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それぞれの道

Author: 吟色
last update Last Updated: 2025-09-04 06:15:38

世界再構築から一ヶ月が経過した。

各地の混乱もようやく収束し、新しい秩序が形成され始めていた。

「各地域の状況報告をお願いします」

アキラが定例会議を進行している。

「東部地区は完全に安定しました」

エリシアが報告する。

「住民による自治組織が機能し始めています」

「西部地区も同様です」

セツが続ける。

「元統制局職員の多くが、新体制に協力的になっています」

「南部地区では新しい教育システムが開始されました」

ミナが資料を提示する。

「子どもたちの反応は上々です」

「北部地区は……」

カナが少し困った表情を浮かべる。

「クレイドの件以来、完全に平穏です」

「彼は今、何を?」

「地域の相談員をやっています」

カナが微笑む。

「意外にも、人々の悩みを聞くのが得意なようで」

「元々は真面目な人だったのでしょう」

ゼオがコメントする。

「間違った方向に向いていただけで」

「そういえば、エルマはどうしてる?」

アキラが尋ねる。

「彼女も変わりましたね」

エリシアが答える。

「現在は市民サポートセンターで働いています」

「かつて抑圧していた人々を支援することで、自分なりに償いをしているようです」

「みんな、ちゃんと自分の道を見つけてるのね」

カナが感慨深そうに言う。

「でも……」

アキラが複雑な表情を浮かべる。

「俺たちはどうなるんだろう」

「どうって?」

「世界が安定したら、俺たちの役目も終わりだろ?」

「継承者としての使命は果たした」

「記録者としての仕事も、システム化されて人手がいらなくなる」

「俺たちは……普通の人間に戻るのか?」

重い沈黙が会議室を支配する。

確かに、彼らの特別な力が必要な時代は終わりつつあった。

「私はどうなるのでしょう?」

アインが不安そうに言う。

「私はそもそも人間ではないし……」

「何をして生きていけばいいのか」

「私も同じです」

ゼオが頷く。

「神としての役割は終わりました」

「これからは何者として存在すればいいのか……」

その時、ノアが小さく手を上げた。

「あの……」

「なんとなくだけど……」

「みんな、難しく考えすぎじゃない?」

「難しくって……」

「うん」

ノアがぼんやりと微笑む。

「継承者とか記録者とか神様とか……」

「それって、ただの肩書きでしょ?」

「本当に大切なのは、肩書きじゃない」

「じゃあ何が大切なの?」

カナが尋ねる。

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  • 神様を殺した日   それぞれの道

    世界再構築から一ヶ月が経過した。各地の混乱もようやく収束し、新しい秩序が形成され始めていた。「各地域の状況報告をお願いします」アキラが定例会議を進行している。「東部地区は完全に安定しました」エリシアが報告する。「住民による自治組織が機能し始めています」「西部地区も同様です」セツが続ける。「元統制局職員の多くが、新体制に協力的になっています」「南部地区では新しい教育システムが開始されました」ミナが資料を提示する。「子どもたちの反応は上々です」「北部地区は……」カナが少し困った表情を浮かべる。「クレイドの件以来、完全に平穏です」「彼は今、何を?」「地域の相談員をやっています」カナが微笑む。「意外にも、人々の悩みを聞くのが得意なようで」「元々は真面目な人だったのでしょう」ゼオがコメントする。「間違った方向に向いていただけで」「そういえば、エルマはどうしてる?」アキラが尋ねる。「彼女も変わりましたね」エリシアが答える。「現在は市民サポートセンターで働いています」「かつて抑圧していた人々を支援することで、自分なりに償いをしているようです」「みんな、ちゃんと自分の道を見つけてるのね」カナが感慨深そうに言う。「でも……」アキラが複雑な表情を浮かべる。「俺たちはどうなるんだろう」「どうって?」「世界が安定したら、俺たちの役目も終わりだろ?」「継承者としての使命は果たした」「記録者としての仕事も、システム化されて人手がいらなくなる」「俺たちは……普通の人間に戻るのか?」重い沈黙が会議室を支配する。確かに、彼らの特別な力が必要な時代は終わりつつあった。「私はどうなるのでしょう?」アインが不安そうに言う。「私はそもそも人間ではないし……」「何をして生きていけばいいのか」「私も同じです」ゼオが頷く。「神としての役割は終わりました」「これからは何者として存在すればいいのか……」その時、ノアが小さく手を上げた。「あの……」「なんとなくだけど……」「みんな、難しく考えすぎじゃない?」「難しくって……」「うん」ノアがぼんやりと微笑む。「継承者とか記録者とか神様とか……」「それって、ただの肩書きでしょ?」「本当に大切なのは、肩書きじゃない」「じゃあ何が大切なの?」カナが尋ねる。

  • 神様を殺した日   記憶の重み

    クレイドの反乱鎮圧から3日後。対策本部では、新たな問題が持ち上がっていた。「記録の復元作業で、深刻な問題が発見されました」カナが重い表情で報告する。「どんな問題?」アキラが尋ねる。「削除された記録の中に……」カナが言いにくそうに続ける。「非常に残酷な記憶が大量に含まれています」「残酷な記憶?」「戦争、虐殺、裏切り、絶望……」カナがデータを表示する。「ゼオが『有害』として削除した記録の70%以上が、人間の暗部に関するものでした」確かに、スクリーンには衝撃的な映像の一覧が表示されている。人類の歴史の中で、最も醜い部分ばかりが集められていた。「これらを復元すれば……」エリシアが懸念を示す。「人々の精神に深刻な影響を与える可能性があります」「でも」ゼオが困った表情を浮かべる。「これらも人類の歴史の一部です」「隠し続けることが正しいとは思えません」「隠すのは良くないけど……」ミナが心配そうに言う。「いきなり全部公開したら、社会が混乱するわ」その時、ノアが小さく手を上げた。「あの……」「なんとなくだけど……」「その記憶たち、どんな感じなの?」「どんな感じって……」カナが困惑する。「とても見せられないような……」「見るのが怖いの?」ノアがぼんやりと尋ねる。「それとも、見せるのが怖いの?」「……両方かも」カナが正直に答える。「人間の醜さを知るのも怖いし」「それを他の人に知らせるのも怖い」「でも……」ノアが立ち上がる。「なんとなくだけど、見てみたい」「ノア!」アキラが制止する。「危険だ」「そんな記録を見たら……」「大丈夫」ノアがぼんやりと微笑む。「なんとなく……」「悪い記録も、私の中にたくさんあるから」「慣れてる」確かに、ノアは7つの継承を通じて、数多くの苦痛や絶望の記録を受け入れてきた。「でも……」カナがためらう。「本当に大丈夫?」「一人じゃ無理かも」ノアがアインを見る。「アインちゃんも一緒に見てくれる?」「私が……?」アインが困惑する。「でも、私は感情の理解がまだ……」「だからこそよ」ノアがぼんやりと言う。「なんとなくだけど……」「アインちゃんなら、冷静に見れるかも」「私一人だと、感情に飲まれちゃうかもしれない」アインが考え込む。「……わかりまし

  • 神様を殺した日   世界の再構築

    7つの継承が完了してから一週間が経った。世界は大きな混乱の中にあった。ゼオの完全支配体制が崩壊し、各地で様々な問題が発生している。「状況報告」アキラが新設された緊急対策本部で会議を開いている。「幸福圏内での暴動が17箇所で発生」エリシアが報告する。「洗脳から解放された人々の一部が、混乱状態に陥っています」「死傷者は?」「軽傷者が200名ほど。重傷者はゼロです」「ゼオの迅速な対応のおかげですね」確かに、ゼオは改心してからというもの、献身的に人々を支援していた。「混乱を最小限に抑えるために全力を尽くしています」ゼオが疲れた表情で報告する。「ですが、長年の洗脳を一度に解除した影響は想像以上に深刻です」「多くの人が、自分で判断することを恐れています」確かに問題は深刻だった。何十年もの間、すべてをゼオに決めてもらっていた人々にとって、急に自分で選択しろと言われても困惑するのは当然だった。「段階的な解放プログラムを実施しましょう」カナが提案する。「いきなり完全な自由を与えるのではなく、少しずつ選択の幅を広げていく」「それがいいでしょう」セツが頷く。「急激な変化は、かえって混乱を招く」「でも……」ノアが小さく手を上げる。「なんとなくだけど……」「みんな、本当は自由になりたがってる」「ただ、怖いだけ」「怖い?」アキラが尋ねる。「間違えることが怖いの」ノアがぼんやりと答える。「でも、間違えてもいいんだよって、教えてあげればいい」「なるほど……」ゼオが感心する。「私も同じでした」「完璧でなければならないという恐怖に縛られていた」「でも、君たちが教えてくれた」「間違えても大丈夫だと」アインも会議に参加している。「私は各地域の情報収集を担当しています」「人々の感情状態を分析した結果……」彼女が端末を操作すると、データが表示される。「不安が70%、期待が20%、怒りが10%」「不安が圧倒的多数ですね」「やはり、急激な変化への不安か」エリシアが分析する。「対策は?」「相談窓口の設置はどうでしょう」ミナが提案する。「何でも気軽に相談できる場所があれば、不安も軽減されるはず」「それいいね」ノアが目を輝かせる。「なんとなくだけど……」「お話しするだけで、気持ちが楽になることってある」「で

  • 神様を殺した日   神が選べなかった選択

    演算層でアキラの意識が実体化すると、そこは既に戦場と化していた。ノアとアインが、巨大化したゼオの攻撃を必死に避けている。「ノア!」アキラが駆け寄る。「大丈夫か?」「アキラくん……」ノアが振り返る。その目には、以前にない深い知識の光が宿っていた。「なんとなくだけど……私、わかっちゃった」「わかったって?」「神様が一番最初に選べなかった選択」ノアが震える声で続ける。「それは……」《黙れ》ゼオが激怒する。《その記録に触れることは許さない》巨大な拳がノアに向かって振り下ろされる。だが、アキラの刻印が光り、バリアが展開される。「させるか!」「俺がノアを守る」《継承者……》ゼオがアキラを見つめる。《お前もまた、排除すべき存在だ》「排除したければしてみろ」アキラが立ち上がる。「でも、その前にノアの話を聞け」《聞く必要はない》《私は完璧だ》「完璧じゃない」ノアが静かに言う。「なんとなくだけど……見えるの」「神様の中に、とても悲しい記憶がある」《やめろ……》ゼオの声に、初めて恐怖があった。《その記録は封印されている》《誰も触れてはならない》「でも……」ノアが歩み寄る。「その記憶こそが、神様の本当の心じゃない?」《本当の心……》《私に心など……》「あるよ」ノアが確信を込めて言う。「だって、今こんなに苦しそうじゃない」「完璧な存在なら、苦しむ必要なんてない」「でも、神様は苦しんでる」「それは、心があるからよ」ゼオの巨大な姿が揺らぎ始める。《私は……私は……》《完璧でなければならない》《人類を導く責任が……》「責任なんて、一人で背負わなくていい」アキラが言う。「みんなで一緒に背負えばいい」「そうそう」アインも頷く。「私も最初は、一人で全てを処理しようとしていました」「でも、仲間がいることで、楽になりました」《仲間……》ゼオが呟く。《私には仲間などいない》《神は孤独な存在だ》「孤独じゃない」ノアが手を伸ばす。「私たちがいるじゃない」「神様も、みんなも、一緒よ」《一緒……》《だが、私は……》その時、ノアの身体がさらに強く光った。第7継承の記録が、ついに姿を現し始める。「あ……」ノアが困惑する。「なんか、すごく大きな記憶が……」光の中で、一つの映像が

  • 神様を殺した日   暴走する神

    ノアの身体から放たれる光が、演算層全体を震撼させていた。 《何だ、この光は……》 ゼオの巨大な影が動揺する。 《記録が……勝手に起動している》 光の中で、ノアの姿が変化し始める。 髪が銀色に輝き、瞳には深い知識の光が宿る。 「これが……第6継承……」 ノアの声も、以前とは違っていた。 曖昧さは残っているが、その中に確かな意志がある。 「『他人の痛みに共鳴することを選ばなかった』記録……」 光の中で、無数の映像が流れる。 苦しむ人を見て見ぬ振りをする医者。 困っている人を無視して通り過ぎる人々。 他人の痛みを数値として処理するシステム。 「痛い……」 ノアが涙を流す。 「でも……これも大切な記録」 「人間の弱さも、記録しなきゃ」 《やめろ》 ゼオが激しく手を振る。 《そのような記録は不要だ》 《人類の最適化の障害になる》 「障害じゃない」 ノアが強く否定する。 「なんとなくだけど……わかる」 「この記録があるから、人間は優しくなれる」 「自分の弱さを知ってるから、他人に優しくできる」 アインが理解する。 「そういうことですか……」 「完璧じゃないからこそ、成長できる」 《理解できない》 ゼオの声に苛立ちが募る。 《不完全な存在に価値など……》 その時だった。 演算層の外から、強い衝撃が走った。 「何が……」 ルキが天井を見上げる。 「外で戦闘が始まったようだ」 実際、現実世界では大変なことが起こっていた。 ----- 避難所では、アキラたちが緊急事態に直面していた。 「ゼオの大軍勢が接近中!」 サクラが報告する。 「規模は?」 セツが尋ねる。 「戦闘ドローン500機、地上部隊1000名以上!」 「そんなに……」 カナが青ざめる。 「ノアとアインは演算層から戻ってきてないのに……」 「まずい」 エリシアが端末を操作する。 「この規模では、避難は不可能です」 「戦うしかありません」 「だが、相手が多すぎる」 セツが武器を確認する。 「どうやって……」 その時、空から新たな影が降りてきた。 黒いスーツに身を包んだ女性。 冷酷な美貌と、機械的な動作。 「エルマ・クレスト」 エリシアが息を呑む。 「幸福圏市民幸福局総督……」 「なぜここに」 エルマが

  • 神様を殺した日   選択の記録

    第5継承地は、巨大な図書館のような空間だった。無限に続く書架に、無数の記録が保管されている。だが、その記録は本ではなく、光る球体の形をしていた。「すごい……」ノアが見上げる。「こんなにたくさんの記録が」「これらは全て……」アインが説明する。「ゼオが管理している人類の記録です」「生まれてから死ぬまでの、すべての記憶と感情」ノアがゆっくりと歩いていく。光る球体の一つ一つが、誰かの人生を表している。「なんとなく……」ノアが一つの球体に手を伸ばす。「この人、悲しかったんだ」球体が光ると、中年男性の記憶が断片的に流れる。家族を失った悲しみ。それでも生きていこうとする意志。最後に見せた、小さな笑顔。「でも……」ノアが首を傾げる。「この記録、何かが足りない」「足りない……?」アインが球体を調べる。「確かに……感情の一部が削除されています」「削除?」「はい。ゼオが『不要』と判断した感情が、取り除かれているのです」「不要って……」ノアが困惑する。「感情に、いらないものなんてあるの?」その時、図書館の奥から声が聞こえてきた。「君は……まだそれがわからないのか」振り返ると、銀髪の少年が立っていた。透明感のある瞳。どこか儚げな笑顔。「ルキくん……」ノアが小さく呟く。「やっぱり、あなただったのね」「久しぶりだね、ノア」ルキがゆっくりと近づいてくる。「君は成長した」「成長……?」ノアが首を傾げる。

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