「杉崎さん⋯⋯突然殺されて不本意かもしれませんが、あなたも悪いですよ。加害者を非難できないくらい、あなたも見た目でしか人を判断できない最低な人です」
目の前の女神のようなカイは私を非難してくる。「だって、私は美しいもの。15年の時を経て不細工になった佐々木太郎と一緒にしないで!」「み、見た目は美しいかもしれないけれど、性格がブスです。絶対に誰からも選ばれませんいよ」美人、ブス問答をすることに何の意味もあるのだろう。
目の前の金髪碧眼のこの世のものとは思えない美しいカイは、まるでブスの代弁者のようなセリフを吐いてくる。
「美しさって何なんでしょうね。見た目など化粧や整形で変えられます⋯⋯」
美しさを具現化したような姿のカイの言葉に私は笑けてきた。「整形しても、化粧しても不細工は不細工だから! あんた、頭悪いの? これって夢?」「頭は悪くないです。顔は悪いけれど、私が1番悪かったのは中身かもしれません⋯⋯夢じゃありません。杉崎さん、あなたは死にました異世界に転生で来ますがいかが致しますか?」目を泳がせながら私に語るカイは見た目とは全然違う性格をしている。
まるで、自分に自信がないブスのようだ。 どれだけ美人でも振る舞いが不細工だと、彼女自身もブスに見えてくる。「異世界に転生? 話を聞かせて貰おうじゃない」
私が言った言葉に挙動不審にカイが頷いた。(美人だけど、キモい女⋯⋯)「あなたが選べる道3つをお示しします。1つ目は断罪直前の悪役令嬢であるリンド公爵令嬢、2つ目は貧しいけれど特殊能力持ちなので貴族界に入る平民レオナ、3つ目は世界を旅するユアンです。さあ、どれを選びますか?」
提案された3つの選択肢はどれも私にとって魅力的ではなかった。
「どれも選ばないわ。私は杉崎美香の人生に別に失望はしてなかったの。運悪くブ男に殺されたみたいだけどね」
私の言葉にカイは苦虫を潰したような顔をした。
「あなたを殺したのは大罪ですが、さ、佐々木太郎さんの言った事は間違ってなかったと思
私は異世界転生案内人『カイ』。今日も私の元に来客が来る。死んだ人間に私は選択肢を示す。異世界に転生できるなら、貴方は次はどんな人生を選びますか? 今日もお客様が来た。 澤村菜々子34歳。 私から見ればとても幸せな人。 私はあと100年くらいすれば、刑期の500年を終えるはずだ。 今まで何人の人の進路の案内をしただろう。 何人分の人生経験を積んだだろう。 早く私は私の人生が生きたい。 ここに来る人間は、横柄で贅沢な人間ばかり。 私ならもっと大切に自分の人生を生きる。 今度、生き返ったら人のために何かをするのもいいかもしれない。 ボランティア活動をしたりしたら、来世では良い選択肢を与えられる気がする。 男は浮気するものだと今の私にはわかっている。 男になど惑わされず自分の人生を生きていきたい。 1人で生きて行くだけのスキルを身につければ問題ない。 運よく美人に生まれてきたら男などあちらから跪いてくるだろう。 もう、2度と搾取される側にはならない。 今の私ならもっと上手くやれる。 早く刑期が終わってくれますように⋯⋯。 私は生きたい! 自分の人生を⋯⋯。 ♢♢♢ 何もかもに恵まれてきた私、澤村菜々子は常に刺激に飢えていたのかもしれない。 美貌も金も生まれながらに持っていた。 静かにしていれば、黄金のレールに乗った人生を生きられた。「菜々子お嬢様は、本当に勇気がないね。ドラッグストアが1番万引きしやすいんだって」 私は小学校5年生の時に、万引きをした。 それは、みんなの仲間だということの証明だった。 ポケットの中にそっと入れたリップスティックが仲間の証。 それで私は仲間と認識された。「私らって、ずっと将来的にもつるんでいるんだろうね」「菜々子様って、金持ちだし将来大物になりそう!」 小学生にして万引きを平気で
「女神様ではありません。私は異世界転生案内人カイです。あなたが選べる道3つをお示しします。1つ目は断罪直前の悪役令嬢であるリンド公爵令嬢、2つ目は貧しいけれど特殊能力持ちなので貴族界に入る平民レオナ、3つ目は世界を旅するユアンです。さあ、どれを選びますか?」「全部、モテなそうですね。選びません。どれもキモい人間の人生です」 私は目を瞑って自分の罪について考えた。 流されてしまった瞬間が確かにあった。 唯一愛したいと思っていた捨てた息子は自分を殺した。 ならば、私の存在には何の価値もない。「モテなければ、キモいですか? あなたがモテた瞬間がありましたか? 高校教師はあなたでなくても若い肉体を持っている女なら誰でも良い人間でした。あなたが結婚相手を条件で選んでいた通り、結婚相手も頭が悪くて扱いやすいあなたを顔だけで選んでましたよ」 カイはとても辛口に私が既に知っている事実を反芻する。私が誰よりも自分に対した価値がないと知っている。「価値はありましたよ⋯⋯少なくてもあなたの親御さんと、息子さんにとっては⋯⋯」 カイは私に苦い言葉を投げかけた「私は、私に価値があると信じた人間を捨て殺されたのですね。もう、何の未練もありません。無になりたいです。私は十分に生き恥を晒しました」 私が「生」への未練を持った瞬間、私は「無」になった。「カイ⋯⋯あなたは裁判官にでもなったつもりですか? あなたに権限は与えられています。しかし、あなたがするべき事は異世界転生を案内する事です」 頭の中でまた声がこだまする。 私は人を裁く裁判官になった気などない。 ただ、目の前に現れる人たちが新しい人生を望んでない。 私は未練を残して死んだが、意外にもそうではない人間が多く存在する。「人を裁いているつもりはありません。私は自分が罪人だと自覚しています。ただ、予想外に死を迎えた人間たちがいて⋯⋯案内人としての役割を自分なりに果たしているだけです⋯⋯」 頭の中にこだまする声に反発するように私は1人呟いた。 この孤独な時間
「仕事をちゃんとしてください⋯⋯転生させるのがあなたの役目です」 頭の中に声がこだまする。 聞いたことがないこの声は神様の声だろう。 私は杉崎美香を異世界に転生させず「無」に返した。容姿に恵まれ意地悪な彼女が私を中学時代に虐めた女に似ていたからだ。「ちゃんとやります⋯⋯すみません。人は力を持つとダメですね⋯⋯」少しの権力を持たせてやると、その人間の本質が分かると聞いたことがある。私は死んだ人間の行先を決められる権力を持ち、それを自分の思うがままに使い始めていた。「あなたに異世界カイは務まらないのかもしれません。このまま無に返しましょうか?」 頭に響き渡る声に震え上がる程の恐怖を感じた。 「無」になりたいと願った事もあったのに、ここで死んだ人間に関わるたびに「生」に執着したくなる。 みっともなくても、生きて何かしたいという感情が湧き起こってくる。 刑期は500年なのに、まだ数日しか経っていない事実に絶望する。「ちゃんと、やりますから⋯⋯どのような方でも自ら神より与えられた命を捨てた私よりは尊い存在だと認識してます」 「無」になるのが怖くて絞り出すように言った言葉と共に、頭の中にこだまする謎の声が消えた。 私は異世界転生案内人『カイ』。今日も私の元に来客が来る。死んだ人間に私は選択肢を示す。異世界に転生できるなら、貴方は次はどんな人生を選びますか? 今日もお客様が来た。 高野茉子29歳。 私から見ればとても幸せな人。 顔が良いだけの男。 体育祭で活躍するだけ足が速くて活躍するだけの男。 口が上手いだけの浮気性の男。 笑顔が可愛いだけの頭の軽い年下。そんな多くのどうしようもない男たちに振り回されて来た人生だった。でも、やっと辿り着いた私の幸せ。「汝 宮坂俊哉は、この高野茉子を妻とし、病める時も、健やかな時も、貧しい時も、豊かな時も、喜びあっても、悲しみあっても、死が2人を分
「杉崎さん⋯⋯突然殺されて不本意かもしれませんが、あなたも悪いですよ。加害者を非難できないくらい、あなたも見た目でしか人を判断できない最低な人です」 目の前の女神のようなカイは私を非難してくる。 「だって、私は美しいもの。15年の時を経て不細工になった佐々木太郎と一緒にしないで!」「み、見た目は美しいかもしれないけれど、性格がブスです。絶対に誰からも選ばれませんいよ」 美人、ブス問答をすることに何の意味もあるのだろう。 目の前の金髪碧眼のこの世のものとは思えない美しいカイは、まるでブスの代弁者のようなセリフを吐いてくる。「美しさって何なんでしょうね。見た目など化粧や整形で変えられます⋯⋯」 美しさを具現化したような姿のカイの言葉に私は笑けてきた。「整形しても、化粧しても不細工は不細工だから! あんた、頭悪いの? これって夢?」「頭は悪くないです。顔は悪いけれど、私が1番悪かったのは中身かもしれません⋯⋯夢じゃありません。杉崎さん、あなたは死にました異世界に転生で来ますがいかが致しますか?」 目を泳がせながら私に語るカイは見た目とは全然違う性格をしている。まるで、自分に自信がないブスのようだ。 どれだけ美人でも振る舞いが不細工だと、彼女自身もブスに見えてくる。「異世界に転生? 話を聞かせて貰おうじゃない」私が言った言葉に挙動不審にカイが頷いた。(美人だけど、キモい女⋯⋯)「あなたが選べる道3つをお示しします。1つ目は断罪直前の悪役令嬢であるリンド公爵令嬢、2つ目は貧しいけれど特殊能力持ちなので貴族界に入る平民レオナ、3つ目は世界を旅するユアンです。さあ、どれを選びますか?」 提案された3つの選択肢はどれも私にとって魅力的ではなかった。「どれも選ばないわ。私は杉崎美香の人生に別に失望はしてなかったの。運悪くブ男に殺されたみたいだけどね」 私の言葉にカイは苦虫を潰したような顔をした。「あなたを殺したのは大罪ですが、さ、佐々木太郎さんの言った事は間違ってなかったと思
私は異世界転生案内人『カイ』。今日も私の元に来客が来る。死んだ人間に私は選択肢を示す。異世界に転生できるなら、貴方は次はどんな人生を選びますか? 今日もお客様が来た。 杉崎美香30歳。 私から見ればとても幸せな人。♢♢♢ 私、杉崎美香はずっと周囲の男のマドンナだった。 過去の栄光? でも、その栄光時代の私の好きだった人に今日再会する。 ずっとあなたに会いたかった。 佐々木太郎⋯⋯私の初恋の人。 30歳を迎えた日、中学校の同窓会の案内が届いて私は会場へと向かった。 佐々木太郎は2人いた。 私の初恋の人⋯⋯背が高く足が速い佐々木太郎。 彼は同窓会には来なかった。 そこにいたのは、もう1人の佐々木太郎。 高身長の私からは許せないレベルの身長にだらしのない体。 中学の時から、目立たぬモブだった。「美香ちゃん。本当に、ずっと綺麗だね」 私が存在さえ忘れていた佐々木太郎は私に頬を染めて近づいてくる。 昔は虐められていた彼がなぜか今は周囲の注目の的。 IT分野で成功をし、時代の寵児となっていた。 SNSのフォロワーも10万をこえるらしい。 今回の同窓会で彼と会えることを周りが楽しみにしていた事は知っている。 私はそんなミーハーな奴らとは違う。 彼がマドンナだった私と会えるのを渇望する事はあっても、私にとって彼は未だ大勢の私を称賛していた男の1人に過ぎない。(まあ、でも今の彼なら、少しは相手してやっても良いか⋯⋯)「太郎君、今ならあなたと付き合って良いかも」 私も三十路でそろそろ落ち着こうと精一杯の譲歩で言った言葉だった。「ごめん⋯⋯君レベルの女、相手にする程落ちぶれているつもりはないから」 一瞬聞き違えたかと思った彼の言葉。 周囲を見回すと周りは私を嘲笑していた。 私はその場にいられなくなり、外に出た。 外はバケツをひっくり返したような土
「俺は!」 金髪碧眼の王子様アランは俯いた。 俺の思わぬ口撃に何も言えなくなったようだ。 彼は、アレキサンドラの嫉妬を煽るために他の女を使う幼稚な男だ。 悪いが、俺の好みは大人の男。「トルネコ・ウィザード公爵!」 俺はこのゲームでの大本命の男の出現に歓喜した。 がっちりした体型に、小細工ないドSな性格。 まさに俺の理想を絵に描いたような男だ。「アレキサンドラ様?」 トルネコはクールな男で強引にアレキサンドラに迫る仕様になっている。 それゆえに、突然ウィンナーの膝上から立ち上がり抱きついてきた俺に驚いている。「アラン様が、ミーナ様がいるのでもう私はいらないとおっしゃるのです。」 アレキサンドラは美しい女性だ。 俺はやっと女の体を手に入れたので、存分に使い本命トルネコを誘惑する。「ア、アレキサンドラ?」 思わず、敬称も忘れて俺を呼ぶトルネコにほくそ笑む。 どうだ、これが女の香りだ。 俺は今まで男という足枷を背負っても、周囲の男達を女以上に夢中にさせてきた。 だから、これからも同じように男たちを夢中にさせる。 女の体を手に入れた俺は無敵だ。「トルネコ、アレキサンドラは私の婚約者だぞ」 嫉妬を煽ろうなどと、姑息な駆け引きをしようとしていたアランが必死になっている。 これが、白昼夢でも楽しくて仕方がない。「アラン様、私のことは気にせずアレキサンドラ様とご一緒になってください」 今の流れを理解しないピンク髪のミーナがやってくる。 彼女は今、慎ましいキャラを演じている。 しかし、本性は貪欲に王子の婚約者におさまりたい女だ。 アランはアレキサンドラの気を引こうと彼女に近づきつつも、この慎ましいキャラに本気になりそうになる浮気者な男。 まるで、塾で女子を見たからと言って姫ポジの俺を蔑ろにしようとした男たちのようだ。「アラン様、私は揺るぎないものしか価値を感じません。今のあなたはゆらゆら