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第9話:残滓

Author: 大正
last update Petsa ng paglalathala: 2026-04-21 07:00:03

 奴隷の中の一人の少女の鑑定を行ってみる。その鑑定の中身には驚くべき一つのスキルと一つの称号が書かれていた。

「ケンセイ」

「イセカイテンイシャノシソン」

 片方は剣聖、もしくは拳聖、後は健聖という可能性もあるが、あまり健康そうには見えないので最後のはありえないだろう。どちらにせよ何かしら強そうなイメージが与えられる。問題はもう一つのほうだ。

 異世界転移者の子孫。これはあれだろうか。俺以外の異世界転移者がこの世界に過去に存在していて、その転移者が残していった種が畑に植えられて、実った結果、ということなのだろう。おそらくはこの子は借金奴隷なんだろうな。母親が食うに困って売った、というところだろう。

 同じ異世界転移者として気になるな。しかし、俺が助けたところでどうにかなるものなのか。俺だってあと319日たてば自分の世界に帰るのだ。そこまで責任を取れと言われても難しいし、しかし、これを見逃すのも……同じ有休消化者として、それはもっと難しい。

 檻に近づいてその子をじっと見る。俺を見返すその子の目は深く沈んでいて、悲しみをたたえるだけになっていた。どれだけの間この子は奴隷として過ごしてきたのだろう。そして、いったいどれだけの間、この子に銀貨一枚の価値すら見出さず、普通の奴隷として売ろうとしてきたのだろう。

 ほんの銀貨1枚。それだけの費用をかけるだけで、この子は剣聖か拳聖としての素質を見込まれて、より高い金額で販売されている可能性もあったわけだ。逆に言えば、それだけ期待をかける奴隷商がいたならば彼女は俺の前に現れることはなかったということでもあるな。そして異世界転移者である俺でなければ、彼女の価値を見出すこともなかったということになる。

 これは、買えといわれているのと同じではないか。こんなイベントまで用意されているのだとしたら、神崎さんは趣味が悪いが、確かに異世界あるあるではないか。彼女を購入するためにはどうすればいいんだろう。

「なあ、こいつらはいつ売りに出されるんだ? 」

「明日の朝には。今は見せの時間だ。どうしても欲しけりゃ明日の朝一で店に来な。そうすりゃせめて人に見せられる服装をさせて店先に並べてやる」

「……そうか」

 奴隷の前に立つ男と短い会話を挟んだ後、その場を去る。今ここで俺ができることはこれ以上何もないし、明日だというなら明日まで待とう。今できることはもうやったのだ。

「タカナシさん、奴隷買うんですか? 」

「ちょっと興味のある奴隷を見つけたんだ。鑑定でね」

「そうですか……でも、忘れないでくださいね。時間が来たらタカナシさんは帰ってしまう人なのです。だからこっちに心残りがあっても迎えに来ることはできない。それを忘れないでください」

「その心残りを救い上げるために俺に鑑定の能力が付与されているのだとしたら俺のやってることは、多分人として間違ってないと思うんだ。だから大丈夫、まーかせて」

 さて、本来の仕事に戻るか。冒険者ギルドで仕事を探すんだったな。再び中央広場に戻ってきて、南東側の剣と盾の看板が掲げられた中に入る。どうやら昼間からギルド内で飲酒に及んでいる冒険者もいるらしい。酒場も兼ねてる、というより、酒場の機能を後から持ってきた、という具合らしい。料理こそ出ないが、酒だけは並べてある、という様子が見て取れる。

 カウンターではなく掲示板のほうへ行く。こっちには常設依頼がずらりと並ぶ。薬草採取、モンスター討伐、迷子の猫探し……大体想像するものは何でもあるな。

「とりあえず、薬草採取と行くか。薬草はどれだけあってもこまらないだろうしな。初日の利益は気にせず、やれることをやって費用対効果は後で考える。まずは慣れることが大事だな」

「ねえタカナシさん、本当に働くんですか? お休み中なんですよね? 」

「ああ、だから副業ってことになるな。俺は副業冒険者ということになる。本業はお休み中だ」

「うーん、会話がかみ合ってない気がします。でもまあ、今日はお付き合いするので問題なく戦えるように装備を整えてから行きましょう? 私も家へ一回戻って冒険用の装備で来ます」

 イアンちゃんは案内人だけあって、冒険用の装備も整えて行けるらしい。俺のほうは……何もないな。せめて薬草採取なんだから、草刈り用の鎌ぐらいは欲しいところだ。

 ホルム草:一束銅貨8枚

 ハププ草:一束銅貨15枚

 三日月草:一束銀貨1枚

 満月草:一束銀貨5枚

 薬草にもいろいろ種類があるらしい。一束がどのぐらいの規模かわからないのでカウンターで聞くことにするか。とりあえずこの四種類がこの近くでは取れるらしい。なんとなくだが、三日月草と満月草は夜じゃないと取れないような雰囲気がするな。三日月の頃にだけ光り輝く草、とかで。

 カウンターで一束の基準について聞くと、パスタ一人前ぐらいが一束の基準らしい。ちなみに三日月草と満月草は束とは書いてあるもの、花とセットで一輪でこの価格らしい。よほど貴重な薬草なんだろうな。

「よし、大体覚えた。後はなんとかなるだろ」

「じゃあ私、装備をそろえてから来ますので……そうですね、30分後に南門前でいいですか? 薬草採取に行くなら南門側のほうがたくさん生えているんですよ」

「わかった。迷子にならないように頑張って向かう」

 一旦イアンちゃんと別れて、さて……せめてモンスターに襲われても問題ないように、武器だけはしっかり持っていきたいところだな。初日だからそれなりの出費が多いが、服を売ったお金でも工面するには十分だろう。いきなり群れのモンスターを倒しに行くわけでもないんだしな。

 カウンターでお勧めの中古の武器屋を教えてもらうと、30分の約束の時間に遅れない程度の距離にあるギルドおすすめの武器屋に到着する。

「……中古か? 」

 俺の面を見て、一言だけ質問してくる店主。

「ああ、薬草採取で身を守れるだけのものがあればいい」

「なら、その立てかけてある奴から体に合うのを選びな。どれも値段は同じだ」

 傘立てみたいなところに放り込んである武器類から、取り回しの良さそうなショートソードを選ぶと、握りの合うものを更に厳選して銀貨5枚を払う。鞘はセットではないのでアイテムボックスに放りこんでおくことにしよう。どうせ出すときはアイテムボックスから出すんだろうし、裸で腰に差してて自分を刺しても困るからな。

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