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第5話

Auteur: 暁山朱里
蒼士は黙っていた。

「一年よ、結婚式の写真だってSNSにアップしたことないよね。なによ、見せられないの?」

「……」

「彼女と結婚するくらいだもの、別にブサイクってわけじゃないでしょう?奥さんのほうが綺麗?それとも、私?」

リビングで、真帆は楽しそうにからかっている。

「ほら、出てきてよ。奥さん?それとも私?はっきり言って」

蒼士は拳を強く握りしめ、寝室で長いため息をついた。

「リビングで何を探してるんだ?」

「はいはい、もうからかって遊ぶのはやめるわよ。加湿器、すっごく乾燥するから、鼻血が出ちゃうわ」

蒼士は言った。

「分かった。俺が探すから、勝手に探すのはやめてくれ」

真帆は少しおかしそうに笑った。

「なによ、奥さんが帰ってきて部屋が荒らされてたら、怒るから?」

月明かりに照らされた彼女の魅惑的な瞳には、意味深な色が浮かんだ。

綾音から、彼は離婚すると聞いた。

蒼士は彼女に言いつけた。

「部屋に入って、俺が加湿器を探してくる。薄暗いからぶつからないように気をつけて」

真帆は部屋のほうへ歩いていきながら、突然、振り返ってなんとも言えない顔をした。

「蒼士、そんなに奥さんの話題が嫌?彼女はあなたが選んだ人なんじゃないの?」

やっと、寝室にいる彼に少しだけ反応があった。

彼は語気を強めて警告するように彼女の名前を呼んだ。

「真帆」

真帆は皮肉混じりにニヤリと笑い、部屋に戻ってドアを閉めた。

蒼士は重たい息を吐き出し、星奈に電話をかけた。

今一体何時なのか、そんなことも考えずに……

祐実は昼間体調があまり良くなく、夜も慣れないベッドでなかなか寝付けず、今ようやく眠りについたところだった。そこへ、突然、携帯の耳をつく音が鳴り響き、親子二人はその音で起こされてしまった。

星奈は母親を落ち着かせて、カーディガンを羽織り、部屋を出て電話に出た。

「何の用?」

蒼士は言った。

「うちがすごく乾燥してて、真帆が鼻血が出るって言うんだよ。加湿器はどこにある?」

彼からのその返答に、星奈は完全に呆れてしまい、怒りをどうにか抑えて答えた。

「物置部屋の、棚、上から三番目」

「分かった」

星奈は不機嫌そうに言った。

「今後、こんな夜中に電話してこないでくれる?お母さんがさっきやっと眠ったばかりだったのに、どう責任をとってくれるのよ?」

そう言い終わると、そのまま電話を切った。

星奈は嘲笑した。眠気は完全に消え失せていた。

そうか、彼はずっと自分のことをタダで使える家政婦だと思っていたわけだ。

――

涼名川市の明け方の光は温かく優しい。民宿の窓の外にある木の枝には小鳥がさえずり、かすかな花の香りが漂ってくる。

星奈は片桐家からひどい扱いを受けてきたことで、ホルモンバランスを崩しており、生理不順になっていて、痛みで目を覚ました。

なかなか来なかった生理がこの日やっと来て、下腹部の痛みが激しい。

星奈は母親を心配させるし、楽しそうに遊ぶ彼女の気分を下げたくもないと思い、腹痛に耐えて、観光地へ行った。そして一日中母親に付き添って写真を撮ってあげた。

夕方になって民宿に戻った時には、星奈は顔色が悪かった。夕食も外出せずにデリバリーを頼んだ。

祐実も食事をせず、どうすればいいか分からず、ベッドに座って星奈を見つめていた。

「星奈、どうしたの?」

「お母さん、心配しないで、大丈夫だから」

「でも、あなたがそんなつらそうな顔をしていると、私までつらくなるわ」

「つらくなんてないよ」

痛みでベッドで何度も寝返りを打っている時に、蒼士からまるで緊急事態であるかのように、電話がかかってきた。

今、二人の連絡量は今までの半年分に匹敵するほどだった。

星奈は出たくなかったが、彼は諦める様子はなく、ひっきりなしにかけてくる。

「もしもし?」

彼女は気力なく電話に出た。

蒼士は少し驚き、尋ねた。

「どうした?なんか、様子がおかしいけど」

「別に」

「涼名川のほうは標高が高いだろう?もしかして高山病みたいな反応でも出たんじゃないか?酸素量の測定はしてみたか?」

彼は厳しい口調でそう言ってきた。彼の職業病みたいなものだ。

星奈は不機嫌そうに尋ねた。

「また何か私に用なの?」

「用事がなかったら、電話したらダメだっていうのか?まだ七時だから、お義母さんは寝てないだろう?」

星奈は皮肉たっぷりにこう言った。

「私もお母さんも、元気そのものよ。だから、別に心配でかけてきたわけじゃなくて、何か用で、かけてきたんでしょ?」

蒼士は気遣ってああ言ったのに、歯向かうような態度で返されて、少し面白くなかった。

彼は不満な気持ちを抑えてまた尋ねた。

「真帆が生理が来たらしくて、家に確かジンジャーティーがあったよな?どこに置いてる?」

この時、下腹部にズキズキとした鋭い痛みを感じ、星奈はぎゅっとお腹を押さえて体を丸めた。

「星奈?」

このような些細な事で電話をしてくる彼など構いたくなかった。

「キッチンの棚に入ってる」

「探したけどなかった」

「もう一回探して」

「見つからないんだ」

「あなた、ちゃんと目が見えてる?」

「ちょっと、蒼士、見つかった?すっごく痛いのよ!」

この時、部屋から真帆の声が聞こえた気がする。

星奈はこの女には本当に感心してしまった。彼女のほうはあまりの痛みに大声を出すこともできないというのに。

生理痛でもここまで元気があるというのなら、出産時もまったく問題ないだろう。

電話の向こうの蒼士はやはり焦りだした。

「君が以前買ったブランドのお茶はなかなかよかったよな?今からネットで買って宅配してもらってくれないか?真帆は前からずっと生理痛が重かったんだよ」

医者のくせに、生理痛すら治せない奴が、元妻になる予定の女に、ジンジャーティーをネットで買ってほしいだと?

星奈は我慢できずに文句を言った。

「蒼士、あなたが欲求不満だとしても、まるで母親みたいに私がなんでもかんでも世話してあげないといけないわけ?」

そう言い終わると、彼女はスマホを横へ放り投げて、真っ青な顔をまくらに埋めた。

祐実は小声で尋ねた。

「星奈、あなた、蒼士さんと喧嘩でもしたの?」

「ううん、違うよ、お母さん」

星奈は涙を母親に見せないように、背を向けた。

二か月前、蒼士がゴムもつけずに何度も体を重ねたから、彼女は生理が来ないのは、妊娠したからだと思っていた。

結果、病院で調べてみると、妊娠していたのではなく、その逆で、一生子供が産めないかもしれないという残酷な現実を知ることになった。

十四歳になった年の冬、父親から氷の張る冷たい池に落とされたことが関係しているのだと彼女は分かっていた。

生理不順も、二年かけて治療し、やっとのことで普通に来るようになった。

蒼士は真帆が生理痛に苦しむ様子に心を痛めていた。

しかし、一年妻として一緒に暮らした星奈が、毎月仕事が手につかないほどの生理痛に苦しんでいる時、彼は家にいることもなかった。

蒼士が自分を嫌っていることを星奈は分かっていた。彼は、消毒液の匂いが充満する病院に長く滞在しても、家には帰りたがらないのだから。

六十坪ほどある大きな部屋に、ほぼ彼女一人しか生活しておらず、毎日とても冷たい場所に感じていた。

一方この時、蒼士たちのほうは――

蒼士は自分でスマホからジンジャーティーの宅配を注文していた。

彼はスマホ画面を冷たい目で見つめていた。唇をキュッと引き結び、もう一度星奈に電話をかけた。

「おい、どういうつもりだ?」

星奈は答えた。

「何が、どういうつもりだ、よ?」

「さっき、欲求不満って……」

そこへ、祐実が近づいてきた。

「星奈、蒼士さんからの電話ね?スマホを貸して、義理の息子とちょっと話したいのよ」

祐実は、不器用ながら義理の息子に、夫婦喧嘩しないように説得しようとしていた。

星奈は母親のほうを見つめ、心の中で思った。

――この男は、お母さんの写真も無視するっていうのに、まだ「義理の息子」だというの?

仕方ない、祐実はこの「義理の息子」のことをどんどん気に入っているのだから。

祐実は蒼士に会うと、まるでキャンディーでも欲しがる子供のように、彼の後についていき「蒼士さん、蒼士さん」と呼び続ける。子犬のようにかなり彼に懐いていた。

彼は背も高く、クールなイケメンだ。まるで完璧な彫刻のように綺麗な顔をしている。

それに由緒正しい家柄の出身で、若くして神経外科の主治医を務めるほどだ。大勢の人の上に立ち存在感を放つ人間を娘婿に持つ親なら、誰もが大喜びすることだろう。

「お母さんが……」

星奈がそこまで話したところで、向こうから電話を切られてしまった。

星奈はお腹を押さえながら、以前はこの男がここまでひどい人間だと気づかなかったと思った。

彼女は祐実に申し訳なさそうにこう伝えた。

「お母さん、彼、忙しいみたい」

祐実はがっかりした様子で、自分のベッドに戻った。

星奈はため息をついた。実際、母親は何も理解できないわけではない。

帰ったら、どうやって離婚について母親に話そうか、星奈は悩んでいた。

蒼士は配達員から商品を受け取り、ドアを閉めると、ジンジャーティーを淹れて真帆に持っていった。

真帆はこの時、真っ青な顔で布団を被り、お腹を押さえていた。相当つらかったのか、髪も乱れている。

弱々しい彼女のその姿は普段の元気さとはかけ離れていて、とても可哀想に見える。

「飲んで、少しは痛みが和らぐかも」

真帆は目を開けて、布団の中から手を伸ばし、普段の強気なところは引っ込めて、弱々しく言った。

「蒼士、痛いよぉ、お腹、さすって?」

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