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5.マンションへ

ผู้เขียน: 桜立風
last update ปรับปรุงล่าสุด: 2026-02-04 13:36:28

「少し、こうしてうずくまってれば、治ります…」

深呼吸をして…これまでの、数少ない楽しかった風景を思い出して…

そうだ、さっきの…穏やかでお洒落で清潔な街の雰囲気、あれをもう一度頭の中に描いて…

「…お前、普通じゃないな」

目の前に黒いスラックスが立ち、目線を合わせるように腰を落とす。

「どうしてこうなる?理由は何だ?」

「男の人の不機嫌な雰囲気が、苦手なんです」

「…俺か」

悪かった、と…肩に触れる手を、桜は反射的に払いのけた。

「…自分で、立ちますから」

よろめきながらも自力で立つ桜を、座り込んだまま見上げる龍之介。

「たいしたもんだ。…この俺の手を、乱暴に叩くとはな」

「別に、誰の手でも関係ありません。…私は、生きていくために、いろんなことを乗り越えなきゃいけないから…」

立ち上がった龍之介を、桜は強い目で見上げた。

「だから…あの、いただきます」

唐突にピザを口に運ぶ桜を見て、龍之介は面白いものを見たように笑いだした。

その笑顔は素の表情からは想像できないほど柔らかく、優しく…桜に、秘めた宝物を見たような気持ちにさせた。

「俺は一旦戻るが…お前は外へ出るな」

「はい…」

あちこち包帯やらガーゼをしている。そんな姿で、歩き回ろうとは思わない。

「それと、この後カズって男が来る」

携帯の画面を桜に向け、そこに映る男の顔を見せる龍之介。

「こいつだけは、玄関まで入る。それ以外は絶対に入れないよう、コンシェルジュに伝えるからな」

「わかりました」

…もう龍之介さんはここへは来ないのだろうか。ふと、寂しさを覚えた。

「多分、1週間くらいで大丈夫だと思うので」

「…何が」

「怪我が治るまで…」

父に殴られて、生傷が絶えなかったから、怪我がどれくらいで落ち着きそうなのか…わかる。

…1週間後には、ここを出なくちゃならない。その時には、少しお金を借りるようだろうか。また、借りを作るのは嫌だけど…

「先のことは考えなくていい」

龍之介の大きな手が、自分の頭を撫でる。

「お前は、ここにいればいいんだ」

そんな言葉が、心と体の傷を癒すなんて…きっとこの人にはわかっていない。

龍之介が出て行って、1人になった20畳のリビングは広すぎた。

大きな窓、革張りの白いソファ、ガラスのダイニングテーブル…白い壁にかかる、幾何学模様の絵画…

こういう部屋を、モデルルームみたいな部屋というのだろう。

綺麗で快適だと思うものの、広すぎて落ち着かない桜は…ソファの端に座ってパソコンを開いた。

言われた通り、ネットで着るものを注文させてもらうことにする。

借りているスェットの下は、下着すら着けていてない。こんな格好で長い間過ごすのは困る…

「…え?なにこれ…もっと普通の、普通のは…ないの?」

通販のサイトにはすぐに繋がったものの、女性用下着は探しても探してもやたらセクシーなものばかり。

もっと…10枚1000円のパンツとか、スポーツブラとか、ないのだろうか。

そこへ玄関のチャイムが鳴る。

「…はい」

ついその場で返事をしてしまった。

父と暮らした一軒家は、玄関のチャイムなんて壊れて鳴らなかったことを思い出しながら。

こんな近代的なマンションは、インターホンで応答するのだろう。でも、そう言えばやり方を教わっていない…

けれどモニターには、龍之介に見せられた男性の顔が映っている。

「…うわっ!!」

「あの、カズさん…ですよね」

応答できないのでドアを開けてしまった。…よほど驚いたのか、じっとこちらを見て、固まってしまったが…?

「せ、西龍会若頭…龍之介さんの舎弟で…村田和哉っていいます。に…25歳、です」

風を切る音がするほど素早く頭を下げ、和哉は付け加えた。

「…カズって、呼んでください!」

「いえ、年上のようなので、カズさんって呼ばせてください」

「…ひぃ…!」

どうしてこんなに怯えているのだろうか。それとも、驚いているのか…

桜は自分のどこに、そんなに驚かれる要素があるのか見当もつかなかった。

「あ、この傷かな…」

まくり上げた袖と裾から、手足の包帯が見える。顔に張り付けたガーゼと、まだ治りきらない唇の傷は、周辺を青く染めているだろう。

「こ、こちらが…カシラから預かったものになります。お納めください」

「カシラ…」

「あっ!いけねっ!…カシラにはそう呼ぶなって言われてるんっすよ。龍之介さん、龍之介さんからの預かりものです」

袋を押し付け、失礼します…っと言って逃げるように行ってしまう和哉に、慌ててお礼を言いながら見送ると、遠くで頭を下げて答えてくれた。

「飲み物と、お菓子…え、なにこれ…」

龍之介からだという紙袋の中には、ジュースを中心とした飲み物と、チョコやクッキーといった甘いものを中心としたお菓子…そして…

「柴犬の、ぬいぐるみ…」

どれほど子供だと思われているんだろうか。

…そして別の袋も出てきて、中を確かめると、それは今一番必要としている下着だった。

ところが…

「…赤、とか…」

ペラペラの薄い生地の新品のブラとショーツのセット。ありがたいけど普通の女子は、こんなの普段着けないって知らないのかな…

ふと…パソコンに視線を移す。

さっき下着を探していて、同じようなセクシーランジェリーばかり出てきた事を思い出した。

…龍之介さんの趣味ってことか。

背に腹は代えられないとして、赤い下着を身に着けた。心もとなかった服の下が、多少は守られたことに安心して…桜は再びネットで服と下着を探し始めた。

「…おい、こんなとこで寝てると風邪を引くぞ」

低い男性の声にビクッとして目を覚ました。…反射的に体を縮め、頭をかばってしまう。

「桜、どうした…俺だが」

頭に置かれた手のぬくもりで、完全に夢から覚めた。ネットで注文を終えて、ウトウトしてしまったらしい。

まだ、寝起きの男の声には恐怖を感じる時がある。でも…平気な時も増えた。大丈夫…大丈夫。

「大丈夫、です」

じっとこちらを見つめる龍之介。

…足元に箱が積まれている。

「あ…もう届いたんですか。お言葉に甘えて、ネットで服を買わせてもらいました」

「そうか。じゃあ風呂に入って着替えろよ」

シャワーを浴びた後は、また傷の手当てをしてくれた。

見せるのを嫌がった太腿の傷は、今度は無理に見せろ、とは言わなかった。

デリバリーで夕食を食べさせてくれて、龍之介は初めて入る部屋に桜を案内した。

部屋の真ん中にダブルベッドがあり…寝室のようだ。

「…近く、このベッドは新しいものに変えるつもりだが、しばらく我慢してくれ」

フットライトで足元だけを照らし、桜をベッド誘導する龍之介。

…纏う雰囲気が変わったような気がする。

「お前が眠ったら…もう一度出てくる」

横たわった桜の傍らに座り、龍之介は髪をなでた。

「あの、置いてあったシャンプーを使わせてもらったんですけど、髪の毛が生き返って、スルスルして…」

「あぁ…いい香りだ」

「…え、あの…」

思い詰めたような顔で、横たわる桜を抱きしめ、龍之介はその髪に顔を埋める。

それは、ひどく熱い抱擁だった。

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