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第1086話

Auteur: 風羽
しばらくして、寒笙は薬瓶をバッグに戻した。

本当は彼女に赤ワインを少し飲ませるつもりだった。

だが今は自分のために一杯注ぐだけだった。

テーブルの準備を整えると、寒笙は床まで届く窓の前へ歩み寄り、両腕で翠乃の細い腰を抱き寄せた。二人並んで花火の上がる方角を見つめる。確かに、あれは豊海村の方向だった。遠くでも近くでも、花火が連なるように夜空を照らしていた。

寒笙がふいに口を開いた。

「翠乃……もし選べるとしたら、僕が一生記憶を取り戻さず、豊海村で穏やかに暮らすのと、今みたいに離婚してホテルで関係を持つのと……どっちを選ぶ?」

翠乃はわずかに首を傾け、ガラスに映る男の姿を見つめた。

額をガラスに預け、そっと擦りながら細く途切れがちな声で言う。

「私が選ぶなら……今のまま、こっち。愛樹や愛夕を私と同じように豊海村で生まれさせて、一生そこから出られない人生にしたくないもの。寒笙……一度村を出たら、もう簡単には戻れないのよ」

彼のような名家の人間にとって、村での暮らしは一時の体験であり、新鮮さにすぎない。

けれど、山の奥から出られない人間にとっては――それは一生消えない痛みだ
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