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第2話

مؤلف: 暮草
母が霊安室へ運ばれていくのを見送っても、私は泣かなかった。

病院に泊まり込んだこの5日間で、涙はとうに枯れていたからだ。

廊下の白い明かりが、遺影に使う母の写真をぼんやり照らしていた。

母は息を引き取る直前まで私の手を離さず、「直人くんは、いつ来てくれるの」と聞いていた。

その声が耳から離れず、息をするたび胸が痛んだ。

――ブブッ。

静まり返った廊下で、ポケットの中のスマホが突然震えた。

知らない番号から、メッセージが届いていた。

私は何も考えられないままロックを解除し、送られてきた写真を開いた。

写真を見た瞬間、指先まで冷たくなった。

画質はやけに良く、スマホ越しでも細部まではっきり見えた。

写真の中で、直人は玲奈の手を握っていた。少し赤くなった顔で彼女を見つめるその目は、誰が見てもただの先輩を見る目ではなかった。

大きな窓の外では、誕生日を祝うための花火が、川沿いの夜空に華やかに上がっていた。

写真の下には、冷たいメッセージが続いていた。

【昔、二人で使っていたクラウドのバックアップを見てみたら?パスワードは、彼の初恋だった篠原玲奈の誕生日】

【あなたの知りたいことは、全部そこに入ってる】

差出人の名前は表示されていなかった。

私は直人の笑顔から目を離せなかった。

母を失った直後だったから、感情が追いつかなかったのかもしれない。そのときの私は、自分でも怖いほど冷静だった。

私はそのメッセージには返信しなかった。

その代わり、霊安室近くの待合スペースへ向かい、バッグからノートパソコンを取り出した。

直人と付き合って8年。私のパスワードは、直人が全部知っていた。

そして直人のクラウドにも、以前は私のパソコンからログインできた。

私は玲奈の誕生日を入力した。

認証が通り、ログインできた。

クラウドには、直人のスマホに入っていたLINEのトーク履歴、非表示にされたアルバム、決済履歴まで、自動で同期されていた。

私は検索欄を開き、深く息を吸ってから、「美緒」と入力した。

最初に出てきたのは、直人の大学時代の友人とのトーク履歴だった。

日付は半月前だった。

【玲奈先輩とは結局どうなってんの? この前、南のリゾートでずいぶん楽しそうだったけど、美緒のほうはどうするつもり?】

直人が以下のように返事した。

【美緒はいい子なんだけど、地味なんだよな。一緒にいても、正直ぱっとしない。

玲奈先輩のプロジェクトがシリーズAの資金調達まで進んだら、俺たちのことはちゃんと公表する。美緒のことは、それまで引っ張るしかないな】

そこで、私の指が止まった。息を吸うたびに、胸の奥がひりついた。

さらに履歴を追っていくと、次に出てきたのは、直人の部署のメンバーだけが入っているグループトークだった。

【直人さん、地元にいるあの都合のいい彼女、まだ直人さんが帰ってきて結婚してくれると思ってるんですか?いつ本当のこと言うんですか?】

直人は、困った顔をしたスタンプを返していた。

【そのうち言うよ。その前に、あいつに市内のマンションの頭金を出させて、名義に俺の名前も入れておかないとな。俺は別に焦ってない。焦ってるのはあいつのほうだし】

直人の友人も、同僚も、周りの人たちはみんな知っていたのだ。直人には、いつでも切り捨てられる都合のいい女がいると。

何も知らずに信じきっていたのは、私だけだった。

けれど、本当に背筋が冷えたのは、直人と父親のトーク履歴だった。

【直人、玲奈さんのほうは将来性があるにしても、あの起業案件はリスクが大きすぎる。

いいか、まずは美緒さんをつなぎ止めておけ。結婚資金とマンションの話も、絶対に引くなよ。

美緒さんは真面目で堅実だし、何よりお前の言うことをよく聞く。いざというときの保険としては申し分ない。

あの新居の名義にお前の名前を入れられたら、そのあとでどうするか決めればいい。

一つに絞る必要はない】

【分かってるよ、父さん。安心して。あいつは単純だから、俺が言えば何でも信じる。

昨日も、給料が入る口座の暗証番号まで聞き出したばかりだ】

いざというときの保険。

あいつは単純。

私は奥歯を噛みしめた。目の奥が熱くなり、キーの上で指先がかすかに震えた。

ネットバンキングの入出金明細を開き、一件ずつ確認し始めた。

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