Masukアイテムボックス以外にどんなスキルが付与されているのか。それを確かめに行く必要があるな。
「どこかでスキルを確認することはできないのかい? 」
「それなら、そこの露店の占いばあさんに頼むといいです。各地にネットワークを広げていて、ばあさんはみんな鑑定の技能を持ってる凄腕ばかりなのです。なのに、銀貨1枚で鑑定してくれる格安便利ばあさんなのです」
そんな街に一人はいるセーブデータを記録してくれる教会の司祭、みたいな存在がこの世界にも存在するらしい。ただ、田舎にまではさすがに足を伸ばしていないらしく、このボコマズの町ぐらいの中都市には一人はいるようだ。そして、その占いばあさんの前までくる。
「鑑定かい? 」
ばあさんが上目遣いにこちらを見る。
「ああ、頼むよ。自分が何のスキルを持っているかよくわかってないんだ」
「銀貨1枚だ、先払いだよ」
アイテムボックスから銀貨を出し、ばあさんに渡す。
「アイテムボックスを持ってるのはわかってるんだねえ。じゃあしばらく待ちな」
ばあさんが俺の顔を見ながら目を光らせる。しばらくした後、ばあさんの目が光るのが終わり、結果がばあさんの手によって書き出されていく。
「御同輩じゃないか。なんで自分のスキルも知らずにあたしに依頼するかねえ」
そう言われながら書き始められたスキル欄には、カンテイの文字が。鑑定。つまり、俺も鑑定スキルを持っているということなのだろう。確かに、異世界転移じゃ定番中の定番だ。それを持たせておいてくれたということか。神崎さん、隅々まで至れり尽くせりの異世界旅行をありがとう。俺、こっちでもしばらくたくましく生きてみます。
鑑定以外には、タイジュツ、ケンジュツ、ソウジュツ、アンキジュツ……などと並んでいき、どれもレベル1のものが付与されていた。それぞれ体術、剣術、槍術、暗器術などだろう。カタカナだけなので、同音異義語を含んでいる可能性はあるが、おそらくは冒険者としてある程度必要不可欠なものはインストールされている、と考えてみてもいいんだろうな。
スキルの中にアールエムティーというものが存在した。RMT……リアルマネートレード。つまり、現実のお金を異世界のお金に交換するシステムが備わっている、ということなのだろう。可逆性のあるものなのか、不可逆性のものなのかはわからないが、毎月振り込まれる有休分の給料でこっちで楽しめるのは間違いないことになる。
でも、できればこっちのお金はこっちで稼ぎたいからな。できるだけお金には手を付けないように生活していこう。
後にもいろいろスキルが書かれていたが、まあ細かいことは良いだろう。今は鑑定が使えていろいろスキルがある、ということだけわかればいいや。
「さて、スキルも確認したことですし、お昼から何をしますか? 今日一日は私もいろいろお付き合いしますよ! 」
イアンちゃんはどんなに短くても今日いっぱいは付き合ってくれるらしい。これも異世界転移特典みたいなものだろう。
「じゃあまずは、何をするにも今夜の宿を決めてからだな。さっきのお店で宿屋もやっているみたいだったから、近場で申し訳ないけどまた移動してさっきの食堂に戻るね」
「はい、お付き合いします」
イアンちゃんとさっきの銀の卵亭に戻り、宿屋のカウンターに立つ。女将さんらしき人がカウンターにいて、イアンを見るなり驚く。
「イアンじゃないか、久しぶりだねえ。今日もあれのお客さんかい? 」
「はい、そうです。タカナシさんです。タカナシさん、こちらリンカちゃんのお母さんでメリーさんです」
「とりあえず……なあイアンちゃん、週の区切りってどうなってるんだ? 」
一区切り良い所まで宿を借りようと思ったが、こっちで一週間みたいな区切りはこの世界にあるんだろうか。ちょっと確認しておこう。
「区切り……? 十日で一周、という意味ですか? 」
「それも後で聞こう。とりあえず十日分の宿を頼む」
「実際に泊まっても泊まらなくても連続で同じ部屋、十泊って認識でいいのかい? 」
「ああ、冒険者をやるつもりだからな。とりあえず……大銀貨1枚。これでいいかい? 」
「もし途中でもっといい宿や転がり先が見つかったら早めに連絡するんだよ。その時は残りの分は返すからさ」
「そうならないように願ってるよ」
「こっちとしては、転がり先を見つけて連絡がないほうがありがたいんだけどね。部屋の掃除をする手間が省けるからね」
お互い笑い合ったところで、契約成立。部屋のカギを投げてよこしてくる。
「二階の角の部屋だよ。他の部屋より角な分だけちょっとだけ広い。大事に使っておくれよ」
「お世話になりますっと。飯は別で食べるなら食堂でって認識でいいんだよな」
「ああ、それでいい。湯を沸かすときは銅貨2枚だ。できるだけ同じような時間に要求してくれるとこっちは薪の消費が安くて助かるね」
「他の部屋の連中が大体どの時間に湯を沸かしてるのか教えてくれればその時間に間に合うように帰ってくるさ」
「そうだね、大体夜の鐘が鳴る時間には帰ってきて体を拭いて、それから食事って流れが多いね。参考になるかい? 」
「ああ、参考になった。じゃあ、まだ日が高いんでさっそく仕事に行ってくる」
「頑張ってくるんだよー」
メリーさんに送り出されて外へ出る。
「お仕事するんですか? 」
イアンちゃんから不思議そうに問われる。何が不思議なんだろう?
「そうだ、まだ日が高いうちはお仕事の時間なんだろう? 」
「タカナシさんは有休というお休みを楽しむためにこちらに来られてるんですよね? 」
「そうだよ、だから有休を楽しんで、しっかり仕事しないと」
「??? 」
全力で首をかしげているイアンちゃんの背中を押すように、さっそく冒険者ギルドに戻る。
途中、檻の中に入れられた少年少女の姿を見かける。
「あれは……奴隷か? 」
「そうですね、奴隷商の仕入れだと思います。奴隷買うんですか? 」
「いや……奴隷は合法なんだな、と思ってさ」
「そうですね、借金奴隷と犯罪奴隷に分けられますけど基本的には借金奴隷が多いですね。奴隷は”シエキジュツ”という珍しいスキルを使える人が奴隷商の取り締まり人になって、危害や損害を加えられないように絶対忠誠を植え付けた上でああやって時々見世物にして、使い物になりそうな奴隷がいれば買い求めたり、中には借金奴隷になってしまった親類縁者を買い取るなんかの方法で買い上げたりもできるそうです。奴隷の人権は王国法で保障されていますし、サイバルさんが連れてた女性、あの方も奴隷でしたよ」
そうなのか。奴隷が合法ならそういう世界なんだと納得するところだろうな。正義感を振りかざして奴隷解放を求めたところで、きっと奴隷本人から反対されて孤立するケースが出てくるんだろう。危うきには近寄らず……だな……ん? あの女の子のスキルは……これ、放っておいていいのか?
side:アザーワールド社「部長、小鳥遊さんの件ですけど」 神崎がイアンからの報告書をもとに、現地での行動をまとめた調査報告書をあげる。神崎の上司である茅野が閲覧し、渋い顔をする。「ふむ……ふむ……なるほど」 茅野は書類を一通り見終わった後、静かに調査報告書を読み終わり、神崎に向かい直し、コーヒーを一口飲むと、静かに語り始めた。「小鳥遊さんは向こうでも仕事をしっぱなしで休んでないどころか、本業以上の収入を得ている可能性がある、ということだね? 」 神崎も茅野からコーヒーを受け取り、グイッと一気に飲み干すと、ため息をつくようにはぁ……っと呼吸をしてから上司に対して口頭で報告を始める。「そういうことになります。さすがに小鳥遊さんの本業での収入について調べ上げることはプライバシーの観点から調べることはできませんが、厚労省に問い合わせて有休強制消化法案第18条第3項を理由とした、個人口座の記録の参照を厚労省に依頼し、それを元にして本業よりも稼いでいることが確認された場合、同じく9条2項の副業規定にかかるかどうかを確認する必要があります」「しかし、二週間そこそこで預金口座に振り込めるほど稼いで、それでいて生活費は現地調達。奴隷を購入してなおまだ余裕あり。奴隷と共に手数を増やして生活を自力で稼ぎ切っている……と」「そうらしいです。現地ガイドの三回目の報告書はまだ受け取ってませんが、二回目の報告書の時点でこういうことになってますから……今の段階で考えると、莫大な金額を稼いでいる可能性がある……ということになります」 茅野は腕を組みながら椅子のローラーをころころさせながら、ぐるぐるとその場で回転し始め、止まった後、神崎の顔を見たあと、下を向いて机の上に軽く突っ伏すような格好になった。「神崎くぅん、この場合どうすればいいと思う? 有給消化に来てもらってるのに有休中に働いてしまっているんだけど」「過去に同じようなケースがなか
報酬を受け取って、銀の卵亭に帰る前に少しだけ書棚に用事。時空魔法について書いてある本や冊子はないかを検索する。すると、非常に薄っぺらい”ジクウマホウノキホン”というそれっぽいものを見つけることができた。 時空魔法とは、時間と空間をある程度掌握し、使いこなすことのできる希少な魔法である。この時空魔法の使い手は非常に希少であり、存在した時点で国家の中枢機関である大知能館という名称の大学か研究機関のようなものに所属することになり、年に二回の時間合わせや、時空魔法の研究に人生を費やしてもらうことになるらしい。 詳細については今もなおもって研究中であるが、一番初歩の魔法として現在の世界時間を知ることができる、というものは共有してもいいが、それ以上の情報はここに記したり知られること自体が社会全体へのダメージになりえるので詳細を書くことはできない、とのこと。 要するに、何も教えてやれんから、知りたければ大知能館へ来い、という話なのだろう。しかし、そこへ行ったが最後死ぬまで時空魔法の研究に人生を費やされることは確実である。セルフィのこともあるし、俺がそこへ行って学ぶことは何もないだろう。 しかし、時空魔法か……名前からして時間を止めたり、空間をずらしてその隙間を利用することで攻撃に応用したりとか、そんなことは思いつく。実際にできるまでには相当量のレベルや技量、慣れが必要なのは間違いないだろう。 後は、アイテムボックスのスキルではなく、物理的にアイテムボックスとして作用させられる鞄や入れ物を作成できるのもこの魔法の応用だったりするのかもしれないな。「お探しの物は見つかりましたか? 」 後ろで剣聖の物語の絵本を読んでいたセルフィが、本を閉じるタイミングを見計らって声をかける。「残念ながら。ここでは俺の欲しい情報は手に入らないようだ。もっと大きい書棚を探すか、首都へ行くか、もしくは大知能館という場所に行けば知れるらしいが、その代わり一生その魔法の研究に費やす必要があるらしい。調べるのはここまでだな」「そうですか、残念ですね。でも、本棚二つ分しかないこの冒険者ギルドの情報の中で、ほんの少し
食事を終えて、休憩した後五層から四層へ移動して、戦闘を継続しようとしたが、セルフィから待ったがかかる。「お金稼ぎも大事ですが、お金は後でも稼げます。ここは更に確実にお金を稼げるように、自分たちの修行……つまり、剣術や火魔法のレベル上げに費やすほうが先ではないでしょうか」 ふむ。たしかに、四層よりも五層のほうが自分の経験を積み重ねるには都合がいいだろうし、その分早く剣術や剣聖のレベルも上がることになる。セルフィの言う通りかもしれないな。「じゃあ、引き続き五層で戦うか。でも、その代わり前ほど稼げないかもしれないがそれは構わんか」「構いません。急いで稼ぐ必要はない、と昨日確認したところですし、強くなることが遅くなっていくほうがこの際問題ではないでしょうか」「じゃあ、五層でもうちょっと頑張るか。今日中にもう一つか二つ、レベルを上げておきたいしな」「はいっ」 実力アップに念頭を置く、ということを確認した後、すぐにレベルアップの機会は来た。剣聖レベルと剣術レベルがそれぞれ上がり、火魔法もレベルが上がった。 どうやら使ったら使うだけレベルが上がるのが魔法で、剣術や剣聖レベルも、剣を振るだけ振った時にレベルが上がり、モンスターを相手にしている時のほうが上がり幅が大きい、ということらしい。 より強いモンスターを相手にするほうがお得なので、もう少ししたらワイルドボアを集中的に狙っていって倒す、というようなことで、金も実力も両方手に入れることができるようにはなるだろう。 ワイルドボアをメインで倒していくようなことになったら、単純計算で10倍の収入になるのだから、かなりの収入になるのは間違いない。これは皮算用がはかどるな。 よそ事を考えながら戦える程度には五層の戦闘も慣れてきた。コボルトマジシャンも高密度で威力のあるものや誘導性のある魔法などは使ってこず、純粋に一方向に飛ばす程度の簡単な魔法しか使ってこないので、盾で逸らせばそれで終わる。 面倒なのはやはりコボルトリーダーのほうだ。立派な胸当てをつけているおかげで時々攻撃を防がれることもあり、剣と盾を持っている分だけ
四層で出てくるコボルトバーサーカーとコボルトフェンサーは普通に出てくる。三層でも数回出会った。どっちも気軽に倒せるようになった相手ではあるが、盾を持つことでより安全に戦えることになった。何せ、相手の攻撃を最低でも一回は止められる。 そしてその間にこっちは一、二回攻撃することができるので、一発で倒せる相手ならそれで振らせて受け止めて、そのあいだにやり返して終わり、となる。コボルトフェンサーはもっと単純で、突き込んできた攻撃を盾で受けて外側へ弾いて、バランスを崩したところで一刀入れて終わり。 やはり、軽めとはいえ盾が一枚あるだけで随分戦術が変わるものだな。もっと早く買い入れておけばよかった。持ち運びや移動にはアイテムボックスがあるし、費用対効果はこれからきちんと出していこう。 しかし、盾がないほうがより気軽に戦えるのも事実。五層に下りてから盾を出すでもよかったが、五層のモンスターが四層に上がってきているのを確認してから盾を渡すのでは間に合わない可能性もあったからな。 でも、盾があると確実に便利であるのはわかった。今後はどうしようかな……ダンジョンで活動するときは盾を装備したまま活動して、という方法でもいいし、もしかしたらワイルドボアの突進を盾なら止められるかもしれない。 さすがにセルフィは身が軽すぎて弾き飛ばされる可能性はあるが、俺はショートソードで受け止めるよりも安全に止められる可能性が高まったか。今度ワイルドボアに出会った時に試してみよう。 四層から五層に向かい、ついに最下層に足を踏み入れる。五層にはコボルトマジシャンとコボルトリーダーが出現する。それ以外には出現しないという情報は仕入れているし、今更活性化の度合いが増して新しいモンスターが出てくることもないだろうしな。「コボルトリーダーがいると周りのモンスターが強くなるんでしたね」「ああ、だからコボルトマジシャンもただ出てくるだけじゃなく、一段階強くなって出てきているはずだ。面倒だがその分収入にはなるはずだ。真面目にやって今日も稼いで帰るぞ」「はい、でも、怪我しないのが第一ですよ」「そのためのこれだからな。しっかりやってい
どうやらあのレモンみたいな果物はビッグラットスレイヤーという俗名があるようだ。皮が分厚くビッグラットの歯でも中身まで貫くことは難しく、仮に中まで到達したとしても、強烈な酸味にビッグラットも負けるであろう……ということかららしい。 実際にぶつけたらビッグラットが死ぬであるとかそういうわけではない。もしそうなら、値段によってはビッグラットにぶつけ続けることでパナメラのダンジョンの一層は気軽に突破できそうなものではある。 さて、帰ってきてさっそくマヨづくりだ。いつも通りアイテムボックスから泡立て器を出し、綺麗に水で洗った後清潔魔法をかけて、材料にも一通り清潔魔法をかけて消毒をした後でいつもの手順で混ぜ合わせ始める。 もったりと、油以外の材料を混ぜ合わせたところでセルフィの出番。ちょっとずつ油を流し込んでもらい、その間にきっちりかき混ぜていく。油も分量をちゃんと計って買ってきたため、ちょっとずつ流し込むだけで規定の量のマヨができるように調整済みだ。「さすがに慣れてきました。結構退屈ですが、この退屈さが大事なんですよね? 」「一気に入れるとうまく混ざらないんだよ。辛抱が大事だ」「はい、ゆっくり入れていきます」 セルフィの補助もあって、すんなりとマヨづくりがうまく行き、容器いっぱいになったマヨを親父さんに渡し、今日の一つ目の仕事完了。これで数日かけて銀貨2枚分のお仕事をこなしたことになる。マヨのレシピが頭の中にあり、なおかつ商業ギルドのシノギを邪魔しない範囲での小遣い稼ぎとしては十分だろう。 俺が直接関わってるならば一店舗ぐらい……というのが商業ギルドとしても落としどころだろうから、俺個人が携わってもいいのは銀の卵亭だけということになる。それ以外はなしだ。これは宿泊サービスへのお礼みたいなものだからな。 マヨを作り終えていつもの冒険者装備に着替えた後、冒険者ギルドへ立ち寄って、パナメラのダンジョンの活性化が収束したかどうかの確認を取る。 すると、まだ活性化の最中で、五層は普段より三割増しで危険であることを教えてくれた。四層でうろつくだけでも十分かもしれないと
いつもの日差しに目は覚まされなかった。昨日はセルフィと一緒に眠ったんだったな。いつもより暖かな懐に潜り込んでいるセルフィを見て、少し苦笑い。 奴隷と主人、仲を深めたとは言え同じベッドで寝るのは少しやりすぎたかもしれない。まぁ、他の宿や遠征先で、ベッドが一つしかないときに、セルフィが床に寝る必要がないということが確認できたから良いだろう。 セルフィも起き出した俺に気づいて目を覚まし、昨日のテンションのおかしさにようやく気づいたらしい。「昨日の夜のことは忘れましょう。改めて、ご主人様の気持ちが伝わったということで」「その言い方だと何か俺がやらしいことをしたみたいに聞こえるからやめよう? 仲良く眠っただけだ、何もなかったし、何かをするつもりもない」「はい、そこは信用しています。今までいくらでもそういうことはできたはずですし」「よし、いつも通り着替えて顔を洗って身支度をして、ご飯を食べたらマヨの材料の買い出しに行くぞ」「はいっ」 井戸へ行って顔を洗って、その後いつもの肌着洗い。清潔魔法をしっかりとかけて……お、アナウンスがあった。清潔魔法のレベルが上がったらしい。 しかし、レベルが上がる原因が汚れの強さなのか回数なのかは今後調べていきたいところだな。汚れだったら相当汚れていることになる。それはちょっとへこむが、日々仕事を頑張っている証拠でもあるので一概に悪いとも言いきれないか。 セルフィの分も綺麗にすると、新品同様とまでは言わないが、ほとんど汚れのない清潔な着替えが出来上がった。時間があるならここで服を乾かすところまで行きたいが、今日は仕事があるので自然乾燥に任せることにする。 食堂へ行き、昨日の残り物でできた朝食を銅貨8枚でいただく。考えたら、残り物と昨日の食事が同じ料金というのもどうなんだ? というところだが、腹が満たされるならそれでいいし、買いに行く手間や腹が満たされるまでの時間を考慮すればちゃんとした食事ではある。 それに、下手すると昨日の夜のスープよりも具が多かったりするので、朝と言えどきっちり食べておくに越したことはない。あと、意外とみん
「あ、いました。一日どうでしたか。リンカちゃん、安いほう一つ」「あいよー、黒パンセット一つ! 」 ふと気が付くとイアンちゃんが訪ねてきていた。そういえば、夜にでも今日の一日の成果を確認しに来ると言っていたな。「やあ、イアンちゃん。一日ゆっくりできたかい? 」「それはもうゆっくりと……って、私のことは良いんですよう。お二人がどうなっているかが気になるんです」「それは、もうばっちり。この通り、今日のご飯は高級セットが食べられるぐらいには稼いできたよ」 テーブルの食器を指
身支度を整えたところで一階の食堂に降りて行って、リンカちゃんにリッチな夕食を二人分頼む。「父さん、白パンセット2つ! 」 席に座り、しばらく待っていると、しっかり両面を焼かれた白パンに具だくさんのスープとちょっとしたソースがかけられた肉が小さく一枚乗ってきた。どうやら今日はサービスがいいらしい。それとも、夕食の白パンセットには必ず肉がつくんだろうか。まあ、いい。 とりあえず食べよう……と、肉についているソースをなめとる。少しはちみつが混ぜてあるのか、ほのかな甘みとソースのこってり感がある、なかなかに味のあるソー
有給休暇開始一日目。早速有給休暇消化案内所。横文字でハローホリデイ、通称ハロホに行ってみることになった。ハロホには公共のものから私的なものもあり、様々なサービスを受けることができるようになっている。 もちろん、有給休暇であるのでその間も給料は出ている。ここぞという時のためにお金も有休も溜めて一気に使い切る豪快な使い道もあるらしいが、そこまで高い給料をもらっているわけではない俺としては自分の給料でできる範囲で休みが楽しめるならそれに越したことはない。 それに、何より休みは仕事と違って何をするにも金がかかる。何でもかんでも過剰労働の対価が有給という数字にカウントされるようになって以来、ぎり
「小鳥遊主任、いい加減有給消化してくれないもんかな。この際長期でお休みを取るでもいいからさ。当社としても毎回厚労省からの通達で君の名前が筆頭に挙がってくるし、ちゃんと本人には仕事を休んできっちり有給休暇を取得してくれるように頼んでいる、と毎回報告しているものの、実際にきみが有休を取ってくれないと困るんだよ」 上司である係長の中上からの叱責が飛ぶ。今の世の中は効率こそが第一。残業や日曜出勤でいたずらに有給期間を増やし、または有給休暇を消費せずにため込んでおくことはこの際美徳ではなく悪徳とされる時代になっていた。「もう少しだけ待っていただけませんか。今、私抜きでも仕事が間に合うようにマニュアル