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闇からの返答

Author: 吟色
last update Last Updated: 2025-08-17 09:29:11

翌日の夜、ミナは再び旧地下鉄の廃駅に足を運んだ。

昨日メッセージを残した掲示板の前に立つと、新しい文字が刻まれているのを発見した。

《メッセージ確認。明朝5時、旧工場跡地にて接触》

《合言葉:自由の翼は折れない》

《注意:一人で来ること》

「返事があった……」

ミナの心臓が高鳴る。

ついに、反ゼオ組織との接触が実現するかもしれない。

急いで隠れ家に戻ると、三人が心配そうに待っていた。

「どうでした?」

アキラが身を乗り出す。

「返事があったわ」

ミナがメッセージの内容を伝える。

「明朝5時……」

カナが時計を確認する。

「あと6時間後ですね」

「一人で行くのは危険すぎる」

セツが眉をひそめる。

「罠の可能性もある」

「でも、他に方法がないわ」

ミナが反論する。

「ノアを救うためには、リスクを取るしかない」

アキラが立ち上がる。

「俺も一緒に……」

「ダメよ」

ミナが首を振る。

「メッセージには、一人で来いって書いてある。約束を破れば、信頼関係は築けない」

「でも……」

「大丈夫」

ミナが微笑む。

「何かあれば、すぐに連絡する」

-----

同時刻、中央管理塔では……

ノアの第二次記録注入が始まろうとしていた。

「被験体の状態は安定しています」

アインが報告する。

「昨日の記録注入による拒絶反応は見られません」

「そう……」

エリシアがモニターを見つめる。

「あの子、よく耐えているのね」

画面には、ノアの脳波パターンが表示されていた。通常なら、これほど大量の記録を注入されれば、精神的なショックで意識を失うはずだった。

「異常な適応能力です」

アインが続ける。

「まるで、誰かがサポートしているかのような……」

「誰かが?」

エリシアの目が細くなる。

「それは……どういう意味?」

「脳波パターンを詳しく分析すると、単体の反応ではないようなのです」

「まさか……」

エリシアの顔が青ざめる。

「ルキが接触している……?」

その時、ゼオの音声が響いた。

《異常反応検知。記録注入プロセスに予期せぬ干渉》

《原因究明急務》

アインが慌てて端末を操作する。

「詳細な分析を開始します」

だが、エリシアの心の中では、別の感情が渦巻いていた。

(ルキが……あの子を助けているの?)

もしそうなら、ノアはまだ希望を持ち続けているかもしれない。

(でも……それがバレれば……)

-----

記録
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  • 神様を殺した日   闇からの返答

    翌日の夜、ミナは再び旧地下鉄の廃駅に足を運んだ。昨日メッセージを残した掲示板の前に立つと、新しい文字が刻まれているのを発見した。《メッセージ確認。明朝5時、旧工場跡地にて接触》《合言葉:自由の翼は折れない》《注意:一人で来ること》「返事があった……」ミナの心臓が高鳴る。ついに、反ゼオ組織との接触が実現するかもしれない。急いで隠れ家に戻ると、三人が心配そうに待っていた。「どうでした?」アキラが身を乗り出す。「返事があったわ」ミナがメッセージの内容を伝える。「明朝5時……」カナが時計を確認する。「あと6時間後ですね」「一人で行くのは危険すぎる」セツが眉をひそめる。「罠の可能性もある」「でも、他に方法がないわ」ミナが反論する。「ノアを救うためには、リスクを取るしかない」アキラが立ち上がる。「俺も一緒に……」「ダメよ」ミナが首を振る。「メッセージには、一人で来いって書いてある。約束を破れば、信頼関係は築けない」「でも……」「大丈夫」ミナが微笑む。「何かあれば、すぐに連絡する」-----同時刻、中央管理塔では……ノアの第二次記録注入が始まろうとしていた。「被験体の状態は安定しています」アインが報告する。「昨日の記録注入による拒絶反応は見られません」「そう……」エリシアがモニターを見つめる。「あの子、よく耐えているのね」画面には、ノアの脳波パターンが表示されていた。通常なら、これほど大量の記録を注入されれば、精神的なショックで意識を失うはずだった。「異常な適応能力です」アインが続ける。「まるで、誰かがサポートしているかのような……」「誰かが?」エリシアの目が細くなる。「それは……どういう意味?」「脳波パターンを詳しく分析すると、単体の反応ではないようなのです」「まさか……」エリシアの顔が青ざめる。「ルキが接触している……?」その時、ゼオの音声が響いた。《異常反応検知。記録注入プロセスに予期せぬ干渉》《原因究明急務》アインが慌てて端末を操作する。「詳細な分析を開始します」だが、エリシアの心の中では、別の感情が渦巻いていた。(ルキが……あの子を助けているの?)もしそうなら、ノアはまだ希望を持ち続けているかもしれない。(でも……それがバレれば……)-----記録

  • 神様を殺した日   記録の重圧

    記録の海で、ノアは再びルキと向き合っていた。しかし、今度は周囲の光が不安定に揺らめいている。まるで嵐の前の海のように、静寂の中に不穏な気配が漂っていた。「始まったね」ルキの表情が曇る。「何が……始まったの?」ノアの声は小さく震えていた。「記録の注入だ」ルキが振り返る。「君の中に、人類が失った記憶が流れ込んでくる」その時、遠くから轟音のような音が聞こえてきた。「怖い……」ノアは無意識にルキの袖を掴む。「大丈夫。僕がついてる」ルキが優しく微笑む。「でも、これから見ることになる記憶は、とても辛いものが多い」「辛い記憶……?」「戦争、飢餓、憎しみ、裏切り……人間が選ばなかった、負の感情の記録だ」ノアの顔が青ざめる。「そんなの……見たくない……」「でも、逃げちゃダメだ」ルキが真剣な表情になる。「それらも含めて、人間なんだから」轟音が近づいてくる。そして、最初の記録が流れ込んできた。戦場の映像。泣き叫ぶ母親。燃える街。逃げ惑う人々。「いやあああああ!」ノアが叫び声を上げる。「見たくない!やめて!」「ノア!」ルキが彼女の肩を掴む。「逃げちゃダメだ!これも人間の一部なんだ!」「でも……怖い……痛い……」ノアの目から涙が溢れる。「なんで……こんなひどいことを……」「人間は完璧じゃない」ルキが静かに説明する。「間違いも犯すし、愚かなこともする。でも……」次の記録が流れてくる。今度は、戦場で仲間を救おうとする兵士の記憶。困っている人を助ける市民の記憶。最後まで希望を捨てなかった人々の記憶。「あ……」ノアの表情が変わる。「今度は……暖かい……」「そう。辛い記憶があるからこそ、優しさが輝くんだ」ルキが微笑む。「これが人間の本当の姿だよ」記録は次々と流れ込んでくる。愛する人を失った悲しみ。大切な人を守りたいという願い。誰かのために自分を犠牲にする選択。ノアは必死に耐えていた。時には泣き、時には震え、それでも逃げずに受け止めようとする。「がんばってるね」ルキが称賛する。「こんなに大量の記録を受け入れられる人は、そうはいない」「私……大丈夫かな……」ノアの声は疲れ切っていた。「わからなくなりそう……自分が誰なのか……」「だからこそ、大切なものを忘れちゃダメなんだ」ルキが手を差

  • 神様を殺した日   特訓という名の地獄

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  • 神様を殺した日   消えた少女と残された痛み

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  • 神様を殺した日   奪われた輪の中心で

    ノアの呼吸は浅く、肩が小刻みに上下していた。光輪の檻はもう消えているはずなのに、足元にはまだ残像のような淡い輪郭が見える。床にこびりついた光の痕が、まるで焼き印のようにノアを縛り続けていた。カナはその前にしゃがみ込み、額に手を当てた。「熱い……」指先から伝わる熱は、体温というよりも、どこか機械の発熱に近い不自然さを帯びている。「……起きて」呼びかけても、ノアの瞳は焦点を結ばない。薄く開いたままの瞼の奥で、瞳孔がわずかに揺れている。その時、廊下の奥──闇の中で足音が響いた。硬質で、規則正しい、まるで時間そのものを刻むような歩み。アキラの背筋が凍る。「……来る」セツの低い声が全員を緊張させた。足音は、ためらいなくこちらへ近づいてくる。やがて、闇の奥から姿を現したのは──黒く無機質なスーツに身を包み、仮面のような顔をした女。腰まで届く黒髪が、ゆるやかに揺れた。その存在感は、光を拒む影の塊のようで、近づくほど空気が冷たく沈んでいく。「……アイン」ミナがかすれ声で名を呼ぶ。アインは立ち止まり、何も言わずにノアを見つめた。その視線は、感情のない観測装置のように冷たく、しかし一点に向けられた執着だけは隠そうともしない。カナが立ち上がり、ノアを庇うように前に出た。「来ないで……!」声は震えていたが、その足は一歩も引かない。アインは応えない。ただ静かに手を伸ばし、その指先がわずかに光を帯びた。次の瞬間、空気が圧縮されるような低音が廊下全体に響き、床の残光がふたたび輪を描き始めた。光の輪が瞬く間に完成し、ノアの足元を囲った。その輝きは先ほどよりも濃く、触れれば即座に焼き切られると本能が告げてくる。「やめろ!」アキラが叫び、刃を抜いて踏み込む。だが輪の縁に近づいた瞬間、見えない衝撃波が全身を叩きつけ、肺の奥から息を奪った。膝が床に着く音と同

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