Se connecterあの二人なんて、この先一生離れず、共倒れになればいいのよ。互いに地獄へと道連れにしてしまえばいいわ!「……出て行って!素羽はもうあなたと離婚したのよ。今の二人には、これっぽっちの関係もないわ!これ以上彼女に無理強いするつもりなら、こっちだって命がけでやり返す。みんなまとめて道連れにして、終わりにしてやるわよ!」楓華はそう言い放つと、司野の体を力任せに突き飛ばし、病室の外へと叩き出した。さらに、室内で呆然と立ち尽くしていた亘にも、鋭い声を向ける。「……あなたも、出て行って!」今の彼女を敵に回すのは得策ではないと悟り、亘は尻尾を巻くように大人しく部屋を後にした。扉が閉まると、楓華はベッドの上で傷だらけのまま横たわる素羽を見つめた。胸が締めつけられるような痛みに、思わず涙を拭う。それでも、無理やり気持ちを奮い立たせた。――しっかりしなきゃ。私が、この子を支えないと……病室の外では、司野が魂の抜けたように立ち尽くしていた。「子宮外妊娠」という言葉が、頭の中で何度も何度も反響している。楓華の言葉を、すべて否定したかった。自分と美宜の間には何もない。彼女を愛してなどいない。亡き友との約束を守るため、人一倍気にかけていただけだ。それ以上の意味など、なかったはずだ。亘は、抜け殻のようになった親友を見て、胸の内で深くため息をついた。何を言えばいい。何も言えやしない。ただ一つ言えるのは……自業自得だ、ということだけだ。この破滅的な状況は、すべて司野自身が招いた結果であり、誰のせいでもない。亘は彼を現実へ引き戻すように、低く告げた。「祖母の死は、素羽にとって一生解けない呪いになる。今のところ、美宜が関わっているという決定的な証拠はない。だがな……俺の知る限り、素羽は理由もなく発狂するような女じゃない」美宜を殺そうとするほど追い詰められていたのだ。あの女が潔白なはずがない。「この一大事に、もう二度と判断を誤るな。美宜であろうとなかろうと、拉致を実行した犯人を必ず引きずり出せ。そして、素羽のためにケジメをつけろ」その言葉を受け、ようやく司野の意識が一点に収束した。美宜が黒幕なら、容赦はしない。たとえ違ったとしても、芳枝を死に追いやった真犯人を必ず突き止め、相応の代償を払わせる。---死者は、決して戻らない。どれほ
司野の顔は、失血のためすでに蒼白だったが、その言葉を聞いた瞬間、完全に血の気を失った。奥歯を強く噛み締め、静かに目を閉じる。やがて再び瞼を開いたとき、その瞳には滲む湿り気と、赤く浮き出た血走りが入り混じっていた。亘は彼の肩を軽く叩き、無言のまま慰める。――この状況で、「子供ならまた授かる」などという言葉は、口が裂けても言えない。そもそも、二人の関係に「次」があるかどうかさえ危ういのだから。司野は布団を跳ね除けると、亘の制止も振り切り、よろめく足取りで素羽のもとへ向かった。病室の前では、楓華が般若のような形相で立ち塞がっていた。もし人を殺しても罪に問われないのなら、素羽が手を下すまでもなく、彼女が真っ先にこの男へ「天罰」を下していただろう。ベッドに横たわる素羽は、先ほどまでの狂乱が嘘のように静まり返っていた。胸のかすかな上下がなければ、息絶えているのではないかと錯覚するほど、その存在は薄い。司野は震える手を伸ばし、痩せ細った頬に触れようとする。だが、指先が届く直前、楓華の鋭い平手がその手を弾き飛ばした。楓華は司野を突き飛ばし、二人の間に割って入ると、雛を守る親鳥のように彼を睨み据えた。そして、積もりに積もった怒りを言葉の刃へと変え、叩きつける。「触らないで!!」その声は、憎悪に震えていた。「素羽に、あなたの今さらの偽善なんていらないの!彼女があなたを必要としていたとき、あなたはどこで何をしていたのよ!」司野の蒼白な唇がかすかに動く。だが言葉は出てこない。胸を刺す罪悪感が、彼の声を奪っていた。楓華は目を真っ赤に腫らし、嘲りを含んだ声で吐き捨てる。「素羽が冷たい霊安室でおばあちゃんに付き添っていたとき、あなたは美宜とキャンドルランチを楽しんでいたんですってね!どれほど甘くて幸せな時間だったのかしら!」「……違う、そんなつもりじゃ……」司野はかろうじて弁明しようとする。それはただの送別の食事だったのだと。だが楓華にとって、その言い訳は汚物にも等しかった。「そんなに愛し合っているなら、どうして素羽に執着するの?自分が惨めなのは勝手だけど、なぜ彼女まで巻き込んで地獄に落とすのよ!知ってる!?素羽の人生は、あなたに壊されたのよ!好きでもないなら、どうして手放してあげなかったの!?彼女の意思なんて無
司野はその言葉を耳にした瞬間、全身を硬直させた。信じ難いという表情のまま、耳の奥では激しい耳鳴りが鳴り響いている。「……何と言った?今、何と……」彼は再び、狂気に取り憑かれたような素羽を見つめた。心臓を力任せに握り潰されたかのような痛みが走り、息をすることさえままならない。「誰だ……誰がやったんだ!なぜ誰も俺に教えなかった!」楓華は憎しみを込めて美宜を睨み据えた。「あなたの隣にいる、その卑劣な女よ!」司野の視線が美宜へと向けられる。彼女は両目に涙を溜め、必死に首を横に振った。「司野さん、私じゃないわ。何が起きたのかさえ知らないの。分かっているでしょう?私は昨日ずっと病院にいたの。私じゃない、私は何もしていないわ!」司野は喉を鳴らし、苦しげに声を絞り出した。「……何かの誤解じゃないのか?」――美宜は昨日、俺が自ら病院へ送り届けたんだ。彼女が人を殺めるなど、そんなことが……素羽の掠れた声が、静かに響く。「……離して」楓華は手を緩めない。素羽は続けた。「もう刃物はない。誰も殺せないわ」その言葉に、楓華は震える手をゆっくりと解いた。素羽の漆黒の瞳が司野を射抜く。そこには一片の温もりもなく、ただ凍てつく冷気だけが宿っていた。「いっそ今ここで私を殺して、二度と逆らえないようにすればいい。私が生きている限り、美宜の命は必ず奪ってやる」司野は息を呑んだ。その冷酷な眼差しに、胸の奥が締め付けられる。そのとき、警察が到着した。警官たちの鋭い視線が一同に注がれる。血なまぐさい惨状は、誰の目にも明らかな事件現場だった。店員の証言により、素羽は犯人として指名され、警察は法に則って彼女を連行しようとする。素羽は抵抗しなかった。だが、それを司野が許さなかった。周囲がどれほど言葉を交わそうと、素羽は何一つ関心を示さない。やがて遮る者がいなくなると、彼女はふらつきながら外へと歩み出した。一歩進むごとに、足元には血の足跡が刻まれていく。異変に気づいたのは楓華だった。視線を足元からゆっくりと上へ辿ると、素羽の茶色のワイドパンツがどす黒く染まっているのが目に入る。血の出所は――彼女の股間だった。「……素羽、血が出てる……っ!」素羽は無表情のまま視線を落とした。湿った感触が、この血がどこから流れて
血に濡れたナイフが、再び司野の腹部を貫いた。遅れて襲いかかる激痛が、ようやく彼の思考を現実へと引き戻す。だが、彼には理解できなかった。なぜ素羽が、これほどまでに自分を憎み、殺そうとするのか。「司野さん!」美宜は、刃を突き立てられた司野の姿を目にすると、迷わずテーブルの花瓶を掴み上げた。そして、それを素羽の頭部めがけて叩きつける。花瓶は凄まじい音を立てて粉々に砕け散った。素羽の頭を濡らした水滴は、透明から淡い桃色へ、そしてやがて鮮血へと変わっていく。左目は流れ落ちる血に染まり、視界は真紅に塗り潰された。彼女はゆっくりと首を巡らせ、まるで地獄の亡者のような形相で美宜を睨み据えた。その悪鬼のごとき眼光に、美宜は息を呑み、恐怖に身を震わせる。「……素羽、司野さんはあんたの夫なのよ!それなのに殺そうとするなんて、正気じゃないわ!あんた、狂ってる!」素羽は何も答えない。ただ司野の体からナイフを引き抜くと、今度はその切っ先を美宜へと向けた。いまの彼女は、目に映るすべてを屠ろうとする殺人鬼そのものであり、凄まじい殺気をまとっていた。岩治と楓華たちが駆けつけたのは、ほぼ同時だった。車を止めるや否や、彼らの目に飛び込んできたのは、パニックに陥りレストランから逃げ出してくる客たちの姿だった。事情を掴めないまま、楓華の胸に言いようのない不安が渦巻く。群衆の中から「人殺しだ!」という叫び声が響き、彼女は人波をかき分けて中へと突進した。そこで目にしたのは、素羽が司野の腹部に刃を突き立てている光景だった。楓華はその場で凍りついた。亘も、そして何も知らない岩治も同様だった。岩治は、目の前の非現実的な光景に思考を完全に奪われていた。――奥様が……正気か!?美宜は迫り来る刃に怯え、後ずさった拍子に自分の足に躓き、無様に床へと倒れ込んだ。だが、素羽は逃がさない。ナイフを振り上げ、そのまま彼女の心臓めがけて一気に突き下ろす――その場にいた全員が、絶望の中で息を呑んだ。「素羽、やめろ――っ!」司野の声が響き渡る。刃先が美宜の胸元まで数センチに迫ったその瞬間、司野は素手でナイフの刃を掴み取った。鋭利な刃が彼の掌を裂き、拳を伝って滴り落ちる血が、美宜の服を赤く染めていく。美宜は瞳孔を見開き、呼吸を忘れ、死
無機質な静寂が落ちた。岩治の胸中にも、最悪の気分が澱のように沈んでいる。司野に連絡し、素羽がそちらへ向かったことを伝えようと携帯を取り出したが、すぐに思い出した――肝心の司野の端末は、バッテリー切れのままだ。彼は舌打ちを飲み込み、交差点で強引にハンドルを切ってUターンすると、そのままアクセルを踏み込んだ。---素羽はスマートフォンを亘へ放り返すと、一度も振り返ることなく外へ向かった。「素羽、どこへ行くの!?」楓華が慌てて後を追う。しかし、素羽は何も答えない。病院の外でタクシーを拾い、追いついた楓華を冷えきった眼差しで射抜くと、低く言い放った。「……ついてこないで」それだけ言い残し、車に乗り込んでドアを閉める。楓華の胸は焦燥で焼けつくようだったが、走り去る車を見送ることしかできなかった。「乗れ!」背後から亘が車を回してきた。楓華は慌てて飛び乗る。心臓が不吉な音を立てていた。何かが――決定的な何かが起きようとしている。そんな予感に、全身が震えていた。---同じ頃、レストランでは。美宜が注文した料理は、どれも司野の好物ばかりだった。「そんなに頼む必要はない。腹は減っていない」司野の望みはただ一つ、この食事を一刻も早く終わらせ、景苑別荘へ戻ることだった。昨日はあまりにも多忙で、携帯の充電も切れていた。素羽に連絡一つ入れられなかったことが、今になって胸に引っかかる。自分が帰らなかったことで、素羽は心配していないだろうか。――彼女と、子供は無事なのか。美宜は眉を下げ、寂しげに微笑んだ。「司野さん、そんなに急いで私から離れたいの?」「機内で食べてきた。頼まれても食べられない。無駄にするな」「でも、私はまだ何も食べていないの」この一食で最後にするという約束がある以上、司野は結局、彼女の願いを無下にはできなかった。彼女の「最後の晩餐」に付き合い、贅沢な食卓を囲むことになる。美宜はグラスを掲げた。「司野さん。これからの私の人生が、順調であるように祝って」「体調が良くないんだろう。酒はやめておけ」「でも、嬉しいの。一口だけでいいの。お願い、付き合ってくれるわよね?」司野は手元のグラスを持ち上げ、彼女のグラスと軽く触れ合わせた。美宜は満足げに微笑み、酒を口
美宜は、岩治へ向けられた疑念を払拭するかのように、あくまで親切を装って口を開いた。「秘書室の方に伺ったの。皆さん、教えてくださったわ」それを聞いても、司野の表情は一向に和らがない。誰であろうと、自分のスケジュールを勝手に漏らされるなど、不愉快極まりないことだった。――秘書室の連中、一度きっちり締め上げる必要があるな。岩治は胸中で毒づいた。里沙が解雇されたというのに、まだ仕事の分別すら身についていないらしい。美宜は司野を不安げに見上げ、か細い声で訴えかける。「司野さん、昨日約束してくださったでしょう?最後の食事を一緒にするって……忘れていませんよね?」正直なところ、その約束は司野の記憶から完全に抜け落ちていた。今は一刻も早く景苑別荘へ戻りたい。だが美宜はなおも畳みかける。「もう、お店も予約してあるの」期待に満ちたその眼差しを受け、司野は心の奥で重いため息をついた。結局、折れるほかなかった。「……乗れ」その一言に、美宜の顔はぱっと華やぎ、足取りも軽く彼の後を追った。レストランに到着すると、司野は岩治に告げた。「お前は戻って休め。明日の朝、また出社してくれ」岩治は司野の背後を歩く美宜をちらりと見やり、何か言いかけて口をつぐんだ。すでに下された決定に口出しするのは無意味だ。無言で頷くと、その場を後にした。---病院。事件発生から丸一日が過ぎていた。素羽はその間、一睡もせず、水も食べ物も一切口にしていない。楓華は彼女を案じ、片時も離れず付き添っていた。亘もまた、気が気でない様子でその場に留まり続けている。魂の抜け殻のようになった素羽の姿に耐えかね、亘は再び司野へ電話をかけた。昨日から何度も繰り返しているが、いまだ一度も繋がらない。今回もまた、「電源が入っていない」という無機質なアナウンスが流れるだけだった。楓華が静かに問う。「……まだ、繋がらないの?」亘は重々しく頷いた。楓華の瞳には、抑えきれぬ憎悪が宿っている。あの惨劇がなぜ起きたのか――それを知るのは当事者である素羽だけだ。しかし彼女は、あの日以来ただの一言も発していない。すべては、いまだ闇の中にあった。業を煮やした亘は、今度は岩治の携帯へと電話をかけた。これほどの事態だ、何としても司野に伝えなければならない。ま
司野は言葉通り、即座に行動へ移した。病室の入口には見張りが立てられ、逃げ出す隙は一切与えられない。医師が退院可能と判断した瞬間、素羽はそのまま景苑別荘へと連れ戻された。通信機器はすべて没収された。素羽は翼をもがれた鳥のように、景苑別荘という名の鳥籠に閉じ込められたのだ。帰宅するなり、素羽は正気を失ったように部屋中の物を叩き壊した。だが、彼女が破壊する速度よりも、司野が新たな調度品を補充する速度の方がはるかに速かった。まるで司野が、「どれほど足掻こうと、現状を変える力などお前にはない」と、無言のまま突きつけているかのようだった。最後の力を振り絞った暴れも終わり、再び完璧に整え
司野は煙草の灰を軽く落とすと、昏い眼差しのまま手をひと振りし、無言で医師を下がらせた。窓際で最後の一吸いを終え、白い煙がゆっくりと口元から溢れる。吸い殻を押し潰すと、彼は静かに主寝室へ足を踏み入れた。ベッドの上では、美宜が驚くほど青白い顔で横たわっていた。手首には厚手の包帯が巻かれ、ガーゼには傷口から滲んだ血が赤く浮かび上がっている。司野の姿を認めた瞬間、美宜の瞳に涙が溜まった。「司野さん……」掠れた、か細い声がこぼれる。司野は瞬きもせず、美宜を凝視した。部屋は静寂に沈み、その沈黙がどれほど続いたのか。美宜が「もう口を利いてくれないのでは」と不安に駆られた頃、司野は
「司野――!」遠ざかる背中に向かって、素羽はありったけの声を振り絞って叫んだ。だが、司野の決然とした後ろ姿は振り向くこともなく、そのまま彼女の脳裏に焼き付き、心の奥深くに刻み込まれた。周囲の視線が一斉に突き刺さる。それはかつて向けられていた羨望ではなく、今はただ、憐れみと同情の色に染まっていた。素羽が望んだのは、ただ一つの夢を叶えること。この五年の結婚生活に区切りをつけ、別れを告げるための、ささやかな儀式だった。それなのに司野は、いつも期待に満ちた彼女の心を、容赦なく打ち砕く。素羽はうなだれた。涙がぽつり、ぽつりと地面に落ち、土の中へと吸い込まれていく。力なく口角を上げ
素羽は、彼の言葉の真意を即座に読み取った。そのあまりに寛大で慈悲深い振る舞いが、滑稽でならなかった。差し伸べられた司野の手を振り払い、素羽は赤く充血した瞳に嘲笑を浮かべる。「じゃあ、私はあなたの懐の深さに感謝すべきかしら?私の黒歴史を受け入れて、妻としてここに置いてくれるその寛大さに、お礼を言えばいいの?」「……落ち着くんだ」司野がなだめるように歩み寄る。素羽は反射的に後ずさりし、彼との距離を取った。「司野、感謝なんてしないわ。だって、私は何も悪くないもの。あなたが気にしようがしまいが、私には関係ないし、興味もない。それから、その偽善に満ちた感傷はやめて。私から見れ