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6.悪魔との決別

ผู้เขียน: 桜立風
last update ปรับปรุงล่าสุด: 2026-02-05 08:40:31

これは…普通じゃない。

抱きしめる腕の力が徐々に強まり、背後に回った手が、背中を擦る。

髪から首筋…やがて桜の唇を求めるように、冷たい龍之介の唇が移動して…

傷に痛みが走った。

「…悪かった。痛かったか」

体を離し、のぞき込む瞳が、自分を見ていないような気がする。

「大丈夫、です。あの、龍之介さんこそ…」

欲情やいたずら、興味で抱きしめたわけではない。そこに、向けられたことのない深い愛があるような気がした。

「大丈夫ですか?」

もしかしたら、自分を通して誰かを見ているのではないか。そう考えれば、妙に優しい視線や、自分をそばに置く理由がわかる気がする。

「…大丈夫だ」

龍之介は桜をベッドに寝かせ、毛布をかけてから、おでこにかかる髪を避けてやり…部屋を出ていった。

龍之介は日に1〜2度マンションを訪れ、桜の傷の具合を確かめては帰っていく日を繰り返した。

ダブルベッドは、買い変える必要はないと言った。…見たところそう古くはないし、きっととても高価なものだ。

「…嫌じゃねぇのか?」

「…正直、こんなに寝心地のいいところで寝たことなかったので…」

「…そうか」

龍之介は桜の頬を撫で、何かを我慢するような表情を浮かべ、時々キスをしてきた。

唇の傷が治るのを見ながら…そのキスも少しずつ長くなり…

纏う甘い雰囲気に、桜の心にも熱い何かが灯る気がした…それでも、それを認めてはいけない気もしていた。

やがて…初めに宣言した通り、1週間を過ぎる頃には必要なくなった怪我の手当。桜は思い切って龍之介に言った。

「いろいろ、お世話になりました。そろそろ、アパートに戻ります」

「…は?」

眉間にシワを寄せ、意味がわからない…という表情をされ、こちらこそ意味がわからない。

「アパートに戻れば、父親と顔を合わせる可能性はありますけど、職場に連絡しなきゃならないし、保険証とか携帯も部屋に残してきてますから」

「それなら俺も同行してやる」

「龍之介さんが…?」

正直、心強い。

でも…誰かを信じて頼って、自分1人で生きていけなくなるのが怖い。

「…1人で大丈夫です」

できるだけ強いまなざしを向けて言ったつもり。

「今日も、寝るまでそばにいてくれるんですか?」

「居てやるよ。…じゃないと俺が気になってしょうがねぇ」

何でもない顔をして寝室に向かうけれど、その低い声にドキドキする…

桜が横になるのを待ち…上から毛布をかけてくれた。今日も傍らに座り、桜の頭を撫で、髪を掬う。その手の温もりが気持ちよくて…子守唄を聴くように眠ってしまうのだが…

この日は、そっと覆いかぶさるように抱きしめた龍之介が言った言葉を…聞いてしまった。

「愛してる…百合…」

「だいぶ、田舎なんですけど…」

「関東だろ?たいしたことねぇよ」

なぁ…?と運転席に声をかけ、和哉が「はい!」と元気よく答える。

結局、時間があるから一緒に行く…という龍之介の申し出を断りきれなかった。関東ながら…少し距離がある桜の故郷。…父親が1人で住んでいる町は、今頃桜の花が見頃かもしれない。

龍之介に言われるまま後部座席に乗り、運転を和哉が引き受けてくれた。

途中飲み物を差し入れたりガムを渡したり…和也に気を使う桜に、龍之介が面白くない顔を向けるのは何故なのか…

「ここです…」

人けのない田舎道にポツンと建つ古びたアパート。道路からは見えにくいが、少し歩いた裏手に、勤め先の工場がある。

「たぬきとかキツネとか、いろいろ出るだろ、お前みたいなの、よく食われなかったな」

「まぁなんとか。…動物なんか怖がってる余裕なかったですよ。生きるために必死でしたから」

先に工場に顔を出して、長い間連絡ができなかったことを謝った。

「あぁ…とりあえず、生きててくれたなら良かった。…もう、親父さんが来て、大変だったんだよ」

「父が…ここへ?」

「うん…多分、部屋にも入ってるよ。桜ちゃん、お金置いてあったんじゃないの?全部、持っていかれたかもね」

念のため工場長に預けておいた鍵を受け取り、部屋に入ってみることにした。

…確かに現金は置いてあった。でも、そんなものはもう…どうでもいい。

それ以外の貴重品、携帯と保険証があれば。

「なに…これ」

足の踏み場もない、とはこのこと。

わずかな食器は割れ、小説や漫画本は破かれ…服と下着はごっそりなくなっていた。

まさか売られた…?想像してゾッとした。

「ひでぇ有り様だな。お前の親父さん、狂ってるのか」

「そうですね…狂ってますね」

龍之介が和哉と共に部屋に入ってきて驚くのを見て、桜はつくづく父親の狂気に震える。

「…目当てのものは?見つかったのか?」

「それは…幸いにも」

保険証は無事だったが、携帯は踏みつけられたのか投げつけられたのか、壊れていることは一目瞭然。

「ならアパートを解約して、部屋のものはすべて業者に片付けさせるか。携帯も解約して、新しいものを買ってやる」

立ち尽くす桜の肩を抱き、龍之介が車に乗せてくれた。

自分でやるとか1人で平気だとか、この時はもう…言えなかった。

車を走らせている中を、ヒラヒラと桜の花びらが舞っているのが見えた。

東京より遅い桜前線が、故郷にも平等にやってきたことが…嬉しい。

「こっちは今が…満開の時期なんですよね」

つぶやく桜の声に、龍之介が顔を向ける。

「…この辺では一番大きな桜の木が、近くにあるみたいッス。ちょっと遠回りしますね」

あぁ…とうなずく龍之介の声を聞いて、和哉も答える。

「では…運転は、任せてください!」

車は、大きくUターンした。

「これです。大きな木でしょ?」

車を降りた桜は、満開の花が咲き誇る桜の木の下で声を上げて笑った。同じように車を降りた龍之介と和哉に、自慢するように桜を見上げる。

「桜と、桜の木か…」

ヒラヒラ舞う花びらを片手で受け止め、龍之介が桜に近づこうと歩き出した時……すぐそばの平屋の古い家から、男が飛び出してきた。

「…まさか、桜か?」

だらしない格好をした初老の男が、裸足のまま、桜めがけて走ってくる。

「このばかもんがぁっ!お前が逃げ出したせいで、俺がどれほどひどい目にあったと思ってるんだぁっ!」

激昂して、桜の胸ぐらを掴もうとした男の手を、龍之介がとっさに掴んだ。

「…あんたなんだよっ!邪魔すんなっ!」

「女に手を上げるのを見るのは…嫌いでな」

「うるせぇっ!こいつは俺の娘だっ!親が子供をどうしようと…」

瞬間、ギリっ…と腕をひねられたらしい。痛い…と叫ぶ父親に、桜はゆっくり近づき、大きく手を振り上げる。

バチンッと音がして、驚いた顔をする父親の頬が赤くなったのを見た。

「もう、私はあんたの娘じゃない。あんたがどうなろうともう知らない…!」

楽しかった思い出なんてない。可愛がられた記憶も大切にされた記憶もない。忘れないのは無関心…そして、出ていった母親の代わりに殴られ続けた記憶だけだ。

「…なんだよぅ…2人だけの家族だろう…そんな寂しいこと言うなよぉ…行くなよぉ…」

龍之介が手を離すと、父はそう言って崩れ落ちた。

けれど…桜は振り返らず、車に乗り込む。

長い間苦しめられた父親と、やっと決別できた瞬間だった。

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