تسجيل الدخول安人は眉をひそめた。「金庫を借りてどうするんだ?」「こんなに高価なものばかりだもん!」桜はテーブルの上のもらいものを指差した。「うちには金庫がないから、あなたのに入れてもらったほうが安全でしょ」安人は少し間を置いてから言った。「君に言われなかったら、気が付かなかったよ。さあ、書斎へ行こう」「うん!」桜はそばに寄り、安人の車椅子を押して書斎に向かった。書斎に入ると、安人は机の下の棚を開け、金庫を見せた。「桜、こっちへ」桜はそばに寄って聞き返した。「なあに?」「君の指紋を登録する。暗証番号も、あとで君の誕生日に変えるから」「え?」桜はきょとんとして、すぐに首を横に振った。「私はただ借りるだけだよ。暗証番号を私の誕生日にするなんて、だめ」「俺たちは夫婦だろ。俺のものは、君のものだ。それに、君の誕生日にしておいたほうがなにかと便利だろう」「でも、これはあなたの婚前財産じゃない。安人、私が何も知らないと思わないで。婚前財産は、夫婦の共有財産にはならないんだから」安人は眉をひそめて彼女を睨んだ。「おい、桜。まだ俺と一線を引くつもりなのか?」そう言われると、桜は返す言葉がなくなった。「そんなふうに言うなら、これからトラちゃんの世話は自分でしろよ。あいつも君の婚前財産だ。俺が面倒を見てやる義理はない!」こうなると、桜はさらに何も言えなくなった。それに、安人がそんなことを言うなんて本当に意外だった。桜は自分の中での安人に対するカリスマ的なイメージが、少し崩れるのを感じた。彼女は呆れて笑ってしまった。「安人、あなたいつからこんな子どもっぽくなったのよ」「若い嫁をもらったからな。少しくらい子供っぽくなったっていいだろ」そんな彼に、桜は本当に返す言葉がなくなった。まあいいか。きっと、地位の高い男の人って、自分の女にお金を注ぎ込むのが好きなんだろう。そう思って、桜は彼と言い争うのも面倒になった。もう結婚したんだ。安人の身分や地位を考えれば、自分が玉の輿なのは事実だし。世間の誰もが、私が彼の財産目当てだと思ったとしても、それも受け入れるしかない。昔の桜なら思い詰めていたかもしれないけど、今はもう違う。たとえプレッシャーがあっても、それは甘くて贅沢なプレッシャーなのだから。だから桜は、安人の言う通
桜は恥ずかしさのあまり、顔が真っ赤になっていた。こんなにたくさんの人が見てるのに……恥ずかしがり屋の桜は、優希の手をそっと引いた。「優希さん、指輪はありがたく頂きます。家に戻ってから着けますね」「恥ずかしがらないで、みんな家族なんだから」優希は桜にいたずらっぽくウインクした。「大丈夫。お義姉さんが恥ずかしいなら、お兄ちゃんに先につけてもらうから!」そう言うと、優希は安人を見て急かした。「お兄ちゃん、早く!」安人は気まずそうな顔をした。彼は、人前でロマンチックなことをするようなタイプではない。身内ばかりだからこそ、かえって恥ずかしいのだ。「何の指輪?」その時、明るく澄んだ声が、入り口の方から聞こえてきた。みんなは声のした方へ、一斉に振り返った。すると、スーツ姿の光希が、プレゼントの箱を手にこちらへ歩いてきた。光希の姿を見て、綾は嬉しそうに駆け寄った。「光希、あなたのところの社長と海外出張で、帰って来るの間に合わないって言ってなかった?」「本当は間に合わなかったはずなんだけど、社長が事情を知って、特別に休暇をくれたの。航空券まで手配してくれて、なんとか間に合ったわ!」光希は笑顔でプレゼントの箱を綾に手渡した。「母さん、お誕生日おめでとう!いつまでも元気で、若々しくいてくださいね!」「ありがとう」綾はプレゼントを受け取ると、光希の頬を撫でた。そして彼女を桜の隣に連れていき、笑顔で紹介した。「光希、この方が安人のお嫁さんの桜ちゃんよ。桜ちゃん、こちら、うちの末っ子の光希」「お義姉さん、こんにちは!」光希は桜に笑いかける。「テレビで見るよりずっとお綺麗ですね!お兄ちゃんって本当に運がいいわね。芸能界きっての美人を奥さんにできるなんて!」「光希」それを聞いた安人は、妹を鋭い目つきで睨んだ。光希は今まで、少しだけ安人のことを怖がっていた。なぜなら、安人によくお小遣いを減らされていたからだ!でも、今は自分で仕事をして稼いでいるから、もうお小遣いの心配はない!「お兄ちゃん、お義姉さんとは8歳も離れてるんでしょ。その年の差を考えてもお義姉さんは損しているほうじゃない!」怖いものがなくなった光希は、さらに追い打ちをかけるように言った。そう言われ、桜は言葉を失った。安人もまた言葉に詰まってしまった。一方、光希の
「あははは、その考えいいじゃない」優希は笑った。「桜にそういう覚悟があるなんて、私たち女性の見本ね!」綾も言った。「そうね、優希の言う通りよ。その考えはとてもいいわ、お母さんも賛成よ」桜は、綾と優希がこんなにも応援して理解してくれるとは思わなかった。心が温まり、たくさんの言葉が、ただ一言に集約された。「お義姉さん、お母さん、理解してくれてありがとうございます」「違うぞ」ふと、隣にいた安人が注意した。「君は俺の妻なんだから、優希こそ君のことをお義姉さんと呼ぶべきだろ」桜は言葉を失った。自分は優希より8歳も年下なのに!桜は照れくさそうに言った。「そんなに気にしなくても……普通に名前で呼んでくれたらいいですよ」「いやいや、ちゃんとお義姉さんって呼ぶわ」優希は言った。「これからは私がお義姉さんって呼ぶから、あなたも私のこと優希って呼んで。それで問題ないでしょ」桜はきょとんとしたが、すぐに笑った。「それならいいですね。もう優希さんって呼び慣れちゃったし」安人は一瞬黙ったあと言った。「おい、優希、ちゃんと桜をお義姉さんとして敬うんだぞ」「わかってるって、女同士の絆は強いんだから、安心して!」優希は安人に向かってウインクした。「お兄ちゃんだって、お義姉さんに合わせて私のこと『さん』付けで呼んでくれても構わないわよ」そのおちゃらけた言いぐさに、安人はすっかり言葉を失った。まったく、むちゃくちゃだ!「そうだ、みなさんにご挨拶のプレゼントを用意したんです」桜はそう言って安人を見た。安人は新太に視線を送った。新太はすぐに言った。「若奥様、少々お待ちください。プレゼントはリビングにございますので、お持ちします」桜は言った。「私も一緒に行くよ!」……それから、新太は、誰にどのプレゼントを渡すのか、桜にはっきりと説明した。そして、桜はまず綾と誠也にプレゼントを渡した。プレゼントを受け取った綾は、お返しに真珠のブレスレットを桜に贈った。その色艶は、見るからにとてつもなく価値があるものだった。誠也はもっと豪快で、いきなりオフィスビル一棟を桜に贈った。夫婦のプレゼントはどちらもあまりに高価で、桜は呆然として受け取れなかった。「くれるって言ってるんだから、受け取っておけばいいんだよ」安人は桜に言った。「それはお
桜が綾の前に立った途端、彼女は腕を広げて桜を抱きしめた。「いい子ね、ありがとう」綾は彼女を抱きしめ、優しく頭を撫でた。「このプレゼント、とっても嬉しいわ。私たちの家族になってくれてありがとう」その言葉に、桜は呆然としてしまった。綾の腕の中は、お母さんの温もりに満ちていた。物心ついた時から、お母さんの腕に抱かれた経験がなかったから。小さい頃、まだ分別がつかなかった時は、わざと泣きわめいて京子の気を引こうとしたこともあった。他のお母さんのように、抱きしめてあやしてほしかったのだ。でも、泣きわめいても京子に殴られたり、罵られたりするだけだった。叩かれて、嘘泣きが本物の涙に変わった。そして少しずつ大きくなるにつれて、京子が他のお母さんとは違うことを理解した。だから、彼女は泣いたり騒いだりするのをやめた。少なくとも、京子の前では、わざと健気で聞き分けのいい子を演じていた。それでも、京子は満足してくれなかった。京子は、いつでも彼女に手をあげる口実を見つけているようだった。康弘が何度も庇ってくれなければ、桜はあとどれだけ暴力を振るわれるかわからないくらいだった。そういうわけで、桜は京子から本当の母の愛を感じたことが一度もなかった。今、綾に抱きしめられながら、桜は思った。これがきっと、自分がずっと求めても得られなかった、お母さんからの温かくて力強い愛情なんだ。そう思って、桜はゆっくりと腕を上げ、そっと綾を抱きしめ返した。彼女は目を閉じ、綾の肩に顔をうずめると、声を詰まらせながら、「お母さん」と呼んだ。「ええ、聞こえたわ」綾は感極まり、同じように声を震わせた。「桜ちゃん、いい子ね。今日からここがあなたの家よ。私たちはみんな、あなたの家族。もし誰かがあなたをいじめて悲しませたら、たとえそれが安人でも、お母さんは許さないからね!」その言葉を聞いて、桜は笑った。そして笑うほどに涙が溢れてきた。「お母さん、ありがとうございます。でも、安人は私をいじめたりしません。彼はずっと優しくしてくれているんです」「あなたに優しくするのは当然のことよ」綾は桜の頭を撫でた。「今まで辛かったでしょう。でも大丈夫。これからは私たちがいるし、未来はまだまだこれからよ。すべてきっと良くなるわ。家族みんなで仲良く暮らしていきましょうね」「はい!」桜は
桜は頷いた。「はい、ありがとうございます、おば様」片や、綾は桜のことを見れば見るほど、気に入った。特にこの可愛らしい顔立ちは、テレビで見るよりもずっと魅力的だ。カメラでは、桜の美しさをすべて捉えきれないと思えるほどだった。その瞬間、綾は、もし桜と息子との間に子供が生まれたら、男の子でも女の子でも、きっととんでもなく可愛いだろうな、なんて思わず考えてしまった。でも、神様は桜になんて残酷な試練を与えるのだろう。こんなに良い子が、次から次へと辛い目に遭うなんて。美人薄命とは、本当なのだろうか。綾は考えれば考えるほど、胸が痛んだ。がっかりしたのではなく、ただただ不憫でならなかった。綾も女性として、子供を産み育てることへの特別な思いがあることはよくわかっていた。それは本能的なものであって、古来よりの習わしの影響を受けていたからかもしれない。愛する人との間に新しい命を授かれないというのは、女性にとって、やはりどこか寂しいものだろうと彼女は思った。医学の力でどうにもならないなら、神様にお願いしてみるしかない。だから、いつか安産祈願で有名な神社にでも行ってみようと綾は考えたのだ。……碓氷家の誰もが桜に優しく、その雰囲気は、桜はもちろん、安人自身が想像していたよりもずっと和やかだった。6時ちょうどに食事が始まった。みんな裏庭に集まった。裏庭の木々にはイルミネーションが飾られ、芝生には大きなテントが張られている。その中で優希のところの双子が遊んでいて、子供たちのはしゃぐ声が時折、裏庭に響いていた。テーブルクロスのかかった長いテーブルには、美味しそうな料理と綺麗な花が並んでいる。みんなワイングラスを手に取り、主役である綾に祝福の言葉を贈った。誠也はまず先に言った。「綾、誕生日おめでとう。これからもずっと元気で、幸せな毎日を過ごせるように」綾はにっこりと微笑み、その目には喜びと感動で涙が浮かんでいた。「ありがとう」二人はグラスを軽く合わせる。続いて、優希と哲也が祝福の言葉を述べた。二人はまだ再婚はしていない。でも、今はよりを戻して、一緒に二人の子供を育てている。優希は最近、ほとんど隣の家で暮らしていて、穏やかで幸せな日々をおくっているのだ。哲也の心の病も再発していない。薬をやめてからは、漢方で体調を
嫁ができた途端、息子のことはそっちのけの母親を見て、安人はなんとも言えない気持ちになった。その間、誠也が息子の後ろに回り、大きな手で優しく肩を叩いた。「これからこういうのが普通になるぞ、安人。早く慣れることだな」そう言われ、安人はさらに複雑な気持ちになった。その時、新太がトランクを開け、安人に尋ねた。「社長、若奥様がご用意された手土産は、今中にお運びしますか?」「ああ、少し量が多いから、誰かに手伝ってもらえ」誠也が少し眉を上げた。「桜ちゃんが用意してくれたのか?」「うん」安人は言った。「いらないって言ったんだけど、どうしてもって聞かなくて」誠也は車椅子のハンドルを握った。「本当に気の利く、いい子だ。気を遣わせてしまったな」……中に入ると、リビングは、すでに賑わっていた。全員がリビングのソファに腰を下ろし、桜の右隣には綾が、左隣には優希が座っていた。碓氷家に優希がいるのを見て、桜は呆然としてしまった。優希はそこで自分と安人との関係について、自分からすべてを打ち明けた。優希が安人の双子の妹だと知って、桜はとても驚いた。なにしろ二人は、片方が母の姓、もう片方が父の姓を名乗っていた。だから、普通の人は兄妹だなんて思いもしないだろう。そして、優希が安人の妹だと分かると、さすがに鈍感な桜もだんだんと状況が読めてきた。綾もその場で、自分が輝星エンターテイメントの、表舞台から退いた会長だと打ち明けた。これからは家族になるのだから、打ち明けるべきことは早めに話しておきたいと彼女は思ったのだ。「桜さん、私と優希に悪気はなかったの。以前はあなたと安人がまだ付き合ってなかったから、いきなり会いに行けなかったのよ。あなたに負担をかけちゃうと思って」そう言われ、桜は優希を見て、それから綾を見た。「じゃあ、皆さんが裁判で助けてくれたのも、輝星エンターテイメントとの契約も、安人のためにしてくれたんですか?」「え、それは違うよ!お兄ちゃんの手柄じゃないから!」優希は慌てて否定した。「だって最初、お兄ちゃんはツンデレで、あなたのことが好きだなんて絶対認めなかったんだから。母さんがお兄ちゃんに会いに行った時、偶然あなたがお兄ちゃんを訪ねてきたところに居合わせたの。母さんはあなたのことをすっごく気に入って、すぐにでも家
我慢できず、優希の後頭部に手を当てると、顔を寄せてまたキスをした。この時、安人がドアを開けて出てくると、ちょうど車のフロントガラス越しにその光景を目にした。すると、彼の顔つきが険しくなり、大股で近づいてきたのだ。突然、車の窓がコンコンと叩かれた。車内で夢中でキスをしていた二人は、はっと驚いた。哲也は優希を離すと、顔を上げた。そこには、険しい顔つきの安人がいた。優希も振り返り、鬼のような形相の兄を見て、びっくりした。彼女は慌てて哲也の肩を叩いた。「あなたはもう帰って。私は、ここで降りるから!」そう言って、優希は車のドアを押し開けて降りた。ドアを閉めると、彼女は
そして、蛍はベッドから降りて、バスルームに入った。まもなく、バスルームからシャワーの音が聞こえてきた。冷たい水が頭からつま先まで降り注ぎながら、蛍はシャワーヘッドの下で、唇を固く結び、びくともせずに立っていた。......一方で、二階の主寝室には、小さなベランダがついていて、花梨が詩乃のためにうどんを作って、ちょうど運んできたところだった。詩乃はあまりお腹が空いていなかった。でも、赤ちゃんのためを思うと、食欲がなくても少しは食べなければいけないと思った。彼女は小さなテーブルの前に座って、静かにうどんを食べていると、その隣で浩平が黙って立っていた。そんな彼の背の高いす
12月5日、輝と音々の結婚式までいよいよ秒読み段階に入った。星城市にある岡崎家は、すでに賑わいを見せていた。岡崎家の跡取り息子である輝の結婚式は、盛大に執り行われることが決まっていた。輝の両親はビジネスで幅広い人脈を持っており、披露宴の招待客は150卓を超える予定だった。星城市で一番大きな結婚式場が、岡崎家によって貸し切られていた。しかし、主役である輝と音々はまだ北城にいた。本来なら輝はとっくに岡崎家に戻っていなければならないのだが、音々と息子に会いたくて北城に留まっていて、何度説得しても、彼はどうしても帰りたがらなかった。音々は、岡崎家の跡取り息子として、こんなに
安人は頷いた。綾はもう一度しゃがみ込み、優しく微笑みながら言った。「安人くんの声はとっても可愛いね。もう一度聞かせてくれるかな?」安人は口を開き、ゆっくりと話した。「うん」「偉いね!」綾は彼の頭を撫でて、優希の方を見た。「優希、安人くんと遊んでおいで」「うん!」優希はすぐに安人の手を引いて、リビングへと楽しそうに走り出した。安人は喜んで優希の後をついて行った。優希は自分のオモチャ箱を持ってきて、中のおもちゃを全部出して見せた。「安人くん、このおもちゃの中から好きなのを一個選んでいいよ。どれでも好きなのをプレゼントするから。でも、一個だけだよ」子供たちは自分たちで







