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絶望的な滑舌

last update Huling Na-update: 2025-01-27 02:46:01

 スキル『絶望的な滑舌』を授かったみたいだ。

 ヒューコンは、常に体の状態を監視していて、重大な変化が起こった時には自動で教えてくれる。

 その機能によって、どんなスキルを授かったのかが分かるのだが、俺が獲得したのは滑舌が悪くなるだけの大ハズレスキルだった。

勇太:『絶望的な滑舌』ってスキルを手に入れました。

コメ:ダメそうw

コメ:どういうスキルなんですか?

勇太:絶望的に滑舌が悪くなるみたいです。

コメ:どうすんのそれw

コメ:終わったな……。

 目を開けてみると、高級そうな赤い絨毯が敷き詰められた広場だった。

 壁には、美しい女性や騎馬に乗った騎士が描かれた巨大なステンドガラスが何枚もはめ込まれており、そこから色鮮やかな陽光が差し込んでいた。

 その下には、鈍く光る金属鎧姿の騎士らしき人々や、暗色のローブを身に纏った怪しい人達が立っていた。

「何なのだ今の光は! もしや、そなたは伝説の勇者なのではないか?」

 声がする方を見ると、黒髪に白髪が混じった偉丈夫が、玉座のような椅子に大股を開いて座っていた。

 その男は、仕立ての良い派手な衣装を身に纏まとい、豪勢な装飾品がついた金色の王冠をかぶっている。

 筋骨粒々で背が高いのだが、その割りに顔が小さい。

 鼻筋が通っており、顎がしっかりした美しい顔立ちをしている。

 四十代半ばに見えるその男性は、目が合ったはずなのにしばらく無言を貫く俺を見下ろしながら、心配そうな面持ちで自分のあごひげをなでていた。

勇太:勇者じゃなくて勇太なんですけどねw

コメ:草生やしとる場合か!

コメ:やめい!w

コメ:おもろw

 ふと視聴者数を確認すると、二十一人になっていた。

 会話が出来ないのは不安だったが、いざコメントをしてみたら意外と楽しい。

「何なのだ今の光は! もしや、そなたは伝説の勇者なのではないか?」

 おそらく王様であろう人物が、心配そうにこちらを見ている。

 俺がコメントと会話をしていたせいで、まさか自分が無視されているのではと不安になったのだろう。

コメ:二回目?w

コメ:勇太さんが答えてあげないからw

「ぢょうみょ、きょんにちは!」

※どうも、こんにちは!

 まずは挨拶と思い口を開いたのだが、自分でも何を言ってるのか分からないほどに活舌が悪い。

 コメントの人たちも、ヒューコンの翻訳機能を通した文字でしか俺の言葉を理解できないのではなかろうか。

 ……とんでもないことになってきたぞ。

勇太:何これ?

コメ:滑舌悪すぎワロタwwww

コメ:ハズレ中のハズレやないか!w

「おお、やはり勇者であったか! 魔王が猛威を振るいし時、光の中から救国の勇者が現れると伝承にあるのだ! 余はジャックス王国の国王、エディウバ・ジャックス三世である!」

 こっちの心情などお構いなしに、エディウバ国王が話しかけてくる。

 正直なところ、さっさとリセットしたい。

 しかし、自分でも活舌が悪すぎることが面白く、リスナーも楽しそうにしているので、どこでやめるかが問題だ。

コメ:救国の勇太w

コメ:それやめてwww

勇太:こっちは救いようのない活舌なんですけどね

コメ:馬鹿だこいつw

コメ:ワロタ

 どうやら俺がワープしてきたのは、ジャックス王国の王城の中だったみたい。

 異世界で初めて会話した相手が国王って、とんでもないことになっている気がする。

 魔王を倒す勇者というのは、ロールプレイングゲームのようでワクワクする設定ではあるのだが。俺のスキルがタイキンさんと同じ勇者だったなら、バズりにバズっていたに違いない。

 このまま冒険を続けたいところだけれど、流石にこのスキルでは戦えないからなぁ。

 アタリのスキルが出るまでこの場所でリセマラするのもありかもしれない。

「ところで勇者よ、そなたの名は何と申す?」

「ゆうちゃでぃしゅ!」

※勇太です!

 しばらくリアルロールプレイを楽しむとするか。

 王に問われ、大きな声で自己紹介する。

「ほう、『ユートルディス』と申すか。実に勇者らしい勇敢そうな名前であるな!」

 だが、絶望的な活舌が悪さして、俺は異世界チックな別人になってしまった。

勇太:え?

コメ:飲み物吹いたんだがwwww

コメ:おい、勇者ユートルディスが爆誕したぞwww

コメ:面白すぎて切り抜いたわ!w

 確かに今のやりとりは漫才みたいだった。

 切り抜きがバズってくれるかもしれない。

 でも、魔王どころかその辺の雑魚モンスターと戦っても死にそうな気がするし、ここはやっぱりリセットしかないと思う。

 魔王を倒す勇者……みたいな設定の異世界にワープしてきたからには、配信向きのスキルではないよな。

勇太:このスキルは流石にキツイんで、リセットしてもいいですかね?

コメ:このまま魔王倒したら三億のマネーチャットするけど?

勇太:え?

コメ:三億キター!

コメ:いけ! 勇者ユートルディス!

 三億だって?

 本当かどうか分からないけど、人生が変わる程の大金だぞ……。

 動画で、リスナーのチャレンジに成功したら5億円貰えたってのがあった。

 このままリセットしたら、こんな一攫千金のチャンスは二度と来ないかもしれない。

 命を取るか金を取るか……か。

 俺は、平凡を捨てて刺激を取ったんだ。

 ここで逃げたらバイトの店長に申し訳ないよな!

「勇者ユートルディスよ、世界は魔王により滅亡の危機にある。どうか我々に協力してもらえんだろうか?」

 俺の決意を確かめるかのように、王様が協力を要請してくる。

「ひゃい! みゃおうをちゃおしみゃしゅ!」

※はい! 魔王を倒します!

 答えは当然イエス。どうなるかは分からないが、やれるところまでやってみよう。

コメ:無理だろwww

コメ:お前に何が出来んねん!w

勇太:俺、三億欲しい……。

コメ:馬鹿だこいつw

「ふむ、心強い。ランデルよ!」

「はっ! ランデルであります!」

 王様に名を呼ばれ、青い鎧に身を包む白髪の老兵が歩み出る。

 そして、玉座に続く階段の下でひざまずいた。

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    Huling Na-update : 2025-01-27
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    Huling Na-update : 2025-01-27
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    Huling Na-update : 2025-02-11
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    Huling Na-update : 2025-02-14
  • 異世界で配信始めます〜滑舌が悪くなるスキルのせいで、魔王を倒すことになりました。勇者じゃなくて勇太なんだが?〜   マネーチャットきたー!

    「ユートルディス殿、起きて下され!」 ランデルの馬鹿でかい声が響く。  俺を揺さぶり起こそうとしているらしい。肩を押されるたび、首が右へ左へ傾いて、兜と鎧がガキンガキンと音を立ててぶつかる。  このジジイ、力が強すぎないか。もしも俺が赤子だったら、揺さぶられ症候群で命を落としていた自信がある。「お、ちゅいちゃきゃ?」 ※お、着いたか? このままで頸椎がいかれてもおかしくない。しょうがなく目を開ける。  首が寝違えたように突っ張っているし、長時間座っていたおかげで腰が悲鳴を上げていた。  そして何よりお尻が痛い。  移動中くらいこの重すぎる装備を脱がせて欲しい。  大昔に、正座をした人間の|ふとももの上に岩の板を乗せる刑罰があった気がする。  この重たい鎧を着せられた状態は、それと同様の拷問だと言われても納得できる。コメ:勇者ユートルディスキター! コメ:恐ろしい速さで首揺れてたぞw 勇太:おはようございます。目覚まし時計になった気分です。 コメ:切り抜きから来ました! コメ:目覚ましユートルディスで草 コメ:初笑い記念【二千円】 勇太:え、えええっ! マネチャありがとうございます! コメ:ワースレから。 目覚めた瞬間からコメントの勢いが凄い。  初めてのマネーチャットも頂いてしまったし。  ……え?  視聴者数が三百人を超えている?  登録者数千五百人だと?  コメントに切り抜きとワースレって書いてあったし、もしかしてバズったのかもしれない。   「ランデル殿に伝令、上空にワイバーン三体を確認しました! このまま進めば戦闘は避けられません!」 偵察兵が大慌てでランデルに報告している。  この部隊には、偵察隊という周囲の状況を確認して報告する特殊な役目を持った兵士が存在する。  部隊の遥か前方を広範囲に網羅し、不意打ちされるリスクを極限まで減らすのが偵察隊の役目となっている。  馬に乗り広範囲を索敵する偵察騎馬兵が五名、中

    Huling Na-update : 2025-02-17
  • 異世界で配信始めます〜滑舌が悪くなるスキルのせいで、魔王を倒すことになりました。勇者じゃなくて勇太なんだが?〜   ワイバーンがでかすぎる

     俺もよく異世界配信は見ていたほうだが、このサイズのワイバーンは初めて見た。  こんなのもはやドラゴンじゃないか。コメ:この世界のワイバーンでかくね? コメ:ユートルディス、フォトンセイクリッドだ!w コメ:早くリセットで逃げろ! ワイバーンは、俺達を敵と認識したのだろう。  耳をつんざく金切り声を上げて威嚇し、その鳴き声で大気を震わせた。そして俺は、おもらしで股間を濡らしそうになった。「勇者殿、装備をお持ちしました!」 地面に這いつくばる俺の元に、騎士の一人がやってきた。俺の両脇を抱えて持ち上げる。  重い金属鎧を着た成人男性をこうも軽々立ち上がらせるとは。こいつもまたすごい力だな。  そして、俺に闇払いの盾ルミエールシールドと聖宝剣ゲルバンダインを差し出してくる。何度見ても神々しい装備だ。とてつもないチート性能だとしても疑わない。だが、今の俺に盾は必要ないし、剣も要らないぞ。「さあ、お早く!」 騎士が俺の指を一本ずつ伸ばしていく。不必要なものを無理矢理持たせようとしてくる。  俺なんかの握力じゃ抗うこともできず、強制的に勇者ユートルディスの完成だ。  はい、両腕ブラーン状態の案山子になりましたよーっと。 一刻も早くリセットしたいのは山々だが、今リセットするとミラージュアーマーを着たまま帰還してしまう。  命の危険があった事を伝えて、持ち帰った物を全て返却する意思を表明すれば刑は軽くなるのだが、それでも刑務所行きは確定している。  ……まあ正直なところ、魔法部隊がワイバーンを倒してくれれば三万円分のマネチャが貰えるのではと期待しているだけなのだが。 「全魔法部隊、攻撃開始じゃああああああ!」 ランデルの号令を皮切りに、魔法使いの杖が光り輝く。空中に色とりどりの魔法陣が浮かび上がった。  火の玉やら氷の槍やら様々な魔法が発現し、ワイバーンに向かって飛んでいく。 放たれた火の玉は、涙型に形を変え、尾を引くように弧を描く。真っ赤に燃えた炎の線が、オレンジ色のグラデーションを作り上げた。  

    Huling Na-update : 2025-02-19
  • 異世界で配信始めます〜滑舌が悪くなるスキルのせいで、魔王を倒すことになりました。勇者じゃなくて勇太なんだが?〜   小休止

     ワイバーンとの激闘を終え、小休止をしながら食事を取ることになった。 この時点で視聴者数は千人を超え、登録者は三千人以上。今日貰ったマネーチャットとサブスク報酬を合わせたら、先月のバイト代を余裕で超えている。 周囲を見回すと、先の戦闘で少なからず怪我をした者が居たらしい。 肩を大きく抉り取られた騎士に、衛生兵がポーションを振りかける。緑色の蒸気が発生し、みるみるうちに傷口が塞がっていく。その上から包帯を巻いていた。現代医療も真っ青だ。 それ以外の騎士や魔法使い達は、火を起こしたり、鍋を準備したり、かまどを作って鉄板を敷いたりと、忙しなく動き回っている。「ユートルディス殿、知っての通り残虐の王ネフィスアルバは四天王の中でも最弱と言われておりますが、身の丈を超える巨大な魔剣による一撃が非常に強力です!」 そして俺はというと、なぜかランデルから四天王戦に向けての作戦を相談をされていた。 戦闘に関して何の知識も無いこの俺が、何を答えればいいのだろうか。突っ立ってればいいんだよとでも言わせるつもりなのだろうか。あまり頭に話が入ってこない。「ぢょりぇきゅりゃいきょうりょきゅにゃにょ?」※どれくらい強力なの? 知っての通りと言われても、こっちは前情報無しなんだよね。ヒューコンで探ってみても、ネフィスアルバは四天王ですとしか出てこない。ランデルから聞くしかないだろう。「ネフィスアルバが最後に姿を現したのは半年程前なのですが、その時は魔剣を振り下ろした衝撃波でライラットの街が消し飛んだらしいですな。まあ、ユートルディス殿なら楽勝でしょうが」 なるほど、剣で街を壊滅させる程度の相手か。 じゃあユートルディスならいけるかもね。 ……って、そんなわけあるか!「ひぇー、しょうにゃんりゃ……」※へー、そうなんだ……「そこでなのですが、ワシと騎兵でネフィスアルバの注意を引き、攻撃し続けることで隙を作ります。無防備となった奴の背後から、ユートルディス殿の強力な一撃で仕留める

    Huling Na-update : 2025-02-21
  • 異世界で配信始めます〜滑舌が悪くなるスキルのせいで、魔王を倒すことになりました。勇者じゃなくて勇太なんだが?〜   食レポの才

    「どうなされましたユートルディス殿? ワイバーンの肉は非常に美味でして、富豪達がこぞって買い集めるほどです。特にこの眼球は鮮度が命なので、滅多に市場に出回らない希少部位なのですぞ!」 ランデルが不思議そうな顔で、料理に手を付けようとしない俺に話しかけてくる。 ワイバーンの肉の美味さを説明されたところで、目玉も同じように考えられると本気で思っているのだろうか。 だったら肉が食べたいんだけど。なんで美味い肉の部分じゃなくて希少な部位を出されるんだよ。有名なカレー屋さんで親子丼を食べさせられる気分だ。 給仕係りもランデルも俺が食べるのを待っているみたいだし。……でもこれを食べたらマネチャが貰えからなあ。 よし、腹を括ろう。いくらなんでも勇者に食えないものを出すはずがない。 ワイバーンの眼球をフォークで刺す。意外にもシリコンのような感触で、持ち上げてもしっかりと形を保っていた。  俺は、心の中で十字を切りながら巨大な目玉にかじりつく。「うっわあ……。しょっきゃんはしゅぎょきゅきみょちわりゅいきぇぢょ、ちょんぢぇみょにゃきゅうみぇえ。きょりゃうんみぇえわ!」※うっわあ……。食感はすごく気持ち悪いけど、とんでもなくうめえ。こりゃうんめえわ! 思わず叫んでしまうほどの美味さ。 しかしこれは未知の食材。分かりやすくリスナーに伝えなくては。コメ:え、美味しいの?勇太:かぶりついた時のムチュンという食感が気持ち悪く、不快感を感じる。しかし、熱で白く変質したゼラチン質の目玉を咀嚼した途端、口内に上品かつ濃厚な旨みが広がる。これが、今までに経験した事のない脳に電流が走るかのような強烈な旨みで、考えるより先に喜びの声が自然と口から漏れ出してしまった。この味が何に似ているかと聞かれても例を挙げるのは難しいけれど、似ている食材をあげろと言われたら白子だろうか。茹でたタラの白子を食べた事があるが、あれを二千倍美味しくした食材と考えてみて欲しい。コメ:一瞬でこの感想が出てくるセンスwwwコメ:口から出た感想は頭悪そ

    Huling Na-update : 2025-02-23

Pinakabagong kabanata

  • 異世界で配信始めます〜滑舌が悪くなるスキルのせいで、魔王を倒すことになりました。勇者じゃなくて勇太なんだが?〜   火事場泥棒

    「よし、逃げるぞ!」 王様の口から、王とは思えないセリフが聞こえた。 闇皇帝を倒した後の事は、何も考えていなかったようだ。 ランデルが部屋を飛び出し、王様が後に続く。 俺は体が重くて走れないので、異変に気付いた黒い騎士に見つかったら捕まってしまうだろう。 この心配が杞憂に終わるといいのだが。 ゆっくりと歩いているが、今のところ人の気配は無いようだ。「どういうことだ!」「こ、これは!」 玉座の間から叫び声が聞こえた。 王とランデルが眷属に囲まれているのかもしれない。 ようやく追いついた俺は、二人を囮にして逃げる事を考え、壁に隠れながら様子を伺う。 部屋の中央で周りを見渡す王様と、訝しげな表情で黒い鎧を抱えるランデルの姿が見えた。 先程まで壁沿いに立っていた眷属達の姿が見えない。 その場所には、黒い鎧が散らばっている。 闇皇帝キディス・メイガス・ドラキュリオが死んだ事で、その眷属も一緒に消滅したのかもしれない。 城の外に出てみると、空は青く澄み渡っていた。 光を遮っていた闇のカーテンは消滅しており、陽光が街を照らしている。 ドラキュリオ帝国が滅びた事を表していた。「王よ、どうせなら闇皇帝のコレクションを持ち帰りませんか?」「それもそうだな! ランデルよ、天馬車に詰め込むのだ!」 不穏な会話が聞こえた。 立場のある二人が空き巣のような真似をする筈がないと耳を疑ったが、ジャックス王国最強騎士とその王様は、剣を抱えてエッサホイサと往復を始めた。「おいランデル! 金貨もあるぞ!」「やりましたな!」 暗殺のような形だったが、戦争に勝ったと考えれば勝者の権利を享受しているにすぎないのだろう。 だが、ホクホク顔で走り回る二人を見ると、犯罪の片棒を担がされたような気持ちになる。 空き巣というより、これは強盗殺人かもしれない。 天馬車に限界まで剣を詰め込んだ重鎮二人が、やり遂げた顔で額の汗を拭いている。

  • 異世界で配信始めます〜滑舌が悪くなるスキルのせいで、魔王を倒すことになりました。勇者じゃなくて勇太なんだが?〜   嫌だと言いましたけどね

     戦闘が終わると、兵士達が街道に散らばる緑の死体を一箇所に集め始めた。  ゴブリンの死体は食べる訳にもいかず、放置しては腐敗による悪臭や他のモンスターを呼び寄せる原因にもなる為燃やすしかないらしい。  魔法使いが火を放つと、肉の焼ける嫌な臭いが広がった。  立ち昇る黒い煙がどこか怨念を含んでいるようで、背筋に寒気を覚えた俺は、その光景を見続ける事が出来なかった。「わっ……私は、パパの顔って可愛い? ……と思いますけどねっ!」 アルが気を遣って俺を励ましてくれたが、あんまり頭に入ってこなかった。   コメ:おい! 何か言うことがあるんじゃないか? コメ:ふぅ。 コメ:勇太、見えてるんだろ? コメ:リーダーどこー? コメ:ふぅ。 コメ:緑色の勇太が居たなー? んー? 勇太:オレ ゴブリン オマエラ スマン コメ:馬鹿馬鹿しくてワロタwww コメ:しょうもなw コメ:俺は結構好きwww 俺の心に大きな傷を残した悲惨な事件があった気がするが、何事もなかったかのように行軍が再開された。 馬車が森を抜けると、小高い丘の上に聳え立つ巨大な城と、その麓に栄える街並みが見えた。  これからは城下町に行く機会が増えるだろうし、タイキンさんのように商品紹介なんかをやってみるのもいいかもしれない。  城での生活は長くなりそうだが、視聴者が楽しめるような企画を考えていくつもりだ。  『王様にドッキリをしかけてみた』なんてどうだろうか?  不敬すぎて首を刎ねられるかもしれないな。  さっきのゴブリンリーダーのように。 馬車は跳ね橋を渡り、巨大な城門を潜り抜ける。  そのまま街中を通り、緩やかな坂道を登っていく。  石畳の広場で馬車が停止した。「これより王に面会する! 部隊は解散せよ!」 兵士達が俺に一礼しながら去って行く。  中には俺に握手を求める者までいた。  いよいよ、新しい生活の始まりを感じる。

  • 異世界で配信始めます〜滑舌が悪くなるスキルのせいで、魔王を倒すことになりました。勇者じゃなくて勇太なんだが?〜   不知火

     中に入ると広場になっており、赤い絨毯が敷き詰めてられていた。 もしかすると、この世界の城は全てこのスタイルなのかもしれない。 壁沿いに黒い騎士が立っており、壁には光を取り入れる為の窓が無い。 入り口と反対側に一段高くなった場所があり、骸骨が集められたかのような意匠を施された禍々しい石の玉座が配置されていた。「ジャックス王ヨ、久しいナ! また少し老けたのではないカ? 死が恐ろしければいつでも眷属にしてやるのだゾ?」 広場全体に響き渡る声。 石の玉座に無数の蝙蝠が集まると、蠢く黒い塊は人になった。「だーっはっはっはっは! 冗談を言うな! ドラキュリオ皇帝、急な頼みで申し訳なかった! 寛大な配慮に感謝する!」 ジャックス王は、その光景がさも当然かのように会話を始めた。 親交が深いのか、仲が良さそうに見える。 とても今から殺し合いを始める雰囲気とは思えない。 闇皇帝キディス・メイガス・ドラキュリオは、誰もが見惚れる完璧な容姿をしていた。 緩やかに波打つプラチナブロンドの長髪、吸い込まれるようなシャンパンゴールドの瞳、白磁のような肌、そして非の打ち所がない造形美。 紫色の燕尾服が、スラリとした長身を際立たせている。 欠点があるとしたら、ねっとりとした話し方がナルシストっぽくて気持ち悪いところだろうか。コメ:はぁ……闇皇帝様……しゅきぃコメ:なんというイケメン!コメ:勇太がゴミに見えるなwwwコメ:ゴブリンとヴァンパイアを比べてやるなってw勇太:見た目はそうですけど、あの喋り方キモくないですか?コメ:おまいうコメ:だから張り合うなってwwwコメ:蟻が象に挑むようなもんだぞw「早速本題に入りたいのだが、内容が内容なのでな。落ち着いて話せる場所に案内して貰いたいのだが?」「いいだろウ! 私のコレクションでも見ながら話さないカ? たまには自慢させておくレ!」 王が言う本題とは何なのだろうか。

  • 異世界で配信始めます〜滑舌が悪くなるスキルのせいで、魔王を倒すことになりました。勇者じゃなくて勇太なんだが?〜   ドラキュリオ帝国

     強い風を感じて目が覚めた。 いつの間にか椅子の上で横になっていたようで、目の前にはランデルと王様が座っていた。 前後左右に揺れている感覚があるが、箱馬車の中にでも居るのだろうか。 白い車内に赤い椅子とメルヘンチックだ。 どうやら、気絶している間に連れ出されてしまったらしい。 ふと視聴者数を見ると、四千人に減っていた。 最近は、何もなくても二万人前後が見てくれていたのだが、アルとナタリアが周りに居ないとここまで少なくなってしまうみたいだ。 一時期、一桁台にまで落ちてコメントが無くなってしまった事を考えれば、俺だけの配信でもこれだけ集まってくれるのは素直に嬉しいのではあるが。コメ:お、起きたか?コメ:大変な事になってるぞ!コメ:外見ろ外!コメ:勇太くん、リセットせなきついで?コメ:今回はさすがに死んじゃうかも。コメ:早く外見ろ! なんだかコメントが騒がしい。 目の前のランデルも王様も和やかに会話をしているというのに、何故リセットする必要があるのだろうか。 寝転がりながら窓を見ると、今日の天気は快晴のようだ。 こういう日は、俺の心も晴々とした気持ちになる。 少し肌寒いが、青々とした空がとても綺麗だ。 さぞ景色も輝いて見えることだろう。 起き上がって窓の外を見てみると、俺は空に居た。「にゃんぢゃきょりゃあああああああ!」※何だこりゃあああああああ! 木も、街も、山すらも小さく見える。 切り立った岩山、青々とした平原、森の中に佇む奇岩、上空から見る世界は壮大で、言葉に出来ないほど美しい。 時折雲を突き抜け、景色が流れるように変わっていく。 なかなかスピードが出ているようだ。 ……どうしてこんな事になっているのだろうか。「ユートルディス殿、お目覚めですかな?」「勇者よ、まもなくだぞ。気を引き締めよ!」コメ:だから言ったじゃん!wコメ:睡眠時三

  • 異世界で配信始めます〜滑舌が悪くなるスキルのせいで、魔王を倒すことになりました。勇者じゃなくて勇太なんだが?〜   ゴブリン襲来

    「ハゲちゃん、お城に着いたらベッドで寝れるかな? あたし、またフワフワしたい!」「城のベッドは、もーっと柔らかいじゃろうな。しばらくは毎日気持ちよく眠れるのうナタリア」「本当? あたし楽しみ!」 ジークウッドの街でベッドを経験してから、ずっとこんな感じだ。 初めてベッドに横になったナタリアは、寝そべりながら空に浮いているみたいと感動していた。 俺達は今、森の中を走っているのだが、ここを抜けたら城が見えてくる。 闇皇帝ドラキュリオを倒すには色々としがらみがあり、準備期間中は城で過ごすことになるというランデルの話を聞いたナタリアが期待に胸を膨らませているのだ。 このまま順調に進めば、昼過ぎには城に到着するだろう。 俺としては、ベッドよりも国お抱えのシェフが作るご飯の方が気になっている。コメ:当たり前の幸せすら与えてやれない勇太を許してあげてねナタリアちゃん……。コメ:こっから一年近く城で暮らすんだっけ?コメ:近くにダンジョンとか無いのか? 同じ場所で同じ日常を見続けるのはきついぞ?コメ:いやいや、勇太が戦えるわけ無いだろwコメ:ゴブリンてスライムより弱いんだっけ?コメ:ワロタwww コメントの言う通り、俺も長期間冒険が出来ない事を危惧している。 変わり映えの無い毎日という、俺が捨てたものを見せてしまう事になる。 この世界に来る前とは違い、今の俺にはアルとナタリアという家族がいる。 つまらない日常とはならないだろうが、それは俺にとってであり、視聴者からすると退屈かもしれない。  俺が選んだラドリックという世界にも、タイキンさんが活躍しているようなダンジョンは存在している。 元々、タイキンさんのような配信をしたくてこの世界を選んでいるからだ。 城の近くにダンジョンがあるかは分からないが、俺に倒せるのはスライムくらいだろう。 いや、スライムすら倒せないかもしれない。 ゲームのようにレベルという概念があればいいのだが、それが無い以上は難し

  • 異世界で配信始めます〜滑舌が悪くなるスキルのせいで、魔王を倒すことになりました。勇者じゃなくて勇太なんだが?〜   食レポゴブリン

     宿の近くで飯屋を探していると、一際賑やかな客引きが居た。「楽しい食事を体験してみない? 旅の思い出になること間違いなし! 今だけオープン記念でお得に食べれるよ!」「ダディ、楽しい食事だって! あたしあそこの店がいいかも!」「ちゃしきゃにきににゃりゅにぇ!」※確かに気になるね! まだ空席があったようで、すぐに案内してくれた。 オープンしてまだ三日しか経っていないらしい。 コース料理の店なので、酒場でワイワイやりたい客層が多いジークウッドの街ではイマイチ客の入りが良くないのだとか。 店内は、テーブル席が六つの暖かい雰囲気で、厨房に居るやけに体つきがいい角刈りの男がミスマッチだった。「メヂールのカルパッチョだ。緑の皿から食え」 角刈りが料理を運んでくれた。 マグロに似た薄切りの魚が花の形に盛り付けられ、サラダが添えられている。 ドレッシングで半円状に模様が描かれていて、見た目でも楽しませてくれるようだ。 とても目の前で腕を組んでいるゴリラのような男が作ったとは思えない。 何故この男は料理を運んだ後も俺たちのテーブルの近くで仁王立ちしているのだろうか。 そして何故全く同じ見た目のカルパッチョが二皿ずつあるのだろうか。 |縁《ふち》が赤と緑の二種類の白い皿がある。「早く食え」 角刈りが急かしてくる。 この店が流行らないのはこいつのせいなんじゃないか?「何これ! 全然違う!」「本当ですねっ! 見た目も味付けも全く同じなのに、何故でしょうかっ?」 二つの皿を食べ比べたナタリアが驚きの声を上げている。 アルは、片方の皿から一口食べて目を瞑り、別の皿から食べて首を傾げている。「ほう、分かるかい?」 ゴリラの表情は変わっていないのだが、声のトーンが一つ上がった気がする。 よく見るとソワソワしていて、少し嬉しそうだ。コメ:勇太早く食えよ!コメ:ウホウホ言ってる奴をお前の舌で黙らせろ!

  • 異世界で配信始めます〜滑舌が悪くなるスキルのせいで、魔王を倒すことになりました。勇者じゃなくて勇太なんだが?〜   思い出の地

    「ランデル殿に伝令、ジークウッドの街に到着しました!」「見張りは交代で、それ以外は自由行動! 今日は羽目を外して、精一杯英気を養え!」 オウッティ山脈を出発してから六日経ち、夕暮れ時にジークウッドの街に到着した。 兵士達も疲れや色々な物が溜まっているだろうということで、今日は街で一泊する。 こういう時は鎧を脱がせてもらえるし、久々に野営の硬いゴザのようなマットではなく宿屋の柔らかいベッドで眠れるのは嬉しい。 ナタリアは生まれて初めてベッドで眠ることになる。 そう考えると不憫でならない。コメ:ずっと思ってたんだけど、配信方式が視界共有だと勇太くんが寝る時に画面が真っ暗になるから、睡眠時は三人称にしてくれん?コメ:あ、俺もそれ思った!コメ:ワーキャスの自動設定で変えれるで?勇太:俺と一緒に寝て、俺と一緒に冒険して、みんなで同じ時間を過ごせると思ってたんですが。コメ:誰がお前の生活リズムに興味あんねん!wコメ:アルちゃんとかナタリアたんの寝顔見たいんじゃこっちは!コメ:これがゴブリンの思考かwwwコメ:ゴブトルディスはよ設定変えろ!コメ:ゴブトルディス草 ナタリアとランデルのディベートから、コメントが面白がってゴブリン呼ばわりしてくる。 まだこの世界のゴブリンを見た事が無いのにも関わらずだ。 結構傷ついてるんだからな!「ユートルディス殿! 前回は一緒に行動しましたが、今回はどうします? ワシはいつものアレに行きますが」「おりぇはありゅちょにゃちゃりあちょきょうぢょうしようきゃにゃ。きゃにぇぢゃきぇきゅりぇ!」※俺はアルとナタリアと行動しようかな。金だけくれ!「そうですか。ユートルディス殿も丸くなったもんですな……」 一緒に夜遊びしたのは一度きりの筈なんだけど、このジジイは俺の何を知っているのだろうか。 日本で暮らしている時も安月給だったから、楽しみといえば配信を見るぐらいしか無かったのだが。 まあ、こいつは俺をゴ

  • 異世界で配信始めます〜滑舌が悪くなるスキルのせいで、魔王を倒すことになりました。勇者じゃなくて勇太なんだが?〜   ディベート勝負 後編

    コメ:なんか緊張してきたなwコメ:議題がしょうもないけど楽しみだわ。勇太:俺がカッコいいとかダサいとか自分で言うの恥ずかしいんですけど。コメ:たしかにwwwコメ:じゃあ何でその議題にしたんだよ!wコメ:何で勇太だけ罰ゲームになってんの?w「しょきょみゃぢぇ! しぇんきょうにゃちゃりあ、いきぇんをぢょうじょ!」※そこまで! 先攻ナタリア、意見をどうぞ!「カッコいい男って、あたしは思いやりがあって頭がいい人だと思う。 今着ている服はダディが買ってくれたんだけど、あたしがママみたいに可愛い服を着たいって気付いてくれて、服屋さんに連れて行ってくれたの。 高級店で高い服だったのに、あたしが店の中で悩んでたのを見てくれてて、似合うからって三着も買っちゃって。 その時ね、あたし実は見てたんだよね。 会計の時に、ダディのお金が無くなっちゃったのを。 ダディったら、自分の服も買わなきゃいけないのを忘れて、全部あたしとママの服にお金を使っちゃってたんだから。 気付かないフリして次のお店に行ったんだけど、そこの服も可愛くって、ついダディに欲しい服を見せたら、買うって言うの。 お金も無いのにどうするんだろうと思ったら、機転を利かせてハゲちゃんに買ってもらっちゃったんだよ? あたしのダディは、優しくて、頭が良くて、世界一カッコいいんだから!」「……うん、うん。ちょっちょみゃっちぇにぇ」※……うん、うん。ちょっと待ってねコメ:え、勇太くん泣いてる?wコメ:きしょwコメ:ナタリアちゃんええ子や!【一万円】コメ:俺もこんな娘が欲しい。【二万円】コメ:この短時間でこんなに上手く話を|纏《まと》められるの凄すぎんか?【一万円】コメ:このプレゼンに勝つの無理じゃね?wコメ:いい話だけど、勇太は頭良くないよな?コメ:言っちゃダメ!www「しょりぇぢぇは、りゃんぢぇりゅきゃりゃしちゅぎを!」※それ

  • 異世界で配信始めます〜滑舌が悪くなるスキルのせいで、魔王を倒すことになりました。勇者じゃなくて勇太なんだが?〜   ディベート勝負 全編

    「伝令兵はすぐに出発しろ! 補給はジークウッドの街で一度のみ、最短で城へと戻るぞ!」 待機部隊と合流し、短い作戦会議の後すぐに出発する事になった。 もちろん俺はその作戦会議に呼ばれていない。 これから二週間近くかけて城に戻るのだが、馬車の中でランデルから作戦について教えて貰った。 足の速い馬五頭を選び、先に五人の伝令役を城に向かわせることで、ジャックス王に闇皇帝キディス・メイガス・ドラキュリオ討伐の準備を整えて貰うらしい。 俺達が城に到着するより五日程度早く伝令兵が報告する予定だ。 ジャックス王国含む三カ国程度で同盟を組み、一気にドラキュリオ帝国を攻め滅ぼす大規模な戦争になるかもしれないとランデルが言っていた。 ジャックス王国には既に魔王軍のスパイが潜入している為、秘密裏に動く必要があり、実際に戦争が起こるまでには一年以上かかる可能性があるとも言っていた。 異変に気付いたドラキュリオ帝国側が何か手を打ってくる事もあり得るので、不測の事態に備えた緊張状態がしばらく続きそうだ。 この話を聞いていたアルは、馬鹿馬鹿しいと鼻で笑っていた。 アルが言うには、ヴァンパイアである闇皇帝は太陽の光に弱いので、夜もしくは自身が発生させた闇の中以外では全力で戦えないらしい。 昼間に闇の外から焼き殺すか、俺が聖なる勇者の力で闇を祓えば一瞬で終わると自信満々の顔で言い放っていた。 ナタリアが俺に尊敬の眼差しを向けていたので心が痛かった。 ちなみに、全力の闇皇帝にはアルでも勝てないらしい。 俺なら勝てるらしいが。 ナタリアのマルーン色の目がキラキラと輝いていたので、罪悪感で胸が苦しくなった。コメ:へぇ、勇者ユートルディスってそんなに強いんだね!コメ:俺達は|欺《あざむ》かれていた?コメ:まあ、四天王の半分はユートルディスがなんとかしちゃってるもんな。勇太:ジャンケンなら勝てるかもしれませんね。コメ:つまんなすぎて草コメ:ユーモア忘れてきた?コメ:勇太くんおもしろーい!(真顔)「ねえねえダディ! 

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