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配信始めます

last update Dernière mise à jour: 2025-01-27 02:40:49

 ヒューコンの検索機能で、まだキャスターが降り立ったことの無い異世界を検索する。

 人気キャスターになる為には、無限に存在する異世界の中から前人未踏の世界を選ぶ事も重要なのだ。

 俺は、ラドリックという世界を選んだ。

 太陽のような恒星と月のような衛星があり、地球と環境が類似しているようだ。

 それほど文明が発達していない世界だが、魔法やモンスターが存在し、地球とは異なる生態系になっている。

 タイキンさんが活躍している世界と同じくダンジョンがある事も確認済みだ。

 ワーキャスに接続し、自分のアカウントにログインして配信の準備をする。

 タイトルは、『初キャスです。異世界ラドリックへ旅立ちます!』と無難な感じにしておいた。

 これから配信を始めると思うと急に緊張してきた。

 心臓が喉から飛び出しそうだ。

「ふぅ、ふぅ、いくぞ……いくぞ!」

 意を決して配信をスタートした。

 配信画面には、俺の視界に映る殺風景な部屋が映っているはずだ。

 今始めたばかりなのに、視聴者が五人も来てくれている。

 ここはやはり挨拶から始めるべきだろう。

「あ、あー……。えっと、みなさん初めまして。勇太っていいます。これからラドリックという異世界に旅立ちます。応援よろしくお願いします!」

コメ:初見です!

コメ:リセマラですか?

 もうコメントが流れている。

 誰も見てくれなかったらどうしようかと不安だったので、素直に嬉しい。

「今のところリセマラを考えています。俺、運動音痴だし喧嘩もした事がないから、すぐ怪我しちゃいそうで……」

コメ:気持ち分かりますw

コメ:アタリのスキルだといいですね!

 初配信には、荒らしと呼ばれる心無い発言を連投するやからが出ると聞いていたので、温かいコメントばかりで安心した。

 荒らしは無視して即ブロックだ。

 放置したり構ったりすると、チャット欄で言い争いに発展してしまうからだ。

「一応フルタイム配信なので、トイレの時だけミュート推奨しときます。切り抜きは自由にアップロードして頂いて構いません」

コメ:体張ってますね!

コメ:切り抜き自由はありがたい。

 配信中に盛り上がった場面を短い動画にする切り抜きは、キャスターの人気に深く関わってくる。

 とぅいっとパラダイス、通称とぅいパラと呼ばれるSNSにアップロードされる事が多い。

 切り抜き動画でも収益が発生するので、視聴者は新しくバズりそうなキャスターを常に探している。

 日常を包み隠さず放送するフルタイム配信では、戦闘の様子から寝言に至るまで、様々な切り抜き動画が作成される。

 それ故、一番バズる確率が高いのがフルタイム配信だと言われている。

 ワーキャスには年齢制限だとかのレイティングは設けられていない。

 極端に言えば、何が映ってもそのまま配信される。

 以前、美しい景色をレポートしていたアイドル系のキャスターが突然モンスターに襲われ、宙に舞った首が崩れ落ちる自分の体を見ているという恐ろしい切り抜きを見たことがある。

 何が起こるのか分からないからこそ、視聴者は食い入る様に配信を見るのだ。

「じゃあ、行きますね! 街ランダムでやろうと思います!」

 さて、コメントと実際に会話出来るのはここまでだ。 異世界に行ったら、キャスターコメント欄を使用して視聴者と会話をするのがマナーとなっている。

 向こうの人からしたら、俺が配信しているなんて知らないからだ。

 一人でぶつぶつ喋っていたら変な目で見られてしまう。

 周りに誰も居ない時なら会話してもいいのかもしれないが、基本的にそれをやっているキャスターは居ない。

勇太:問題無くコメント出来てますかね?

コメ:見えてるよ!

コメ:行ってらっしゃい。

勇太:行ってきます!

 ヒューコンの超長距離間ワープ機能にラドリックの座標を設定した。

 何処かの街へランダムに飛ぶようにしてある。

 完全ランダムだと、ワープ先が運悪くモンスターの目の前だったなんて事があるので、即死する可能性を考えてそれはやめておいた。

 お願いガチャ完全ランダムワープが最も視聴者数が伸びる可能性のある配信方式らしいけれど、死亡率も同様に高いようなので、俺にはそんな危ない橋を渡る勇気はない。

 ワープを起動すると、まるで体が溶けるような、今まで経験したことが無い不思議な感覚に包まれた。

 これが魔素と肉体が融合している状態なのだろうか。

 意識だけが宙にあるような気持ち悪さがある。

 謎の浮遊感を感じると、眩い光で目が開けていられなくなった。

 かかとを少し上げて落としたような小さな衝撃を足の裏に感じた。

 どうやら異世界に着いたみたいだ。

 まぶたの裏から光が収まっていくのを感じていると、ヒューコンから通知が来ていた。

 体に異常を検知しました。スキル『絶望的な滑舌』により、滑舌が悪くなりました……と。

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