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『何も無い』と表現するのが一番適切と言える程にただっ広い空間で一人。巨大な《惑星》の立体的なホログラムみたいなモノの前に居る。周囲には『資料』と呼ぶには名ばかりの雑多な本、箇条書きの文章や絵の書かれた束が大量に積み上がっていて、たまにドササッと崩れていく。フィクション、ノンフィクション、歴史書に、世界地図の他にも科学的な専門書まで。多岐にわたる分野のものがないまぜになってしまっているけど、きっちり分別しておくのは難しい。だって自分自身がそもそもその『違い』がよくわかっていないからだ。
私が《手》的なモノをスッとあげ、左右に動かすと惑星のホログラムみたいなモノが連動して動いていく。同時にその周囲に現れる様々な数値化されたデータ群。それを見て、惑星の環境を微調整をしていく。何だかまるで惑星開拓型のシュミレーションゲームみたいだ。
……だけどコレは、ゲームではない。
現実に、この星の上では無数の命が生き、そしてポロポロ死んでいっている。永い永い歳月、それらをひたすら前にしていると、どうしたって心が押し潰されて疲弊していく。そのせいで元の姿は随分前に崩れ、私はもう『人間』と呼べる様な形状をしていない。霞のような、光のような、霧のような。とにかくまぁそんな存在になってしまった。こんな姿では眠れず、ずっと
「——『管理者』様!『管理者』様ぁぁぁぁぁ!大っ変っです!」
珍しく、私の補佐を勤めてくれているモノ達が大騒ぎしている。最初の頃はぼてっとした鳥みたいな形状だったはずの補佐達も、今では『認知』の歪みのせいか蛍程度の光になっていて、会話する度に毎度毎度申し訳ない気持ちに。でも『仕事』という名のお片付けは不思議と出来るままなので、私にだけ、アレらが『そう見えるだけ』なのかもしれない。
「どうしたって言うの?そんなに騒ぐだなんて」
呆れながら返すと、「見つかったんです!——『後継者』様が!」と補佐達がワーワーと騒ぐ。
……『後継者』というワードを聞いても頭が処理出来ない。長年ずっと待ち焦がれてきた反動のせいでしばらく思考停止していたが、やっと理解出来た瞬間、私は「やっと、後継者が!」と叫んでしまった。《私》がまだ人の姿をしていたのならガッツポーズをとっていた所だ。「……ただ、一つ問題が」
補佐の一人がぽつりと呟く。
「……え?」と抜けた声を返すと、補佐達が言葉を続ける。
「『後継者』様は、その、不幸な目に遭い続け、すでに何度も死に戻りを繰り返していまして……」
「『管理者』様の後継者になれるだけの莫大な『魔力』を、その原動としている為」 「あと一度でも『死に戻る』と、もうその希少な『魔力』を使い果たしてしまうという寸前なのです」その言葉を聞き、顔を青くして声にならぬ悲鳴をあげたい気分になった。——次の瞬間、私は目の前の惑星の、『実物』の方へ飛ぶ様に向かったのだった。
「——アルカナッ!」 バンッと木製の扉を開けて、叶糸が“応接室”と定義されている空間に入って来た。何か急ぎの用事があるのか随分と慌てた様子だ。「……どうかしたのか?」 手をかざし、近くにあるローテーブルの上に並ぶ食器類を消し去る。一人で『此処』に居た時には用意した事もなかった物ばかりなので、この一連の行為自体がちょっと新鮮だった。 ソファーに座る私の傍までドスドスと足音をたてながら叶糸が来たかと思うと、今度は両腕をガシッと掴まれ「『ノア』が来ていたって、本当か⁉︎」と大きな声で訊かれた。 「あ、あぁ。でももう深淵に沈むレベルの『睡眠モード』に戻ったぞ?」 「……ん?オレに用があって来た訳じゃなかったのか?」 「そうみたいだな。まぁ、奴は新規就任者に『ご挨拶』ってタイプでもないし。次に目を覚ましたらきっと、今度は叶糸に『無理難題』を押し付けてくるんじゃないかな」 「……じゃあ、今回は何をしに起きて来たんだ?」と言い、首を傾げる仕草が可愛い。今の私は前以上に小柄に退化したせいで、前よりももっと叶糸が大きく感じているのに、最近また彼を『可愛い』と思えるのは何でなんだ?と、今度は自分が首を傾げたくなった。「あ、えっと、第一声が『まだ居たんだな。もう消えているかと思ってたぞ』だったから、一応は、私の顔を見に来たの、かも?」「失礼な奴だな」と溢し、眉間に皺を寄せる。ビキッと音を鳴らしながらこめかみに血管が浮き出る様子を生まれて初めて見た。 「あ、えっと、今の『此処』の状況を褒めてもいたぞ?」 気を逸らそうと慌てて別の話題を口にする。『ハコブネ』を管理している者が『ノア』に敵対心を抱くのは得策じゃないからだ。「……『此処』の状況を?」 興味を引くことに成功したみたいだ。よし、このまま話を続けよう。「あぁ」と頷き、「『“此処”を改装した者は今までいなかったけど、面白いね!』と喜んでいたぞ」と叶糸に教えた。 今は『ノア』と名乗っている意識体が憧れの『地球』を真似て、その体を『ハコブネ』として惑星化して以降、ずっと無個性だったこの空間が今ではまるで
アルカナとの結婚後。 俺達は子宝に恵まれ、十人もの子供を授かった。黒竜タイプの『西洋ドラゴン』の獣人である長男を筆頭に、二度目の出産では四つ子の『四聖獣』の獣人達を、三度目の出産では『神獣・バステト』の獣人が産まれるなど、他の子達も例に漏れず豪華絢爛な顔ぶればかりだ。 南風アルカナが『龍』の獣人である事から一応は納得してもらえているが、通例通りならば、『希少種』に分類される獣人は一代限りの出生のはずだ。しかも『龍』以外の誕生は初めてのもので、この点でも、うちの子供達は全員異例中の異例揃いなのである。(そのうえ、ほぼ毎年の様に出産とか。アルカナは妊娠しやすい体質なのか?) 毎度毎度必ず中出しだし、避妊は一度もしていない。最低五回、しかもほぼ毎夜。アルカナの体は変幻自在な霊体に近い構造なので、生理という現象がそもそもこないおかげで、出張の時以外はたっぷり閨事に付き合ってもらっている。そう考えると、まぁわからなくもないペースだが、それにしたってだ。 貴族の家庭はそもそも子育てを自分ではしないし、南風家の協力もあって何人産まれようが問題は無いし、全員ちゃんと可愛いとは思うが——(どうしたって、アルカナの興味が分散されるのがなぁ……) アルカナにも、南風の当主夫婦にも、もちろん子供達にも絶対に言えないが(言わないが!)、本心としてはちょっと面白くない。なので思い切ってアルカナに直球で訊いてみた。「……アルカナは、妊娠しやすい体だったりするのか?」 「君が、毎度『孕め』と言うからだろう?」 お前のせいだろと言わんばかりの顔で返されてしまった。 あぁ、思い当たる事しかないなぁ。 確かに、本能が暴走して毎度毎度言っている気がする。アルカナはオレの『認知』の影響をかなり受け易い体だから、全部オレのせいかー。 額に手を当て、天井を仰ぎ見る。(あーうん。訊いてみて良かった) 子供達は可愛いが、あまりにも多過ぎると要らぬ摩擦も生まれる。 この先はもうずっと『孕め』は禁句指定にしようと決めた途端、アルカナの出産ラッシュはぴたりと止まり、俺
魔術で鍵をかけ、今はオレ達しか居られなくしたこの空間で二人。可愛い可愛いアルカナをこちらに背を向けさせた状態で膝に座らせ、彼女の両方の膝下を掴んで激しく上下に揺さぶる。すると愛らしくも情けない声をあげてアルカナがビクッと大きく体を震わせた。手首に枷を嵌めさせ上方向にぐっと引っ張った状態なので頽れずに済んだが、意識は一瞬飛んだみたいだった。「またイッたのか?久しぶりだからって、イキ過ぎだろ」 ぐだぐだに濡れる肉芽を指先で押すように擦ると、また「んおっ!」と声をあげて体を震わせる。同時にビシャッと床に向かって潮まで吹いて、可愛いったらありゃしない。(潮吹きなんて初めてしてくれたな。晩年近くは流石にココまでちゃんとは抱けていなかったし、長い事前戯くらいだったから、アルカナも多少は欲求不満だったのか?) 彼女の脚を支える為に新たな枷を魔力で編み、双方の太腿に嵌めて吊り下げる。それにより自由になった両方の手で、すっかりツンッと硬く唆り勃った肉芽や、オレのモノをギチッと呑み込んで離そうとしない蜜口を優しく撫でてやると、アルカナがまた変な声をあげてギュギュッとナカを食い締めた。「ん、ぐっ」 何とか耐えたが……今のはヤバかった。今まで何度も抱き倒してきたけど、此処に来てからの方がアルカナの感度が格段に上がっている感じがするのはオレの気のせいなんだろうか。「はぁ、はぁ、はぁ——」 何度も肩で呼吸を繰り返し、イキ過ぎて虚な眼差しになっているのに、動いて欲しいと強請るみたいにナカをキュンキュンとさせるとか。『こんなもので終わるのか?』と煽っているとしか思えない。「この体位だと奥までは挿入らないっていうのに、こんなに欲しがってくれるとか、夫冥利に尽きるなぁ」 アルカナを背後から抱き締める。元は『人間』だったのか、今のアルカナには『龍』の獣人だった時のような角や特徴的な長い尻尾は生えていない。抱き易いが、その事が少しだけ寂しい。しかも体格もかなり変わり、小さくてまるで子供みたいだ。白銀の髪色や金色の瞳は健在だが、これは魔力の保有量が影響してのものだろうから、きっと彼女が生まれ持った『色』なのだ
遥か彼方に存在するという『地球』を模した巨大な生命体『惑星・ハコブネ』を『管理』している超越者にも近き我々だって、元はただの『人間』だ。千年近くの刻をたった一人で管理し続けるのはどうしたって無理がある。孤独、疲弊、重圧、憐憫、葛藤、寂しさなどといった様々な感情に潰されて、歴代の管理者達は皆、自分の『魂』の消滅を願い、『後継者』の『最後の願い』を叶える代償にソレを使ってきた。私の前の管理者も、その前もその前もその前も。『地球』に焦がれ続けてコピーキャットと化した『ノア』の分身であった初代の管理者でさえも、その重積と激務に耐えきれず、結局は覚めない眠りの中に身を投じたらしい。 超越者の分身であろうがコレなんだ。 『私』だって耐えられるはずがなく、歴代と同じように『永遠の消滅』を渇望した。 その為に『後継者』となり得る人材であった叶糸を助け、彼が次代の『管理者』になった後に少しでも『孤独』に耐えられるようにと『幸せな記憶』を積み重ねていく手助けをしたのに——(……何で私は、今また、此処に居るんだ?) 理解が追いつかず、抱え切れない絶望が胸の中を苛む。またあの歳月を『此処』で過ごすのか?と考えただけで吐いてしまいそうだ。 この状況を受け止められなくて床のようなものに手をついたまま伏せっていると、すっと大きな手を目の前に差し出された。「やっと『再構築』されたんだな」 聞き覚えのある声を耳にして慌てて顔を上げる。するとそこには、出逢ったばかりの頃の姿に戻った叶糸が立っていた。「……っ」 声が出ず、無駄に空気を喰んだ。彼に抱くのは『懐かしさ』よりも『どうしてこんな事を……』という気持ちの方が大きい。「アルカナが『再構築』されるまでにちょっと時間があったから、この空間を色々といじっておいたぞ。此処の現状を確認したけど、アルカナはほぼ全て手動で『惑星』を管理していたんだな。あれじゃあまりに非効率だったから、適正な環境になるよう自動的に調整するシステムを組んで、不測の事態が起きそうな時にだけ警告音を鳴らして知らせるようにしたよ。だからもうこの先は仕事仕事と追われ続ける事は無いはずだ」と言い、叶糸が私の手を
『管理者』である私の『後継者』に相応しい叶糸と出逢い、もう二度と死に戻る事のないようにトラブルの原因を徹底的に避け、お互いの問題を一手に解決する手段として結婚。生粋の『獣人』だからかしょっちゅう本能に支配されてしまう叶糸に流され続けて十人もの子宝に恵まれて、私は『貴族』として人々の生活に溶け込みながら叶糸の『人生』の『終わり』まで寄り添い続けた。(あっという間に終わると思っていたけど、むしろ、此処までの方が随分と長かった気がするな……) 退屈だったからとかじゃない。むしろその逆だ。南風家の面々のおかげで毎日が平穏で、でもちょっと刺激的だったりもして、そしてすごく『幸せ』な日々だった。手助けが多かったり、貴族独特の子育て方法があったりとで大変さはかなり分散されてはいたけど、それなりには育ての苦労も経験出来たし、十人もいると全員に個性があってとても楽しかった。『十人十色』ってこの事なのかと何度も思った。ただ……皆、非行に走る事なく育ってくれたのは嬉しいが、何も私達の子供らにまで『管理者様万歳っ』みたいな南風家流の教育は不要だったんじゃないかなとは今でも考えている。 思い残す事なんか、もう何一つとして無い。 そう断言出来るくらい、『南風アルカナ』として送った『余生』は本当に素晴らしいものだった。 ◇ ——叶糸と共に歩んで来た短い『人生』を振り返り、カツン、カツンと靴音を鳴らして部屋の中を進んで行く。やや大きめの窓から綺麗な大空や庭の紅葉が一望出来てとても綺麗だ。少し窓が開いているおかげで爽やかな風が吹き込み、私の頬を軽く撫でた。 窓の側には一台のベッドが置かれており、年老いた叶糸が横になっている。まぁ『年老いた』とは言ってもせいぜい『人間』の外観で言うところの五十歳台くらいの見た目のままだ。出逢ってからもう二百二十五年三ヶ月と二十三日が経過したというのにこの見目なのは、ひとえに彼が、『獣人』であったおかげだ。(まぁ、叶糸であれば、木肌のように皺を刻んだ顔になっても、きっと似合っていただろうがな) 約二百年という『獣人』の平均寿命を大きく超え、叶糸は今や世界の
身悶えるたびに水音が鳴り、その音に脳内まで犯され続けていると、叶糸がタクトでも扱うみたいな動きをして魔力で編んだ鎖を指先で操作して、今度は彼に向かって尻を突き出すみたいな体勢にさせられてしまった。「い、やぁぁ、は、はじゅか、しぃっ」 もうまともな言葉なんか全然操れない。語彙力が家出してしまって帰って来てくれる気配も無いとか、いい歳して悲し過ぎる。「どっちの孔も丸見えとか、ホント最高だな」 特徴的な『龍』の尻尾までもをがんじがらめに鎖で縛り、そのまま持ち上げられ、恥部の全てを彼の前に晒されているせいで羞恥が限界を越え、ボロボロと大粒の涙を流してしまった。だが「あんまり煽んないでよ」と興奮気味に返されるだけで、『泣かないで』と慌ててやめてくれる気配は微塵も無い。 膝立ちになり、叶糸が両手で私の臀部を鷲掴みにする。動きが雑なせいで少し痛いが、むしろそのせいで彼の興奮度合いがわかってしまい、逆にちょっと気持ちいいかもとか……『変態か?』と自分にツッコミたくなった。「ホントはもっとちゃんと追い込んで、契約魔法を重ね掛けにしてがんじがらめにしておきたいんだけど、もう、オレの方が限界だな」 魔力で編まれた鎖が急に上方向に引っ張られ、枷を嵌められている両太腿が連動してくんっと持ち上がった途端、叶糸は私の恥部に己の屹立をぐっと押し当ててきた。熱く、硬く、私が受け止めるにはかなり大き過ぎる気がするのだが、今それを指摘した所で彼が止まるとは到底思えない。だけど内心物申したい気持ちで一杯だ。「か、かにゃ、と、あの、流石に、な?コレ以上は……」 体格差のせいで膝が浮き、心許ないせいもあってか頑張って口にした声はかなり小さくしか出てこなかった。昨日に引き続きでもあるし、今日も散々叫び過ぎているから、もう既に喉を痛めてもいるのだろう。「コレ以上をして、やっと『夫婦の営み』が始まるんだろ?此処で止めたらただのお遊びだろうが」 閨事情に詳しい訳じゃないが、少なくとも『初夜』で、魔力で編んだ枷と鎖で拘束されたうえに、初手がこんな交尾みたいな体位からっていうのはほぼほぼ無いのでは?とは思うが、言葉には出来ない。うっかり本心
慌てて外出して行く叶糸に対して『いってらっしゃい』と心の中だけで告げ、少しの間を開けて私も玄関を目指す。「指示を受けはしたが、出て行かないと私は約束していないからな」 ふふっと悪い奴みたいに笑い、敢えて考えを口にする。たったの一晩とはいえ、封じられていたからか『喋れる』というのが地味に嬉しい。文字での伝達を諦めた矢先にこれとは、まさに僥倖だ。 薄暗い廊下を通り、悠々と玄関ドアもすり抜けて、でもちゃんと距離を置いて叶糸の後にそっとついて行く。 昨夜の推察通り彼に今までの記憶が無いのであれば、かなり危険だ。そんな状態では確実に『一度目の人生』と同じ轍を踏むだろう。だが私が同行していれば危
鳥の鳴き声で目が覚めた。いつの間にかまた眠ってしまっていたみたいで途中から記憶が無い。(……叶糸の自慰のお声はバッチリ覚えているけどな) むくりと起き上がり、彼を探す。だけど寝室からはもう出たみたいで、昨日床に脱ぎ捨てていた服なんかも消えていた。 のっそりと起き上がり、ベッドから降りて部屋を出る。叶糸が私に抱いている《マーモット》という認知が邪魔して部屋の扉をすり抜けられないという事態にまでは至っていなくてちょっとホッとした。(普通なら出来なくって当たり前の事だから、心配した事自体が変かもだけどね) 廊下に出ると、ちょっとだけいい匂いが漂ってきた。きっと叶糸がキッチンで料理でもして
——時刻が丑三つ時となったであろう頃。 慣れぬ行為のせいか、眠るのがそもそも下手くそだからか、ふっと目が覚めてしまった。体に触れている布団は温かいままなのだが、何故か背後は丸々剥き出しになっている感があって、この体であってもそこだけは若干寒い。それに一緒に此処で眠っていたはずの大きな体温の塊が近くにある気がしない。別に我々は近しい間柄じゃないんだ、君は傍に居てくれねばという訳ではないのだが、それでもちょっと寂しい感じがして、その体温を探す為に動こうとしたのだが—— その直前に私の動きがぴたりと止まった。「んっ……くっ。はっ——」 な、何故か背後から、甘い吐息と、ぬちゅぬちゅっという水
私の小さな手がぎゅっと彼の服を掴むと、叶糸の顔が少しだけ強張った。だけどすぐに優しい表情に変わり、「……ホント、お前は可愛いなぁ」と嬉しそうな声で彼は呟いた。 一瞬見せた先程の表情は一体何だったのか。 でも……すぐに何となくその理由を察してしまった。服を掴んだ事で少しだけ引っ張らさった服の奥に大小の古傷があったからだ。タバコとか、鞭か何かで傷付けられた感じだ。服で隠れる位置ばかりな所に加害者の小賢しさが垣間見れる。長袖といった類の物を選んで着れば、だけれども。(……『教育』や『躾け』と称した、『虐待』の形跡ってやつか) ぎゅっと胸の奥が苦しくなった。彼レベルの魔術技術保有者ならば傷







