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23.エピローグ

last update Date de publication: 2025-08-21 17:00:18

俺の予想は、残念ながら当たっていて――先輩はあれから急に忙しくなり、顔を見ることもなくなった。仕事だから当然だが、練習の時間が格段に増えたみたいで、先輩の情報は個別の連絡よりも公式SNSで見ることの方が多くなった。

たまにある配信では珍しい先輩の敬語が聞けて(そもそも、使えたんだって思った)、毒舌も台パンもない先輩は借りてきた猫みたいに大人しかった。

それでも、勝ったときに控えめに喜ぶ先輩の姿は変わらなかったし、俺はその様子を急に増えた女の子のファンと一緒に楽しんでいた。

先輩のokaPというアカウントは元はといえば彼の父親が使っていたものらしく、プロゲーマーとして活動するための名前は本名からyumaにしたらしい。久しぶりに連絡が来たときに「もっとカッコいい名前をつけなくていいんですか」と聞いたら、「どの名前でも、オカピよりはマシ」とのことだった。

先輩の加入によって超攻撃型になったチームアリゲーターは先輩とsigmaとの連携が注目されていて、若い選手の加入によってチームの周りは盛り上がっているように見えた。

「おっ! 気合い入ってんなー、神谷。やっぱ、夏の大会優勝したから?」

いつものように部活に向かう途中。スマホで試合を見ていた俺に、野田がそう声をかけてきた。

「まぁ、そんなとこ。……そっちこそ、次は優勝目指すんだろ?」

「当然よっ! 部長も次が最後の大会だし、最後はでっかいトロフィー持たせてやりたいからなっ!」

一方で、俺のやるべきことは変わらない。教室で授業を受け、部活の練習に出て、家に帰ってからさらに練習をする。

(絶対に、追いついてやる……)

俺も先輩との練習やあの大会で、自分の持つ新たな可能性に気がついていた。

元から視野が広く、相手の動きを先読みして上手く立ち回れるのが長所だったけれど、時には実力でごり押しするようなプレーも有効なことを知った。この半年、先輩とプレーすることで身に着けた技だ。

ゼログラ一色の日々はあっという間に過ぎていって……秋の大会を終え、冬が来て、また春になる。

俺は高校2年に進学し、とあるチームのトライアウトを受けていた。なんとか高校を卒業することができた先輩に、報告を兼ねてメッセージを送る。

先輩からは『遅すぎ』と返事がきた。

『もう、待ちくたびれたんだけど』。

『これでも急いだ方ですよ。時期だって先輩より早いし』。

『はいはい。……よそ見すんなよ』

『そっちこそ』

何となく、変わらない感じがして嬉しくなる。

二週間後。いつものように野田と部活に向かう途中で……俺はチームからトライアウトに合格したとの連絡を受けた。

そこから、さらに半年以上が過ぎて――。

◇◆◇◆◇◆◇

「寒っ! ……冬の札幌って、こんなに寒いんですね。ハルさん」

「あれ、イオリは札幌初めて?」

「はい」

俺は所属チームのメンバー、大山智玄ことharuとゼログラのオフラインイベントに参加するため、札幌までやって来ていた。冬のドームで開催されるこのイベントは年に一度だけ行われる大規模なもので、今年は小神野先輩が所属するチームアリゲーターも参加する予定だ。

(ホテル、どこに取ったのかな……)

気になって辺りを見回してみるものの、先輩の姿はない。会場に着いたら会えるかな……なんて淡い期待を抱いていたら、中心部から会場に向かう途中で声をかけられた。

「久しぶり」

「……っ! 小神野先輩」

久々に会った先輩は少しだけ背が伸び、髪が短くなってさっぱりしていた。

相変わらず、顔が良い。隣にチームのメンバーがいたので、抱き着きたい気持ちをぐっとこらえて「お久しぶりです」とあいさつをした。

「大山先輩も、お久しぶりです」

「小神野っ! リアルで会うのは久しぶりだな」

「ですね。……俺の後輩、使えてます?」

「あははっ。うちで大活躍してんの、知ってんだろ?」

「さぁ? 情報追ってないんで」と皮肉っぽく笑う先輩は、相変わらずだ。

俺はトライアウトに合格し、小神野先輩の元・パートナーがいるカシラゲームズに所属することになった。他にも気になるチームはあったけど、先輩が実力者だと認める元・パートナーに興味が湧いて、色々と調べるうちに一緒にプレーしてみたくなった。所属できるという保証はなかったけれど、幼なじみ3人組の先輩方と秋の大会でも成果を残せたことは大きかったかもしれない。

先輩も一緒に会場まで行くことになり、ハルさんも交えて色んな話になった。話題は主に新葉のことだったり、最近のゼログラ周りの話だったり。

ふとハルさんのスマホが鳴って――彼が「ちょっと、ごめん」と抜けたタイミングで先輩とふたりきりになった。

「……俺、ちゃんと追いつきました。褒めてくださいよ」

「待たせすぎだろ。……ていうか、この前の試合の後半のプレー、何あれ」

「ちゃんとチェックしてくれてるじゃないですか」

「……たまたま目に入っただけだし」

「あのキャラでの立ち回りに、まだ慣れてなかっただけですよ」

「下手くそ」

「先輩こそ、前回の配信……あれ何ですか? ずいぶん大人しくて、先輩いないんじゃないかと思いましたけど」

「……っ、何だと!」

「ごめん、ごめん。お待たせ~って、えっ、ケンカしてんの!!?」

先輩が俺の胸倉をつかんだ絶妙なタイミングで、ハルさんが戻ってきた。

「「べつにっ」」

俺たちはまるで漫画みたいに、お互いにそっぽを向いては頬を膨らませる。

「同じチームで、仲良かったんじゃないのかよ……」

「じつは、そうでもないです」

「ハルさんって、よく小神野先輩に合わせてましたよね。その辺の話、じっくり聞いてみたいです」

険悪な雰囲気に、人のいいハルさんは「ええ~……」と戸惑いの表情を浮かべていた。

「先輩、後輩だろぉ……?」

その言葉に、俺と先輩は顔を見合わせた。

俺たちはただの仲間なんかじゃないし、ただの先輩後輩でもない。

まめに連絡を取り合う友達でもなければ、甘ったるい恋人同士でもない……。

このゲームを好きでいる限り――きっと何度でも再会して、勝負し合う特別な関係だ。間近に見つめ合えば、いつものように火花が散る。

「「いいえ、ライバルですっ!」」

その声があまりにきれいに重なったので――俺たちはふたたび顔を見合わせて、小さく笑った。

「「先輩は/こいつは、俺が次の公式戦で絶対に倒しますっ!!」」

先輩とは戦ったり……ときに手を取り合ったりしながら、これからも一緒に同じ道を歩んでいくんだろう。

俺たちふたりは、これからもずっとライバルで――今日も明日も、ずっとオンラインだ。

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