯太くん、颯太くん、私たちずっと一緒にいられるの?」「うん、絶対に渚を一人にしたりしないよ」耳元でうるさく鳴り続ける着信音。でももう電話に出る力が残っていない。意識が少しずつ遠のいていく。これが死というものなのか…………「颯太、どうしたの?」
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第6話
颯太は眉をひそめ、胸を押さえながらよろめいた。静江が慌てて彼を支えた。心の中に突如として不安が湧き上がり、鼓動が激しく高鳴る。この感覚は10歳の時以来だった。そして、それは渚に関することだった。幼い頃の颯太は人付き合いが苦手で、孤児院の子供たちからも避けられがちだった。ただ一人、渚だけが嬉しそうに彼のもとへ駆け寄り、話しかけてくれた。孤児院の年上の子たちは、颯太の孤高な態度が気に入らず、しょっちゅう彼をいじめた。毎回、颯太は全身傷だらけになった。そんな時はいつも渚が颯太を守るために戦ってくれた。華奢な女の子なのに、どこからそんな力が湧いてくるのか、いじめっ子たちをボコボコにしてしまうほどだった。10歳の時のある日、また颯太がいじめられた。今回は相手がさらにエスカレートし、全身の骨が折れるほどの暴行を受けた。立ち上がることもできないほど痛む中、渚が駆けつけてくれた。小さな彼女が、自分よりずっと大きないじめっ子たちに向かって必死に拳を振り上げた。しかし今回、相手は凶器を持っていた。渚の片目を潰してしまったのだ。我に返った渚は目を押さえ、怯えていた。颯太も恐怖で震えていた。それ以来、渚は異常なほど臆病になり、代わりに颯太が強くなった。渚を守る立場になったのだ。その後、片目を失った渚を引き取りたがる人はいなかった。颯太は渚のそばで守り続けるため、わざと悪さをして養子に行きたがらない振りをした。結局、二人とも引き取られることはなかった。「颯太、心配しすぎよ。渚ちゃんだって24歳でしょ?もう立派な大人なんだから、自分のことくらい大丈夫よ。私だって、この歳になれば実家を出て遊びに行っても両親は気にしないわ」静江が颯太の肩を軽く叩き、自分の経験を引き合いに出して慰めようとした。しかし、颯太は俯いたまま、淡々とした口調で一言。「渚はお前じゃない」次の瞬間、颯太は扉を開け放ち、一目散に飛び出していった。
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第7話
私の魂は、どういうわけか幼い頃の孤児院に戻っていた。そこはもう朽ち果て、誰も住んでいない。壁には緑色の苔がびっしりと生え、隅々にはクモの巣が張り巡らされている。角にある埃まみれの小さな椅子を見ると、いつもそこに座っていた孤独な少年を思い出した。彼は口数が少なく、他の子供たちと遊ぶことを好まなかった。いつも黙って隅っこに座り、ぼんやりしていた。院長先生の話では、彼の両親は交通事故で亡くなり、親戚もいないため、ここに連れてこられたのだという。彼のぼんやりとした姿を見ていると、私がここに来たばかりの頃を思い出す。でも私は違う。私は母親に捨てられたのだ。父が母を捨て、そして母が私を捨てた。孤児院の門の前に置き去りにして、母は去っていった。追いかけようとした私に、母は怒鳴りつけた。邪魔者は消えろ、と。そうして私は孤児院に残された。最初の頃は私も口数が少なく、頭の中は母の怒鳴り声でいっぱいだった。あの日の母はとても恐ろしかった。父に捨てられた日と同じように、ひどく歪んだ顔をしていた。見知らぬ孤児院、見知らぬ子供たち。怖くて話しかけられず、一人で遊び、一人で食事をし、一人で隅っこに縮こまっていた。私の弱さを知った子供たちは、やがて遠慮なくいじめ始めた。髪を切られたり、小便をかけられたり、死んだ猫で脅されたり。こっそり腕をねじられ、ついに我慢の限界を超えて反撃した。椅子を持ち上げ、狂ったように一人の子供を殴りつけた。あの時、私をいじめた子はもう少しで死ぬところだった。それ以来、誰も私をいじめなくなった。でも、誰も私と遊ばなくなった。そんなある日、女の子よりも可愛い顔をした男の子が孤児院にやってきた。彼も口数が少なく、友達を作ろうとしなかった。でも、私は彼に惹かれた。彼を私の唯一の友達にしたいと思った。私は彼に近づき、話しかけ、もっと話をするよう促した。少しずつ、彼は頷いて応えてくれるようになった。私たちの友情は、そこから始まった。それからは、彼が他の子供たちにいじめられているのを見つけると、私は彼のために戦った。あの頃の私は、この孤児院で無事に育つには強くならなければならないと、骨身に染みて理解していた。でも、目を潰された日、私は再び恐怖に襲われた。母に捨てられた時よりも、もっと恐ろ
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第8話
院内の一本の桃の木が見事に育ち、春真っ盛り。そよ風に乗って、花びらがひらひらと舞い落ちる。これは颯太と私が手植えした桃の木。ただ私が桃が好きだと言っただけなのに。颯太は毎日こっそり空き缶を拾い集め、稼いだお金で苗木を買ってきたの。私たちは春の訪れを心待ちにし、秋の実りを夢見た。年月は流れ、秋の収穫を待たずして、私たちは孤児院を後にした。私はよく颯太の耳元でつぶやいていた。今年の秋になったら、一緒にこの桃の木を見に来てほしいって。でも颯太は忙しかった。毎日仕事に追われ、私の言葉に耳を貸す余裕もなさそう。思いがけず、秋を待てなくなった。せめて春の桃の花を見られたらいいな。「颯太、ゆっくりでいいから」振り返ると、颯太が私の方へ走ってくる。その後ろを息を切らせた静江が追いかけてきた。桃の木の前で一瞬立ち止まった颯太は、すぐに各部屋を駆け回り始めた。何かを必死に探している。きっと私のことね。静江が私の傍らで止まった。大きく息を吐きながら、部屋から部屋へと走り回る颯太を見つめている。全ての部屋を探し終えた颯太は、がっかりした表情で桃の木に向かった。木の下に力なく座り込み、胸が激しく上下している。「渚、一体どこにいるんだ?」と呟いている。息を整えた静江が不満げに言った。「渚ったら何考えてるの?あなたが心配するって分かってるのに家出するなんて。子供じゃないんだから、人に迷惑かけないでよ」すると突然、颯太が目を赤くして静江に怒鳴った。「黙れ」静江は悔しそうに口をとがらせ、何か言いかけたその時、颯太のスマホの着信音が鳴り響いた。
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第9話
颯太は焦りながらスマホを取り出した。着信を見た瞬間、彼の胸がドキンと鳴った警察からの電話だった。彼は震える指で応答ボタンを押し、呆然と警官の質問を聞いていた。桐原渚の彼氏かどうか、そして遺体の確認を求められた。一瞬で颯太の顔から血の気が引いた。信じられない様子で目を見開いている。電話が切れる前に、スマホが彼の手からすり落ち、地面に叩きつけられた。静江はその知らせを聞いて、驚いて口を押さえた。でも、徐々に彼女の口元が歪んでいくのが見えた。私の遺体を確認した瞬間、颯太はその場に崩れ落ちた。私の手を取って必死に揉みしだき、温めようとしている。毎年の冬、彼がいつもそうしてくれたように。おばあさんと静江は、子供のように泣き崩れる颯太をただ黙って見つめていた。私は持っていたお金を全部おばあさんに渡したの。私を火葬にして、遺灰を海に撒いてもらうつもりだった。「渚、目を覚ましてくれ。今すぐ結婚しよう。渚、俺が悪かった。もう先延ばしにしない。今すぐ結婚しよう」突然、颯太が立ち上がり、冷たい棺から私の遺体を抱き上げた。静江とおばあさんは驚いて、慌てて止めようとした。「颯太、何してるの?正気?遺体は火葬しなきゃ」「そうですよ、お兄さん。もう亡くなったんだから、そっとしておいてあげて」「邪魔するな」颯太は私の遺体を抱きしめたまま、凍りついたような表情で威圧的な声を上げた。「颯太、あんた狂ってる」静江は彼の背中に向かって怒鳴った。周りの人の視線など気にもせず、颯太は私の冷たくなった体を抱えて人ごみを抜けていく。私は慌てて彼の後を追った。今の彼の様子に、私まで怖くなってきた。遺体を車の後部座席に固定すると、そのまま家に向かった。部屋の中は私が出ていった時のままだった。颯太は用意していたウェディングドレスを私に着せようとした。硬直した遺体に着せるのに随分と時間がかかった。次に、私の化粧道具を探し出し、口紅を取り出して蒼白な唇に丁寧に塗っていく。それでも顔色が悪すぎるので、親指で唇の口紅をこすり、青ざめた頬に塗り広げた。そして、急いで買ったという指輪を、私の薬指にはめ込んだ。これらすべてを終えると、颯太はスマホを取り出し、私とともに写真を撮った。
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第10話
私はそんな彼を見て、つらくなってきた。大学を卒業した日、私はすぐに彼と結婚したかった。彼に何も求めず、結婚式も豪勢なものは望まなかった。ただ、彼がいる場所が私の「家」であればよかった。しかし彼は断った。最高の結婚式をしてあげたいと言うのだ。そこで私は彼の会社づくりに付き添った。少しずつ軌道に乗ってきたところで、私はまた結婚を提案した。だが彼は私を抱きしめ、「まだ安定していないから」と言った。私が求めていたのは、彼の存在そのものだったのに。後に、彼の会社も軌道に乗り、私はもう一度結婚を切り出した。すると、彼は以前とは様子が変わっていた。結婚話を嫌がり、深夜まで外出するようになっていた。静江のSNSを見ると、二人で飲んでいる投稿があった。キャプションには【男って面倒だよね。結婚ばかり催促する彼女なんて、最悪】と書いてあった。その日は夜も眠れなかった。私はついに彼にとって面倒な存在になってしまったのだ。卒業後、彼は仕事に明け暮れ、私とあまり時間を過ごせなくなった。仮に時間ができても、静江の一本の電話で駆けつけていく。私たちの関係に危機感を覚えた。静江が少しずつ私の座を奪っていくのを感じていた。彼が私を、恋人じゃなく家族のように思うようになるのが怖かった。だから、急いで結婚したかった。しかし、彼はもはや私と結婚したがらなくなっていた。彼は静江のことが好きではないと言うが、確実に彼女に気を向けるようになっている。静江に彼氏ができるたび、彼は決まって悪く言った。「じゃあ、あなたは?」と静江が聞くと、少し黙ったあとで、私の手を取って言った。「俺はダメな男だけど──渚がいるからな」そうだ、たとえ彼が完璧ではなくても、私は彼から離れることはできない。私が彼を愛しているのを、彼は良く分かっている。今の彼にとって、私はもう家族同然なのかもしれない。きっと、私たちはあまりにも近づきすぎてしまったのだ。
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