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第5話:貴船さん

Author: 新矢識仁
last update Last Updated: 2025-12-04 09:54:22

「生神?!」

 職員さんは手を止め、目を見開いてこっちを見た。

「どうして、その言葉を」

「き……貴船って人が、そう言えって」

「貴船」

 職員さんの目が飛び出そうなほどになってる。

「貴船さんが、あなたに、そう言えと言った」

「何か……悪かったでしょうか。それとも」

「い……いやいやいや!」

 職員さんは慌てて手を振った。

「人のために生きてきた、あなたは間違いなく生神の価値がある。それだけの人生を送ってきた。ましてや貴船さんの推薦があるとなれば」

 やはりあのおじいさん、只者じゃなかったらしい。

 目力半端なかったもんな。真正面から見れなかったもんなあ。

「……分かりました!」

 職員さんはバン! と机に書類を置いて頷いた。

「生神に、なってください!」

 いや、なってくださいと言われても。

「あの……生神って、何ですか?」

 聞いておいて、変なことを聞いたと俺は慌てて手を振る。

「いや、貴船って人にこう言えって言われただけで! それがどういう意味かは俺、さっぱり分かんなくて!」

「もちろんです。生神の意味を知る人はいません。少なくともあなたの人生に生神は関わってこなかった。知らなくて当然、何をすればいいかもわからない。でも、そうでなければならないのです!」

 なんのこっちゃ。

「ちょうど生神派遣要請もあることですし! 遠矢慎吾さん、あなたを生神として、ワールドに派遣します!」

 いや、そんな興奮されても俺よくわかんないんだけど。

「いやいやいや、そんな不安そうな顔をしなくても大丈夫。あなたならできますし、トリセツも当然付けますので!」

 トリセツ?

 余計訳分からん。家電にでも生まれ変われってのか?

 職員さんは俺の疑問に一切答えず、書類に素早く書き綴った。

「遠矢慎吾さんを、ワールド「モーメント」への派遣生神とします! 詳しいことはあちらへ行ってからトリセツでご確認ください!」

 俺の名前が書かれた書類に、バン! と朱印を押して、職員さんはそれを俺に押し付けた。

「では、行ってらっしゃい! 存分に楽しんで!」

 職員さんが俺に押し付けた書類から手を離した瞬間、書類が眩しい光を放った。

 途端、足元に感じていた柔かい感覚が消えた。

 浮遊感。

 落ちてる?!

「うわあああああマジかああああああ」

 白い空間が切り替わって闇に変わり、そのまま全身が落下する感覚。

 落ちたら死ぬ!

 と思って、俺死んでたっけ、と冷静な部分が判断し、

 それどころじゃねーぞどうなるか分かんねーじゃねーか! とパニクる部分が叫んで。

 視界が広がった。

 鮮やかなスカイブルー。……いや、本当に空か?

 見上げれば、空と雲。

 眼下には、荒れ果てた大地。

 真下に、尖ったような建物。

 そこに向かって、落ちてる。

 落ちてる!

 やべー! あの建物の尖端突き刺さったら確実終わる!

 いやもう終わってる!

 始まったんじゃないのか?!

 始まった途端に終わるのか!?

 混乱しながらパラシュートなしスカイダイビングをしばし。

 俺はものすごい勢いで建物にぶつかっていった。

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