TS:悪役令嬢のモブメイドの俺が霊獣になった件

TS:悪役令嬢のモブメイドの俺が霊獣になった件

last updateDernière mise à jour : 2026-06-28
Par:  阿澄 飛鳥En cours
Langue: Japanese
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主人公はある日、突然、真上から鉄骨が落ちてきて、乙女ゲーの世界で【ウィナフレッド・ディカーニカ】——ウィナとして男から少女へと生まれ変わる。 そうしてウィナはこの異世界で一つの目的を持つ。 それは悪役令嬢であるフィロメニアをバッドエンドから救うことだ。 初対面ではボディーブローを入れてしまったが、十年後、ウィナはフィロメニアの御付きメイドになっていた。 けれど【霊獣召喚】の儀式になぜかウィナは巻き込まれ、フィロメニアの霊獣となってしまう。

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Chapitre 1

第1話 ナメられたらやれ

 ――自分より大きな、そして重たいものに潰されるという経験をしたことがある人はそういない。

 自慢じゃないけど俺はある。それも··もだ。

 一度目は終電で帰った会社からの帰り道――俺は唯一の日常の癒しだった乙女ゲーアプリへ夢中になっていたときだ。

 男なのに乙女ゲーをやっているというのも人に聞かれたくはない話だが、理由があった。

 世界観はファンタジー……なのにライブなどのアイドル要素があって、なぜか歌唱力やダンス力が戦闘ステータスにも関わるという奇抜な学園乙女ゲー。

 そんなゲームにとある要因でドハマりした俺の視線は、スマホの画面のみに注がれていた。

 いや、たぶん、そうじゃなくてもそれは起こったと思う。

 ――ぶっとい鉄骨が真上から落ちてきて、俺に直撃したのだ。

 建設現場のある道だったから、そこから落ちてきたんだろうなぁ。

 なんでそんなことになったのか知らないけど、痛みを感じる余裕もなく即死した俺はそうして現代日本での生を終えることになる。

 けれど、俺という存在は終わらなかった。

 その次に自分が日本という国で社畜をやっていたと思い出すのは、かなり時間と場所が飛ぶ。

 体感時間にしてみれば五年三ヵ月ちょい。しかも場所は別世界……いや、異世界か。

 俺は騎士の家で養子として引き取られた少女へと転生していたのだ。愛称をウィナ――【ウィナフレッド・ディカーニカ】として。

 そして、五歳のときに両親が仕えている公爵家へを訪れる。

 そこで出会った同い年の少女を見て、俺は全てを思い出した。

 彼女は【フィロメニア・ノア・ラウィーリア】。

 俺が死ぬ直前にプレイしていた。乙女ゲーの悪役令嬢だった。

 ◇   ◇   ◇

 ――さぁ、二人ともお庭で遊んできなさい。

 そう言われて、俺はフィロメニアの遊び相手として連れてこられたのだと察した。

 仏頂面で気が強そうだがお人形のように可愛い彼女を前に、俺はテンションを上げざるを得ない。

 記憶を取り戻し、実質的年齢三十歳近いにも関わらず、俺はノリノリで彼女の手を引く。

 もしかしたら、まだ五歳の少女、ウィナフレッドとしての意識がそうさせたのかもしれない。

 けれど、なによりフィロメニアというのちの悪役令嬢は、俺のお気に入りのキャラクターでもあったのだ。

 その乙女ゲーを最初に始めたのは単なる気まぐれで、ヒロインがイケメンたちと様々な恋をしたり、困難を乗り越えるサクセスストーリーを何も考えずに見るのが目的だった。

 けれど、いくつもルートのどれを進んでも、終始一貫して悪役に徹するフィロメニアに対して、俺にはある種の感情が芽生えていた。

 どのエンディングを迎えても、どんな選択肢に進んでも、最後には悲惨な死を迎えてしまう彼女を――俺は好きになってしまった。

 知略を巡らせ、他国であっても利用できるものを利用して、自分の手が汚れることを厭わず敵対する悪役令嬢。

 社会の波に流され、生きてるのか死んでるのかもわからないような生活をしていた俺には、それが眩しく見えた。

 だから、生まれ変わったその世界で、俺は言った。

「フィロメニアしゃま! おともだちになりましょう!」

 俺の言葉に彼女は微笑む。

 そして、··差し出してこう言った。

「では靴を舐めろ」

 俺のボディブローがフィロメニアのみぞおちに刺さった瞬間である。

 一応、言っておく。

 暴力はいけないとは思う。

 特に体は女とはいえ、魂は男の俺が五歳の少女の無防備なお腹に拳を叩き込むなど持って他だ。

 ついでに言うと数年後に王太子と婚約することが決まっている国家レベルで重要な令嬢でもある。

 けれど、騎士家で育った俺には両親からひとつの精神を叩き込まれていた。

 ――ナメられたらやれ。やっていいやつならそのまま殺れ。

 である。

 たぶん、両親的には公爵家の娘は別だと言いそうだが、記憶を取り戻した直後だった上、五歳という未熟な脳みそはその分別がつかなかったんだろう。

 気がつけばフィロメニアは胃の内容物を、美しい草花の養分として捧げていた。

 常識的に考えれば最悪な行動である。両親の首が物理的に飛ぶところだった。

 けれど、そうはならなかった。

 あれから月日が経ち、様々なことがあって、今――。

 ――俺はフィロメニアの御付きのメイドとして働いている。

 普通は初対面で腹パンしてきた相手をそんな近しい立場に置くわけない。

 けれど、あいにくフィロメニアは普通じゃなかった。

 なぜか俺は彼女に気に入られ、長い時間を共に過ごしている。

 そうして推しの近くで二度目の人生を送って十年の月日が経ち――その時がやってきた。

 フィロメニアと俺は今年で十五になる。

 乙女ゲーの舞台となる、モルドルーデン王国貴族の子たちが集う学園へ通い始める年齢だ。

 その前に、この国の貴族にとっては人生で最も重要ともいうべき儀式が存在する。

 乙女ゲーの主人公は学園入学直後に来る話ではあるが、他の貴族は入学前に済ませておくものらしい。

 それは――【霊獣召喚の儀式】。

 【霊獣】っていうのはわかりやすく言えば使い魔とか召喚獣みたいに、魔力で呼び出して一緒に戦ってくれる相棒だ。

 王国の貴族はこの儀式を経て、自分だけの【霊獣】を召喚し、共に研鑽を積み、国を守る力を培う。

 【霊獣】こそが王国の強さの象徴であり、強力な【霊獣】を使役していることが有能さの証でもあるのだ。

 そんな大事な儀式のときに、フィロメニアの傍にいられないことが俺は嫌だった。

 護衛の兵士はいるものの本来なら使用人は連れてはいけないという決まりらしいが、俺は無理を言って彼女に同行した。

 儀式を行う神殿へ一緒に行って、ポンと召喚して、お屋敷にささっと帰るだけ。

 俺はフィロメニアの隣にいればいい。

 それだけで、本質的に我儘で不安定な彼女の精神は落ち着くのだ。

 そんな簡単な一日だと思っていたら――。

 ――俺の二度目の人生は大きく変わってしまった。

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第1話 ナメられたらやれ
 ――自分より大きな、そして重たいものに潰されるという経験をしたことがある人はそういない。 自慢じゃないけど俺はある。それも二度もだ。 一度目は終電で帰った会社からの帰り道――俺は唯一の日常の癒しだった乙女ゲーアプリへ夢中になっていたときだ。  男なのに乙女ゲーをやっているというのも人に聞かれたくはない話だが、理由があった。 世界観はファンタジー……なのにライブなどのアイドル要素があって、なぜか歌唱力やダンス力が戦闘ステータスにも関わるという奇抜な学園乙女ゲー。  そんなゲームにとある要因でドハマりした俺の視線は、スマホの画面のみに注がれていた。 いや、たぶん、そうじゃなくてもそれは起こったと思う。  ――ぶっとい鉄骨が真上から落ちてきて、俺に直撃したのだ。  建設現場のある道だったから、そこから落ちてきたんだろうなぁ。 なんでそんなことになったのか知らないけど、痛みを感じる余裕もなく即死した俺はそうして現代日本での生を終えることになる。 けれど、俺という存在は終わらなかった。  その次に自分が日本という国で社畜をやっていたと思い出すのは、かなり時間と場所が飛ぶ。 体感時間にしてみれば五年三ヵ月ちょい。しかも場所は別世界……いや、異世界か。 俺は騎士の家で養子として引き取られた少女へと転生していたのだ。愛称をウィナ――【ウィナフレッド・ディカーニカ】として。 そして、五歳のときに両親が仕えている公爵家へを訪れる。  そこで出会った同い年の少女を見て、俺は全てを思い出した。 彼女は【フィロメニア・ノア・ラウィーリア】。 俺が死ぬ直前にプレイしていた。乙女ゲーの悪役令嬢だった。 ◇   ◇   ◇ ――さぁ、二人ともお庭で遊んできなさい。 そう言われて、俺はフィロメニアの遊び相手として連れてこられたのだと察した。 仏
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 さて、最初にした、体を潰される話に戻そう。 二度も潰されたことがあると明言したけれど、少し語弊があったかもしれない。  俺は今、現在進行形で巨大な狼の足に踏み潰されている。 公爵令嬢御付きのメイドが学園入学直前にぺちゃんこになった、なんて話は乙女ゲーの中にはなかったはずだ。  なのに――。 『なのにどうしてこうなっているんだい?』「知るかッ! ……ん?」  その時、俺の頭の中で響くような声が聞こえた。 いやいや。化け物に踏み潰されかけてる状態でこんな普通に話しかけてくるような知り合いはいないだろう。 幻聴だ。たぶん。そういうことにしておこう。  なぜ俺がまだ生きているのかはわからないが、とにかく頭の上に足を乗せられている現状は正直腹立たしい。 なので、俺は自棄になって全身に力を入れてみる。「ふっ……!」『グルゥ……!』 一瞬ではあるが、わずかに頭上の足が持ち上がった。だが、すぐに押し返されてしまい、俺は再び闇の中に戻される。 『さらに体重をかけられてしまったみたいだねぇ。もっと本気を出したらどうだい?』 また幻聴だ。他人事だからといって余裕そうに発破をかけてくる厄介な幻聴なんて珍しい。  けれど、まだ余裕があるのは本当だった。 俺の体に、これまで感じたことのない力が漲っている。 こんな犬一匹程度、ブン投げられるっていう自信がある。  俺は意を決して――本気で体を躍動させた。「ぅおりゃあッ――!」「きゃああっ!」「グオォ……!」 どすんと地面が揺れる。 視界が明るく開けると、そこは鬱蒼とした森に囲まれた街道だった。 そして、白い毛並みを持った巨大な狼が目の前でひっくり返る。 一緒に聞こえた悲鳴は
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第4話 こいつで十分だろう
 フェンリルを倒した後、俺たちは駆けつけた兵士たちによってあるお屋敷に保護された。 このお屋敷の上に立っている旗や、兵士たちが身に着けているマントの紋章を見れば、ここがどこだかわかる。 ここは敵国だ。 正確には【神星シュタリア帝国】、俺たちの住む【モルドルーデン王国】とは長くにらみ合いを続けている国になる。 その国のお偉いさんのお屋敷へ、どうして俺たちが丁重に保護されたかというと……。 「まずは救援に応じて下さり感謝する。ラウントリー辺境伯」 フィロメニアのおかげだった。 これを政治的手腕といえばいいのか。それとも悪役令嬢的暗躍といえばいいのか。正直迷う。 どうやらフィロメニアはこんな繋がりをかねてから作っていたらしい。 豪奢な作りの応接間で、テーブルを挟んだソファには男装の美女が座っていた。 元はボリュームのありそうな赤髪を後ろでひとつにまとめ、化粧っけはないがはっきりとした端麗な顔立ちをしている。 着ている服の肩幅や腕回りは見ただけでも男性用のものとわかるのだが、着崩れている様子はない。それは彼女自身の恵まれた体格と鍛え上げられた肉体の証なんだろう。 この人は戦士なんだろうな。 「国境沿いの森の中で彷徨う哀れな娘らを放っておくことはできないたちでね。まぁ、魔装兵一騎と兵士二名を失うとは思わなかったが。そうでしょう。シスター・アイナ」「ええ。しかし、この縁は双方の国にとって良い結果をもたらすものだと思っていますよ」 ラウントリー辺境伯の隣に座る女性が、にこやかに微笑む。 こっちは白を基調とした修道服を着た白い髪、白い瞳を持つ小柄な女性だった。 この人は人間じゃない。 その体の全てが雪のように白いというのは、【賢人】の特徴だった。 人よりも長い寿命、人よりも優れた頭脳を持つ、神に近いと言われる種族だ。「兵らが犠牲になったのは私の責任だ。辺境伯。神殿のやり方を甘く見ていた」 そんな二人を前に物怖じしない声音
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 一週間後、それまでは辺境伯のお屋敷で世話になりつつ、やっと王国へ帰れる日が来た。 用意された護衛の騎士と馬車の前で、俺はフィロメニアに言う。 「やっと帰れるってほっとした気分が半分、ちょっと不安が半分って感じだ」「書簡はすでに王家と父上に届いている。我が家の兵たちが迎えにくるのだから何もないさ」 さすがはフィロメニア。肝が据わっているというか、俺が心配しすぎなのかもしれない。 馬車に乗る主へ手を貸していると、声がかけられた。「惜しいな。私としてはいつまでもここにいてもらっていいのだが」 ラウントリーだ。見送りにきてくれたのだろう。「世話になった。ラウントリー辺境伯。貴卿との会話は身になることが尽きない。また茶会を楽しみたいものだ」「同感だ。王太子の婚約者でなければ、私が嫁にもらいたいほど魅力的な女性だよ。君は」 本気か冗談かわからないことを言いながら差し出された手を、フィロメニアは握り返す。 そして握手が離れると、辺境伯の顔がこっちを向いた。「できれば君の本当の姿も見てみたかった。ウィナフレッド嬢」「なにぶん慣れていないものですから。申し訳ございません」 俺は困ったように笑いながらお辞儀をする。 この一週間の間、何度かあの姿――霊獣の姿になろうと試してみたが、できなかった。 セファーに聞こうにも姿を見せたと思えばお屋敷の内外を飛び回ったり、他愛のない紅茶やお菓子の話だったりと肝心の話はできていない。  そもそも今もどこにいるんだろう? 置いてけぼりにしてやろうかな。「いずれまた会う時が来るだろう。その時を楽しみにしている」「あ、あはは……。お世話になりました……」 なんだろう。目が笑ってない。 その顔に獰猛な雰囲気を感じた俺は、そそくさと馬車に乗る。 そうして、俺たちはラウントリー辺境伯のお屋敷を去った。「恐ろしいご婦人に目をつけられたものだ」「お互
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 目的地につき、止まった馬車の扉が開かれる。 俺は一足先に馬車から降りて、続くフィロメニアに手を貸して彼女を地面へと降り立たせた。 春の風は強い。 馬車につけられたラウィーリア家のい紋章がはためく。 これからやたらと多いフィロメニアの荷物を下ろして、運ばなきゃいけない。 けれどその前に、俺は正面へと向き直って正面を見た。 厳重な警備が敷かれた大きな正門、複数の煌びやかな建物に、それらを余裕持って内包する広大な敷地。  これが学園だ。  すごい。乙女ゲームで見た背景そのままのデザインだ。  俺たちがラウィーリア家の屋敷に戻ることができてから、一ヵ月が経った。 その間、ラウントリー辺境伯は打ち合わせ通りに事を進めてくれたのだろう。 ――フィロメニアは森の中を彷徨っているところを辺境伯の軍に捕まり、ラウィーリア家の交渉の末に無事帰ってくることができた。 世間ではそうなっている。 意外だったのはクラエスという神殿騎士については何も流布されていないことだ。 そのことについても王家には伝わっているはずだが、彼女の葬儀ももちろん、戦死の報も王国内では広まっていない。 辺境伯も自らの戦果を大々的に広めることもできたはずなのに、誰もが意図的に口を噤んでいる。  ただ、それについては一介のメイドである俺が考えることじゃない。 とりあえず集中すべきは――学園での行動だ。「ウィナ」「はい。お嬢様」 荷物を下ろした俺は、フィロメニアに使用人モードで返事をした。 俺の知っている物語はここからやっと始まる。 乙女ゲー最初のイベントがさっそく発生するのだ。  それは主人公が悪役令嬢に目をつけられる話、そして、攻略対象であるこの国の第一王子と出会う話である。 概要はこうだ。  初日から遅刻しかけた主人公は焦りながら入学式の会場へ向かう。 その途中、フィロ
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「フィロメニア。ちょっと寮の中を歩き回ってきてもいいか? 建物の作りも知っておきたいんだ」 持ち込んだ物の荷解きも終え、学園生活の準備も一段落した昼過ぎ。 俺はフィロメニアの紅茶を入れ終えると、そう声をかけた。 ここは俺にとっては未知の場所でお屋敷とは違う。 お屋敷なら目を瞑っていても目的の場所にたどり着ける自信はあるけれど、この建物で何かあった場合に備えて色々と調べておきたいのだ。 「構わんが問題を起こすなよ」「そんなに信用ないかな……」「用心しろという意味だ。私たちは敵が多いからな」 まぁ……それもそっか。 ここが王家のお膝元とも言える学園といっても、神殿に肩入れする貴族の子も通っているはずだ。 そうでなくとも国内で強い影響力を持つラウィーリア公爵家は、常に下から突き上げられる機会を狙われている。  そんな政治的な派閥争いの場でもあるのが学園という場らしい。貴族主義ってめんどくさいな……。「じゃあ、鍵は閉めとくから、何かあったら呼んでくれ。セファーも教えてくれると思う」「姿の見えぬ存在に見張られているのもいい気分ではないな」「見えてる方が鬱陶しいと思う」 俺はそうしてしっかりと戸締りをして、寮の廊下へと出た。 すると早速、セファーが俺の頭の周りを飛び回る。 『鬱陶しいとは失礼だねぇ』『事実だろ。――……ヒロインの部屋が知りたい。難しいかもしれないけど、明日出発する時間もずらせばフィロメニアにぶつからないかもしれないだろ』『ふぅん。なら我も色々と見て回ろう。なに、君の主人もちゃんと見守っておくさ』 セファーはそう言うとこっちの返事も待たずに廊下の奥へと飛び去っていった。 相変わらずのフリーダムさに呆れる。 それを見送って下の階へ降りると、廊下に響く喧騒が大きくなった。「早く運びなさいよ! このウスノロ!」
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第8話 気持ちいいの朝ァ!
 その夜、俺は慣れない天幕付きのベッドを見上げながら、考えを巡らせていた。 隣ではすでにフィロメニアが眠りに入っている。『眠れないのかい?』 すると、光る粒子を纏いながら、俺の真上にセファーが現れた。『……これまで散々準備はしてきたけど、だんだん不安になってきちゃってさ』『今更だねぇ。君にできることなんて限られているのだから、深く考える必要なんてないじゃないか』『どういう意味だ?』 俺が言葉の意味を図りかねると、セファーは両腕を広げて肩をすくめる。 『君には君の知っている物語をブチ壊しにする覚悟がない。極論を言おう。君の主人の死がヒロインの恋物語と直結しているのなら、今から一階に降りてヒロインをくびり殺せばいい。そう思わないかい?』 セファーは涼しい顔でとんでもないことを言い出した。 けれどそれは図星だったし、絶対に間違ってるとは言えない。  俺は眉をひそめてセファーを睨みつける。 『でもそれで未来がどう転ぶかはわからないだろ。それに……俺は嫌だ』『なぜ? 主人の命とヒロインの命、どちらかを選べと言われたら君は即断するだろう? 自ら手にかける必要があったとしても躊躇しないだろう? 君はそういう人間だよ』『そ、そんなわけ……それに俺はヒロインが嫌いなわけじゃない!』 とてつもなく冷徹な人間かのように言われて否定したが、俺はそこでまた得も言われぬ違和感を感じた。 確かに、俺はヒロインとフィロメニアの命を天秤にかけたとき、その比重は一瞬でフィロメニアの方に傾くだろう。   問題はそれを自分の手で行うことができるか、というところだが俺は――できる気がしてしまった。   まだろくに魔法が使えないヒロインはまともに抵抗もできないだろう。彼女の部屋の扉を力任せに破壊して、その細い首を動かなくなるまで締め上げればいいだけ。  そんな気が――してしまった
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第9話 いや、なるほどじゃないよ
 断じて言うが、狙ったわけではない。 俺の目的はフィロメニアの死の回避であって、ヒロインのポジションに成り代わろうなどというタチの悪い所業など考えてもいない。 だが、結果的にクレイヴィアスの手はこっちを向いてしまっている。 ……これはマズいだろ。 俺はその手を取らずに速攻で身なりを整えて、彼の後ろで困惑するシャノンを指差した。 「あ、あー、全然、ぜんっぜん大丈夫です! あっ! そちらのお嬢様の方が心配でございます!」「そうか? 貴女の方が随分な吹き飛びようだったが……」 差し出した手を引っ込めながら本気で心配してくれるクレイヴィアスに申し訳なく思いつつ、俺はそそくさと距離を取る。 すると、シャノンが慌てて飛び出してきて、頭を下げてきた。 「あ、あのっ、ご、ごめんなさいっ!」「いいんですいいんです! こちらこそごめんなさい! 飛び出したのは俺――じゃなくて私! 悪いのは私ですから! 私!」 ここでシャノンにヘイトが向いてしまうのは何がなんでも避けたい。 俺はあくまで原因が自分にあるということを周囲に伝わるようゴリ押しした。  すると、歩み寄ってきたフィロメニアがクレイヴィアスに一礼する。 「私の使用人が失礼を」「フィロメニア。彼女は君の使用人だったのか。やたら素早い動きに見えたが、なるほど。さすがは公爵家の使用人というところかな」 いや、なるほどじゃないよ。どこで納得したんだよ。 そんなことを思っていると、シャノンがふらふらと青い顔で話しかけてきた。「ほ、本当に怪我はないですか? 私、すごく焦ってて……」「ホントに大丈夫ですから! ホントホント!」 彼女は騒ぎを起こしてしまったことに動揺しているが、同時に何か別のことで困っているように見える。 その様子に俺はつい、お節介かもしれないとも考えつつ顔を覗き込んだ。 「……失礼ですけど、何かお困りですか?」 シャノンは一瞬、言葉に詰まったが、俺の顔を見て小さい声で答えてくれる。 「わ、忘れ物しちゃって……。入学式で説明されることはメモしておくように、って言われたのに……」「メモとペンがあればいいですか? 私、持ってますよ」「で、でも――」 俺は普段からメイドとして色々なものを持ち歩いていた。 小さなメモ帳をポケットから取り出すと、シャノンに押し付けるように
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第10話 チートかな?
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