もう君の兄をやめたい

清子の兄として十年も過ごしてきたが、もうやめたい。

僕は地面に落ちたタバコの吸い殻を踏み消し、彼女に言った。「清子、僕と結婚しない？」

「兄さん......私は......」

彼女が言葉を飲み込んでいた様子を見て、僕はすぐにわかった。

僕は頷き、その日からすぐ婚活を始めることにした。

だが、やっと清子を待つことをやめて、ずっと僕の側にいてくれた女の子と結婚しようと決意したとき。

清子は後悔した。

彼女は僕の袖を引っ張り、必死に頼み込んだ。「兄さん、彼女と結婚しないで、私と結婚してくれない？」

清子は、僕が子供の頃に両親に養子として迎えられた妹だ。

二人で助け合って十年を過ごしてきて、僕は知らぬ間に彼女を好きになっていた。

ある日、彼女の周りに他の男の子がいるのを見た。

このまま告白しなければ、彼女を失ってしまうかもしれないと思い始まった。

しかし、告白した後から、清子はずっと僕から避けているようだった。

その日、僕の誕生日だった。

早めに清子の学校に迎えに行くために着いた。

天気はどんどん寒くなり、校外の木々はすっかり葉を落としてしまった。僕は道端の落ち葉を蹴飛ばしながら、彼女を待っていた。

彼女を見た時、僕は少し前に進んだ。

だが、清子は立ち止まり、しばらく待っていたようだった。しばらく見た後、彼女は髙橋悠介を待っていたことをわかった。

僕は気づかれないように、木の陰に隠れた。

その時、彼女が髙橋悠介と一緒にいる時の様子をどうしても見たくなった。

二人は手をつなぎ、楽しそうに歩きながら話していた。

半分ほど歩いたところで、清子の靴紐がほどけ、髙橋悠介は腰をかがめて優しく靴紐を結んであげた。

僕が近づこうかどうか迷っていたその時、二人は曲がり角を曲がった。

「清子、今夜、家に帰らなくてもいいか？」

髙橋悠介の声が聞こえた。

「帰らないなら、どこに泊まるの？」

「僕たち、外のホテルに行こうか？」

二人はどんどん遠ざかっていき、僕が追いかけようとした頃には、すでに姿は見えなくなっていた。

急いで携帯を取り出し、清子に電話をかけた。

一度目は誰も出なかった。

諦めずに二度目をかけると、それも出なかった。

五回目でようやく電話が切られた。

僕は車の中でガッカリし、ハンドルを叩いた。

しばらくすると、携帯が鳴った。

清子からのメッセージだった。「兄さん、今日は帰らないよ」

僕は急いで返信した。「清子、今日は僕の誕生日だよ」

「兄さん、誕生日おめでとう。明日、大きなケーキを持っていくね」

再び電話をかけると、今度は電源が切れていた。

家に戻ると、ひときわ寂しい空気が漂っていた。

テーブルの上には、僕が早くから準備しておいた美味しそうな料理が並んでいた。それはすべて、清子が好きなものだった。

端に置かれた一つのショートケーキ。それも、清子の大好物だった。

清子がこの家に来た数年は、一応住んでいるところがあるが、決して裕福ではなかった。

ショートケーキはおろか、ほんの小さなケーキひとつすら買えなかった。

僕の誕生日のその日、清子は小さなショートケーキを手にして、顔を汚して、唇に血がついていた。

そのケーキは、彼女がケーキ屋から盗んできたものだった。

そのため、店で捕まって叩かれたのだ。

彼女は目を大きくして僕を見つめ、言った。「兄さん、これから毎年、私たち二人で一緒に誕生日を過ごせよう？」

僕はそのショートケーキをひと口ひと口、彼女の口に運んだ。「うん、これからは僕の誕生日は君の誕生日だ。毎年一緒にショートケーキを食べよう」

彼女はそのケーキの中で唯一のいちごを僕の口に押し込んだ。「それはダメ。私の誕生日も兄の誕生日にしないと、二つの誕生日を一緒に過ごして、ショートケーキも二つ食べられるよ」

でも今、そのショートケーキを一緒に食べると言っていたあの子は、もう帰ってこなかった。

清子が帰ってきたのは、翌日の午前２時を過ぎた頃だった。

彼女はリビングのライトをつけ、驚いたように僕を見た。「兄さん、まだ寝てないの？」

僕は手に持っていたタバコの吸い殻を無造作に地面に落として踏み消した。

「清子、ちょっとこっちに来てくれ」

彼女は言われた通り、静かに僕の隣に座った。

「清子、ほんとうに僕と一緒にいるのが嫌なのか？結婚してくれないのか？」

彼女は言葉を失った。僕があの頃のことをもう一度持ち出すなんて、思ってもみなかっただろう。

しばらくして、彼女は頭を振りながら言った。「兄さんはずっと私の兄さんだよ」

僕はただ「うん、分かった。部屋に帰ろう」と告げた。

彼女は何度も振り返りながら、最後にドアの前で「おやすみなさい」と一言だけ言った。

僕はソファに座って一晩を過ごした。窓辺の月が僕と一緒に夜を過ごしてくれた。僕はじっと彼女の部屋を見つめ続けたが、結局誰も部屋から出てくることはなかった。

清子、やっぱり彼女の心には僕なんていなかったんだ。

この夜、僕はずっと彼女が僕の言葉を聞いた時の驚きの顔を想像していた。

彼女が冷たく「もう彼氏がいる」と告げた時のことを、さらには「誕生日を祝う」約束も守らなかったことを。

愛していないことには何の間違いもない。

僕は彼女を家に迎えてきたけれど、その時僕は確かに「兄さん」と呼んで欲しいと言った。

彼女は僕の妹ではあるけれど、彼女にも他の誰かを愛する権利、他の誰かに愛される権利があるのだから、仕方ないよね。