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【第4話】自慰(アルカナ・談)

مؤلف: 月咲やまな
last update تاريخ النشر: 2025-11-17 10:25:37

 ——時刻が丑三つ時となったであろう頃。

 慣れぬ行為のせいか、眠るのがそもそも下手くそだからか、ふっと目が覚めてしまった。体に触れている布団は温かいままなのだが、何故か背後は丸々剥き出しになっている感があって、この体であってもそこだけは若干寒い。それに一緒に此処で眠っていたはずの大きな体温の塊が近くにある気がしない。別に我々は近しい間柄じゃないんだ、君は傍に居てくれねばという訳ではないのだが、それでもちょっと寂しい感じがして、その体温を探す為に動こうとしたのだが——

 その直前に私の動きがぴたりと止まった。

「んっ……くっ。はっ——」

 な、何故か背後から、甘い吐息と、ぬちゅぬちゅっという水音が聞こえてきたからだ。音の正体を知りたい様な、知りたくなんかない様な。コレでは少しも動けない。振り返る事も出来ず、だからって聞こえない事にしてこのまま図太く眠るのも不可能だ。

(……この音って、まさか、……自慰をなさっているの、では?)

 目だけはクワッと開いてしまったが、体の方はぐっと堪えた。

「あ、んんっ」と言う控えめな声と共に私の背後に何かがペシャッとかかった気がする。多分だけど……達した、の、だろう。

(い、いやいやいや!——待て待て!)

 振り返って『何をオカズに致しているのかな?君は!』と言いたい気持ちをじっと堪える(この体ではまた叫ぶだけで終わりそうだし)。だけどまぁ、終わったのならもう寝るだろうと思ったのに、また卑猥な水音と熱い吐息が聞こえてきた。ど、どうやら彼は、先程の行為だけでは満足出来なかったみたいだ。

「あぁぁ、可愛いなぁ……」と、叶糸の、興奮気味だが、何かを我慢しているような小さな声が聞こえる。だけど彼が、その行為のオカズにしている《何か》が想像もつかない。この部屋にはそれらしき物なんか何も無かったのに。『となると、想像や妄想を糧にでもしているのか?』と思いたい所なのだが……

「お前がヒトの女の子じゃなくて良かった、なぁ……。いい匂い過ぎて、一緒に寝たりなんかしたらこのまま襲ってる所だったよ」

 その一言で確信してしまった。オカズは間違いなく、この《私》だ。言葉の雰囲気的に《獣姦》趣味の持ち主ではなさそうだが、この体臭にやられたって事は『匂いフェチ』ではあるのかもしれない。

 それにしても、寝ている者のすぐ隣で自慰に至るとは何たる強い性欲だ。だがしかし……愛玩動物(彼にとって今の私は多分その立場だろう)の存在程度では、高まる欲求を解消する為の自慰を諦める理由にはならないのは、ちょっと理解出来た。それは《獣人》の大半が性欲の強い者ばかりだからである。

 そしてそれは、《とある者》から与えられた《資料》を元に、《ケモ耳属性》的なモノをこの惑星に導入しようとした先代か先々代だったかの《管理者》が、彼らをそうデザインしたからだ。

 獣並みの捕食欲求を持ったままの存在じゃ、危険過ぎて《人間》達の中では生きてはいけない。それならばと、以前の《管理者》はデザインをする段階で彼らの捕食欲を《知識欲》··に分散させた。『など』の部分に、よりにもよって《繁殖欲求》もあった為、《獣》要素のせいで元来持っている発情期も相まって、その大半が性欲の強い者ばかりになってしまったのだ。

(しかも“ヒト”の部分のせいで、完成形は万年発情期ときたもんだから、貞操観念がゆるゆるな者もいるらしい。まぁ、それも種族によるけど)

 直接的な責任がある訳じゃないが、その特性を書き換えずにそのままにしているという点では、私にも負い目がある。——となると、彼のこの自慰を、私はじっと受け流すしかないのか。

(しっかし……色っぽい声だなぁ)

 傍で吹きかけられた訳でもないのに、彼の吐き出す甘い吐息が耳の奥深くに刺さる。存在しか知らないが、シチュエーションドラマを見聴きでもしているような気分になってきた。

「——んくっ」と言う声と共に私の丸い背中にまた熱いモノがドロッとかかった。それと同時に彼の手が近づいてくる気がする。『やっとソレを拭いてでもくれる気になったのか?』と期待したのだが、叶系はその長い指先でツツッと自らが吐き出した白濁液を伸ばし始めた。

「すぐにでも、拭かなきゃなのに……」

 今一番しないといけない事を理解はしているが、本能的な何かが邪魔をしているみたいだ。

(こ、交尾でもしたいのか?挿れたいとか言い出さないでしょうね……。もしくはペットへのマーキング、とか⁉︎)

 獣人の中でも、保持能力がずば抜けて高い一部の者達は《獣化》という変化が出来る。己の膨大な魔力を用いて完全なる獣の姿に変身するというものだ。お互いにこのままの姿ではほぼほぼ不可能だが(この体格差でヤられると私が死ねる)、彼が獣化まで出来るのならば無理な話ではなくなってきてしまうかもしれぬせいで、私は顔を青くしながらごくりと息を呑んだ。

 だけど彼はパッと私の体を一瞬の元に魔術で浄化し、そのままぬいぐるみでも抱くみたいに私をギュッと抱きしめ、何事もなかったみたいにあっさりと眠り始めた。叶糸の顔が思いっきり頭部の毛の中に埋まっていて鼻息が熱い。

 これではもう眠れない。まあ睡眠も必要な訳ではないから別段困りはしないのだが、眠れぬままじっとしていると、補佐達から送られてきた『剣叶糸』の情報が頭の中に蘇ってきた。

(……あれ?そう言えば、彼って——)

 何度も死に戻りを繰り返し、彼はその過程で《機能不全》になったと書かれていた。そのせいで巡り巡って害意に晒された事まであったから間違いない。

(……そんな彼が、“匂い”程度の刺激で、自慰を?)

 精神面でのダメージは、きっかけになった記憶と共にかなり引き摺るものだ。なのに今の彼にそんな雰囲気は無い。重度の睡眠不足や疲労、虐待の形跡などは嫌と言うほど見て取れたが、繰り返し受けてきた悲惨な経験による《死に戻り》の記憶を今尚抱えているようには正直見えないのだ。

(まさか……今までは全部覚えていたらしいのに、今回の【剣叶糸】には、何度も死に戻ってきた記憶が無いんじゃ?)

 《時間》と共に《記憶》までもが完全にリセットされている状態なのだとしたら、私が何を伝えようが信じてもらえない可能性が出てきた。……それ以前に、伝える術をまずは見付けないとなのだけれども、『さて、どうしたものか……』と思うと少し頭が痛くなってきた。

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