LOGIN とある『青い惑星』の古い物語から引用して、
そんな《ハコブネ》では現在九割程の《人間》達が文明を築き上げているが、残り一割は獣と人とを融合させた様な種族が占め、それらをヒトは『獣人』と呼ぶ。
(……本当に、此処に居るというのか?)
都内の有名な高級住宅街の一角にある貴族のタウンハウスの敷地内の片隅に、ポツンと建っている平屋建の建物に件の人物が居る、らしい。プレハブ小屋よりかはやや上等だが、貴族の令息が住むには相応しくはない。でも、補佐達から徐々に送られてくる『後継者』に関するデータをホログラム的に出現させて確認したけど、やはり此処で合っているみたいだ。
(玄関から入ろうか)
チャイムを押してどうこうする気は無いけど、私は強盗や泥棒ではないので玄関からお邪魔します。
古臭いデザインの引き戸を通過して室内に入ると、夜という時間帯のせいもあってか廊下は真っ暗だ。奥でヒトの気配はするものの、同じ敷地内にある本宅の中みたいに複数ではなく、此処はどうやら一人だけのようだ。対象者は間違いなく御貴族様だけど、この広さ的にも何もかも一人でこなしているのかもしれない。
(家電の類がかなり優秀だし、それらが揃っていれば、貴族令息様であろうが案外やれるもんなんだろうな)
平家だからか家の造りはよくあるマンションの中みたいな感じだ。設備は中古品の寄せ集めといった所で、どれも形落ちした古い物ばかりである。ギリギリまで経費を削って建てたのだろうな。
(……明滅しっぱなしの照明が放置されてるとこもあるや)
本体か、スイッチが壊れでもしているんだろうか。窓からは隙間風なんかも結構入ってくるもんだから、これじゃちょっとしたホラーみたいだ。私が《私》じゃなかったら震えて立ち止まっていたかもしれない。だが今じゃ私自身が“幽霊”みたいなものなので、構わずふわふわと廊下を先に進んで行くと、少しだけ明かりが漏れている部屋を見付けた。ヒトの気配もそこからする。
(お邪魔しますよー)
そそっと入ると、ガタイの良い背中が目に入った。どうやら机に向かって何かを観ているようだ。室内は八畳間程度とやや広めだが、両サイドの壁は本棚で埋め尽くされ、分厚い蔵書がびっしりと詰まっている。でもそこにすら入りきらない本が山のみたいに床にも積まれていて最速親近感を抱いた。この部屋の場合は、私のように片付けが苦手というよりかは、単純に仕舞う場所が無いだけだろうけども。
「——誰だ!?」
男が急に振り返り、そう叫んだ。この声に驚いて私も振り返ったが、そこには誰もいない。じゃあ《男》は何に対して叫んだんだ?もしかして気配に敏感なタイプなのだろうか。噂に聞く『猫は幽霊が見えている』的な感じで。
「……え?——は?ど、ど……どうして、こんな場所に“マーモット”が?」
…………マ、“マーモット”?いやいや、私が通過してきた道中にそんな者はいなかった。なのに何故この男はそんな単語を口にしたのだ?と不思議に思いながらもゆっくりと、じっと自身の手を見ると、私の“ソレ”が動物の小さなお手々に変化しているじゃないか。
(んんんっー!?)
慌てて男が今まで観ていたであろうものの方に視線をやると、どうやら男は動物動画を観て癒しのひと時を得ていたみたいだ。しかもその内容が運悪く『マーモット特集』だったらしい。そのせいで男の、私への認知が『マーモット』になってしまったみたいだ。
「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁー!」
(どうしてくれる!こんな“私”だが、私は元々ちゃんと“人間”だったというのに!)
永く《惑星》の《管理者》なんて《超越者》的な存在であった事で姿があやふやな塊みたいなものだったせいで、《男》の《認知》が強く影響してしまったみたいだ。こうなってはしばらくこの姿のままだろう。少なくとも、彼の認知が緩むまでは……多分。
「ほ、本当に叫ぶんだ!」
何故か男は、『なんで急に家の中にこんなレアな動物が?』と疑問を抱くよりも先に、喜びに悶えている。室内灯は消えていて、ほぼほぼ画面の明かり程度でしか状況を把握出来ない状態なのだが、それでも分かる程に男の顔色が悪いから相当《癒し》に飢えているんだろう。
(だが、よりにもよって“マーモット”って!)
『オッサンが入っているだろ』と言われる仕草とこの体型、そしてそれっぽい行動までする《マーモット》にされてしまった乙女の気持ちを考えてくれ!と文句の一つでも言いたくなったが、じわりじわりと男が両手を広げてこちらに近づいて来ている。
(ごめんなさい、“乙女”は盛り過ぎました!もう身も心も千年越えでミイラ寸前でした!許して下さいっ!)
半泣きになりながら距離を取ったけど、“狼”の“獣人”であるその男の手から逃げる事なんか不可能だった。
運ばれながら行き着いた先は、随分と広めではあるものの、どうやら予想通り客間の様だ。隣接している和室も繋げていてかなり広い。部屋の上座部分に大層立派な椅子が置かれているが、和室には似つかわしくない。どうもその椅子は私の為に用意していた物だったみたいで、玉座にも等しいその椅子の上に下ろされ、続いてアルサ達がその前にずらりと並び、正座をした。 全員の視線が一斉に集まり、うぐっと喉が鳴った。記憶にある限りではこんな扱いは初めてなせいかちょっと緊張してくる。「改めまして、当家にお越し頂き誠に恐悦至極——」 アルサが深々と頭を下げてそんな事を言い始めたものだから、私は慌てて「待て待て待て!そう畏るな。こっちが緊張する、わい!」と割って入った。「今は時間も無い。堅苦しい挨拶は抜きで頼む」 「……かしこまりました」 少し不本意そうな声ではあるものの、顔を上げ、目が合った途端にまたアルサが鼻血を垂らし始めた。……もう病院に行った方がいいんじゃないだろうか。 彼の事が心配ではありつつも、外が段々と明るくなり始めているせいで気持ちが焦る。「急な話で悪いのだが、実はな、折り入って南風家の当主に頼みがあって来たの、じゃ」「貴女様が、私にですか⁉︎」 胸元に手を当て、興奮気味な声が即座に返ってきた。はあはあと呼吸が乱れてとても苦しそうだが、いよいよもって救急車でも呼ぶべきか?「——あ、そう言えば自己紹介が遅れたな。私は、君達が推察していた通りの立場の者で、我らは自分の事を“管理者”と代々自称している。だが、新たに『アルカナ』という名を最近貰ったので、今後はそちらで呼んで欲しい」 「畏まりました、アルカナ様っ」 瞳を輝かせながら名前を呼ばれるとすごく照れる。叶糸以外から呼ばれたのは初だが、改めて、良い名をもらったなと実感した。「所で、『頼み』とは?」 前のめり気味に訊かれたが、ここで引いては意味が無い。一度咳払いをし、私はしっかりと前を向いて、真面目に用件を伝えようとしたのだが……胸元を押さえている者や過呼吸気味に口元を覆っている者ばかりが増えてきたのは気のせいか?「……君らはさっきから何なのじゃ」 困惑気味に訊くと、「申し訳ありませんっ!」と土下座をされる。一同全てに謝罪され、ちょっと逃げ出したい気持ちになってきた。「その、私達南風家は一族全員が、そう全
「…………」 まさか見えているのか?と疑問に思いながら、慌てて我が身を確認したが、季節に反して真冬向け並みの脂肪蓄えムッチリボディであるという問題点がある以外は至ってちゃんと姿を消せている。叶糸レベルが相手では通じないままだが、保有魔力が高めであろうが看破出来ないくらいにはしっかりと隠しているのにと不思議でならない。 きっちりと跪礼されたままで、依然として御一行は頭を上げず、最前の中央に位置している一人以外は微動だにしていない。これでは埒が明かないなと考えはしたが、私はこのまま「……もしかして、私の姿が見えているのか?」と素直な疑問を口にした。 即座に「——あ、楽にしてから答えて欲しい、ぞよ」とも付け加える。また変な見栄を張ってしまって恥ずかしくなったが、もう遅い。 叶糸同様、彼らも私の変な言葉遣いを華麗にスルーしてくれ、まるで事前に訓練でもしたのか?と思うくらい綺麗に皆が一斉に顔を上げた。一番手前の中央で、一人だけずっと肩を震わせていた者が現在の当主である南風アルサだった。黒に近い茶色い髪色、同系色の瞳と褐色肌が特徴的な青年である。若いながらに一国の『宰相』という職に就いているにしては随分と優しげな雰囲気があり、眼鏡で知的さをプラスでもしていなければ、『職業は保育士です』と言われた方が納得出来る風貌の御仁だ。「いいえ。私如きの瞳では看破出来ぬ完璧な隠滅状態ですよ。ですが我々は、長年訓練を積み、『種族特性』を最大限にまで引き上げているので、こちらの女性は愛らしき足音や羽ばたきで、そこの男性は木蓮のようなその匂いで貴女様の位置を把握しており、私めは超音波の代わりに魔力を用いて『反響定位』いわゆる『エコーロケーション』の様なもので周囲の状況を感知しています」と教えてくれた。「……すごい、ね」(『種族特性』か。叶糸の場合は、あの脚の速さだろうか)「ありがとうございます」と微笑みながらアルサが頭を下る。姿さえ隠せばどうとでもなると思っていた自分の甘さを忘れてしまう優しい笑顔だ。だけど私は『今度は獣人の種族特性をも意識して行動せねばな』と反省した。「ここではなんですから、場所を変えませんか?」 そう提案され、「あぁ、そうじゃな」と答えながら姿を現す。するとアルサが急に崩れ落ちる様にその場で伏せ、慌てて顔面を手で覆ったかと思うと、今度はボタボタと手の隙間か
泥沼にでも嵌まったみたいに抜け出せずにいた睡眠状態から、明け方近くになってようやく目が覚めた。相変わらず私の体はマーモットのままだ。あんなに強固だった『認知』が随分と緩んだおかげで今もまだ他の姿への変身は出来そうだけど、やっぱりこのままが一番楽だなと、変化せずともわかる。 いつも通り隣には妙にスッキリとした顔の叶糸が眠ったままで、私がちょっと動いても起きる気配はなさそうだった。(叶糸も初めての夜会で相当疲れたのだな。……となると、出掛けるなら今がチャンスか) 実は、今後の為にも早めにやっておきたい事がある。だけど叶糸は私に拘束魔術をかけたくらいにとっても過保護だから、彼が起きている時には単独での外出は嫌がりそうな気がするのだ。なので、いっその事彼が眠っている今のうちに用件を済ませておこうと、そっと叶糸の腕の中から抜け出してみる。 時間帯のおかげか彼の眠りはまだまだ深いみたいだ。先ほどまで私を包んでいた腕がぽすんとベッドに落ちたが起きそうな様子はない。その事にほっと息を吐き、引き続きノソノソとゆっくり布団から這い出て行く。 ベッドからトンッと降りて後ろを確認したが、幸いにして叶糸は今も眠ったままだ。『よしっ』と心の中だけでガッツポーズを取り、窓枠に手を掛けて、幽霊みたいにするりと窓を通過していくと同時に、我が身を『雀』の姿に変えた。あまり派手な鳥だと早暁であろうが目立ちそうなので、どこにでもいる小さな鳥を選んだ。何も考えずに、移動が楽だからと『飛べる生き物』とだけイメージしたら獣人化した時の姿に引っ張られて、巨大な龍になるか、あるいは鳳凰にでもなってしまいそうだったから、きちんと意識をしてこの姿に体を固定した。(うーん、やっぱちょっと疲れるな……) この姿で居ようと意識しないとすぐにマーモットに戻ってしまいそうなくらいに引っ張られる。『どんだけマーモットが好きなんだ、叶糸は!』とちょっと文句を言いたい気持ちになりながらもふわりと飛び立ち、目的地を目指す。 ——だがその同時刻。 叶糸がのそっとベッドから起き出して裸足のまま歩き、窓の外を見上げて虚な瞳のまま、丈夫な爪でガラスを引っ掻いていた事にも、いつもの自慰行為がマーキングと同等の効果を持っている事にさえも気が付かぬまま、私は愛らしい雀ボディで必死に大空を羽ばたき続けた。 ◇ 今
面倒事に、付き合わされる事になった。 侯爵の爵位を持つ星澤家で開催される夜会の話を義父から聞かされた時に思った、率直な感想だ。都内に住む貴族達の情報は叩き込まれてはいるが、あくまでも基礎的なもので最新の情報じゃないから知識の更新が必要だし、兄達から『やっておけ』と指示されているレポートの用意や、本当に使うのか不明ではあれども普段の勉強の為に要点をまとめたものの準備もしてやらねばならない。そして今は何よりも自分の時間も欲しいというのに、更にまたアイツらに時間を奪われるのか、と。(だけど、行って良かったな) 立場的に『断る』という選択肢は無かったとはいえ、今は心底そう思う。(拘束魔術でしっかり軟禁しておいたのに!) 会場内でアルカナを見た時は『どうしてここに?』とかなり慌てたが、標準よりもずっとむっちりとしたぬいぐるみ系ボディで必死にホール内を歩く(……いや、あれでも一応は走っていたのかも?)姿も見られたし、超が付く程の希少種である『龍』の『獣人』となった彼女と踊る事が出来たのは何よりの幸運だった。(でも、アレは反則だろ……) ただでさえ好みの匂いだというのに、アルカナの『あの姿』を思い出すだけで顔どころか耳まで熱い。 クロスタイをやや乱暴に外し、シャツの前ボタンにかけていた手を止め、右手で顔を覆ったが、冷やす効果はなさそうだ。 人生初だった夜会を無事に終え、かなりの疲労を抱えながらも自宅に戻れはした。慣れぬ行為ばかりですぐに寝たいくらいに疲れているのに、寝室で無防備に眠るアルカナを前にすると、腹の奥が急速に重くなっていく。御丁寧に扉が閉まっていたせいか、隙間風がよく吹き込む部屋なのに彼女の甘い香りが充満しているからだろう。(……鼻が利くのも考えものだな) まんまるな背中をさらしてくーくーと眠るその姿に『龍』の『獣人』であった面影は少しも無い。存在自体が幻想かと思うほどの儚さも、威厳も、何もかも会場に置いて来たみたいだ。「……あの後は大変だったんだぞ?」 ベッドに両腕だけを預け、アルカナのふわふわとした頭に顔を埋めたが、起きる気配はまるでなかった。 ——星澤家の邸宅で開催された夜会でアルカナと夢の様なひと時を過ごした直後、彼女は霧が如く消え去ってしまった。 今まで誕生報告情報すら無かった『龍』の『獣人』が会場に現れ、そして忽然と消えた
将来有望な後継者を廃人にされた事もあり、西條家の本家と親族一同はソロアを『西條』から除籍すると決意した。あんなに毛嫌いしていた『平民』のレッテルをあえてソロアに与え、大きくなる一方の腹を抱えたまま、とある僻地にある『静養所』とは名ばかりの『収監施設』に送る事になった。超が付くほどの問題児を体良く閉じ込めておくための施設らしい。一度入るともう二度と戻ってはこられないって感じの場所だ。 末弟であるソリアは心身共に回復は見込めず、治療の一環として、問題となった記憶の消去が決まった。医師免許と魔術師、双方の資格を持つ者が、国の許可を得て行う特別な医療行為だ。じゃないと記憶を消し放題になっちゃうから、使用条件が厳しいんだよね。 生活に支障が出ないよう、本来なら問題の原因となっている記憶を消去するのみで終わらせるのだが、今回の一件は、厄介な事に『加害者』が『実の姉』である。生まれた時から関わってきた人間が加害者であった場合、トラウマ化した出来事の記憶のみを消去したとしても深層心理の傷は癒えず、残っている別の『加害者』に関連した『記憶』や『思い出』が悪さをして精神的ストレスを負い続ける可能性があるため、ソリアは今まで生きてきた十二年間すべての記憶が消去される。 少年の身でありながら、中身は赤ん坊からのやり直しとなったのだ。 大事な息子として、そして後継者の筆頭としてソリアに費やしてきた全てがリセットされてゼロになる。実父でもある当主の心の苦難はもう想像を絶するものだったに違いない……。 ◇ とうとうソリアが西條家から除籍される日になった。 本家にて、西條家一同が見守る中で除籍手続きを執行。そして除籍後は『静養所』に送るための事前準備としてソロアの魔力が封じられる。逃走防止、且つ施設運営者達の安全のためだ。 魔法も使えなくなり、特権階級から平民への転落。 そして腹の子供と共に僻地に捨てられる。 彼女の状況はそう言っても過言ではないだろう。 差し迫った事実を全く受け入れられず、少しも悔恨する事もなく、ただただ『高貴なワタクシが何故⁉︎』と騒ぐばかりで反省の色は微塵もない。これまでの日々で散々親や弟妹達から行動の問題点を説明されてもまともに聞こうともせず、身の回りにあった高価な装飾品や衣類などの全てを没収されても憤慨する
当人同士の了承も覚悟も何もかもないまま、剣と西條の両家で婚約が成立してしまった。 『獣人』であり、『貴族』として育ってはいても、その血筋は『平民』で、王家や皇家とは一切無関係な叶糸との婚約など、気位の高いソロアは当然受け入れるはずがなかったのにだ。 案の定、西條家の当主でもある父に何を言われようが、末弟に説得されようが聞く耳も持たず、暴れに暴れて頑なに拒絶した。家の財政状態を懇々と説明されても、『現実を見るように』と諭しても無駄だった。 叶糸もこの婚約を歓迎などしてはいなかったが、『このまま剣の家に居るよりはマシかもしれない』とは考えていた。『実家との縁さえ切れてしまえば、あとはどうとでもなるのでは?』とも。 何をどうしようが婚約相手から好かれないのはわかっている。叶糸もソロアの噂は知っているからだ。お互いに愛情が無いのなら、形だけの契約結婚にでも持ち込めるかもしれない。立場的に自分からは無理でも、向こうから早々に離婚を提案してもらえるという可能性だってありそうだ。——そう割り切り、渋々ながらも叶糸は婚約話を受け入れた。 義父に言われて彼は月に二、三度、婚約者となったソロアと交流を深める為にと西條家を訪れる様になった。だが玄関にすら辿り着けず、正門前で門前払いを喰らった。毎度毎度毎度、行くたびに『平民を家に入れるな!』と事前に指示されている西條家の警備員から申し訳なさそうに『通せない』と告げられる。それでも礼儀として半年間はそれを続けたが、流石に不毛だと悟り、学校関連などで多忙にもなってきた事を理由に行くのをやめると、今度は『平民如きに蔑ろにされた!』と余計に激怒し、ソロアは完全にブチギレてしまったそうだ。 ——四ヶ月程経ったある日の事。 ソロアは父に『子供が出来た。平民との婚約関係を解消する』と、少しも悪びれる事なく告げてきた。 父は『……剣家の彼との子供じゃないのか?実は、そうなんだろう?』と何度も言い聞かせ、無理矢理そうである事にしようとしたのだが、ソロアは頑なに『違う』と言い、でも子供の父親が誰なのかは絶対に言わなかった。『あの平民の子なんかじゃない。会った事もない』 徹底してそう言い続け、そしてそれが事実である事は西條家で働く者全員が知っている。 どんなに箝口令を敷こうが、どこから事実が漏れ出るか分からず、結局この婚約は破談となっ