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第1167話

Auteur: 風羽
背後から、そっと腕が回される。

――彰人だった。

男はゆっくりと彼女の腰に手を添え、次第にその力を強めていく。やがて身体ごと包み込むように抱き寄せ、顎を彼女の肩に預けた――それは、あまりにも密やかで親密な抱擁だった。

願乃は唇を噛む。

「彰人……どういうつもり?」

彰人は片手で彼女の後頭部を軽く押さえ、顔をこちらへ向けさせる。黒い瞳が彼女の澄んだ瞳をまっすぐに捉えた。

低く、含み笑いを帯びた声。

「どういうつもり、だって?昨夜、酔ったふりしてわざと俺のベッドに入り込んできたのは誰だ?それなのに、今さらそんなことを聞くのか?」

――見抜かれている。

願乃はもう取り繕うのをやめた。

クローゼットから一着取り出し、タグを外しながら、手慣れた口調で言い返す。

「最初から分かってたくせに、ずいぶん楽しそうだったじゃない。まるで自分が損したみたいな顔しないで。あなた、むしろ嬉しそうだったわよ」

彰人は小さく笑った。

――確かに、楽しんでいた。

それ以上に、深く味わっていた。

三年。

まる三年ものあいだ、彼は女に触れていなかった。

ひとたび触れれば、抑えなど利くはず
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  • 私が去った後のクズ男の末路   第1268話

    芽衣が一瞬呆然としているあいだに、スマートフォンは男の手の中にあった。画面を開くと、友だち申請の欄に――【陽白】と、静かに名前が残っている。承認も拒否もされていない。――おそらく、目にも入れていなかったのだろう。陽白はそのまま承認を押し、低く言った。「この数年、ずっと見合いしてたのか?鼻の高い男が好みか?芽衣、いつからそんな分かりやすくなった?」芽衣はスマートフォンを取り返す。だが、彼を削除はしなかった。――ここで過剰に反応すれば、気にしていると思われる。それが癪だった。彼女は淡々と答える。「どんな男が好きかなんて、あなたの人生には関係ないでしょ?陽白、もう八年よ。あなたが戻ろうが戻るまいが、私の人生にはほとんど影響なかった。失恋したって、人生は続くの。もし本当に気にしていたなら、八年間、一度くらい連絡してきたはずでしょ?海外で楽しくやってたあなたが、私のことなんて思い出したこと、あった?私は、何度も泣いたわ。人を見る目がなかったって。そもそも、私たちは同じ世界の人間じゃなかったのよ。私は未来を考えてた。でもあなたは――どうやって私を捨てるか、考えてた。前の日まであんなに抱きしめて、汗びっしょりになるくらい求めてきたくせに、次の日には平然と『海外で稼ぐ』って言って、終わり」言い終えると、彼女はスマートフォンを軽く持ち上げ、どこかあっさりとした調子で言った。「――もう終わった話よ、陽白。恨んでない」……ただ、もう何も残っていないだけ。芽衣はロールス・ロイス・カリナンのドアを開け、運転席に乗り込む。シートベルトを締め、そのまま静かに車を走らせた。走り去りながら、ふと思う。――三、四年。自分の時間も、容姿も、すべてを費やした。でも、それで十分だ。結婚できないわけでもない。選べないわけでもない。――私はまだ持っている。芽衣の車が消えたあと、陽白は遅れて気づいた。彼女が今日、やけに色気のあるドレスを着ていたことに。今はコートで隠れているが、レストランでは、あの男の視線はあからさまに彼女の胸元へと落ちていた。まるで、待ちきれないかのように。――八年。芽衣はもう昔とは違う。あの頃は若くて瑞々しかった。だが今は成熟した女だ。

  • 私が去った後のクズ男の末路   第1267話

    だが、メッセージを送ってから三十分が経っても――芽衣は承認しなかった。――冗談じゃない。本気で、もう関わるつもりはないのだ。そう悟る。陽白はスマートフォンを見つめたまま、数分ほど考え込んだが、すぐにそのことを頭から追い出した。そもそも別れてから、一度も後悔したことはない。――あの頃は確かに好きだったけれど。芽衣は賢くて、美しくて、ほとんど欠点のない女だった。言ってしまえば――彼女のいちばん輝いていた三年間を自分は手にしていたのだ。だが今の陽白は忙しい。周囲には女性も多い。一時的に関わっただけの相手もいれば、最初から興味の持てない相手もいる。まるで順番待ちのように、交際を望む女たちが列をなしている。たとえどれほど優れていた元恋人であっても、いつまでも引きずる理由はない。まして今夜の芽衣はビジネススーツ姿で――仕事で出会うキャリアウーマンたちと、ほとんど同じ顔をしていた。特別なものなど、何も感じなかった。やがて、陽白は完全にそのことを忘れた。秘書を連れて一度実家に戻った。再び立都市に戻ると、自らの会社の立ち上げに取りかかった。資金は十分、人も揃っている。すべては順調に進み、気づけば十月も下旬。街路樹の葉はゆっくりと色づき始めていた。母親からは結婚の話を急かされる。だが陽白は半ば結婚に興味のない人間だった。適当に受け流す。会社の規模はおよそ五百人。ベンチャー投資を中心に、関連分野にも幅広く手を伸ばしている。自身でも株を扱うが、彼にとって金を稼ぐことは呼吸のようなものだった。――当然、私生活も華やかだ。金と外見、その両方を備えた男のもとには女が絶えない。そして、クリスマスを目前にしたある日、陽白は再び芽衣と顔を合わせた。高級な西洋料理店。陽白は美しい女を伴い、芽衣は見合いの席にいた。相手はひと目で印象に残るほど鼻筋の通った男。――叔母の気遣いによる縁談らしい。向かいの男は端正な顔立ちで、その高い鼻筋はまるで貴族のようだった。確かに、整っている。だが芽衣の心は動かない。そろそろ席を立とうかと思ったそのとき――陽白が女を連れて、こちらへ歩いてきた。連れているのは女優だった。ただし、星耀エンターテインメント所属ではない。その女

  • 私が去った後のクズ男の末路   第1266話

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  • 私が去った後のクズ男の末路   第1265話

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    結代は頷き、夕食に誘った。だが芽衣は首を横に振る。「今日は大学の同窓会があるの。また今度ね」そう言うと、デスクの下からひとつのバッグを取り出した。エルメスの限定モデル――小さなハウス型のバッグだ。結代は受け取るや否や、目を輝かせる。「えっ、これ……!ずっと欲しかったのに、全然手に入らなくて……どうして分かったの?」芽衣は肩をすくめて笑った。「イギリスに出張したときに、ちょうど見つけてね。あなたに似合うと思って」結代はそのまま歩み寄り、彼女の膝の上に軽く腰掛けると、ぎゅっと抱きついて頬にキスをした。芽衣は身長一七四センチ。結代はやや小柄だが、それでも一六五はある。それでも膝の上に収まる姿は不思議としっくりきていた。芽衣は気だるげに彼女の腰を軽く叩く。「ほら、もう帰りなさい。清席の宿題、見てあげるんでしょう?」両親は相変わらず恋人同士のようで、結代は姉のようでもあり、親代わりのようでもある――少し大変な立場だ。結代が去ったあと。秘書の邱が静かに入ってきて、微笑みながら尋ねる。「葉山社長、今年の同窓会も立光ホテルでよろしいでしょうか?」例年、会費はほとんど芽衣が負担していた。四百万円程度の出費など、彼女にとっては取るに足らないものだったし、気にしたこともない。だが今年は先輩から会場変更の連絡があった。別の高級クラブにするという。最低利用料金が三百万円以上の個室――しかも飲み物代は別。かなりの高額だ。誰かがスポンサーになったらしい。芽衣は特に気にも留めなかった。誰かが成功して、見せ場を作りたくなったのだろう――その程度の認識だった。そして、例年どおり。彼女は午後八時、きっかりに会場へと足を運ぶ。【行宮】――立都市でも屈指の高級会員制クラブ。食事も酒も、すべてが一流の場所だ。芽衣はいつもどおり、シンプルな仕事用のスーツ姿のまま、飾り気なくその中へと入っていった。だが――扉を開けた瞬間、違和感に気づく。音がない。照明も落とされ、室内は薄暗い。中にいる全員が一斉に彼女を見つめていた。芽衣は一瞬だけ首をかしげ、バッグをテーブルに置きながら淡く笑う。「どうしたの?そんなに見つめて……時間ぴったりでしょ?」開始は八時。彼女は毎年

  • 私が去った後のクズ男の末路   第1263話

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  • 私が去った後のクズ男の末路   第766話

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  • 私が去った後のクズ男の末路   第736話

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  • 私が去った後のクズ男の末路   第757話

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