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3.名前を与えた日①

Penulis: 鷹槻れん
last update Tanggal publikasi: 2026-04-30 06:02:50

 あれは雪のちらつく、底冷えのする日の事だった。

 師走の中頃。確か日付は十二日。

 帝太郎、二十歳はたちの誕生日だ。

 通帳、洋服、わずかばかりの食料……。

 とにかく自分が大事だと思う物を持てる限り引っつかんで家を出たのが十八の時。

 こう書くとまるで家出のようだが、実際のところ両親は帝太郎が家を出る事を了承してくれていた。

 お前がやりたいようにやればいい。それは父のセリフであり、困った事があったらいつでも言うのよ、と言ってくれたのは母だった。

 我侭を言って家を出たという気持ちが強かったから、なるべく両親を頼るような事はすまい。

 帝太郎はそう心に決めて実家を後にしたのだ――。

 首から下げた巾着袋に入った玉も、その時持ち出した物の一つだった。

 こんな玉、本当は置いて行こうかとも考えた。持っていたって実用性があるようには思えなかったし、何よりお金になりそうにない。

 しかし、両親が「これだけは――」。そう言って持たせたがった唯一の品だったから。

(そう言えばこの玉、いつから持ってるんだっけ……?)

 考えてみると、物心つく前から身につけている。それが無い事を思うと何故だか寂しいと感じてしまう程に。

 右も左も分からず、殆ど手探り状態で始めた一人暮らし。

 不動産屋には兎に角安いトコ! そう言って格安の物件を紹介してもらった。

 無論、未成年である帝太郎に賃貸契約を結ぶ事は出来ないわけで、出て早々で情けなくはあったが、恥を忍んで両親に頼る羽目になってしまった。住まいがなくてはどうしようもなかったからだ。

 とは言え、両親からの仕送りがあるわけでなし、一難去ってまた一難……と言った具合に、一人暮らしの道のりはかなり険しいものだった。

 帝太郎はとりあえずレンタルビデオショップとコンビニのバイト……なんていう二足のわらじで家計を賄った。幸い丈夫だけは取り柄だったから、朝から晩まで殆ど無休状態で働いても何とか頑張れた。

 それでも毎月家賃に三万円取られてしまうのは、バイトの身には結構堪えたものだ。

 生活が苦しくなって一番削りやすいのは矢張り食費。一時期、帝太郎はいつも腹ペコ状態だった事がある。

 だが不思議な事に、極限に達するまでにはどこか頼りなげに見える雰囲気のお陰か、誰かが何かをご馳走してくれた。

 大抵の場合、それは同年代の女の子達で、母性本能をくすぐられてか、こぞって手料理を振舞ってくれた。

 普通そんな風に女の子にちやほやされると同性からは煙たがられる場合が多い。しかし、帝太郎の場合は

「人畜無害」の札をつけたようなのほほんとした春爛漫顔の効力か、嫌がらせを受けた経験もなかった。

 むしろ、同性からも良くしてもらう事の方が多かったくらいだ。

 そういう親切な人達との出会いを得る場所として、若者が集まりやすい前述のバイト先二軒はかなり重宝した。

 そんな感じで、一人暮らしも二年経てばそれなりに落ち着いていて――。

「今日はぼ~くのた~んじょおびぃ~♪」

 持ち前の能天気さで一人暮らしをエンジョイする帝太郎。

 しかし、その日は何故か玉の事が気になって仕方がなかった。

 それが原因かどうかは分からないけれど、今回の誕生日は一人で過ごしたいような、そんな気分になった。

 だから「誕生日を祝ってやろう」と言ってくれたみんなからの誘いを断って、一人でお祝いモードなのだ。

 沢山の人に親切にしてもらえるから、ちゃっかり四号サイズのバースデーケーキ……なんて贅沢品を買うゆとりも出来ていたりする。

 こたつに入ると、上機嫌でケーキに色とりどりの蝋燭を立ててゆく帝太郎。その数、きっちり二十本。小さなケーキに立てるには多すぎるようにも思えたが、彼にはそんな事お構いなし。鼻歌交じりで容赦なくケーキに穴をあけていく。

 立て終わった蝋燭全てにライターで火をつけながらも、手が無意識の内に胸前の玉にいってしまうのは何故だろう。

「暖かい……?」

 今までは無機質の冷たさしか伝わってこなかったそれなのに、ここ二、三日で何となく熱を帯びてきたように感じられる。

「まさかねぇ~」

 何度か袋から取り出してみたけれど、別段いつもと変わったところは見られなかった。

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