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12話

last update Last Updated: 2025-11-30 21:22:38

王様の手が、私の肌にきつく食い込む。

「あの薬は意識を混濁させる。飲んだら最後、お前はまた〝人形〟に逆戻りだ。一生、この場所で飼い殺されることになる」

不穏な言葉に、私は思わず顔を上げた。

「まさか……そんなこと〝先生〟がするはず……」

「相変わらず〝先生〟の言いなりか。……だったら俺を見ろ。俺自身が、その証拠だ」

〝王様〟は、自分のこめかみを指で軽くトントンと叩いてみせた。

「本意ではなかったにせよ、〝先生〟に従ってきた結果がこれだ。俺の神経は、今にも切れそうな糸みたいなもんだ。時々、自分が何者かさえわからなくなる」

その声音には、自嘲の響きがあった。

「だから、いいな? こうなりたくなければ——絶対に薬は飲むな」

力強かった〝王様〟の口調が、ふっと吐息ほどにか細くなる。

「……本当は、俺がついて守ってやれれば一番いいんだが、そうもいかなくなった」

そこで言葉が途切れる。

〝王様〟は拳を握りしめ、そこに視線を落とした。

月に照らされた横顔には、どこか諦めにも似た影が差している。

「……明日から〝アレ〟が始まる。そうなれば、俺がいつまで正気でいられるか――自分でもわからない。下手をすれば、お前のことも、自分のことすらも忘れてしまうだろう」

〝王様〟が顔を上げる。

その瞳には、再び意志の炎が灯っていた。

「だから、今のうちに言っておく。記憶を取り戻せ。そして、ここから逃げろ。俺がまだ正気のうちなら、何でも力になる」

ぶるぶると喉が震え、言葉が出てくるまで時間がかかった。

「……どうして、そこまで……?」

「理由が要るか? ……あんなことがあって二ヶ月。いや、俺がここに来てからずっと、何とか正気を保ってこられたのは――」

ふっと〝王様〟の視線が、私に降り注ぐ。

それは、月の光のように、ひっそりとして優しかった。

「お前が、いてくれたからだ。それだけだ。だから、俺はお前のためなら何でもする」

冷たい風が、

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