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第4話

Auteur: 暁山朱里
星奈は昨日の夜、電話で蒼士が「気分がいい」と言っていたのを思い出した。

どうやら、峯崎のほうはとても賑やかなようだ。

星奈と蒼士の離婚など、まるで取るに足らない些細な事で、真帆が帰国したことは世界が震撼するほどのビッグニュースであるかのようだ。

星奈はSNSを閉じ、寝ようとした。そこに突然、綾音から詰問するようなメッセージが届いた。

【お兄ちゃんと離婚するんじゃなかったわけ?母親連れてどこ行ってんのよ?】

星奈は返信した。

【旅行だけど、あと二日もしたら帰るわ】

【お兄ちゃんはもう真帆さんとヨリを戻したの。さっさと帰ってきなさいよ。真帆さんを浮気相手になんてさせたくないから!】

星奈は送られてきた「ヨリを戻した」という言葉を見て冷たく笑った。

そもそも私のほうが法律上のれっきとした妻なのに、彼らが命令できることか?そう簡単にいじめられる弱い人間だと思うなよ。

【あなたのお兄さんのせいで、時間をロスしたのよ。あなたの大事な真帆さんを浮気相手にしたくないなら、私にお願いしてみたら?早く帰れるかもしれないよ】

しかし、綾音お嬢様が彼女に何かをお願いするはずがない。

【あのさ、あんたの母親の写真をネットに上げないでよね。きもちわるっ!あんたが恥ずかしくなくても、お兄ちゃんが恥かいて困るんだっつーの】

その言葉に星奈は怒りの炎を燃やした。

【私がお母さんの写真を投稿したって、別にあんたに関係ないでしょ?】

【キモイんだよ。あの写真見た人がみんな驚くでしょ?あんな顔見ても綺麗だと思える?一目見て障害者だって分かるじゃん!】

星奈は布団を剥がしてベッドからおり、部屋を出てひたすら綾音に電話をかけ続けた。

あのクソ小姑は、電話に出ようとしない。

すると綾音は我慢できなくなった。

【ちょっと、頭おかしい女みたいに、ふざけた真似しないでよね!あんたがいつまで経ってもダラダラとお兄ちゃんと離婚しようとしないからいけないのよ。そうじゃなかったら、あんたなんかさっさとスマホから消し去ってるわ!】

【いいわ、あんたが医者になった日に、患者を侮辱した言葉をスクショしてネットに上げるから。誰もあんたみたいな医者に治療してもらおうと来ないわ】

【は?やれるもんなら、やってみなさいよ】

星奈はスマホ画面に映る母親の写真を見つめた。そして、壁に寄りかかってしゃがみ、膝を抱いて、腕に顔を埋めた。

翌日になっても、怒りは収まっていなかった。ひどくイライラして落ち着かない。

医は仁ならざるの術、努めて仁をなさんと欲す、と言うが、彼ら片桐家はどいつもこいつも冷徹極まりない。

蒼士の母親、麻衣子も知ったようで、朝早くに、涼名川まで一体何をしに行ったのかと尋ねてきた。

【星奈さん、蒼士と離婚を終わらせてから、行くべきじゃないの?】

星奈は返信しようと打った。

【もう来てしまったんだから、そんなこと言われても意味ないのでは?】

しかし、あの一千万の結納金と良質な医療資源があることを思い、星奈はそれを削除し、再び打ち直した。

【すみません、一週間したら帰ります。彼とは必ず離婚するので、心配しないでください】

【早くしてちょうだいね】

冷ややかなその催促に、一切の人情など存在しない。

彼ら片桐家の面々を思い出しただけで、彼女は吐き気がしてきた。

――

星奈がなんとか気持ちを整えたところに、今度は蒼士から電話がかかってきた。

彼女は離婚の件でかかってきたのだと思っていた。

実を言うと、二人の前回の電話で、星奈は完全に吹っ切れたわけではなかった。

星奈も血の通った人間だ。心というものはそうそう思い通りにコントロールできるものではない。人は感情を持つ生き物なのだから。

二人は一年夫婦として過ごしてきた。心を持たない物質同士なのではないのだから、せめて何か言うことくらいあるだろう?

一年は三百六十五日ある。せめて数日くらい、振り返る価値のある日があるはずだ。

星奈も聖母マリアのように寛大な心を持っているわけではない。自分が受けた苦しみや、恨みを今言わないで、いつ吐き出せばいい?

それで、星奈は彼の電話に出た。

春風のように爽やかな蒼士の声が、耳元に響く……

「真帆がある面倒な患者にあたってしまって、家まで押しかけられたらしいんだ。だから、彼女には君の部屋で寝泊りしてもらってる」

「……」

その言葉に、星奈の脳は一瞬思考を強制終了した。

深呼吸し、気持ちを整えると、笑えてきた。

「あれはあなたの家だから、自分でどうするか決めたらいいんじゃない?私に報告する必要なんてないわ」

電話の向こうの男は、まるで法律でも暗唱するかのようにこう返してきた。

「あの家は夫婦の共有財産だから、やはり君に報告しておく義務があると思う」

星奈は呆れ果てた。つまり自分は無実だという証拠を残すためか?別にあの家を財産分与で争うつもりなどないというのに。

また蒼士の声が聞こえてきた。

「真帆は服を持ってきてないから、君のナイトウェアを貸してもらうよ」

星奈は眉をひそめて考えた。彼の家にまだナイトウェアなんて置いてきていただろうか?

ああ、ベランダに干していた服を忘れていたような気がする……

「別にいいわよ」

あの二人が毛嫌いしないのであれば、いらないから、好きにすればいい。お二人の変わった趣味嗜好に貢献させていただくとしよう。

今後はああいうゴミたちとはできるだけ距離を置いたほうがいい。

そして彼女が電話を切ろうとした時、蒼士が突然話し出した。

「涼名川の近くには観光スポットが多い。お義母さんをまずは連れて帰ってきて、また次ゆっくり行ったらいい。やるべきことはさっさと済ませるべきだろう」

この時、スマホから女性の甘えるような大声が聞こえてきた。

「きゃあ!蒼士、目玉焼きが焦げてる!早く、早く来て!」

「じゃ、これで」

星奈が声を出すのを待たずに、彼は先に電話を切った。

星奈はスマホを手に、冷ややかに笑った。あの日、電話では焦ってないとか言ってなかったか?

どうやらあれば、ちょっとした社交辞令的な遠慮だったようだ。

今はすでにあの人を家に入れてしまっているのだから、実は内心焦っているのだろう。

あの誰から見てもヒーローみたいに優秀な男なら、きっと愛する人の肩書きや評判を気にするはずだ。

蒼士は油の匂いが好きではない。だから、この一年、星奈も家で料理をすることができなかった。作るとしても煮物などで、焼くときに煙が出ないようなものばかりだった。

それが今、二人は目玉焼きに挑戦しているらしい。

相手によって、態度があまりにも違って、彼女は不満げに口を歪めた。

「星奈、これ、どうやって流すんだっけ?」

祐実はトイレで呆然とし、星奈を呼んだ。

星奈はその声を聞き、ドキリとしてスマホをベッドに放り投げた。

開頭手術のミスで、祐実の知能は著しく衰えている。よく、普段の生活の常識とも呼べることを忘れてしまう。

星奈は冷静に、母親にトイレの流し方を教えてあげながら、母親がここ数日の旅行で楽しかったことを話すのを聞いていた。

祐実がこんなに興奮している様子を見て、星奈はこれからのスケジュールを開いて確認した。

彼女は、片桐家からの催促など無視することにした。勝手に焦っていればいい。

星奈と母親はこの一年、周りから白い目で見られてきた。手術によってこのような目に遭っているというのに、周りはみんな、彼女たち親子が片桐家から甘い汁を吸っていると思っていた。

星奈は母親を見ていると、なんだか子供と接しているように感じた。

母親が喜んでくれることこそ、最も大切なことだ。

星奈は気持ちが吹っ切れた。

もう今後二度と、蒼士のことは気にしたくなかった。

彼は想い人をすでに家に住まわせてあげているから、もう何も言えることなどない。

あとは、峯崎に戻って、離婚の手続きに行けば、これでようやく終わる。

一方、峯崎市では、星奈不在の家で蒼士が日常の些細な事でいらついていた。

彼は電気代を支払うのもどうするのか分からず、星奈に電話して聞かなければいけなかった。

それに、男は外、女は内という古い考えが彼の中にあり、それがたまに顔を出す状況がある。

蒼士はスマホで星奈に電気代を支払ってもらおうとしたが、星奈はあの家はもう自分の家ではないから、面倒に思い、いっそ聞かなかったことにしてしまった。

それから最も重要な事が――

蒼士はかれこれ半月、性欲を満たされていない。彼は結婚している普通の男だ。性処理に、自分の手を使うのはあまり気持ちの良いことではないと思っていた。

夜中、鬱憤が溜まっていた時、外からカランカランという音が聞こえ、彼は眉間に皺を寄せた。

部屋のドアを開けると、薄暗いリビングに豊満な体の人影が目にぼんやりと映った。

彼女は薄着で、胸元、足、肩は露出している。下半身は下着以外何も身につけておらず、スラリと綺麗に伸びた足を軽やかに揺らしていた。

蒼士はドアを閉めた。

「部屋に戻ってちゃんと服を着るんだ。ナイトウェアを探してくるから」

真帆はふふっと笑った。

「なぁに?一年会ってなかっただけで、純情ボーイに変わっちゃったの?見るだけならタダなのに、私、綺麗じゃない?」

蒼士は言った。

「服をちゃんと着るんだ」

「見たくないの?あなたの奥さんのほうが綺麗だから?」

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