Mag-log inさっきあれだけいたのが嘘みたいに、一気に閑散とした2階となった。 金氷月のヨハレ、ミステリアスでありながら嵐のような女の子だったな⋯⋯。 SNS上で金氷月らにヒットしそうな事柄を並べても、検索には一つも出てこなかった。 周りを囲っていた見学者たちが、それほどしっかり守っているのだろうか。 だいたい一人くらいは破ったりするけど、宗教にでも入っているかのように、一人も約束を破る人間が出ていない。 もしかして、ネット上に出したら殺すとでも脅されているとか⋯⋯? それさえも、崇拝対象として持ち上げていたりして。 真似た金ローブを着たりしてたから、相当なものには感じる。 あれはなんだったんだろう、誰かが作って売ってるのか? そして、金氷月の他3人は男のみで20代前半から半ば辺りくらいだった。一人は長髪細見の男、もう一人はガタイのデカい筋肉男、最後の一人はオールバックのイカつい男だった。その3人は、見るからに話しかけるなというオーラを醸し出していた。 唯一、ヨハレだけが外交サービスを積極的にしているようだった。 その4人に共通していたのは、"どれも同じ形状のハンドガン"を握っていたという点。ということは、あれらもヨハレの撃った一発と、同等の威力なのではないかと思われる。 変わった連中と出くわしてしまったが、梅田にいる限りはまた顔を合わせることになりそう。 特に、ヨハレとの約束は守らないと、何されるか分かったもんじゃない。 とりあえず、敵対しないようにだけはしておきたい。「さて、そろそろ3階へ続くところを探しましょうか」 エンナ先輩を先頭に、俺たちは大阪駅2階の探索を再開した。 そして複雑構造となった2階フロアの中心の方へ、歩けば歩くほど"ProtoNeLT"が倒れされており、傍にはいつも"金色の氷に包まれた弾丸"が数発。 当然の如く、金氷月が開拓した轍がどこもかしこもにある。 これだけやってくれてるのであれば、車岡が言っていた"ごっついバケモン"とやらもいなくなっていたりして。 と、考えていた数秒後――『グオァァァァァァァァッ!!!!』「⋯⋯待って⋯⋯な⋯⋯なに今の⋯⋯」 エンナ先輩が立ち止まり、全員もたちまち止まる。 薄暗い赤と青の静寂空間を裂くようにして、響いた何者かの凄まじい咆哮。 ⋯⋯これってまさか、"バケモン"って
ネットには出ていない大阪救済軍団ってなんだ⋯⋯? だから車岡は「他から来たなら知らんのか」的な事を言っていたのか。 その流れからして、やっぱりどこかに"ProtoNeLT以外のバケモン"がいるのもやっぱり事実なのだろう。 それより、この金髪ツインテの子は相当若いように見える。「俺たちと年齢がそう変わらなそうだけど、何歳か聞いていいか?」「え~? 女の子に歳を聞くのはよくないですよ~? 喜志可プロ~」 メスガキを装った表情が妙にムカつくな⋯⋯。 でも急に聞いた俺も悪いか⋯⋯冷静になって考えたら。「じょ~だんですってば! うちは16歳のピッチピチ高1JKですよ~! ん~と、喜志可プロの2個下ってことになりますかねぇ?」 うわ、若っ。 まぁほぼ変わんないけど⋯⋯。 だけど、高1でこんな危険な梅田周辺を行動しているのは度胸がエグい。しかもこんなオシャレを保った格好というかなんというか。それだけ"金氷月"に属する彼らも信頼してるってわけか。 ⋯⋯ん? よく見ると、左腕のサイドに"夜晴(よはれ)"と深く刻まれている。この子の名前だろうか?「あー! "ヨハレちゃん"って名前知ってる! ランクマのランキング、惜しいところまで行ってたよね!」「え、白神楽プロがうちの事知ってくれてるぅ~!?」 "ヨハレ"という名前の金髪ツインテの子は、目を神々しく輝かせている。「だって勢いヤバすぎて、あのまま抜かされるかと思ったもん! 私はたまたま当たらなかったけど、当たった人はみんな堅実で強いって言ってたしね」「いやぁ~、頑張ったんですけど後一歩及ばずですね~。ランクマの基準だけでプロにはなれないですけど、比率は重いですもんね~」 女子のランクマ順位はよく知らないけど、スアの話からして相当強そうな感じがする。 それなら、これだけ行動する勇気があるのも頷けるが、問題はヤツらを退けられる武器だ。 右手に握っている"金色の冷気漂うハンドガン"が、その鍵を握っているのは明白。 考えていると、いつの間にかエンナ先輩が少し後方へと下がっていた。「ちょ、エンナ嬢!? なんでそんなとこいるんすか!?」「いやぁ、みんな話が弾んでそうだから。私いたら邪魔そうじゃない?」「んな事全然無いっすよッ! もっとこっち来て話してやってください。プロなんかよりもっと価値ある⋯⋯
大阪駅2階に着くと、不穏な静けさが漂い、1階同様の赤と青の薄暗さが広がっていた。 しかも、下から微かに見えていた人たちはいなくなっていた。 車岡が言っていたように、"金氷"とやらに付いて行っているのかもしれない。 「うーん、2階からはドローンが役に立たないなぁ」 スアがハイスマートグラスに取り付けている超小型ドローンを操作しながら言う。 「なんか特定の範囲に入ると、使えないっていうの多いですよね」 モアも同様に触りながら怪訝な顔をしている。 そして暗くて見にくいが、ここからの構造もかなり変わっているように見える。 2階がこんな入り組んだようにはなっていなかったはず。 どちらかと言えば、経由するための連絡通路や待ち合わせ用といった感じだったのに、1階と変わらないくらいの複雑さがある。 こんなとこ、行かなきゃいけないのか⋯⋯。 さらには"赤と青が交差する大きな卵"が奥に何個か見えた。 最悪すぎる、あれの中にはヤツらが入っているというのはもう動画で知っている、興味本位で近付くのは絶対ダメだ。 それから、なるべく離れないようにしながら、6人で周囲を照らしながら歩いて行く事数分。 ♢ まずは風通しの良い、視界が広がる場へと出た。 ここへ来る途中、"ProtoNeLT素体"が何体も倒れているのを見た。 その傍には、"金色の氷?"のような何かで包まれたままの弾丸が数発落ちていた。 一般的な銃は、引き金を引くと撃鉄が薬莢の後部を打ち、火薬を炸裂させて銃弾を押し出すようになっている。 こんな氷が残ったままなんてありえるのか⋯⋯? それとも撃った後にこうなった⋯⋯? どちらにしても訳が分からない。 この弾のサイズからして、ハンドガンの類に当てはまると思われる。まぁそれほど銃に詳しいわけじゃないから、外れている可能性も充分にあるけど⋯⋯。 逆に、ハイスマートグラスの"簡易小型銃"なら素人でも分かり易い。 弾丸が"細長い台形っぽい独特な形状"をしているため、一度覚えてしまえば見間違える事は無い。 リロードが必要無いのが利点ではあるが、ハイスマートグラスの独自エネルギーによる自然銃弾生成のために、一発ずつ一定の生成準備が必要となる。 特性として、残弾数が多いほど生成が速いために、空にせずに生成を促し
小波の羽根4枚が突如肥大化し、それぞれからも海銃の顔が現れていった。 その5つの顔たちは別々の標的をロックオンすると、いつでも殺れると強烈に訴えてくる。 「は、はよッ! はよ撃たんかいッ!!」 車岡が必死に指示しているが、向こう側の"ProtoNeLTの皮を被ったヤツ"は、立ったまま誰一人としてトリガーを引く気配が無い。 なぜなら、見えない間に出力していた"5頭の海銃群"は、既に前方5人のアイツらを気絶させている。 おっさん共が怪訝な顔でソイツらに触れると、まるで魂が抜けたように各々倒れ込んだ。 「ど、どしたんや⋯⋯なんで倒れてしもうて⋯⋯。一体なんなんやこのガキらはァ⋯⋯!? こんなもん、全員で撃ちゃ怖ぁないッ!!!」 堀田がそう言った瞬間、残ったアイツら5人で一斉に俺へと撃ってきた。もう弾が無いのも知らずに。 「⋯⋯あ? なんで何も出んのや⋯⋯? 今撃ったろうがッ!!」 「その持ってるの、"こっちのモノ"になってるからもう使えないよ」 「は? どわぁッ!?」 アマの言う通りに、堀田が持っていた自分の銃を見ると、たちまち驚愕して投げ捨てた。他のおっさんも同様に投げ捨てていく。 それら銃の顔は、"俺の海銃と全く同じ顔"になっていた。普通の銃の役割を放棄させ、海銃に侵食されている状態へと変わっていた。 「さて、戻ろうかザイ君」 「え⋯⋯いいのか?」 「これ以上僕たちがやる必要は無いよ。ほら、放っておいてもこの人たちは、"あの本物たち"からは逃げられない」 なんとおっさんらの背後からは、"本当のProtoNeLT素体"が何体もやってきていた。 こんな数を相手に、立ち止まっている時間があるわけ無い。 「おいッ! なぁ⋯⋯助けてくれやァ!? 金も女もいくらでもやるがなッ!!! ほんまに、ほんまに頼むぅッ!!!」 もちろん助けるつもりは毛頭無い、やってきた事は全て自業自得なのだから。それに、無駄弾をこんなところで消費するのももったいない。 瞬く間に、"本当のProtoNeLT"が所持する"凶悪な長槍"に刺されたヤツらは、逃げ場もなく頭を食われ始めた。 そこに構っているうちに、俺とアマは走って大阪駅構内へと戻っていく。 「⋯⋯よかったんだよな、これで」 「もし
さっきのおっさんはなんだったんだ⋯⋯? あんなに無防備でここほっつき歩いてるし、なんか怪しい。 「ちょっとザイ、どこいくの?」 「あのおっさんを追う。俺以外の5人で上へ続く箇所を探してて欲しい、すぐに戻るから」 俺は一人、こっそりと後を付けてみた。 実はここに来る直前、SNS上でヤバい情報が流れて来た。 この数日間で犯罪が激増しているそうで、その中でも梅田近辺で起きている事件についてだ。 可愛い女の子を見つけては、都合良い事を並べて助けるふりをして、誘拐しているヤツがいるらしい。 見た限りは一人では無く、集団で狙っているというウワサ。 今は警察が機能していないのもあって、店内以外ではほぼ犯罪し放題な側面がある。つまり、協力してされると相当厄介な状態。 もしかしたら、あのおっさんの親しみやすそうな格好と言い草からして、その集団の一人の可能性がある。そうだと仮定すると、キレさせてしまった経緯からして報復されかねない。 この後、何かと邪魔されたら上へ行きどころじゃなくなる。だったら、その芽は先に摘んでおいて損は無い。 幸い、駅ナカが薄暗いのもあって、あっちからはバレにくい。"ProtoNeLT"も意外と巡回していないから静かにやり過ごせる。 それにしても、あのおっさんどこまで行くんだ⋯⋯? 桜橋口の方へと歩く事数分、そこで"5、6人ほどのおっさんの知り合いたち?"が待っているようだった。見るからに、どれもあの男と年代が近く、やっぱり一人ではなかった。 ⋯⋯何やら会話してるな しゃがんで隠れて聞いてみると―― 「"車岡さん"、そっちはどうだった」 「いやぁ、一番の上玉がいたんだがなぁ、ヤンキーのクソガキに邪魔されてしもうたわぁ」 「銃突きつけてやりゃよかったろうに」 「それがなぁ、あっちも銃っぽいの持っとったわ。迂闊に使ったら返り討ちくらいそうな気がしてな」 「ほんまか。それはまだここにおりそうか?」 「上に知り合いが行ってしもうて探す言うとったから、当分おりそうな気がするで」 「なら、"あっち"にも手伝ってもろうて、こっそり囲んでやってしてまうか。そんで女らは一斉に行って眠らせりゃえかろう」 「おぉ、そりゃええ方法やで、さすが"堀田さん"や」 「へへ。"車岡さん"が言う上玉は期待大やからな、連
梅田に近付くにつれ、空気が一変するのが分かった。 街並みや人の感じが変わる方ではなく、ここに入っても大丈夫なのだろうかという異様感。 それらに対抗するように、動画で見た通り、結構な人がうろうろしている。 武装している者もいれば、無謀に軽装で走り回る集団まで。 ちなみに俺たちが"ProtoNeLTかどうか判断している方法"だが、目や身体の異常だけでなく、ヤツらは体温が急激に下がる時がある。 おそらく維持するために冷却が必要な時があるのだろう。体温の36度程度から、20度くらいに下がったりしている瞬間がある。 この違いはL.S.を通して見るか、ハイスマートグラスを通して見るかで、インスタントサーモグラフィックカメラで見分ける事がある程度可能。なので、あっちにいるのが人間であるという事はすぐ把握できた。 今のとこ、この方法が通用してはいるが、日が経つにつれ改良されそうなため、そう言った意味でも新策をさっさと終わらせるべきだ。 「人が多いみたいだから、ちょっと離れた場所に一旦止めるわね」 そして、大阪駅を正面に見据える形で停車した。 一人ずつ降り、ゆっくりと駅の方へと向かって歩く。 すると大阪駅の範囲に入った瞬間、まだ14時なのに関わらず空が突如豹変し、辺りの風景も"夜の状態"へと様変わりした。 「え、また!? なんで夜になるの!?」 スアは確かめるように一歩下がる。 「えぇ!? 昼間に戻ったよ!? ちょっとみんなも下がってみて!?」 言われたように、俺も一歩下がってみる。 ⋯⋯なんなんだ、これは? 本当に風景が昼間へと戻り、また一歩踏み出すと夜へと切り替わる。意味不明すぎて理解が追い付かず、何回も繰り返してみた。 ⋯⋯やっぱりなんも分かんねぇ あべのハルカスの時もそうだった。建物に近付いた瞬間に同様の状態へとなったが、何も分からず仕舞い。だからといって、調べようにもあまりに情報が無さ過ぎる。 「⋯⋯おい見ろ! また青と赤に光ってやがんぞ⋯⋯ッ!!」 叫ぶケンの視線先にある大阪駅は、夜の姿になると、赤と青に覆われていた。 「やはり、容易に上まで行けると思わない方が良さそうだ。とにかく、まずは周辺に注意して行こう」 赤色のハイスマートグラスを"簡易小型銃"にし、アマは先を歩き始めた。 いつ