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第二章 第52話 シャフリヤール

작가: 輪廻
last update 최신 업데이트: 2025-06-09 11:00:19

 セラフィナたちが宿泊している宿に、ひょろりとした体躯の商人が一人の従者を引き連れて現れたのは、それから二日後の正午のことであった。

 セラフィナたちが宿を貸し切っていることをメイドたちや支配人が伝えると、その商人は自らをアルと名乗り、セラフィナに依頼されていたアレス捜索について報告したいことがあるので、セラフィナに会わせて欲しいと告げた。

 ··その場に居合わせたガブリエルやレヴィの説得もあり、商人たちはいとも容易く宿の中へと入ることに成功する。

 同時刻──

 静まり返った居室の中──中央のソファーに腰を下ろしたセラフィナは、胸に小さな手を当てて何度かゆっくりと深呼吸をする。

 パズズが接触してきた際に負った傷は、キリエの治癒魔法を以てしても中々思うように回復せず、白のストッキングに包まれた細い両脚からは、今も尚ズキズキと鈍い痛みが発せられていた。

 扉をノックする音が耳に届き、隣に座っているキリエが表情を強ばらせる。レヴィに昨日、倒れる寸前まで扱かれたのもあってか、緊張と疲労で手足がぷるぷると震えているのが分かる。

 ──遂に、·がやって来た。

「──どうぞ」

 セラフィナの言葉を受け、扉がゆっくりと開いてゆく。レヴィとガブリエルに続いて、二人の男が部屋の中へと入ってくるのが見えた。

 一人は初老の好々爺然とした背の低い男。そしてもう一人は如何にも人当たりの良さそうな、三十代前後と思われる長身痩躯の男。

 男たちが対面のソファーに腰を下ろすと同時、身に纏う雰囲気が変化したのを感じた。

 特に若い方の男の変化たるや凄まじく、彼は人当たりの良さそうな雰囲気から一転して、必要とあらば人を殺すことも厭わぬという、まるで刃を思わせる鋭く冷たい雰囲気を全身から醸し出していた。

「……セラフィナというのは、貴女であるか」

 無表情のまま、若い方の男が厳かな声で尋ねる。
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