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第二章 第53話 新月の夜、来たれり

Penulis: 輪廻
last update Terakhir Diperbarui: 2025-06-11 11:00:42
セラフィナたちとシャフリヤールが接触してから数日が経過した、ある日の夕暮れ刻──

王宮敷地内の広場に集まった兵たちを、自らも軍装に身を包んだシャフリヤールは、感情の凪いだような目でじっと見下ろしていた。

「──陛下。兵たちの準備が整いました。何時、如何なる時でも出撃が可能です」

「……うむ。ご苦労、ハールーン」

背後に佇む宰相ハールーンには目もくれず、シャフリヤールは手にした書状へと視線を向ける。

死天衆のリーダー格であるベリアルから届けられたその書状には、次のように記されていた。

──"大天使ガブリエル、並びに聖教騎士団長レヴィの首をハルモニアへと差し出せば、ハルモニアの軍事技術の一部をアッカドへと供与する"。

「……"始祖の天使"ベリアル。中々、魅力的な提案をしてくるではないか。ハルモニアの持つ最先端の軍事技術、その一端でも手に入れることが出来れば、我が国は大きく発展するであろう」

ベリアルからの書状には他にも、"精霊教会が行動を起こすのは新月の夜以外にありえない"こと、"巫女長ラマシュトゥと大精霊パズズを討つことに協力したならば、格別の報酬を約束する"ことなどが記されている。

「……しかしながら陛下。大天使ガブリエル殿との間で取り決めた約定、破れば大いに聖教会からの不興を買いましょう」

「願ってもないこと。元々、我らは聖教会の迫害から逃れた者たちの末裔……聖教会に報いるは、遥か昔より連綿と受け継がれてきた悲願である」

それに、とシャフリヤールは続ける。

「大天使ガブリエルと交わした約定、今はまだ単なる口約束に過ぎない。我がアッカドにとって、より良い条件をこうしてベリアルが提示してきた以上、口約束を守る義理もあるまい?」

「……貴方は変わられた、陛下。昔は、そのような目をしていらっしゃらなかったと言うのに」

濁りきったシャフリヤールの目を見て、ハールーンは何処か悲しそうな表情を浮かべる。彼がまだ純朴な少年だった頃を知っているハールーンにとって、今のシャフリヤールの姿は正に"狂王"だった。

突如として地上に出現した"崩壊の砂時計"、次々と堕罪者へと変貌してゆく民草、世界全土を戦乱の渦へと巻き込んだ未曾有の世界大戦"最終戦争(ハルマゲドン)"の勃発、日に日に発言力を強めてゆく精霊教会、予断を許さない国際情勢
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