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4

Author: Lady-Noir
last update publish date: 2026-08-10 06:14:04

第4章

サマンサが出て行ったあと、玄関のドアが静かに閉まった。

彼女の足音が遠ざかっていき、リビングルームには奇妙な静寂だけが残された。

カルヴィンはまだソファに座っていた。

身体を背もたれに預け、片腕を力なく脇へ垂らしている。

リビングの照明はまだ点いたままだったが、室内には冷たい空気が漂っていた。

彼は長く息を吐いた。

「僕は……どうしたんだ?」

彼は小さく呟いた。

ほんの少し前、サマンサが彼の唇にキスをした。

ずっと待ち続けていた女性。

自分が愛していると、そう思っていた女性。

それなのに、胸が高鳴ることもなければ、キスを返したいという衝動もなかった。

何もかもが空虚だった。

カルヴィンは目を閉じ、頭の中に浮かんでくる映像を追い払おうとした。

しかし、目を閉じるたびにカメリアの姿が浮かんだ。

彼は苛立たしげに再び目を開けた。

「クソッ……」

そのとき、玄関のチャイムが鳴った。

カルヴィンは鋭く振り向き、立ち上がってドアを開けた。

そこには、険しい表情をしたロナルが立っていた。

「旦那様」

ロナルは恭しく挨拶した。

「入れ」

カルヴィンは短く答えた。

ロナルは中へ入り、カルヴィンの前に立った。

「ご報告があります」

カルヴィンは再びソファに腰を下ろした。

「話せ」

「いまだに奥様、カメリア様の行方は分かっておりません」

ロナルは慎重に告げた。

「ですが……一つだけ分かったことがあります」

カルヴィンは顔を上げた。

「何だ?」

「昨日の午後、奥様は旦那様が普段行かれているクラブへ向かわれました」

カルヴィンの身体が強張った。

「クラブ?」

「はい、旦那様。ケーキの箱を持っておられました。長くはいませんでした。ほんの数分です。その後、奥様はお帰りになりました」

カルヴィンの手がゆっくりと握りしめられた。

「ケーキ?」

「はい」

ロナルは続けた。

「スタッフによれば、最初は穏やかで幸せそうな様子だったそうです。しかし、しばらくすると悲しそうな表情になったと」

カルヴィンは黙り込んだ。

記憶が急速に蘇ってくる。

自分自身が口にした言葉が、頭の中で何度も響いた。

――彼女とは離婚する。僕が愛しているのは君だけだ。

カルヴィンの顎が強くこわばった。

「彼女は……聞いたのか?」

ほとんど聞き取れないほどの声だった。

ロナルは口を挟むこともできず、ただ待っていた。

カルヴィンは乱暴に顔を擦った。

胸に不快な感覚が広がっていた。

「捜索をやめろ」

ロナルは驚いた。

「旦那様?」

「やめろ」

カルヴィンは冷たく繰り返した。

「もう彼女を探す必要はない」

「ですが――」

カルヴィンは鋭い目でロナルを睨みつけた。

「やめろと言った」

ロナルは頭を下げた。

「はい、旦那様」

カルヴィンは背もたれに身体を預けた。

「三日もあれば十分だ」

彼は傲慢に言った。

「彼女は自分から戻ってくる」

ロナルは一瞬ためらったが、やがて頷いた。

「承知しました」

ロナルが出て行き、再びカルヴィンは一人になった。

その夜も、カメリアは戻ってこなかった。

そして朝になっても、カメリアはいなかった。

一日目。

カルヴィンは苛立った気分で目を覚ました。

家の中はあまりにも静かだった。

キッチンから足音が聞こえてくることもない。

カメリアがいつも用意していた簡単な朝食の匂いもしない。

普段なら仕事用の服がきちんと用意されているはずなのに、今朝は何もなかった。

「わざとやっているんだ」

彼は呟いた。

「僕と駆け引きするつもりか」

二日目。

カルヴィンはいつもより早く会社から帰宅した。

リビングに入ると、無意識にカメリアの姿を探した。

しかし、そこには誰もいなかった。

彼は腰を下ろし、長い間ドアを見つめていた。

「僕は喜ぶべきなんだ」

彼は自分自身に言い聞かせた。

「これが僕の望んでいたことじゃないのか?」

三日目。

カルヴィンは落ち着きを失い始めた。

何度も携帯電話を確認した。

カメリアからの着信は一件もない。

メッセージもない。

本当に、何もなかった。

「意地を張って帰ってこないのか?」

彼は苛立たしげに呟いた。

それとも……戻ってくるつもりがないのか?

その考えが浮かんだ瞬間、胸が締めつけられた。

カルヴィンは立ち上がり、部屋を行ったり来たりした。

「あり得ない」

彼は断固と言った。

「彼女には誰もいない」

それでも、カメリアが自分を誘惑したときの姿が脳裏に浮かんだ。

カルヴィンは足を止めた。

「どうして戻ってこないんだ?」

誰もいない部屋に向かって、彼は尋ねた。

再び離婚届の入ったファイルへ目を向けた。

手を伸ばしかけたが、途中で止めた。

まだ離婚届には署名していなかった。

カルヴィンは長く息を吐き、困惑した表情で再びソファへ腰を下ろした。

「僕は本当は……何を望んでいるんだ?」

彼は小さく呟いた。

三日が過ぎた。

それでも、カメリアは戻ってこなかった。

そして奇妙なことに、カルヴィンはこれまで考えたこともなかった可能性に、恐怖を感じ始めていた。

カメリアが、本当に永遠にいなくなってしまったのではないか。

「あり得ない! 彼女は絶対に戻ってくる」

カルヴィンは拳を強く握りしめた。

ほどなくして、玄関のチャイムが鳴った。

何もせず座っていたカルヴィンは、すぐに顔を上げた。

眉をひそめ、それから立ち上がって玄関へ向かった。

ドアを開けると、そこには数個の料理の箱を抱えたサマンサが立っていた。

「お邪魔じゃない?」

彼女はかすかに微笑んで尋ねた。

カルヴィンはしばらく黙った。

「いや」

ようやく答える。

「入れ」

サマンサは中へ入り、そのままリビングへ向かった。

「最近、あまり食べていないでしょう?」

彼女はテーブルに箱を置きながら言った。

「また胃の調子が悪くなっているみたいだから。あなたの好きなものを持ってきたわ」

カルヴィンは箱の中身をちらりと見た。

温かいスープ、胃に優しい食事、そしてカットされた果物。

どれも胃の調子が悪いときに、彼がいつも口にしていたものだった。

「わざわざ気を遣わなくてもよかったのに」

カルヴィンは素っ気なく言った。

「別に気を遣っているつもりはないわ」

サマンサは短く答えた。

「それに、私たちもうすぐ結婚するんでしょう?」

カルヴィンは答えなかった。

再びソファへ腰を下ろす。

サマンサも隣に座り、料理の箱を一つ開けた。

「食べて」

彼女はスプーンを差し出した。

「少しだけでも」

カルヴィンはため息をつき、スプーンを受け取った。

しかし、自分で口へ運ぶより先に、サマンサが料理をすくい、カルヴィンの口元へ運んだ。

「ちょっ――」

カルヴィンは断ろうとした。

だが、結局そのまま口を開けた。

サマンサは満足そうに微笑んだ。

「そのほうがいいわ」

カルヴィンが気づかないうちに、サマンサは携帯電話を持ち上げ、写真を一枚撮った。

食事を咀嚼していたカルヴィンは、ちらりと視線を向けただけだった。

そして無意識に、かすかな笑みを浮かべた。

カシャ。

「何をしている?」

食べ物を飲み込んだあと、カルヴィンが尋ねた。

「何でもないわ」

サマンサは軽く答えた。

「ただ写真を撮っただけ」

そう言うと、サマンサはカルヴィンの頬にキスをして、もう一枚写真を撮った。

カルヴィンはもう何も反応しなかった。

そのまま黙って食事を続けた。

数分後、サマンサは再び携帯電話を開いた。

指を素早く動かす。

先ほど撮った写真を選び、SNSへ投稿した。

そこには、はっきりとこう書かれていた。

「許してくれてありがとう。今も私を愛してくれてありがとう」

何も隠す必要はなかった。

そもそも、カルヴィンとカメリアの結婚は世間に公表されていなかったのだから。

サマンサは携帯電話の画面を見つめ、満足そうに微笑んだ。

「カルヴィン」

彼女は優しく呼びかけた。

「ん?」

カルヴィンが顔を向ける。

「私はあなたを心から愛しているわ」

サマンサは言った。

「私をずっと待っていてくれて、貞節を守ってくれていたことが嬉しい」

カルヴィンはただ頷いた。

「これからも頻繁に来るわ」

サマンサは軽く言った。

「少なくとも、あなたが本当に元気になるまではね」

一方、その頃。

カメリアは質素な部屋に座っていた。

テーブルの上で携帯電話が小さく振動した。

彼女は顔を向け、それを手に取った。

通知が一件表示されていた。

カメリアは無表情のままSNSを開いた。

そして、サマンサの投稿を目にした瞬間、指が止まった。

その写真。

サマンサに頬へキスされながら、カルヴィンが微笑んでいる写真だった。

カメリアはしばらく画面を見つめ続けた。

「ああ……」

彼女は小さく呟いた。

涙は出なかった。

大きな反応もなかった。

ただ、胸が少し締めつけられる。

まるで、そっと押さえつけられているようだった。

彼女はキャプションをもう一度読んだ。

「許してくれてありがとう。今も私を愛してくれてありがとう」

カメリアは静かに息を吐いた。

「そういうことだったのね……」

彼女は囁いた。

携帯電話の画面を消し、テーブルの上へ戻した。

その唇にはかすかな笑みが浮かんでいた。

それは、受け入れたことを示すような笑みだった。

「本当の恋人同士が、ようやく再会できたのね」

彼女は静かに言った。

「おめでとうございます、カルヴィンさん」

カメリアは椅子に深く身体を預けた。

その視線は虚ろで、壁の一点を見つめていた。

「私が出て行くと決めたのは、本当に正しい選択だったわ」

彼女は自分自身に言った。

それでも、身につけているコートの端を、手が無意識に強く握りしめた。

呼吸がわずかに詰まる。

「心だけは……本当に欺けないのね」

彼女は静かに呟いた。

カメリアはしばらく目を閉じた。

そして再び目を開けたとき、その瞳は以前よりも穏やかだった。

「もう、待つものは何もない」

彼女はきっぱりと言った。

「これからは、自分のことだけを考えるわ」

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