LOGIN桜は言葉を失った。「もう、お正月やすみの間は碓氷さんに会いに行きなよ!」寧々はロボット犬と遊びながら言った。「もちろん、今の話流してもらっても構わないけど。それに、彼が帰ってきたらすぐにでも会いに来てくれるって言ってたじゃない?」「彼は、トラちゃんを北城に連れて帰るって言ってた。それで私が北城に戻るまで、代わりに預かってくれるみたい」普段はちょっと抜けてる寧々だけど、二人の恋愛に関しては、なぜか桜本人よりもよく状況を見えているようだった。安人さんが先にトラちゃんを連れて帰ると聞いて、彼女はベッドの横の小さなソファで丸まって寝ているトラちゃんに目を向けた。そして、意味ありげにため息をついて言った。「あらら、トラちゃんちゃんはこれから構ってもらえなくなっちゃうかもね!」それを聞いて、桜は眉をひそめて彼女の腕を叩いた。「変なこと言わないでよ!」すると、叩かれた腕を押さえながら、寧々は体をよじって大笑いした。「桜ちゃん、私の感は当たるんだから。碓氷さんと一緒にいれば、きっと幸せになるはずだから!」桜はそれを聞くと、彼女をちらっと見て言った。「あなたには彼氏もいないくせに、何がわかるっていうのよ!」「はいはい、おっしゃる通り。それなら、早くあなたの碓氷さんのところに行ったら?……きゃっ、ごめんごめん、くすぐらないでよぉ」こうして仲の良い二人はベッドの上でじゃれ合い、楽しそうな笑い声が部屋に響き渡った。……翌日、寧々と桜は康弘さんと一緒に、近所の縁日のイベントに出かけた。この辺りでは毎年お正月の時期に、このような縁日のイベントが行われるのが習わしだ。今回もすごい賑わいを見せてどこもかしこも人でごった返していた。でも、桜は地味な格好にマスク姿で人混みに紛れていたから、彼女に気づく人はほとんどいなかった。M市の人々にとって、芸能人よりもこういう行事の方がずっと身近で大切な存在なのだ。一方、桜は北城に行ってからというもの、こうして康弘さんと一緒に縁日に出かける機会がめっきり減ってしまった。今年は貴重な機会ということもあって、桜は誰よりも熱心だった。彼女は出店を回ったあと、近くの山道に並ぶお地蔵にも一つ一つ敬虔に祈りを捧げた。これまでは、桜は康弘さんと寧々の健康、そして自分の仕事の成功だけを祈ってきた。でも、今
一時間後。ドアが固く閉められた桜の部屋から、寧々の驚きの声が響いた。「えっ!?碓氷さんと付き合い始めたの!?」桜は慌てて飛びついて彼女の口を塞いだ。「静かにして!康弘さんに聞こえちゃう!」寧々は「んーんー」と声を出し、桜の手を叩いた。すると、桜はようやく彼女を解放した。一方、寧々はごくりと唾を飲み込んだ。床にいるミニヤックンを指差しながら、桜を見つめて続けた。「つまり、碓氷さんはあなたを振り向かせるために、わざわざこんなロボット犬を開発したってこと?」桜はうなずいた。「それで、大晦日も家族を過ごさず、わざわざあなたを驚かせに来てくれたの?しかも彼氏として、あなたの家に一晩泊まったってこと?」桜はもう一度うなずいた。「それで、あなたはあっさりと落とされたってわけ?」桜はうなずいたが、すぐにハッとして寧々を睨んだ。「何よ、あっさり落ちたって!もし自分だったら、ときめかないわけ?」寧々は唇を結んだ。「ありえないって。私には分かってるもん。だって、宝くじに当たるより、碓氷さんみたいな人に出会う方が難しいって!」「そんなことないよ。縁って、どこにあるかわからないもん!」桜はぬいぐるみを抱きしめながら続けた。そして、その間彼女の口元がずっと緩みっぱなしだった。「私も昔は自分のこと、すごく運が悪いって思ってた。でもほら、前田会長たちに追い詰められたあの夜、安人さんに会えたでしょ?それまでは、あんなに素敵な人に出会えるなんて信じられなかった。それに、好きになっても、まさか彼と何か進展があるなんて思ってもみなかったし」「もう、ストップ!」寧々は彼女を横目で見た。「あなたは出身を除き、あとは全部パーフェクトなのよ、その自覚は持たないと!わかった?」実は、桜も寧々にそう言われるのは、これが初めてではなかった。だけどこれまでは、親友だからって煽ててくれているのだと思ってた。でも、今は……桜は自分の頬を両手で包み、甘い笑みを浮かべて言った。「うん!そうよね。だって私にいいところがなかったら、安人さんが好きになってくれるわけないもん!」すると、逆に寧々は言葉を失った。なるほど。あれだけ口を酸っぱくして、桜の良さを伝えてきたのに、彼女には伝わってなかったようだ。それなのに、安人んと付き合い始めた途端、急に自分
「多分そうなるだろ」すると、彼女は唇を結んで黙り込んだ。「もう戻りなさい」安人はハンカチを彼女に渡した。「洗って、次に会う時に返してくれ」自分の涙で濡れたハンカチを握りしめ、彼女は少し不満げに言った。「追いかけてきたんだから、あと1日か2日はいてくれると思ったのに」その言葉を聞いて、安人は思わず吹き出した。彼が笑ったので、彼女はさらにむきになった。彼女は彼をにらんだ。「何よ、笑うことないじゃない!私が追いかけてくるってわかってたの?違う!本当は今日帰るって決めてて、わざとだったんでしょ!」安人は笑いをこらえながら言った。「本当はもう数日いるつもりだったんだ。でも、海外のプロジェクトで急に問題が起きて、僕が直接行かなきゃいけなくなった」「お正月早々なのに、社長自らが行かなきゃいけないの!」「海外ではお正月は関係ないからね」彼女はきょとんとして、気まずそうに頬を触った。「そ、そっか……じゃあ、行って。仕事が一番大事だもんね」安人は彼女を見つめ、少し黙ってから言った。「付き合い始めたばかりなのに離れ離れになるのは、やっぱり名残惜しいな。よかったら、一緒に来るかい?」「えっ?」彼女は驚いた。「お仕事で行くんでしょ?私がついて行ったら迷惑じゃないかな」「仕事が終わったら、ついでに数日、海外で遊んで帰ろう」安人は言った。「来週から君も研修が始まるし、僕も仕事で忙しくなる。そしたら、なかなか会えなくなるかもしれないから」そう言われ、彼女はその提案に心が大きく揺れた。でも、まだ付き合って間もないし、こんなにも早く彼と一緒に海外へ行くのは少し気が引けた。それに、今年のお正月は康弘とゆっくり過ごすって約束していたのだ。彼女が悩んでいる様子を見て、安人も彼女が康弘のことを気にしているのだと察した。「やっぱり、ここにいなさい。今日、君が僕と一緒に行ったりしたら、康弘さんに俺が君を連れ去ったと思われちゃうかもしれないからね。初めてご挨拶したんだから、良い印象を残しておきたいんだ」そう言って安人は彼女の頭を優しくなでた。「康弘さんとゆっくり過ごしてあげて。帰国したらまた会いに来るよ。その時に、猫も一緒に引き取るから」一方、桜も名残惜しかったが、それが一番いいと思った。だって、付き合い始めたばかりのうえ、お正
安人はバックミラー越しに走って叫びながらがどんどん近づいてくる彼女の姿をじっと見つめていた。。彼はすぐには車を降りなかったが、立ち去ろうともしなかった。ただ、桜が一歩一歩近づいてくるのを見ていた。そして、桜が車の後ろまで走ってきた時、安人は勢いよくドアを開けた――すると、桜は一瞬立ち止まり、車から降りてきた安人を見つめた。その瞬間、二人の視線が見つめ合った。それから、安人はゆっくりと両腕を広げた。それを見て桜の涙に濡れた瞳を輝かせながら、まっすぐ安人の胸に飛び込んだ。そして安人が彼女を抱き止めると、涙ながらに「好き」と言う彼女の声を聞いた。「安人さん、私も……あなたのことが好き。そばにいたい。本当に……大好き」それを聞いて、安人は彼女の顔を両手で包み、指の腹で頬の涙を拭ってあげた。「ちゃんと、考えた答えなのか?」桜は力強く頷いた。でも、それだけじゃ足りないと思ったようだ。彼女はつま先立ちになり、自分から彼にキスをした。安人は瞳の色を深くし、目を閉じて、今度は自分からリードするように、もっと深いキスを返した。昨日の夜とは違う。今日は二人ともはっきりした意識の中で、お互いの鼓動と気持ちを感じ合っていた。桜の涙の味が、二人の口の中に広がる中、二人は名残惜しそうにキスを続けた。互いの息が乱れてきた頃、やっと二人は離れた。桜は彼の胸に寄りかかったまま、両手で服の襟を掴み、潤んだ瞳で安人を見つめた。「もっと早くプレゼントを開けていればよかった」「もっと早く開けていたら、すぐに俺を受け入れてくれたのか?」桜は言葉に詰まった。「桜、もう過ぎてしまったことは考えるな。運命の悪戯かもしれないけど、結果的に良かったんだからいいじゃないか」そして、安人は彼女の頬を撫でて続けた。「でも、まさかロボットの犬ひとつで、お前がそこまで感動するとは思わなかったな」桜は唇を噛んだ。「それより、『ミニヤックン』なんて名前、かわいすぎじゃないですか?」安人は眉を上げた。「気に入らないか?」「そんなことない」桜は唇を引き結んで言った。「ただ、あなたみたいな立場の人がそんなことまでしてくれるなんて、少し気が引けて」「俺がどんな立場だって?」安人は苦笑した。「人より金を持ってるってだけで、他とは何も変わらない
彼がここへ来たのは、決して気まぐれなんかじゃなかった。ちゃんと準備をして、たくさんの葛藤を乗り越えて、大晦日に自分に会いに来てくれたんだ。ただのサプライズじゃなかったんだ。彼は覚悟を決めたうえ、自分が勇気をもて歩み寄るのを待っていてくれてた。それなのに、自分はなんてことをしたんだろう?自分は怖気づいてしまった……彼をがっかりさせて、最後は見送ることすらできなかった……自分みたいな臆病者が、安人からの愛を受け取る資格なんてあるの?どうして、もう少しだけ勇気を出せなかったんだろう?どうして、一度くらい自分の気持ちに素直になれなかったんだろう?身の程知らずだっていいじゃないか。物心ついた頃から、お母さんはいつも自分に言っていた。「桜、人は身の程をわきまえるべきよ。お前のせいで私の息子が亡くなったんだから、お前は生きている限り、罪滅ぼしをしないといけないのよ。不平不満を抱く資格はないんだよ。忘れるな、お前さえいなければ、私の息子の命は奪われずに済んだし、お前が今手にしている人生そのものが彼から奪ったものよ!」13歳で初めてドラマに出た時、スポンサーの力で入ってきた女優に楽屋で殴られた。泣きながら監督に訴えたけど、監督はこう言った。「人は身の程をわきまえるべきだ。彼女のバックにいるスポンサーの金がなきゃ、俺たちだってここにいられないんだ!」20歳の時、マネージャーがある大物俳優のホテルのカードキーを渡してきた。私が断ると、マネージャーは冷たい顔で言った。「人は身の程をわきまえるべきよ。親にも愛されず、貧しい家に生まれて、顔と根性だけでこの世界で生きていけると思ってるの?甘いこと言わないで!あんたみたいな子はいくらでもいるわ。でも皆あんたより賢いのよ。彼女たちが今手に入れているものは、あんたも手に入れられる。そのためには、彼女たちを見習うことね」23歳の時、やっと掴んだ仕事をライバルの女優に潰された。彼女は自分の耳元で悪意に満ちた声で囁いた。「人は身の程をわきまえるべきよ。あんたみたいな愛人の子が、有名ブランドのショーに出ようなんておこがましいのよ。あんたの思い通りになんてさせてやらない。あんたと、あんたの恥知らずな母親は、一生ドブの底で生きてればいいのよ!」でも、24歳の誕生日。安人という一人の男性が、行
「うん」桜はぼんやりと頷いた。「玄関まで送るね」「いや、大丈夫。一人で帰るよ」安人は桜を見つめ、少し間を置いてから言った。「桜、君に会いに来たのは、ただの思いつきじゃない。でも、もし君にまだ心の準備ができていないなら、俺は君の気持ちを尊重するよ」そう言われ桜はただ、呆然と彼を見つめままだった。それを見て、安人は彼女に歩み寄り、その頭を優しく撫でた。「空港に車を停めておくから、2日後くらいに部下が取りに来るんだ。その時に、もし君がまだ猫ちゃんを俺に預けたいと思ってくれたら、一緒に迎えに来させるから」桜は頷いた。でも、胸がぎゅっと締め付けられるようにも感じた。「安人さん、ありがとう」「礼はいいよ」安人はかすかに口角を上げた。「なんでもかんでも『いい人』って方付けられても、慰めにはならないからな」そう言われ桜は俯いて、彼の顔を見られなかった。「桜、もう行くよ。これから一週間は忙しくなると思う。でも、君からの電話はいつでも出られるようにしてあるから。いつでも連絡してくれていい」安人は少し間を置いて、付け加えた。「無理強いはしない。でも、君が一番助けを必要とするときに、最初に俺のことを思い出してほしい」桜は力強く頷いた。そして、目の奥がツンとして熱くなり、視界が滲んでいくようだった。こうして、安人は行ってしまった。一方、桜は、遠ざかっていく彼の足音を背中で聞きながら、振り返る勇気もなかった。怖かった。振り返ったら、きっと駆け寄って彼を引き止めてしまうから。そして、こんな臆病で弱い自分は、あんなに素敵な安人には釣り合わないだろう。そう思いながら、桜が目を閉じると、熱い涙を静かにこぼした。次の瞬間、彼女は慌てて二階へ駆け上がった。……桜は部屋に着くと、あの大きなプレゼントの箱を開けた。中に入っていたのは、なんとロボットの犬だった。桜は息をのんだ。ロボット犬の首には、ネームプレートが掛かっていた。そこには「ヤックン」という文字が刻まれていた。その文字を見て、桜は息をのんだ。安人がロボット犬にこんな名前をつけるなんて!これって……桜は手で口を覆うと、再び涙が溢れ出した。彼女はそっと手を伸ばし、ロボット犬の胸のボタンに触れた。するとロボット犬が起動された――「こんにちは、僕はミニ
綾と星羅は顔を見合わせた。星羅は笑いをかみ殺しながら、わざと輝をからかった。「もし本当に全員息子だったら、娘ラブな輝、泣いちゃうかもね?」「橋本先生!」輝は一瞬でカッとなった。「縁起でもないこと言うな!」星羅と綾は大笑いした。ムードメーカーの輝のおかげで、車内は終始明るく楽しい雰囲気だった。目的地に到着し、3人は個室に入り、席に着いて注文した。週末ではなかったので、料理はすぐに運ばれてきた。輝は夢中で食べ、話すのも忘れていた。半月も入院していたので、相当我慢していたんだろう。「明後日、私は僻地で修行に行くのよ!」星羅は箸を噛みながら、力が抜けたようなため息を
「結婚式の招待状?」輝は身を乗り出して見て、「マジかよ、碓氷さんと桜井さんの!誰から送られてきたんだ?桜井さんからか?頭おかしいんじゃねえの?」と言った。綾は冷ややかに唇を歪め、招待状をゴミ箱に放り投げた。「わざと綾に嫌がらせをしてきてるんだ!」輝は腹を立て、かがんでゴミ箱から招待状を拾い上げた。「ちょっと待て、式場を確認する。式当日、このクズどもに仕返しをしてやる!」綾は何も言えなかった。「もう彼らのことは気にしないとこうよ。私たちは自分たちの生活をちゃんとすればいいから」綾の反応は至って冷静だった。輝は相当頭にきていたが、綾が本当に全く気にしていない様子なので、それ以上
そして、「星羅」天井のシャンデリアを見つめながら彼女は虚ろな目をしたまま、嗄れ声で囁いた。「おじいさんと母の夢を見た......」星羅は胸が締め付けられる思いで、温めたタオルを絞り、彼女の顔の汗と涙を拭った。「人は病気になると、心に一番引っかかっている人の夢を見やすいものだ」星羅は続けた。「昼間、少し熱があったから、アルコールで体を拭いて冷やしたの。碓氷さんが地元の薬局で薬を買ってきてくれたけど、怪しまれるといけないから、もらっておいた。後で佐藤先生が診てくれると言ったけど、断っといたよ」綾は瞬きをしたが、星羅の言葉を聞いているのかどうか分からなかった。彼女は自分の夢の話を続け
オフィスに戻ると、綾は文子に電話をかけた。文子はすぐに電話に出た。「綾、田中さん夫婦にお会いできた?」「ええ、ちょうど今帰られたところですよ。彼らの愛情には感動しました」綾は少し間を置いて言った。「そうなのよ。実はね、澪さんは健一郎さんより6歳も年上なの。それに、健一郎さんと結婚する前は、ひどい結婚生活を送っていたらしいわ」綾は驚いた。「全然そんな風に見えません。澪さんのほうが若く見えますね」「いい結婚生活を送っていると、若さを保てるのよ」文子は言った。「だから、綾も落ち込まないで。いつかきっと、綾に合う人が現れるはずさ」「文子さん、私のことは心配しないでください。結構