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12.もうひとりのライバル

last update Terakhir Diperbarui: 2025-08-10 16:00:12

白雲高校との練習試合の日はすぐにやってきた。

授業が終わったあと、俺が部室に向かうとチームのみんなはすでにそろっていて、いつもよりもピリピリした雰囲気が漂っている。

「来たな、神谷」

「楽しみだね~、いおりん。次は勝とうぜっ」

律先輩に肩を組まれる。奥の席に座った小神野先輩と目が合って、俺は静かにうなずいた。イヤホンの上からヘッドセットをつける。白雲高校のチームも全員が準備を終えているようだった。

「「よろしくお願いします」」

あいさつもそこそこに、試合が始まる。

今回、俺たちに与えられた本拠地は西側にある港だ。他のチームがどう動くかわからない中、先に南の工業団地を制圧しに行く。白雲高校も別のチームの拠点を取りに行き、あっという間に敵チームを殲滅させていた。

お互いに拠点はふたつずつ。これで、新葉と白雲の一騎打ちだ。だが、そこから先の展開は……まるで泥沼にでもはまり込んだみたいだった。

「ダメだ、オカピ先輩っ! こっちの本拠地取られた!!」

「そのまま取り返せない? 律」

「いや無理……相当強いよ、こいつら。同じ3対3なのに」

「じゃあ、律と玲で要塞基地の方を奪還して。萩原はこっち。俺と神谷で白雲の本拠地攻めてるけど、もうすぐ落ちるから」

「「了解っ」」

状況が目まぐるしく変わる。いろんな指示が飛び交ってて、耳が痛くなりそうだった。

そんな状態が、1時間以上も続いた頃だ。均衡していた局面が、急に新葉側に有利に傾いた。先輩がふたりを一気にキルしたからだった。

「小神野、ナイス!」

萩原先輩が叫ぶ。残りは3人。幸い、こっちはまだ誰も死んでない。

(だけど、嫌な予感がする……)

その瞬間――俺は固有アビリティを勝手に使い、フィールド上にどでかい障壁を作り出していた。

「神谷っ!? なんでいきなり壁っ……」

「ここは敵がひとりですからっ、俺に任せて萩原先輩のフォローに向かってください!」

「は!!? 何を突然……」

「いいから、信じてっ!」

今までのプレーで、敵チームの行動パターンは読めていた。この状況でうちと対等にやり合おうとするなら、最低でもひとりはキルする必要があるし、そうなれば狙われるのは拠点をひとりで護衛している萩原先輩だ。

小神野先輩は渋々移動していたが、俺の読みは当たっていたらしい。イヤホンから、すぐに萩原先輩の声が響いた。

「……っ!」

鉄壁の『ブルワーク』と呼ばれる萩原先輩のキャラが、高火力のふたりに囲まれて、ハチの巣になっている。シールドの効果切れギリギリのタイミング。小神野先輩が助けに入り、そこからは互角の撃ち合いになった。

「助かった~! ナイスフォロー、小神野!」

「……おー」

俺が敵との撃ち合いを制し、合流した先輩方ふたりも無事に相手を撃破して……。白雲高校との試合は、俺たちの勝利に終わった。

「イエーイ! みんなナイスぅー」

「勝てたな」

「ナイスゲーム!」

叫びながらやってくるチームのメンバーと拳を合わせる。小神野先輩と目が合った。

「……キル数トップ、ナイスです」

そう言いながら拳を差し出した俺に、先輩は控えめにこつん、と拳を合わせた。

「ナイス連携。……最後の、よかった」

(は、初めて先輩に褒められた……!?)

あのokaPが……あのつんつんした先輩が……俺を褒めた!

俺はとっさに抱きついてしまい――。

先輩がどんな顔をしていたかはわからなかったけれど(きっと、いつもみたいに照れた顔だったんだろう)、すぐにやってきた他の先輩たちにも揉みくちゃにされた。

試合が終わると、白雲高校の部長からアプリ経由で連絡があった。今日のお礼と、夏の大会でリベンジするという決意表明。通話に切り替えた小神野先輩が、白雲高校の部長に「こちらこそ、ありがとうございました」とお礼を言っている。

ふたりは今日のゲームについて楽しげに話していたけれど……白雲高校の部長が、先輩に対してどこか馴れ馴れしいような気がして。不快に思っていると、部長が先輩の名前を呼んである提案をした。

「……もし、よかったら……個人的に連絡先とか聞いてもいいですか」

「えっ?」

「去年の大会から、ずっと気になってて。実力的には、まだ『ライバル』なんて言えないかもしれないけど」

『ライバル』という言葉に俺のセンサーが敏感に反応する。

先輩は最初こそ部長の真っ直ぐな言葉に戸惑っていたけれど、すぐに「じゃあ、ぜひ」と返事をしていた。

「また、一緒にゲームとかしましょう」

「ですね」

その話の流れが、俺にはなぜか耐えがたいほど苦痛で――。

(ライバルは、俺だけなんじゃないの……?)

先輩は、俺にとって特別な存在だ。中学のときに初めてネット上で遭遇して、進学した高校で奇跡的に再会した最強のプレーヤー。

先輩にとっても俺はどこか特別な存在だって、勝手にそう思っていたのに……。

(ライバルって、そんなに必要……?)

俺は意を決して先輩側のカメラに写り込むと、にっこりと外向きの笑顔を作って言った。

「あっ! それ、俺もお願いしてもいいですか?」

「……神谷?」

「白雲の部長さん、すごく強かったんでっ」

「あ、えっと……君は」

「神谷伊織。さっきの試合でルークを使ってた、このチームの次期エースです」

無理やり割り込むのが失礼なことくらい、わかってる。それでも、勝手に身体が動いたし、自分の中にある衝動を止められなかった……。

先輩に対する、このもやもやした気持ちが何なのか?

どうしてこんなことをしてしまったのか――。

部活が終わってからの帰り道、俺は先輩と並んで歩きながら、そのことばかり考えていた。

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