登入モクロク親方が腕組みをしながら頭の中で軽く考え込んで、それから話し出す。
「これ以上のペースとなるとちょっと厳しいな。やはり一日二台、頑張っても三台がうちの工房では限界だ。徒弟も三人しかいないからな。よその工房へ同じ大きさや同じ質で指定して、価格競争が起きないように価格も商業ギルドで統一してできるかどうか掛け合ってくれるのがうちとしては楽でいいな」
やはり量産は今のところ出来ないんだろうな。そもそも、四人で木から切り出して色の違う木材を同じ大きさに加工して……というところから始めるのだから、それだけ時間がかかっても仕方はないところ。
それに、職人仕事は最初から最後までを一人でできるようになって最低限一人前ということなのだろう。用意する盤面も手作りになるのだし、コマを置くところに溝を切ってマス目を確保して……という作業も必要になる。これ以上のスピードアップはいくら徒弟仕事とはいえ、クオリティの低下を招くだろう。
それはモクロク親方の工房の評判を下げることにもつなが
食事を食べ終わり、水を飲んで休憩をしていると、リバーシ待ちで声を上げる人がいたので、セルフィとそれぞれの席に向かってリバーシを楽しむことに。「よろしくお願いします」 お互いに礼をして、リバーシを始める。ルールを完全に知っているのと、ルールを活かして勝負ができるのと、読みあいや棋譜の基本が頭に入っていてどう相手に打たせればこっちに有利になるかまでを誘導するように打たせられるかはレベルが違う。 俺にできるのはせいぜいルールを活かして読み合いが軽くできる程度だ。ちょっとだけ、ルールを覚え始めたプレイヤーよりは強いぐらいの腕しか持ち合わせていない。 俺がリバーシの考案者ということは広まっていないので、考案者の癖に弱い、ということまではばれていない様子だ。ただのリバーシをルールだけは覚えた宿泊者、という立場を崩したくないので、ここは精一杯戦って勝てるかどうか試すことにしよう。 もし相手の腕に自信があるなら、俺に勝てたら飯代はおごりでいい、と自主的に言い出して奮起させる方向に行くだろうが、この相手はそんなことは言いださなかったので、そこそこの腕前、というところなのだろう。 実際、十手ずつほど進めたところで、まだいい感じの勝負を続けている。それほど強いと感じないあたりが……いや、もしかするとそこそこの腕前に見せかけているだけかもしれないな。油断せずいこう。「参りました」「お粗末様でした」 ほぼ同時に始めたはずだが、セルフィのほうはセルフィが勝って終わったらしい。やっぱりセルフィ、頭が柔らかいのか、かなり強い気がする。俺が弱いわけじゃないんだな、という自信がさらについた。よし、ここは俺も勝って……あれ、どんどん俺の色が減っていくぞ。 とりあえず……ここで、いや、ここにおくとこっちに置かれるから……うん、これ微妙に詰んでないか? 相手の顔を見ると、ニコニコとしている。どうやら、こっちの手の内を読んで、何手か先までは見通されているかのようだ。これは……負けかな。 どこ
しばらくミニボアを狩り続けていたところ、足音が響く。この足音は間違いない、ワイルドボアだ。 周囲を急いで見渡すと、一直線にこちらへ駆けてくる一匹を見つけることができた。「ワイルドボア来たぞ、攻撃のほうよろしく、こっちは前回と同じく、受け止めつつ頭を狙う」「わかりました。十分ご注意を」 セルフィが俺のそばにきて、いつでも飛び出せるポジションに立つ。俺が正面からしっかり腰を落とし、ワイルドボアの体当たりと牙を確実に避けられる姿勢を取る。 やがてワイルドボアはそのままのスピードを殺さず、全力で俺に体当たりを敢行してきた。その体当たりをショートソードと手首、腰、そして足首と足裏で完全に受け止める。 そして、ショートソードの先はちょうど脳天を突き破り、ワイルドボアの頭を割ったところで止まった。そのままセルフィが横から飛び出し、いつもの場所に傷をつけ、効率的に血を垂れ流させる。 脳は傷つけたが心臓には一切ダメージを残していないため、心臓はかろうじて動き続けてはいる。その間に一滴でも多めに血を抜いてやらないとな。ワイルドボアを半分アイテムボックスから出し、血を抜き続ける。 頭に一撃入ったから血は完全に抜けないかもしれないなあ。脳の、心臓の駆動に関する部分を傷つけていたらアウトだろうが、そこ以外に当たっていたらまだ見込みはあるか……まあ、実際どうなるかは解体結果書次第か。うまく行ってくれてますように。 ◇◆◇◆◇◆◇ ワイルドボアはその後も二匹来た。三匹目を倒したところで俺とセルフィの剣術、剣聖レベルもレベルアップ。ワイルドボアをより楽に倒せるようになったはずだ。 次のワイルドボアが楽しみだなあと思いながらミニボアを倒していたが、そういう時に限って出てこないものなんだなあ。結局その後ワイルドボアが道沿いにまで出てくることはなかった。 その代わり、ミニボアに限っては充分な数を倒すことができて食料にできる分だけしっかりと倒すことができた。 日が暮れ始め、時刻を時空魔法で確認すると17時。今から戻って冒険者ギルドで解体結果書を受け取って、銀の卵亭に
昼食がまだだ。移動やこの後の仕事の手間も考えて銀の卵亭で取ることにする。久しぶりに昼食を銀の卵亭で取ることになるな。お弁当を除けばだが、普段の昼食は買い食いかお弁当だし、ここのところは外で食べることのほうが多かった。 久しぶりに昼に食堂へ入ると、昼間からそこそこにぎわっている。これもリバーシのおかげ、ということなんだろうか。「リンカちゃん、白二つね」「はい、白パンセット二つ! 今日はまだどこにもお出かけしてないんですねえ」「今一旦用事を終えて帰ってきたところだよ。今日はこれから肉集めかな」「頑張ってくださいねー」 周りを見ると、やはり食事を終えてすぐにリバーシの台に向かう人がちらほら。リバーシの台数もちゃんとあるおかげで、スムーズに新しい対戦相手を見つけることはできているらしい。むしろ、三台に増えたことで新しい対戦相手を待つ時間すらできている模様。 常に満員で順番待ちができるのはやはり昼より夜らしい。夜なら、宿に泊まる住人達もリバーシに参加しやすい。それから一仕事終えたギルド職員も、昼休憩だと仕事を抜け出すことなく堂々とプレイできる、ということだろう。少なくとも昨日の夜はそんな感じだった。 今はさすがに昼だからか、ギルド職員の姿は見かけていない。もしかしたら商人ギルドの近くで新たに店に売り込みをかけて、リバーシを置いてもらってわざわざここまで来なくてもプレイできるようにしているのかもしれないな。ずるい。 白パンセットが運ばれてきたところで、今日もありがたく食事をいただく。この白パンも安定供給されているのはヤマナリパンのおかげ。それなりに策は講じてきたのであとはうまく回ってくれるかどうかだけ。 とりあえず今は、サンプルの一枚だけが綺麗に焼きあがればそれでいいのだ。後は実際にお皿に手が届きそうになったところで枚数や物がちゃんと存在していればいい。 本当に量産する必要もないのだから、そろそろ何人ぐらい交換されそうだ、というところでヤマナリパンからデクレール親方のところへ連絡をして、それから焼き上げるのでも問題はないことになる。むしろそのほうが無駄がなく、より高級さがあっていい。
暇つぶし二日目。昨日に引き続き、デクレール親方のところへ向かう。親方はさっそく骨を焼く準備をしていた。「おはよう、昨日一晩かけて自然風で乾かしてはみたんだが、まだ濡れてるような気がするんだ」「大丈夫じゃないですかね。もろくなるまでしっかり焼き込むので。それと、今回は試験的な面も含めてなので、骨を半分原料に混ぜ込む形で行こうと思います。最良の配分がどれだけになるのかは親方任せになりますが、こっちの国では半分ほど混ぜ込むのが基本になっていましたのでそれに従おうと思います」「おう、そこは問題ない。早速加熱してもらって、焼こうと思うんだが、お願いしていいか? 」 デクレール親方が炭を持ってきたが、炭が混ざっても困るので、今回は俺が直火で焼いてみると言って、自分のレベルアップに流用させてもらうことにする。悪いな親方、金にならない分だけ経験値として自分の身に付けさせてもらうぜ。 全力で高温で焼き始める。温度が何度まで出ているのかはわからないが、少なくともライターよりは熱いつもりで出しているので、1600度ぐらいは出ていると思われる。しばらく焼いたところでハンマーで砕きながら、細かくしつつ、全体によく火が回るようにしながら均等に焼きを入れていく。 時間にして一時間ぐらいかけて火をしっかり回して、粉々になるまで細かくしながら骨を焼くと、本当にもろくなったのか、ハンマーでコリコリと叩くだけでポロポロと崩れるようになってきた。焼き具合は問題なさそうだな。 そのまま、粉にできそうな部分は親方に渡し、冷やしながらハンマーで細かく砕いてもらっていく。残りのまだ硬い部分は焼き続け、きっちり焼く。 この間、セルフィはデクレール親方と徒弟のさらに手伝いみたいな形で、食事を買いに行ったり俺の汗を拭いたり、小間使いのように動いてくれていた。火魔法を自分で扱ってるとはいえ、さすがに熱いものは熱い。「大丈夫ですか。そろそろ出来上がりそうですが、疲れていませんか」 手伝えないセルフィが仕事がなくなってあわあわしているが、気にすることはないし、朝出かけるときも、やることないから丸一日休みで好きに遊んでていいとも伝えたのだが…&he
さらに6時間煮込み、スープがいい感じに美味そうな匂いを立ち上らせてきたころ、煮込む手を止めて中から骨を取り出した。骨を洗って火魔法で引き続き乾かし、あちこちを触っては状態を確かめる。 そして、火魔法のまたレベルが上がった。豚骨スープを作るだけで火魔法のレベルを上げている男はこの世界広しと言えども俺ぐらいのものだろうな。「うん、どうやら綺麗に取れてくれたみたいですね。これなら砕きの工程に入ってもいいと思います」 脂っぽくなく、匂いこそ残っているものの、その匂いは骨に染み付いたものだから、砕いて焼いて粉にしている間に抜けていくだろう。これでやっと第一工程終了なのだから、ボーンチャイナも作り始めたころは悪戦苦闘の連続だったんだろうな、と思わされる。「で、このスープはどうするんだ? かなりうまそうな匂いだから捨てるのはもったいないと感じるんだが」 デクレール親方が気にしている。正直、俺も豚骨ラーメンが食べたくてたまらない匂いだ。この臭さがいいんだよな。「そうですね、臭み消しを入れて、パンにでも浸して食べるとかなり美味しいと思いますよ。後はミニボア肉を甘辛く作って、そこにスープをかけていただくのも悪くないですが、お勧めは麺ですね。スープにいろんな具材を入れて、麺と一緒にして食べるのがお勧めです。俺の国でも同じようなことをやってました」 昼の残りのパンを持ってくると、デクレール親方が試しに……と、白パンを浸して食べようとしていたので、アクを掬って取り出し、清潔魔法をかけた綺麗な布で軽く濾した後のスープを味わってもらうことになった。 本当ならここに浮いている背脂なんかも一緒に味わったほうがいいのだろうが、そこまで製法を確実に守って作ったスープでもないし、残骸と言えば残骸なので、美味しさは二の次みたいなところがある。「ほう……これはなかなかうまいな。これだけの出汁が出るなら、いろんな料理店でも使いだすところが出てくるかもしれないな」「でも、ここまでの味を出すのにざっと鐘一つ分かかってるんですよ。かかった時間と燃料費を考えると、ちょっと商売にはしにくいので、もうち
骨を煮込んで2時間ほど経過した。最初に強火で茹でこぼしてアクを取ったおかげで、この後味付けをしてスープとして楽しめるようにはできるはずだ。 激うま豚骨スープとまではいかないだろうが、しっかりとゼラチン質と豚骨の中の成分、骨髄のコラーゲンや脂が乳化して白濁化してクリーミーな味わいを生むはずだ。 油の甘みやアミノ酸の栄養価と、豚の味わいをしっかり感じられるうまいスープになる。後で味わってもらうのは悪くないだろうな。 途中から炭がもったいないな……とデクレール親方がぼやき始めたので、俺の火魔法で鍋を温め始める。休みだが、今日は火魔法トレーニングということで火魔法を鍛え始める。 水魔法も使ってそこそこの感じでスープの濃さを調節して、しっかり煮込んで後で仕事をした後の一杯として美味しくいただくことにしよう。豚骨ラーメンは食べられないが、スープだけでも濃ゆい、臭いところをしっかり飲んでおくのも悪くない。 ネギとショウガは朝市にも並んでいたので、臭み消しに一緒に煮込めば美味しい豚骨スープを作ることも難しくはない、というのがなかなかにいい所ではある。 ラーメンをこっちの世界でも流行らせる……レシピを売るのはマヨに続いて二件目になるか。これも商業ギルドの販路とつながりをもとに開発すれば、流行りにできるかもしれないな。何せ、ミニボアはあちこちに存在する分だけ豚骨は無限にあるしな。料理店から無料引き取りで骨を引き取ってこれば骨代はタダで回収できる。 後は小麦とかん水から作った麺をうまく作れるかどうか……ここはさすがに知識だけしかないからな。再現するには料理人を雇う必要もあるし時間がかかるだろう。こっちの世界でラーメンを作る……これは異世界チート100選からは番外編として載せられていたが、ラーメンを広めるというのも悪くない。 しばらく火魔法で鍋を熱し続けていると、頭の中でアナウンスが流れ、火魔法がレベル4になった。これでまた長持ちするようになるだろう。 ◇◆◇◆◇◆◇ 鍋を引き続きぐつぐつと煮立たせる。昼の準備と称
奴隷商で茶を出される。ちゃんと商売をしている以上飲み物に何かを混ぜられたりはしていないし、鑑定で鑑定してもただの茶葉……といってもそれなりに値段はするらしいので、これは客だ、と見込まれて出されたことになる。普通なら水か白湯、というところだろう。「さて、まずは奴隷を探しに来た理由を聞こうか」「知り合いの子が昨日奴隷として売られていたのを見た……では理由として薄いか? 」 知り合いではないし、一方的に知っているわけでもない。ただ、出自は俺と同じだろう、ということだけがわかる。そんな微妙な
翌日、朝日の出とともに目覚める。角部屋で窓にカーテンがないためだが、それにしてもまぶしい部屋だなここ。誰だこんな部屋借りたの……俺か。 二度寝を決め込もうとも考えたが、今日は大事な日だったな。これは寝てはいられないし、微妙に日当たりが良すぎて暑くもなってきそうだ。よし、起きるか。 昨日履いたパンツを、井戸の横に設置されていた、桶と洗濯板で洗う。ここで洗い物していいんだよな……? パンツだけは毎日替えないと気分悪いからな。洗ったパンツは後で干しておこう。 パンツの洗濯が終わったところで
ちゃんと日が落ちる前に南門から街中へ帰る。「お、ちゃんと帰ってきたな、えらいぞ」 門番からはちゃんとお使いできてえらい! と褒められた。40過ぎのおっさんが、だ。でも、新人冒険者には違いないからな。言われたことをきちんと守るのも冒険者の務めなら、今日一日は立派に過ごせたということになる。 にしても、腰を痛めなくてよかったな。最近は歳のせいか、ぎっくりの気配が近寄ってくると、察知できるようになってきたが、今日は中腰仕事を半日してもいつもなら現れるであろうぎっくりの気配がかけらも来なかった。これも異世界転移特典だったりしてな。わはは。
30分待つことなく、武器だけ買いそろえた俺は南門へ向かった。その場で先に待っていたイアンちゃんと合流する。イアンちゃんはさっきより一枚二枚多く着込んだような服装で、頭には軽めの帽子をかぶっていた。 腰にはしっかりナイフを持ち、戦う準備は万端という感じだ。 実際にはもっと重苦しい装備もできたんだろうが、薬草採取ならこのぐらいで大丈夫だろう、という感じだな。「早かったですね。そういえば、武器も持たせずに待ち合わせに来てしまいました。今から急いで武器だけでもそろえに行きますか? 」「いや、アイテムボックスに入れてある。この通り」







