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3話

last update Terakhir Diperbarui: 2025-11-14 20:23:10

※この話には暴力表現を含みます。苦手な方はご注意ください。

「〝王様〟のご帰還だァ~!」

騒がしい声とともに目が覚めた。

何事かと鉄格子越しに廊下を覗くと、斜め向かいの部屋で〝さかさま〟が鉄格子を揺らし、ボスを迎える猿のようにはしゃいでいた。

ちょうど、二重扉から一人の男が入ってくる。

両脇を看護士に抱えられ、ぐったりと引きずられるように歩いている。

彼が足を進めるたび、手足の金属枷がジャラジャラと乾いた音を立てた。

「ヒャッホウゥッ~! 〝王様〟! 〝王様〟!」

男が〇六号室の前を通りすぎると、〝さかさま〟が興奮気味に雄叫びを上げた。

だが、相手はそれに反応することもなく、項垂れたままだった。

私は思わず身を乗り出し、廊下を歩いてくる男の顔を確かめようとした。

「貴方は下がっていて下さい」

いつの間に来ていたのか、〝笑い犬〟が鉄格子の前に立ちはだかる。

だがその目は、数メートル先にいる男に鋭く向けられたままだった。

ジャラジャラと金属の鳴る音が、独房に響く。

そのとき、私の視線に気づいたのか、男が伏せていた顔をハッと上げた。

あっ、と私は声を上げそうになる。

〝王様〟は、何もかもが黒かった。

髪も、瞳も──いや、まとう空気そのものまでが、鋼のように黒々としている。

荒れた容貌が、いっそうその印象を強めていた。

長く伸びた黒髪。くっきりと浮かぶ隈。

精悍な顔はこけ、かえって鋭さを増している。

頬にはいくつもの打撲の痕。

大きくはだけたネルシャツの胸元からは、しなやかな筋肉と、火傷のような痕がのぞいていた。

「お前は……」

私を見る〝王様〟の瞳が、みるみるうちに見開かれる。

疲れ切った顔には似つかわしくない、驚くほど強い眼差しだった。

その奥で、強靱な意志の炎がバチバチと火花を散らして燃えている。

「何をしている。早く歩け」

看護士が小突くが、〝王様〟は私から目を離さず、動こうとしない。

「おいっ、どうしたっ!?」

突然、〝王様〟の身体がガクリと沈み込んだ。

驚いた看護士が、その体を支えようとした刹那——

〝王様〟の頭が右の看護士の顎を打ち、足が左の看護士の足元をすくった。

拘束されているとは思えない、鮮やかな動きだった。

「……ウッ!?」

看護士たちは、糸の切れた操り人形のように床に倒れ込む。

「失礼」

と言って、〝王様〟は看護士の胸ポケットから鍵の束を取り出すと、自分の拘束を解いていく。

ゴトリ。

拘束具が床に落ちる重たい音が響く。

〝王様〟は関節を確かめるように肩を回しながら、ゆっくりとこちらを向いた。

そして、一直線に私のもとへ歩き始めた。

男の瞳は、こちらを焼き尽くそうとしているかのように鋭い。

私は金縛りにでもあったように、その場から動けなくなってしまう。

心臓が破裂しそうなほど大きく鳴り、背中から冷や汗が吹き出る。

——これが、『恐怖』というものなのだろうか。

徐々に迫ってくる男から、私は一瞬たりとも目が離せなかった。

「そこまでです」

あと数歩の距離で、〝笑い犬〟が私と〝王様〟の間に立ちはだかる。

〝王様〟はピタリと立ち止まると、視線をゆっくり〝笑い犬〟の方に向けた。

「……何のつもりだ、〝笑い犬〟?」

「それはこちらのセリフです。これ以上、〝人形〟に近寄らないでください」

「〝人形〟?」

〝王様〟の眉が、ピクリと神経質に動いた。

「一体、誰のことを言っているんだ、それは?」

「もちろん、彼のことですよ」

〝笑い犬〟が視線で私を示す。

〝王様〟もつられるように一度こちらを見やると、大きく首を振った。

「違う。そいつは、〝人形〟じゃない」

昨日、意味不明なことを叫んでいた人物とは思えないほど、はっきりとした口調だった。

〝笑い犬〟は、どこか哀れむような目で〝王様〟を見て、静かに首を振る。

「いいえ、〝王様〟。貴方は勘違いしている。彼は〝人形〟です。貴方の妄想の中の人物ではありません」

「ふざけるなっ! お前たちは、またそうやって、そいつを〝人形〟に仕立てる気なのかっ!」

〝王様〟の怒声が、暗く狭い廊下に木霊する。

肩を大きく上下させ、荒く息を吐く〝王様〟とは対照的に、〝笑い犬〟は慇懃な態度を崩さなかった。

「貴方の言っていることは、すべて妄想です。いい加減、貴方も〝先生〟の治療に従ったらどうです? そうすれば、こんな馬鹿げたこと──」

「黙れっ!」

〝王様〟が動いた。

素早く〝笑い犬〟の前へ滑り込むと、腹に一撃を叩き込もうとする。

だが〝笑い犬〟はそれを読んでいたかのように、腰のバンドから警棒を抜き、〝王様〟の脇腹を鋭く打ち据えた。

「グッ!」

腹を押さえながら後退した〝王様〟だったが、その口元にはにたりとした笑みが浮かんでいた。

「……相変わらずだな、〝笑い犬〟」

「何のことです?」

「お前のその、どうしようもないへきのことだよっ……!」

〝王様〟は再び突進し相手の警棒をかわすと、その背後に回り込み、片腕で〝笑い犬〟の気道を締め上げた。

「ガッ……」

みるみるうちに〝笑い犬〟の顔色が蒼白になる。

瞳孔が開き、口は空気を求めてわななく。

このままではまずい——私は咄嗟に鉄格子をつかみ、叫んだ。

「やめろっ……! やめるんだっ……!」

意外なことに、〝王様〟は何の躊躇もなくパッと手を離し、無実だとでも言いたげに両手を上げた。

「本気じゃない。それに、こいつは大丈夫だ。なぁ、そうだろう? 〝笑い犬〟?」

〝王様〟は咳き込む〝笑い犬〟の前髪を掴み、薄く笑った。

〝笑い犬〟が唾を吐いて応えると、〝王様〟は彼の腹を容赦なく蹴り上げた。

「ウグッ……!」

〝笑い犬〟は床に這い、腹を押さえて背中で苦しげな息をする。

〝王様〟はその姿を冷ややかな目で見下ろし、愉悦に満ちた笑みを浮かべた。

相手を虐げるのが楽しい。

そう言わんばかりの笑顔だった。

——『〝王様〟は危険な男です』

そのとき初めて、〝笑い犬〟の言葉の意味が腑に落ちた。

だが気づいたところで、もう遅い。

〝王様〟は、〝笑い犬〟がもはや立ち上がれないのを確認すると、くるりと身体の向きを変え、私の病室へと真っ直ぐ歩き出した。

手には、先ほど看護士から奪った鍵が握られている。

「やめろっ……! その人に近づくなっ!」

蹲ったまま〝笑い犬〟が叫ぶ。

しかし〝王様〟は一瞥もくれず、病室の前に立つと鉄格子に鍵を差し込み——扉を開けた。

ガシャン。ギイ。

鈍く重い音を立てて、鉄格子が開かれる。

「……ッ」

本能的な恐怖を感じて、私は一歩、後ずさった。

蹲る〝笑い犬〟の姿を見れば、数秒後に自分がどうなるか容易に想像がつく。

どこか逃げられるところはないかと、目の端で部屋を見回していると、

「逃げるな」

数歩先で立ち止まった〝王様〟が、私を真っ直ぐに見据えたまま言った。

「逃げるな」

再度落とされた言葉に、私はぴたりと立ち止まった。

なぜそうしたのか、自分でもわからない。

ただ相手の強い眼に魅せられたかのように立ち尽くす。

「……!?」

次の瞬間、手を強く引かれたかと思うと、〝王様〟に抱きすくめられていた。

彼の首筋からは、血と消毒液に混じって、ほのかにバラの香りがした。

背中に回された力強い手は、動揺する私をなだめるように、背骨一つ一つをゆっくりと撫でていく。

「やっと会えた……」

耳元にかすれた吐息が落ちる。

先ほどまで暴力をふるっていた男のものとは思えないほど、柔らかく、胸に響く声だった。

(何だろう、この感じ……知っているような……)

耳元で、自分の心臓がドクドクと音を立てているのがわかる。

「いいか、俺の話を良く聞け」

〝王様〟は私の腰を引き寄せ、さらに耳元へと唇を近づけた。

その声には、先ほどとは打って変わった、硬く切迫した響きがあった。

「いいか、お前はできるだけ早く、記憶を取り戻してここから逃げろ。でないと、一生ここに閉じこめられることになるぞ」

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