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第89話

작가: 清水雪代
智美の胸が、理由もなくドクンと高鳴った。

何を怖がっているのか自分でも分からなかった。

けれど、このまま悠人を行かせてはいけないことだけは分かっていた。

彼女は立ち上がり、追いかけて彼の袖をつかんだ。

悠人は振り返ったが言葉は出なかった。

智美は深く息を吸い込み、口を開いた。

「私と彼は、あなたが思っているような関係じゃない。復縁するつもりもない。ただ母のことでいろいろあるの」

悠人はすぐに問いかけた。

「じゃあ、いつ帰ってくるつもりだ?」

智美は即答できなかった。

まだ母を説得できていないのだ。

「少しだけ時間をちょうだい」

しかし、悠人の目はますます冷たくなった。

「智美さん、俺の勘違いだったようだ」

そう言って、彼は彼女の手を振りほどき、振り返ることなく去っていった。

追いかけようとしたその時、また携帯が鳴った。

母からの電話だ。

智美は奥歯を噛みしめ、結局通話ボタンを押した。

今度は母の声。口調は不満たっぷりだ。

「智美、あんたどういうつもり?さっきなんで祐介くんの電話を切ったの?あの子、あんなに忙しいのに時間を作って私に付き合って、あんたのために食材まで買ってくれたのよ。どうしてそんな冷たいことができるの?」

智美にどっと疲れが押し寄せた。

「お母さん!」

祐介は、母が思っているような人間じゃない。そう言いたかった。

けれど、どう説明すればいいのか分からない。

母の病気は、つらい記憶を自動的に消し去ってしまうのだ。

今ここで過去の嫌な出来事を話しても、たぶん明日にはまた忘れてしまうだろう。

「帰ってから話すよ。何もないなら、もう休んでて」

電話を切った彼女は、再び悠人を探しに出た。

しかし彼はすでに車に乗り、彼女が追いつく前に走り去ってしまった。

智美は髪をかきあげ、ため息をついた。

わかっている。

恋が始まろうとする曖昧な関係は、壊れやすいものだということを。

そして、二人の間では悠人が一方的に歩み寄ってくれていたことも。

自分は多くの場合、逃げてばかりだった。

このまま何もなく終わってしまうのかと思うと、胸がざわついた。

彼との縁をこんな形で切りたくない。

彼女は少し迷い悠人に電話をかけた。

出ない。

もう一度かける。

それでも出ない。

三度目でようやくつながった。

しば
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댓글 (1)
goodnovel comment avatar
toriaezunandasouda
これは悔しいね。母を人質に取られたみたい。話しても理解してくれないもどかしさ、悔しさ、やり切れないだろうね。たった1人の母親が理解してくれないなんて、智美、辛いだろうな。病気もあって責められないし、同情せずにいられないね。頑張って。
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