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燃え尽きた恋の果てに
燃え尽きた恋の果てに
Author: 霧島柳乃

第1話

Author: 霧島柳乃
「お義母さん。三年の約束の期限が、もうすぐ終わるわ。

私、もう出ていく」

梨央は床に膝をつき、血の流れる手首を伏し目がちに見つめながら、苦さと寂しさの滲む声で言った。

電話の向こうの義母は、たちまち慌てた。

「梨央、理玖はあなたを愛していないわけじゃないの。

ただ、自分の気持ちに気づいていないだけよ。

もう一度、あの子に機会をあげて。

もう少し待ってあげられない?」

梨央は苦笑いを浮かべた。

「お義母さん。私はこの三年、理玖の妻でありながら、ずっと彼に憎まれてきたわ。

もう、本当に疲れたの」

彼女は一瞬言葉をつぐまず、どうにか平静な口調で続けた。

「彼が愛している人も、もうすぐ帰国する。

私も、もう身を引くべきなのよ」

義母の引き留める言葉は、その一言で力を失い、途切れた。

梨央が六歳のとき、両親は離婚し、それぞれ別の家庭を築いた。

けれど、どちらも梨央を重荷にしか思わず、引き取ろうとはしなかった。

そんな彼女を篠原家が引き取り、育ててくれたのが、心優しい義母の篠原志保子(しのはら しほこ)だった。

そして梨央は、同じ家で育った篠原理玖(しのはら りく)を好きになった。

三年前、理玖の誕生日。

彼は恋人だった水原悠月(みずはら ゆづき)にプロポーズするつもりでいた。

だがその日、理玖は何者かに薬を盛られ、梨央と同じ部屋に閉じ込められてしまう。

そこで二人は、過ちを犯したのだ。

その場を目撃した悠月は深く傷つき、翌日には国外へ去った。

そして志保子に迫られるまま、理玖は梨央と結婚した。

けれどその日から、彼は彼女を激しく憎むようになった。

梨央は立ち上がって部屋を出た。

隣の部屋の前を通りかかったとき、思わず足が止まった。

ドアの隙間から、女の甘ったるい声がかすかに漏れてきた。

「理玖、会いたい。まだ迎えに来てくれないの?

理玖、これ、私が選んだおそろいのアイコンなの。早く変えて。

やだ、これがいいの。子どもっぽいなんて言わないで。

私のこと、愛してる?どれくらい?

私が理玖を想ってる以上に、私をもっと愛してほしいの……

理玖……理玖……」

その艶めいた声に混じるように、男の荒い息遣いが聞こえた。

押し殺し、懸命に耐えるような熱を帯びた声で、彼は何度も女の名を呼んでいた。

「……悠月」

こういう場面を見てしまったのは、これが初めてではない。

それでも胸には、錐で抉られるような痛みが走り、目には涙が滲んだ。

男の声に滲む、ほかの女への想い。

それは蔓のように伸びて、少しずつ、彼女の中に残っていた愛を締め殺していく。

両親に見捨てられたことから、長く安心感を得られずにいた梨央は、人肌をとても恋しく思っていた。

しかもそれを和らげられるのは、理玖だけだった。

けれど彼は、あの日のことを梨央の企みだと思い込み、彼女に対してだけひどい潔癖症をこじらせるようになった。

結婚して三年。

彼は梨央を嫌い、憎み、無視し続けた。

結婚したその夜でさえ、そのまま飛行機に乗って海外へ渡り、悠月に会いに行ったほどだった。

この家でいちばん多い日用品は、消毒液だ。

うっかり梨央が使った物に触れてしまっただけでも、彼はすぐに消毒した。

元恋人の声を聞いて欲を紛らわせても、妻である彼女に指一本触れようとはしない。

そして梨央は、発作が起きるたびに、自分の肌を何度も傷つけるしかなかった。

痛みで意識をつなぎとめ、胸の奥で募る彼への渇望を、必死に抑え込むために。

本当は、理玖が悪いわけではない。

ただ、彼は彼女を愛していない――それだけなのだ。

梨央はドアの隙間越しに、欲情に沈んだ理玖の横顔を見つめ、かすかに呟いた。

「あと七日で、あなたは自由になれるわ」

自分が去ること。

それが、彼に贈る誕生日プレゼントだ。

今度こそ、きっと彼は喜ぶのだろう。

梨央は一睡もできないまま朝を迎え、翌朝、パスポートを手にして階下へ降りた。

担当の精神科医からは、生活環境を変えることが、この病気の回復には有効だと勧められていた。

彼女はもう行き先を決めている。

ラセア島に移り住むつもりだった。

玄関まで来たところで、ちょうど理玖も外出しようとしていた。
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