翌日、目を覚ましたシャルロットは、隣で眠るクライヴを目にしてホッとした。
それと同時に、こんな状況でも眠れてしまう自分の図太い神経を嘆いた。 (感心すべき所なのか…危機感を持つべきなのか…) 血の繋がりはなくとも、兄妹なのだから気にしすぎだと言われたらそれまで。それに、相手が相手なだけに悶々と考えるのも馬鹿みたいだ。 (この人にとっては、抱き枕程度って事でしょ) これだけ眠れるということは、抱き枕としての役目は十分に果たせたはずだ。 うんうん。と納得すると、シャルロットはクライヴを起こさないようにそっとベッドを出た。 その日は、朝食にクライヴの姿があった。 顔色はまだ良くないものの、朝食の席にいるだけで使用人達は安堵し、忙しなく料理を運んでくる。 久しぶりに食卓が明るい雰囲気になり、シャルロットは嬉しくてニコニコと屈託のない笑みを浮かべていた。クライヴには怪訝な表情で見られたが、まあ、今日ぐらいは許してやろう。 気分良く朝食を摂り、いつものように一日が始まり、いつものように終わるはずだった… 「………」 シャルロットは唖然とした表情でベッドに入って、天井の一点を見つめていた。 横には当然のようにクライヴがベッドに入り、本を読んでいる。 「いや、おかしい!」 正気に戻ったシャルロットが、勢いよく体を起こした。 「何で隣にいるんですか!?」 「愚問ですね」 飄々とした態度で言ってのけるクライヴに一瞬、たじろいでしまったが、多分私は間違っていない!と信じて強気に言い返す。 「何が悲しくて、いい歳した兄妹が同じベッドで寝なきゃならんのです!?」 「私と寝るのは嫌だと?」 「そうじゃない!世間一般的な問題です!」 「別に気にする事ではありませんよ」 「……」 なんだ?やけに保身的な言い回しをしてくるな… 普段のクライヴなら 『私の為に努力すると貴女が言い出したんです。抱き枕ぐらいしか役に立てないのですから、しっかり役立って下さい?子供じゃないんですから、自分の発言に責任を持ちなさい』 とか何とか傲慢的かつ高圧的な態度で言い負かしてくるはずなのに、今回ばかりは様子が違う。言葉一つ一つが守りの姿勢を取っている様な感じがする。 「ふふっ、随分勘繰ってますね」 これが勘繰らないでどうする。 「単純に、私が貴女と一緒にいたいんですよ」 「え?」 「冗談です」 (こいつッ!) 楽しげに笑うクライヴに殺意を覚えるが、本気にしてしまった自分にも腹が立つ。 「ほら、くだらない事考えてないで寝ますよ」 流れるまま、布団を被り寝る体勢へ…何となく腑に落ちないが、横で眠るクライヴの顔を見たらそんな気持ちも薄れた。 *** クライヴと一緒に眠るようになって数日。最初こそ、気恥しさが勝っていたが、3日目位からはそんな気持ちは消え去った。何だかんだ、人と寝るのは安心感があって落ち着く。 クライヴの安眠の為なのか、自分の方が安眠の為なのか、よく分からなくなってきた。 クライヴの顔色も良くなり、今ではシャルロットがベッドに入る前には帰ってくる生活になり、ようやく落ち着いた生活に戻ってきた。 そんなある日… 「シャルロットちゃん!」 「叔母様!?」 つばの大きな帽子を被り、笑顔でシャルロットの元へ駆けてくるこの人は、亡き父の妹でシャルロットの叔母にあたるミランダ・リッチ。貿易商を生業にしたリッチ伯爵を夫に持つ。リッチ伯爵といえば、一代で築き上げた実業家だ。 子供のいないリッチ夫妻は、姪であるシャルロットの事を自分達の娘のように可愛がってくれている。 「元気だった?変わりは無い?」 「ええ。叔母様も?」 「勿論」 シャルロットの頬に手を当て、撫で回しながら問いかけてきた。父を亡くしたシャルロットを気にかけて、こうして度々様子を見に来てくれるのだ。優しくて頼りになる大好きな叔母。 …だが、少々困った所もある。 「それはそうと、最近はどう?好きな人は出来た?」 …来た。 「女は恋をして美しくなるのよ?シャルロットちゃんの歳なら婚約者の一人や二人いるのが普通よ?」 なまめしい仕草で語るミランダを、シャルロットは苦い顔をしながら聞き流していた。 そう。困った事とは、叔母さん特有のお節介……心配してくれるのは有難いが、両親を亡くしたばかりで気持ちの切替が出来ない。 …と言うのは建前。本当の理由は、愛だの恋だのという気持ちがよく分からない。 「そうだわ!わたくしの知り合いのご子息を紹介してあげましょうか!?」 「え!?」 「安心して!とても素敵な息子さんでね、うちの人のお得意様でもあるのよ。家柄も申し分はないはずよ」 「いや、叔母様私は……」 一人盛り上がるミランダを止めようとするが、興奮状態でシャルロットの言葉が届かない。 「そうと決まれば、早い方がいいわね」 「ちょッ!」 「リッチ夫人」 突っ走るミランダを止めようとするシャルロットの背後から、恐ろしいほど冷たく低い声が聞こえた。 振り返るとそこには、腕を組みながら笑顔を浮かべるクライヴの姿があった。 「あら…いないと思ってたけど、いたのね」 「ええ、今しがた戻って来たところです。…随分と賑やかな声が聞こえたので、ご挨拶にと」 「別に貴方からの挨拶なんて要らないわ」 フイッと顔を背けるミランダだが、クライヴは笑顔を崩さない。 「そうはいきません。義父の妹君でありシャルロットの伯母上であるのですから、当主である私が挨拶するのは当然かと」 「は、当主ですって?薄汚い女狐の子である貴方が?笑わせるんじゃないわよ。わたくしはそんなの認めていないわ」 ミランダは父が再婚すると聞いた時、唯一反対していた人物である。その反対を押し切り再婚したものだから、義母とクライヴに対する当たりは相当強かった。義母は|子供《私》達の前では気丈に振舞っていたが、部屋で一人になった時に泣いているのを何度も目撃している。 大好きな叔母と大好きな義母…できれば仲良くして欲しいが、それは無理だろうと父に言われた。義母は「私の事は気にしないで。貴女はいつも通りでいいのよ」と言われて結局、最後まで私はどっちつかずの卑怯者でいた。 「貴女に認めてもらわなくとも結構です。すでに決定したことですので」 いつの間にか、クライヴは黙って罵られるだけの子供ではなくなった。 勝ち誇ったように言われたミランダは悔しそうに唇を噛みしめている。 「それと、聞き捨てならない言葉が聞こえましたが…シャルロットに男を紹介するとかなんとか…?」 笑みを消し、薄っすら目を開けながら問いかけると、辺りの空気がピリッと緊張感に包まれたように感じた。 「ええ、シャルロットもいい歳ですからね。行き遅れなんて言われたら可哀想でしょ?見てくれだけのご当主様じゃ当てになりませんからね」 「何度も言いますが、シャルロットに婚約者はまだ早いです」 「まあ!何て言い草!女の幸せを奪うつもりなの!?」 「女性の幸せは結婚だけとは限りません」 「婚約者もいない行き遅れの醜男が何を言うのかしら」 話が一方通行で、流石のクライヴも頭を抱え始めた。これは、自分の出番かな?とシャルロットが間に入ろうとしたが、クライヴの鋭い視線が止めてきた。 「とにかく、シャルロットに婚約者は不要です。今日の所はお取引を」 「貴方に指図される筋合いは──」 「お取引を」 笑顔のクライヴに凄まれ、ミランダはビクッと肩を震わせた。 「チッ」と小さく舌打ちすると挨拶もそこそこに屋敷を出て行ってしまった。「それで家出したって?」 煙草を吹かしながら不貞腐れように枕を抱えるシャルロットに声をかけるのは、親友のドロシー。 漆黒の髪に切れ長の目で妖艶に微笑む姿は、同性であるシャルロットでも思わず息を飲むほど美しい。 煙草を咥え、素足を晒して脚を組む姿はとても令嬢とは思えいないが、これでも立派な侯爵令嬢。自由奔放で淑女とはほど遠いが、ありままの自分を隠そうとしない姿が格好良く、憧れている者も多い。「まあ、こちらはいつまで居てくれても構わないよ」 「本当!?」 「あの男の事だ。あんたがここに居ることは把握してるだろうしね。ゆっくりして行きな」 男前発言に目に涙を浮かべて喜んだ。 そんなシャルロットに「きっとすぐに迎えが来るんだろうがな」とは言えず、言葉を飲み込んだ。 すぐ迎えに来ると思っていたが、一日、二日と何事もなく日が過ぎ、更に三日、四日と日が経った。 「お誕生日おめでとう」 「ありがとう」 タイトで艶やかなドレスを纏ったドロシーに祝いの言葉をかけた。 今日はドロシーの誕生パーティー当日。 家出を決行してから数日、クライヴからの連絡は一切ない。あれだけ行動を制限していたんだから、すぐに怒鳴り込んでくるかと思っていたシャルロットも拍子抜け。 しかし、こうも静かだと逆に心配になってくる自分もいる。「クスクス」 眉を顰めて外を眺めていると、ドロシーの楽しげに笑う声が耳に届いた。「連絡がなければないで心配になるとは、あんたも大概だね」 「そ、そんな事ない!清々してるわよ」 「そうか?私はそうは見えないがな」 そんな揶揄う言葉をかけられながら、招待客の待つ広間へと急いだ。 広間の扉を開ければ、そこは別世界。煌びやかで賑やかな光景が目に飛び込んできた。毎年広間を覆いつくほどの人に圧巻される。 主役であるドロシーが足を踏み入れれば、すぐにワッとその場が湧き上がる。ドロシーの周りにはあっという間に人だかりが出来上がり、人柄が分かるように笑顔で一人一人に挨拶をして行く。こうなるとシャルロッテは完全に蚊帳の外。 まあ毎度の事なので慣れたもの。グラスを手にして壁際に寄り、人が掃けるのをジッと待つ。 一つ目のグラスが空になり、二つ目のグラスに手を伸ばした所で「こんばんわ」と声がかかった。チラッと見ると、色眼鏡をかけた男が同じようにグラス
叔母であるミランダが訪れてきたあの日から、クライヴの様子がおかしい。 少し外出しようとすれば、誰と何処に行くのか事細かに説明しなければ屋敷から出る事を許してくれなくなった。 更に、この歳でまさかの門限がついた。門限までに帰らないとペナルティを課すと言い出す始末。「門限って…子供じゃないんですよ!?」 いくらなんでもあんまりだと、机を叩きつけながら抗議した。「私からすれば、まだ子供同然です。子を守るのは親の役目しょう?」 「はぁ!?いつ貴方は私の親になったんですか!?」 「親になったつもりはありませんよ。分かりやすく言い換えただけです」 書類から一切目を逸らさずに言い切られた。目すら合わせない癖に、言う事を聞けとは随分横暴じゃないのか? …ああ、この人は最初から横暴で傲慢だった…「とにかく、私は成人を迎えた立派なレディです。門限なんて必要ありません」 ここで負けては駄目だと、腕を組みながら強気に発言した。「ロティ」 その一言にうなじがゾッと粟立った。 カチャと眼鏡を外し、真っ直ぐにこちらを見つめるクライヴ。綺麗な顔をしている人ほど、本気な威圧は萎縮してしまう。「この屋敷の当主は誰?」 「お、お兄様です」 「当主の言葉は?」 「…………絶対」 「そう言うことです」「分かったら行きなさい」と言わんばかりに眼鏡をかけ直し、書類に目を通し始めた。 シャルロットは不服そうに頬を膨らまして、苛立ちを表すように大きな足音を立てながら部屋を後にした。 扉が閉められると「クスクス」とクライヴの楽し気な声がその場に響いた。「まったく、そういう所が子供だと言うんですよ」 *** クライヴからの厳しい監視が続く中、シャルロットの親友であるドロシー・クリッチの誕生パーティーの招待状が届いた。ドロシーの事はクライヴも良く知っているので、外出の許可はすぐに下りたが、問題は門限の方。 一人娘であるドロシーの誕生日という事で、毎年盛大なパーティーを開かれる。それこそ夜通し開かれるので、シャルロットはお泊まりが決まりだった。当然、今回も泊まりで行く予定なのだが…「駄目です」 だと思った。「何故です!?毎年泊まっているんですよ?」 「毎年いけるから今年も大丈夫だと思ったら大間違いですよ」 「一日だけ!今回だけ!ドロシーの誕生日なのよ!お願
翌日、目を覚ましたシャルロットは、隣で眠るクライヴを目にしてホッとした。 それと同時に、こんな状況でも眠れてしまう自分の図太い神経を嘆いた。(感心すべき所なのか…危機感を持つべきなのか…) 血の繋がりはなくとも、兄妹なのだから気にしすぎだと言われたらそれまで。それに、相手が相手なだけに悶々と考えるのも馬鹿みたいだ。(この人にとっては、抱き枕程度って事でしょ) これだけ眠れるということは、抱き枕としての役目は十分に果たせたはずだ。 うんうん。と納得すると、シャルロットはクライヴを起こさないようにそっとベッドを出た。 その日は、朝食にクライヴの姿があった。 顔色はまだ良くないものの、朝食の席にいるだけで使用人達は安堵し、忙しなく料理を運んでくる。 久しぶりに食卓が明るい雰囲気になり、シャルロットは嬉しくてニコニコと屈託のない笑みを浮かべていた。クライヴには怪訝な表情で見られたが、まあ、今日ぐらいは許してやろう。 気分良く朝食を摂り、いつものように一日が始まり、いつものように終わるはずだった…「………」 シャルロットは唖然とした表情でベッドに入って、天井の一点を見つめていた。 横には当然のようにクライヴがベッドに入り、本を読んでいる。「いや、おかしい!」 正気に戻ったシャルロットが、勢いよく体を起こした。「何で隣にいるんですか!?」 「愚問ですね」 飄々とした態度で言ってのけるクライヴに一瞬、たじろいでしまったが、多分私は間違っていない!と信じて強気に言い返す。「何が悲しくて、いい歳した兄妹が同じベッドで寝なきゃならんのです!?」 「私と寝るのは嫌だと?」 「そうじゃない!世間一般的な問題です!」 「別に気にする事ではありませんよ」 「……」 なんだ?やけに保身的な言い回しをしてくるな… 普段のクライヴなら『私の為に努力すると貴女が言い出したんです。抱き枕ぐらいしか役に立てないのですから、しっかり役立って下さい?子供じゃないんですから、自分の発言に責任を持ちなさい』 とか何とか傲慢的かつ高圧的な態度で言い負かしてくるはずなのに、今回ばかりは様子が違う。言葉一つ一つが守りの姿勢を取っている様な感じがする。「ふふっ、随分勘繰ってますね」 これが勘繰らないでどうする。「単純に、私が貴女と一緒にいたいんですよ」
事件は突然やって来た。「お嬢様!旦那様と奥様が!」 「え?」 シャルロットが20歳になる前日、両親は事故に遭い他界した。シャルロットの誕生日プレゼントの為に、隣町に出掛けた最中に起こった事故だった。 連日降り続いた雨で地盤が崩れ、その土砂に巻き込まれたと聞いた。即死だったらしい。 父と母は小さな箱を守るようにお互いに手を取り、包み込んでいたらしい。その箱の中には、シャルロットの20歳の記念にと選んだペンダントが入っていた。「…う…うぅ…お父様……お義母様…ッ!」 その事実を知った時、シャルロットは膝から崩れ落ち地面に突っ伏して泣いた。その傍らにはクライヴが黙って佇んでいた。 最悪の誕生日。 本来なら笑顔の両親から受けるはずだったプレゼント。嬉しいはずなのに、嬉しくない。「いつまで泣いているつもりですか?」 こんな時ぐらいは黙って感傷に浸らせろと睨みつけながら訴えるが、クライヴは止まらない。「その手に持っているのは何ですか。貴女のお父上が命を懸けて守ってくれたプレゼントですよ?どんな物より価値のある代物です。笑顔で感謝を伝えなければ報われません」 そう言うと、優しく全身を包み込むように抱きしめられた。「大丈夫、貴女には私がいます。一人じゃありませんよ」 幼い子供をあやす様にポンポンと背中を叩かれると、涙が滝のように溢れ出てきた。 悔しいけど、その一言に救われた気がした… *** 当主である父が亡くなり、兄であるクライヴが後を引き継いだ。 急な事で、クライヴ自身も決意が定まらぬまま引き継いだ形となり、その苦労は目に見えて明らかだった。 朝は誰よりも早く起き、屋敷を出る。帰宅は、みんなが寝静まった深夜遅く。一体いつ休んでいるのか疑問になるほどで、使用人達すらもクライヴとしばらく顔を合わせていないと言う者がほとんどだった。 そんな生活を二ヶ月近く送っていたある日の深夜…シャルロットは物音で目が覚めた。窓の外はまだ暗く、月が真上にある。こんな時間に起きているのは一人しかない。 シャルロットはベッドから出ると、部屋の外へ出た。「お兄様」 「ああ、貴女ですか…どうしたんです?こんな時間まで…」 久しぶりに会ったクライヴは、酷く疲れた様子で顔色も悪く、目の下には濃く色付いた隈が目立っていた。まるで別人のような変貌ぶりに、
自慢では無いが、私には頭脳明晰、眉目秀麗な天が味方に付いて完全に一人勝ちした様な兄がいる。父の後を継ぐように騎士になり今や副団長。 片や妹である私は、良くも悪くも人並み程度。学力も平均的で特別目立った功績もない。 最初に言った通り、自慢するつもりは毛頭ない。むしろ、そんな目立つ兄がいるってだけで、ことある事に比べられて来た。兄を慕う令嬢からは、妬みや恨み言を言われることもしばしば。正直、厄介者という認識でいる。 そもそも、兄と似るはずがない。私と兄は血の繋がりはないのだから… *** 義兄であるクライヴと出会ったのは、シャルロットが8歳の時。父の再婚で継母と5歳離れた義兄が出来ると聞かされたシャルロットは大いに喜び、屋敷にやってくるその日を心待ちにしていた。 「何だ?この頭が悪そうな生き物は…」 心待ちにしていたシャルロットが、初見で開口一番に言われた言葉。 眉間に皺を寄せ、心底面倒臭そうな表情でこちらを睨むクライヴ。シャルロットは顔を引き攣らせながらも、必死に笑顔を保たせた。 「なんて事言うの!今日から貴方の妹になるシャルロットちゃんよ!」 慌てて取り繕う継母が哀れで、湧き上がってくる怒りを何とか鎮めたのを覚えてる。傍では父がゲラゲラ笑いながら、兄になるクライヴだと紹介してくれた。 第一印象は最悪。楽しみにしていた分、この仕打ちは幼子心に堪えた。 「急に家族が増えて困惑しているんですよ」 使用人達が落ち込んでいるシャルロットを宥めるように声をかけてくれる。まあ、それもそうか…とその場は納得できた。 「仲良くしてくれるかな?」 「ええ、きっと」 その言葉を信じ、クライヴを見かけたら声をかけて仲を縮めようと努力した。……が、 「何ですか?」 「用がなければ声をかけないでください」 返される言葉はいつも冷たいもの。それでも、折角できた兄と仲良くしたい一心で、何度も折れかける心を誤魔化しながら立ち向かった。……というか、ここまで拒絶されたら逆に意地にもなる。 「用がないなら声をかけるなってことは、用を作ればいいってことでしょ!?」 半ば意地になったシャルロットは、教本を何冊も抱き抱えてクライヴの元を訪れた。 「お兄様、分からない所があるので教えていただけますか?」 これ見よがしにドンッとクライ