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第695話

Author: 風羽
萌音はとうに飼い慣らされていた。

母の罵声を耐え忍び、涙と血を一緒に飲み込む。けれど、かつては確かに幸福を知っていた。

あの頃——ある叔母の家に預けられていたとき。

清潔な服を着せてもらい、明るい灯りの下で暮らし、学校にも通えた。ピアノだって弾くことができた。だが、その家にはもう戻れない。

秋の夜。薄い衣服をまとった幼い膝は傷だらけ。

彼女は頭を抱え、繰り返し謝った。

「お母さん、ごめんなさい……もうしません。ごめんなさい……」

真琴はさらに罵倒を浴びせる。部屋を見回し、家政婦を雇って掃除をさせ、パンや缶詰を買い置きしておけば充分だと考える。

「私の子ども時代は、これよりもっと惨めだったんだから」

萌音は黙って床に散らばるガラス片を拾っていた。

真琴は綺麗な場所を選んで腰を下ろし、電話をかけて手配を進める。その顔に、母の慈しみの影は一片もない。

電話を切った途端、外からノックの音。

「こんなに早く?」

ドアを開けた瞬間、髪をわしづかみにされ、壁へ叩きつけられる。

「このアバズレ!夜中に男遊びとはな……殺してやる!」

怒号とともに、羽村が殴りかかってきた。

そして、ふと視線が部屋の片隅へ。

黒い瞳がじっとこちらを見ていた。

「どこかで見た目だな。お前の私生児か?」

慌てた真琴は萌音に目で合図を送る。だが少女は素直に口を開いた。

「お母さんを離して!」

その一途さを、真琴は地獄へ突き落とす道具に変えた。

羽村の口から黄色い歯がのぞく。

小鳥のように小さな身体を片手で持ち上げ、にやりと笑った。

「こいつなら金になる。十億払えば返してやる。嫌なら山奥に売り飛ばすまでだ」

「十億!?強盗と変わらないわ!」

「値段はお前次第だ」

……

真琴の胸中は激しく揺れた。

この子は、あの夜羽村に襲われたときに身ごもり、産んでしまった子。言ってしまえば、羽村の血を引く。

そう名乗れば萌音は助かるかもしれない。

だが、真琴にとって萌音はただの重荷にすぎなかった。

「売ればいいわ」

その一言は、氷のように冷たかった。

「お母さん」

小猫のような声で萌音が呟く。

羽村すら一瞬絶句した。

「こいつ、本当に鬼か」

だが彼は迷わず萌音を連れ出した。

少女は抵抗しなかった。もう反抗する力も忘れていた。

ただ目を見開き、母を見
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goodnovel comment avatar
fuo8123
真琴が海外へ逃げた所で、自分が犯した罪は必ず追って来る! 萌音は真琴と羽村の間の子供って事は一体何時からの関係だったんだろう?! てっきり父親との子供かと思ってたから違ってて良かったけど、両親とも毒親だから萌音も真琴みたいに成長するのかもしれない。 親から愛情を受けないで育った子供は自分しか愛せない大人になるんだろう真琴の様に。 負の連鎖というのかなぁ…誰も救ってはくれない。
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