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4.あいつって誰?③

Author: 鷹槻れん
last update Huling Na-update: 2025-08-05 13:34:34

明らかに分別違いのごみ――可燃ゴミの中に空き缶――を見つけた私は、火バサミで取り除いてから正しい分別の袋に入れ直して各々のごみ袋の口を結ぶ。

ゴミ箱には新しいゴミ袋を掛けて、とりあえず店舗前での作業は完了。

あとは――。

封をし終えたごみを一袋ずつ、店舗裏のごみ保管用倉庫へ運ばないといけない。

暑さと重さでふらふらしながら、まるで酔っ払いの千鳥足みたいにえっちらおっちらゴミ袋を運ぶ。

ごみを溜めている保管倉庫の扉を開錠して扉を開けたら、案の定すごい臭気でヒエ!ってなった。

息を止めてひとつ目の袋を中に放り込んでから溜め息をついた。

さっさと済ませて店内に戻ろう。

きっとその頃にはあの男だって、買い物を終えて帰っているはずだ。

ゴミ袋は全部で4つ。

残り3つ。ペットボトルは軽いからプラごみと一緒に1回で運べるかな。

ひとつめの袋とサヨナラした私は、次!……って思って踵《きびす》を返して、存外すぐそばに鳥飼《とりかい》さんが立っていたのに気づいて驚いた。

「ひゃっ」

至近距離過ぎてびっくりした私に、鳥飼さんは何でもない風に

「これ、ここでいいんだろ?」

って聞いてきた。

その声に彼の手元を見たら、両手にさっき私が封をしたばかりのゴミ袋が3つ。

「え、あ、あのっ」

さすがにお客さんにこんなこと……。

そう思って慌てて手を出そうとしたら、「いいから」って言われて倉庫の手前まで運ばれてしまった。

「あ、あのそこで……」

さすがにあの猛烈なにおいのする倉庫内部まで運んでいただくのは忍びないので、手前のアスファルト上を指定した。

「別に倉庫の中まで運んでもよかったんだぜ?」

そう言ってくれたけど、「さすがにそれは困るので」ってお断りした。

***

本当はいけないんだけど、いくら何でもそのままはまずいかな?って思って、店舗裏にある水道に鳥飼さんを誘って、そこでふたりで手を洗った。

何となくこうして一緒に手洗いなんてしていると、親密になったと勘違いされそうで困る。

お願いだからバカな勘違いしないでね?

そんなことを思っていたら――。

「コンビニのごみって結構重いのな」

あっけらかんと言われた。

思わず「そんなこと……」ありません!って続けようとして、自分がごみの重みに負けて酔っ払いみた
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