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第7話

Author: 朱音
すべてを諦め果てたような和葉の横顔を見ているうちに、暁人の胸に得体の知れない不安がこみ上げてきた。

暁人は焦燥に駆られるように椅子を蹴立てて立ち上がると、食事会が終わるのも待たずに和葉の手を引き、部屋へ連れていった。

「和葉!」

ドアを閉めるなり、暁人は急き立てられるように弁明を始めた。

「舞来は最近、かなり情緒不安定になっているんだ。精神的な不安定さはお腹の子にも影響すると医者から言われている。だから、刺激しないように機嫌を取って、無事に子どもを産ませたいだけなんだ……」

両手で和葉の頬を包み込み、ほとんど懇願するような声で言う。

「もう少しだけ我慢してくれ。すぐに終わるから。子どもが生まれたら彼女を追い出して、家族3人で仲良くやり直そう。な?」

家族3人?

焦りをにじませたその顔を見ていると、和葉の口から乾いた笑いが漏れた。

舞来を追い出す必要なんてない。

今度出ていくのは、自分のほうなのだから。

「……いいわ」

和葉は静かに言った。

「わかった」

暁人は肩の荷が下りたように、和葉をぎゅっと抱きしめた。声が弾んでいる。

「やっぱりな。和葉ならわかってくれると思っていたよ!」

結婚式の準備は、慌ただしく進められていった。

舞来は毎日浮き足立った様子で結婚指輪やドレスを選び、わざわざ式場のパンフレットを手に和葉の意見を聞きに来ることさえあった。

「和葉さん、この式場どう思います?」

甘い笑顔の奥に、見え透いた挑発の色が隠れている。

「ふふふ。星山社長が、最高のものを用意してくれるって」

和葉は淡々とパンフレットをめくった。

「どれも素敵ね」

手応えがないと悟った舞来は、悔しそうに唇を噛んだ。

最後まで決まらなかったのは、ウェディングドレスだけだった。

舞来は暁人の腕に絡みつき、甘えた声を出す。

「星山社長、私、和葉さんが着たあのドレスがいいんです。駄目ですか?」

そのドレスは、暁人が億単位の費用をかけ、世界的なトップデザイナーに一から仕立てさせたものだった。

ふたりの愛の確かな証だった。

暁人の顔色がかすかに変わり、反射的に断ろうとした。

ところが、和葉が先に口を開いた。

「いいわよ」

暁人は弾かれたように振り向いた。信じられないという顔だった。

「……和葉?」

和葉の表情は落ち着き払っていた。

「舞来にはもっと寛大になれって、あなたが言ったんじゃない」

和葉は立ち上がり、ウォークインクローゼットへ向かう。ふわりと軽い声が続いた。

「それに、たかがドレス一着のことじゃない。

拒む理由なんてないわ」

和葉は純白のウェディングドレスを取り出し、舞来に差し出した。

その場に立ち尽くしたまま、暁人は和葉の穏やかな表情を見つめていた。胸の奥から、これまで感じたこともないほどの深い恐怖がこみ上げてくる。

まるで……

彼女が少しずつ、自分の人生から消えていこうとしているような。

けれど暁人はすぐに、その不安を心の奥底へ押し込めた。和葉はあれほど自分を愛しているのだ。離れていくはずがない。

それに、あと1か月だけの辛抱だ。舞来が子どもを産みさえすれば、すべて終わる。和葉は待っていてくれるはずだ。

そんな暁人の胸の内など知る由もなく、舞来は大喜びでドレスを抱きしめると、その日のうちに暁人を引っ張って、式場でのリハーサルへ向かった。

待ちきれない様子で億単位のドレスに袖を通した舞来は、鏡の前でくるりと一回転し、得意げに暁人へ笑いかけた。

「星山社長、このドレス、似合ってます?」

暁人は複雑な目で、そのドレスを見つめた。

これは、自分と和葉のためのドレスだ。

かつて自分の手で彼女にベールをかけ、神父の前で誓ったはずだ。

「和葉、俺が生涯愛するのはお前ひとりだ」と。

それが今、別の女の体を包んでいる。

喉が締めつけられるようだった。暁人はどうにか笑みを作った。

「……ああ、似合ってる」

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