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第6話「再出発、もう一度」

作者: fuu
last update 最終更新日: 2025-09-06 01:29:00

人が帰ってきた街は、不思議とあたたかかった。

笑い声が響く。

誰かが誰かの名前を呼ぶ。

食べ物の香りや、洗濯物の匂いが、風に混ざっていた。

たった一日で、こんなにも変わるものかと——

でもそれは、ずっと眠っていた命が“世界を取り戻した”証拠だった。

「ねぇナギ、なんか……照れるね」

「なんでだよ」

「だって、世界ひとつ、救っちゃったんだよ? 私たち」

「俺たち、か。そうだな……思ったより、やれるもんだな」

廃ビルの屋上で、俺はリィナを背に感じながら空を見上げる。

夕焼けが、真っ赤だった。

けれどそれは、昨日とは違って見えた。

「ナギ」

「ん?」

「……ありがとう」

「何だよ、いきなり」

「前はさ、私が引き金を引いて、ナギが戦ってくれた。でも今は、ナギが撃って、私が力を貸して……」

「役割が逆になっただけだろ」

「そうだけど……でも、ナギが“私を信じて撃ってくれる”ってことが、なんか、すごく嬉しくて」

「信じてるさ」

「えっ、な、なにその即答!?」

「だってお前、リィナだろ?」

沈黙が少しあって——

「……ふふ、うん。私、リィナだよ」

照れ笑いみたいな声が聞こえて、俺もつられて笑った。

そうしていると、不意に背中の銃が淡く光り出す。

「ナギ、次の“扉”が開いた」

「また移動か?」

「うん。“次の歪み”、見つかったみたい」

俺は深呼吸する。

この街は、もう大丈夫だ。

眠っていた命も、笑顔も、ちゃんとここにある。

だから、次へ行こう。

「よし、じゃあ行こうか」

「うんっ!」

白銃が、背中で優しく震えた。

気づけば、足元に光のサークルが浮かんでいる。

まるで魔法陣みたいに、青白く輝いていた。

「ねえ、ナギ」

「なんだ?」

「次は、どんな世界かな」

「また変なのだといいな。お前が驚く顔、面白いから」

「むー! 神様に対して失礼!」

そんな軽口を交わしながら、俺たちは光に包まれた。

新たな世界へ。

まだ見ぬ“歪み”を正すために。

俺たちの旅は、これから何度でも——

何度でも、始まり続ける。

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