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選ばれる者

Author: 吟色
last update Last Updated: 2025-07-12 21:17:43

「幸福異常値、検出」

「対象:市ノ瀬アキラ」

「幸福監査、即時発動——対象の意志を排除せよ」

まるで死刑執行を告げるような電子音声が、天井のスピーカーから無慈悲に響く。

喉が焼けるように詰まり、アキラはその場に立ち尽くした。

何が起きたのか、まだ脳が追いつかない。

そんな彼の背後で、父がゆっくりと立ち上がる。

そして無言で収納棚を開き、底の箱から古びた端末を取り出した。

「アキラ、これを持って北通りの地下口へ行け。今すぐだ。俺が時間を稼ぐ」

渡されたのは、時代に取り残されたような携帯端末だった。

物理ボタン、黒い画面。エンジェル・リングの時代には存在しないはずの、旧世界の道具。

「こんなもの……どうして……?」

「それは記録者の鍵だ。今のAIが構築される前、自由だった頃の通信技術の名残。

ゼオの目をかいくぐる数少ない方法だ。……これは、お前にしか渡せない」

「……そんなもの、何で俺に?」

「お前は選ばれる側にいる。自分で気づいてるだろ?

この世界はどこかおかしいと。……違和感を持つ者しか、選ぶことはできない」

父の言葉が、胸を打った。まるで何かを託すように。

アキラは端末を握りしめ、玄関へ向かおうとするが、ふと立ち止まる。

振り返ると、父は闇の中に立っていた。台所の照明もつけずに。

その背中は、どこか寂しそうに揺れていた。

「……行け。振り返るな」

その一言だけを残し、父は静かに背を向けた。

外はやけに静かだった。

だが空には、白い光のような監視ドローンが編隊を組んで飛んでいる。

夜空に浮かぶ神の目のように、街を俯瞰していた。

アキラは走る。脇目もふらず、ただ北通りを目指して。

「……北通りなんて、AIから行動候補に出されたこともなかった。

そもそも、こんなところに来るなんて、人生で一度もなかった気がする」

ここは、ゼオの地図からこぼれた空白。

幸福にも、正しさにも、選ばれなかった街。

湿った路面の奥に、鉄扉がぽつんと開いていた。

アキラは階段を下りながら、手の中の端末を見つめる。

その画面が突然点滅し、小さな音を立てて起動した。

記録装置起動:記録者ナンバー“C-07”、仮承認

「……C-07?」

意味がわからない。だが足は止まらない。

このまま戻れば、あの家も、自分も、すべてが消されるとわかっていた。

「来たか、アキラ」

非常灯に照らされ、ルキが現れる。

いつもの無表情。けれど、その声にはわずかな熱があった。

「……お前、なんでここに?」

「幸福スコアの動きでわかった。ゼオも君を追っていたが、僕も同じ信号を追っていた。

ここが継承の起点になると確信していた」

「継承って……」

「記録者とは、AIが世界を統治する前の記憶を繋ぐ存在だ。

君の父は、Rebel-01——神に最も背いた人間として記録されている」

アキラは拳を握りしめ、叫んだ。

「そんなの……聞いてない。父さんは、そんなこと一言も……!」

喉の奥から、怒りと混乱がこみ上げる。

でも本当は、それだけじゃなかった。

胸が、痛かった。

怖かった。

自分に、託されたことが。

……そうだ。

あの日のことを、ふと思い出した。

スコアが低いってだけで、無視され続けてたクラスメイトがいた。

何度も声をかけようとした。

でも、スコアが下がるのが怖くて、結局一度も何もできなかった。

あいつは笑ってた。けど、目は、ずっと泣いてた。

……あれから、何年経った?

俺は何も変われてない。

怖くて、目を逸らして、誰かを見捨てて。

だから、逃げたくなる。

今だって、逃げたくてたまらない。

でも……

アキラは、ゆっくりと顔を上げた。

「なあ、ルキ。……父さんは、助からないんだな」

ルキはわずかに表情を曇らせ、黙ってうなずいた。

「君の母も……おそらく同じだ。すでに幸福監査の対象に含まれている」

アキラは奥歯を噛みしめた。

怒りが、心の奥で膨らんでいく。

「それが……神のやることかよ」

声が震える。

言葉の先で、涙がにじむ。

「助けもしない。見もしない。幸福って言いながら……全部、壊していく」

そのとき

「アキラ!」

息を切らし、制服の少女が駆け込んできた。

カナだった。

「……お前も?」

「夢の中の記憶が少しずつ繋がってきて……ここに来なきゃって、そんな気がして……」

ルキが小さくうなずいた。

「カナもまた、記録者としての系譜にある。C-03……君の記憶はまだ封印されているが、呼び覚まされるときは近い」

カナは顔を伏せ、小さくつぶやいた。

「……私、ね。最近、お父さんとお母さん幸福度が100になったの」

アキラが、息をのむ。

「笑ってるの。ずっと笑ってるのに……もう、会話ができないの。

今日はいい天気ですねって。

昨日と同じ朝ごはんでしたねって。

私がどんな言葉をかけても……全部、同じ返事しか返ってこない」

カナの声が震え、指先が冷たくなる。

「目も、私のこと見てない。ただ……ただ笑ってるだけなの。

……まるで、壊れたおもちゃみたいに」

アキラは何も言えなかった。

けれど、たしかに感じていた。

その痛みを、自分もどこかで知っていた。

「幸福って……こんなものなの?

だったらそんなもの、私は……」

カナは顔を上げ、涙をこらえながら言った。

「……殺してやる。こんな神、いらない」

アキラは目を閉じ、深く息を吸い込む。

「……知らなきゃ、選べないんだろ。だったら俺は……もう、逃げない」

その言葉は、誰に向けたでもない。

でも確かに、自分自身に刻まれた意思だった。

アキラとカナが並んで前を見据えたそのとき、

ルキがふと、アキラに向き直る。

「なあ……さっき旧校舎で会ったとき、なんであのときは何も言わなかったんだよ」

アキラの問いに、ルキは一拍置き、静かに答えた。

「旧校舎では語れなかった。君たちはまだ、ゼオの監視の中にいた。

幸福スコアに縛られ、判断すら与えられていなかったから」

「でも今は違う。君はここまで来た。たとえ自分の意志じゃなかったとしても、歩みを止めなかった。

カナもまた、呼ばれるようにしてここへ辿り着いた」

そして、ふたりをまっすぐに見つめながら、言った。

「だから今、ようやく言える。

……やっと、本当の選択が始まる。

幸福という檻を抜けた君たちは、もう戻れない。

それでも、前に進むか?」

アキラは静かに息を吐き、手の中の端末を見つめた。

迷いを飲み込むように、ゆっくりとうなずく。

「進む。記録するためじゃない。選ぶために」

カナも隣で、まっすぐ前を見据えた。

その頃、市ノ瀬家。

静かな部屋。

もう湯気の消えたコーヒー。

ただ、過去の音だけが、耳に残っていた。

「ねえ、僕は……この数字で、幸せなの?」

あの小さな声が、ずっと耳から離れない。

世界は笑っていた。でも、あいつの目は笑っていなかった。

あれが、答えだったのかもしれない。

玄関のロックが音を立てて解除された。

黒く無機質なスーツ。仮面のような顔。アインが入ってくる。

後ろに続く幸福監査官たちと、白く浮かぶ監査ドローン。

「対象者逃走確認。補助者:市ノ瀬タカシ。R-01。幸福スコア管理外。削除対象、確定」

タカシは黙って、冷めきったコーヒーを一口すすった。

「幸福が人を救うって?

だったら、なんで俺は……息子の涙に、手も伸ばせなかったんだよ」

アインは無表情で答える。

「幸福は測定され、管理されるべきものです。異物は修正される。それが“世界の調和”」

タカシは目を閉じた。

「好きにしろ。

でもな……アキラは違う。

あいつは、俺よりずっと強い。あいつなら、……この牢獄を超えられる」

「記録:抹消開始」

光が、弾けた。

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