FAZER LOGINまあ、元の姿が分からなくても【再生】できるのが【神威】の便利なところだけど。 端末を向けて、【再生】、Y。 カッと光が閃いて、ボロの集合体が立派な道具になった。 木と鋼で作られた、はっきりと道具と分かるものが並んでいた。「おおおおお!」「農具が、全部、新品に!」「これなら、ドワーフに食糧をやらなくても!」「オークの襲撃はどうすんの」 俺のツッコミに、一瞬盛り上がりかけていたエルフたちは黙りこむ。 因縁アリとは言え、ここまでもめるかねえ……。「そ、うだ、生神様が創ってくだされば!」「俺がここに住めばいいって?」「そ、そう、そうすれば何の問題も」「俺が再生したのはモーメントって世界のほんの一部。森エルフだけが助かればいいって言うのなら、俺もずっとここにいるけど?」 まさか、他の場所はどうでもいいからここにいてくれって言える超ワガママなヤツは普通いないだろう。 当然、エルフたちはしばらく黙り込んでいたが、無言で農具小屋から農具を取り出して、森の空き地に作られた柵で囲われた中を耕したりし始めた。 うん、少なくとも、畑を作り直そうって気にはなったな。「さて、これからどうするかだなあ」 俺は腕を組んだ。 森エルフは弓矢の使い手ってことは、自分たちで畑を耕しつつオークに対抗できるんだろう。ドワーフも戦斧の使い手で戦うのが上手いって言う。レーヴェやヤガリくんが例外ってわけでもないはず。神子じゃなくてもそこそこ戦闘力はあるはずだ。ソルジャーやソルジャーリーダー、それ以上が出て来たら厄介だろうけど。 問題なのが、鉱山に出るかも知れないラスト・モンスターだ。 どんな武器や防具で固めても、それを錆させてしまう能力の前では無意味だ。金属や鉱石じゃない武器か、魔法……。 シャーナが魔法を使えるって言うけど、攻撃的な魔法が使えるかどうかは怪しい。となると【直接戦闘】しかないだろうが、エルフに言った通りに俺がずっと鉱山にいるわけにもいかないし。 錆びない攻撃かあ……。「ぅな」「ん?」 頭ごっちんされて、やっとコトラに気付いた。 そこで、気付く。 コトラは武器も防具も装備していない。牙と爪と身体能力だけでソルジャーリーダー・オークを一撃で仕留めた。ってことはラスト・モンスターの錆にも対抗できるってことだ。 俗に猛獣、と呼ばれる生き物なら、
ヤガリくんは深刻な顔で言った。「無窮山脈に現れたのはラスト・モンスターだけじゃない」「他の敵がいると?」「……ああ。コボルトと言うモンスターだ」「こぼると……? ちょっと待て、今調べる」 俺は端末で検索した。【コボルト:主に鉱山に出没する、敵対勢力に創り出された亜人種。身長は低く、犬頭人体をしていて、闇でも目が見えるし鼻も利く。知性は個体によって差があるが全般的に人間と呼ばれる人種よりは低い。ラスト・モンスターを飼っていて、その餌を採取するために共に鉱山に現れることが多い】「って説明で、合ってる?」「合っている」 ヤガリくんはこくりと頷いた。「つまり、鉱山で一人または少人数でコボルトとラスト・モンスターに出くわすと、とても大変なことになるんだ」「どんなふうに」「おれは斧を持っている。コボルトはそんなに強いモンスターじゃないから斧で一掃できる。ところが一緒にラスト・モンスターがいると、武器も防具も、金属や鉱石は全部錆にされて貪り食われてしまう。攻撃も防御も出来ない所を狙ってコボルトが攻めてくる。戦えずボロボロにされ、そのままコボルトに連れて行かれた仲間が大勢いた、おれも仲間が時間を稼いでくれて助かったことがあるが、その仲間とはそれ以来会っていない」「……つまり、コボルトはドワーフを誘拐している?」「ああ。だが、連れて行かれた先で何をさせられているかは分からない。コボルトに連れて行かれたドワーフが帰還したことは一度もないからな。ただ、考えられることはある」「考えられる、こと?」「コボルトは知性が低いと言っただろう。それをわざわざ手の込んだ真似までして連れて行くなど、コボルトとの考えとは思えない」「敵対勢力……そいつらの所に連れて行かれた」「そう考えるのが自然だろう」 ヤガリくんは頷く。「ドワーフは鋼の一族。もしかしたら、敵対勢力と呼ばれるモンスターが持っている武器を作ったのは、連れて行かれた仲間たちかも知れない」「……そうだよな、全部壊すことを目的としている勢力が、自分たちで武器を作れるとは思えない」「いつか……いつかでいい、もしシンゴがそんなおれの仲間を助けたいと思ったら、おれに声をかけてくれ。おれもそれまでにもっと強く、コトラに頼らなくても勝てるほど強くなる。おれを神子にしてよかったと、必ず思わせて見せるから」「ああ
「ぎゅい、ぶひひっ」 装備が少し上等なソルジャーリーダーが口早に命じる。 すぐにケガをした三体も含めた八体が陣形を組んで、レーヴェとヤガリに向かって攻め込んでくる。二人が助け合うことなんてないと確信した策略だ。兵士長ってだけのことはある、森エルフとドワーフの敵対関係を知っていたのか。 だから、俺は叫んだ。「コトラ!」「ぅな?」「リーダーをやれ!」「なぅ!」「レーヴェとヤガリくんは残りを蹴散らせ!」「承知」「了解だ!」 陣形を組んだソルジャーの背後にいるソルジャーリーダーを、コトラはロックオンした。「ぅなぅなぅなっ」 レーヴェとヤガリくんを狙っているソルジャーの足元を、小さな体ですり抜けて、ソルジャーリーダーの前に出る。 よし、一対一なら何がどうなってもどうにかなる! コトラは跳躍する。 鼻面に噛みついて、首を捻りながら後ろに跳ぶ。 その勢いで、ソルジャーリーダーの首が落ちた。 すげ……レベル差ってこういうことなんだ……。 ていうかコトラ神子にしといてよかった。戦闘力なら俺よりはるかに上じゃなかろうか。 そして、ソルジャーリーダーの絶命の悲鳴を聞いて動揺したソルジャー八体が、あっという間にレーヴェとヤガリくんに葬られた。「ぎゃああああああ!」 血しぶきまで風に溶け、消える。 オークの先遣隊はあっと言う間に消え失せた。 「おお……」「オークどもを蹴散らした!」「我らが騎士が!」「灰色虎がソルジャーリーダーを一撃で!」「おまけにあのドワーフでさえ四体を倒したぞ!」 エルフたちがどよめく。 次第にそれは歓声に変わっていった。「復活した泉を破壊されずに済んだ!」「生神様の御力だ!」「バンザーイ!」 万歳三唱の響く森で、俺は顔色が悪い友人に声をかけた。「ヤガリくん、何か?」「あ。……生神様か。すまん、考え事を」「生神様なんて言わなくていいよ。俺の名前は真悟。呼び捨ててくれればいい」「しかし、仮にも神を」「俺はヤガリくんのことは友達だと思っているけど」「…………?」「この世界で、今まで神子は女性ばっかりだったんだ。コトラは別として」 俺は頬を搔きながら続ける。「で、このモーメントに来る前は、正直友達らしい友達はいなかった。俺は家のこととかしなきゃいけなかったし、友達と遊び歩くなんて出来やしな
咄嗟に端末を向けて【観察】する。【ソルジャー・オーク:レベル10/敵対勢力に創り出された亜人種、オーク族の兵士階級。戦闘能力はノーマルを上回るだけでなく、本能を抑え込んで命令に従う知性がある。全てのオーク族に共通する性質として、形あるものを破壊することを幸福とする。特に聖地と呼ばれる神域を破壊することに生きがいを感じており、全てを破壊しつくした後は同士討ちを始め、最終的に自分の命をも破壊する破壊衝動の塊】 これが九体。【ソルジャーリーダー・オーク:レベル15/敵対勢力に創り出された亜人種、オーク族の兵士長階級。戦闘能力はソルジャーを上回り、また高い知性を誇り、ソルジャー・オークを指揮して戦うことができる。全てのオーク族に共通する性質として、形あるものを破壊することを幸福とする。特に聖地と呼ばれる神域を破壊することに生きがいを感じており、全てを破壊しつくした後は同士討ちを始め、最終的に自分の命をも破壊する破壊衝動の塊】 これが残る一体。「俺の戦ったノーマル・オークより強いのか」 さっき見た神子たちの戦闘レベルはシャーナがレベル1、レーヴェが55,ヤガリくんは60、コトラが200と、戦闘力10でレベルが1になるんだろう。 俺の戦闘レベルは3。ただレベル1だった時も水流《ウォーター・フロウ》でノーマル・オークを蹴散らしたんだから、神の戦闘レベルは少し違うのかもしれないけど。 で、オークはレベル10が九体、レベル15が一体。数では負けてるけど戦闘レベルでは屁でもないって感じになるんだが……。 相手は連携攻撃を仕掛けてくると言う。連携どころか仲間とすら認めていないヤガリくんとリーヴェが狙われたら、ちょっと厄介かな……。 いやでも、コトラ単独でも蹴散らせるレベルだから。 とりあえず森エルフの皆さんには下がっていてもらおう。「みんな下がってて」「いや、我々も戦う!」「戦わないで! って言うか実験だから!」「実験?!」「【援護戦闘】がどうなるか見てみたいから! それにどうせ近いうちにオークが山ほど出てくるから! 嫌でも戦わなきゃならなくなるから!」 正直説得にもなっていない説得に、森エルフは思わず引っ込む。 その隙に、ソルジャー・オークが三体、レーヴェに向かって襲ってきた。「レーヴェ!」「案ずるな!」 レーヴェは舞うように剣を振り回す。
「気にするな生神様。元来ドワーフと森エルフはそう言う関係なんだ」「仲良くなれないってわけでもないんだろ?」「敵対関係にはならないと言うだけだ」「仲良くしてくれよー。樹海にオークが、山脈にラスト・モンスターが湧いて戦わなきゃいけないかもって時に、バラバラで行動してうまくいくわけないだろー? 第一ドワーフは食糧、森エルフは鋼が必要なんだ、仲が悪くてもこの場合手を組まなきゃまずいんだってことは分かるだろうに」 ぐぐ、と一同が唸る。本当に戦闘にならないだけでお互い嫌い合ってるんだなあ。 敵対勢力が判明した今、復活した大地に住まう森エルフとドワーフには仲良くしてもらわなきゃいけないんだが、どうすればいいのかねえ。「頼みがあるのだが、これを【再生】してくれないか?」 レーヴェがボロボロの木の枝のようなものを出してきた。「何これ」「森エルフの最大の武器、弓だ。子供でも弓の扱いには長けている」「子供も戦うのか? とすると……援護神威って神子以外にも使えたっけ」 確認の前に、ボロボロの木の枝に【再生】を使う。 白木の繊細で美しい弓が、弦付きで【再生】した。 森エルフが目を輝かせる横で、オレは端末で調べてみる。【援護神威は基本的に神子を援護・防御するためにしか使えませんが、範囲系の神威であれば、範囲内に無差別に効果を与えるという形で神子以外の援護が可能です】 うん、つまり、個人回復魔法なら無理だけど、全体回復魔法なら神子じゃなくても効くってことかな? そう言うことかな? その時、導きの球が光った。「ん?」 赤い光が煌々と灯っている。 その光は北の方を指している。 なんだこれは?【観察のレベルが上がった場合や新しい能力を手に入れた場合、観察で見抜ける能力が増えます】 と書いてあった。「つまり【観察】してみろってことだな」 端末を導きの球に向け、【観察】してみる。【観察:導きの球/戦闘神威を身につけた時、導きの球は敵対勢力の接近を感知することができるようになる。青い光は近くに敵対勢力がいることを、赤い光は敵対勢力がこちらに向けて接近していることを示す】「……ってことなんだけど」「オークか?」「敵の種類は分からないけど、赤い光だからこっちに向かってきていることは確かだ」「よし、今度は神子に任せてくれ」 レーヴェが剣を抜いて前に出た
自在雲を飛ばして辿り着いた、森エルフの聖なる泉は、幸いなことにまだ襲撃を受けていなかった。「皆、無事か?」 レーヴェに、森エルフたちは頷いた。「無窮山脈はどうにかなったのか?」「どうにかなったが色々なことが厄介になってきた」 レーヴェは深刻な顔。まあそりゃそうだろう。「道中でオークに襲われた」「オーク!」 エルフたちがざわめく。「あいつら復活してたのか?!」「と言うよりは、連中は生神様と敵対する勢力として存在しているらしい」「生神様と?」「敵対する?」「だから、オークがここに攻めてくる可能性も高い」「?」 意味が分からず首を傾げる俺と森エルフに、レーヴェがまず俺に教えてくれた。「オークは昔から泉を狙ってきたんだ。私たちはずっとそれは泉を羨ましく思い奪い取ろうとしているのだと思っていたが、先の戦闘で分かった。オークは自然や聖地を破壊したいんだ」「確かに……木壁を使った時、何で忌まわしい植物がとか何とか言ってたし……」「そう言うことだ。自然の恵みを破壊したいと思っているんだ」「なるほど……ラスト・モンスターの鉱石食欲もだな。自然を破壊したいオークと、鉱物を食い荒らすラスト・モンスター。あるいは敵対する存在が森エルフとドワーフの聖地を荒らす為に送り込んだとも考えられる」 ヤガリくんの言葉で、森エルフたちはやっとその存在に気付いたらしい。 全員、ヤガリくんがドワーフだと確認して、露骨に嫌な顔をする。何か言おうと口を開きかける気配を感じたので、俺は念を押しておくことにした。「はい嫌な顔しない、ヤガリくんは俺の神子だからねー。農具とか再生するのヤガリ君が必要だからねー。農具なくていいって人だけケンカ売れるからねー」 ぐ、と森エルフは引き下がる。 ヤガリくんは無言でそれを聞いていた。「ぅな」 コトラがヤガリくんの腰に頭をぶつける。「ああ、コトラ。大丈夫だ。おれのことは心配しなくていい」 コトラの頭を撫でてから、ヤガリくんは雲から飛び降りた。「ドワーフのヤガリ・デイだ。今は神子となっている」「…………」 森エルフたちは黙り込んだけど、やっぱりヤガリくんに好意的な対応はしない。「あ~あ、農具なしになるかなー」「気にするな生神様。元来ドワーフと森エルフはそう言う関係なんだ」「仲良くなれないってわけでもないんだろ?」







