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【社会人編】4.温泉デート

last update Last Updated: 2025-08-30 17:00:39

2時間に及ぶドライブは、まるでアトラクションにでも乗っている気分だった。

運転自体に大きな問題があったわけじゃないけれど、先輩はやっぱり短気なんだということがよくわかった。レースには向いていても、長距離ドライブにはまったく向いてない。

「こんなに酔うんだったら、電車で来た方がよかったかな」

旅館に着いてすぐ、先輩は自販機で水を買ってくれた。俺は近くのベンチでうなだれながら、それを受け取る。

「ありがとうございます……。ちょっと休んだら、たぶん大丈夫なんで」

「……本当に?」

サングラスをTシャツの襟に引っかけた先輩が、ぐっと顔を寄せてきた。

(うっ……。改めて見ると、先輩ってやっぱりビジュがいい……)

シルバーアッシュの髪に、グレーがかった不思議な色の瞳。長くて繊細なまつ毛。

学校や部屋以外の場所で見るとその魅力はいちだんと光っていて、周りにいるお客さんたちもこちらをちらちらと気にし始めているようだった。

「行きましょうか。……部屋、取ってくれてるんでしょう?」

「え? あ……うん」

俺は先輩の手を取って引き、受付のカウンターへと向かう。

先輩が取ってくれたという客室はとても豪華で、テレビを観ながらのんびりとくつろげそうな和室のほかに、キングサイズのベッドがある寝室や広いシャワールームがあった。客室露天風呂のそばには小さなサウナもついていて、設備も広さも申し分ない。

「すごい……先輩の部屋より広い」

ついそんな感想を漏らせば、先輩に後頭部を叩かれた。

「いてっ」

「俺はインドア派だから観光とかそんなに興味ないし……2泊もするなら、部屋でゆっくりできればって思ったんだよ。どうせ、伊織だってそうだろ?」

「あっ、そういう決めつけって良くないと思います! ゲームが好きだからインドア派とか」

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