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4.あいつって誰?④

Author: 鷹槻れん
last update Huling Na-update: 2025-08-05 13:34:38

何、時間の無駄遣いした挙げ句、私にそんなこと言ってくるの?

何考えてるの。

そもそも仕事の時間、大丈夫なの!?

そこまで考えて、今日は土曜日だったと思い出す。

土曜って病院はお休み?

それとも診察は午前だけで午後からフリー?

だから時間があって、こんな酔狂なことしちゃったの?

「時間が勿体無いです。バカみたいです」

私は学業とバイトの両立に日々苦労しているの。

要領がそんなによくないのがいけないのかもしれないけれど、無駄なことに使う時間は微塵もないとすら思ってる。

だから……彼みたいにわけの分からないことで時間を浪費する人を見るとイラッとしてしまうのよ。

「わー、向井ちゃん、それ、本気で言ってる? だとしたらキミのほうこそおバカさんだね」

なのに鳥飼さんは私の言葉を愚の骨頂だとでも言いたげに一蹴するの。

「俺さぁ、この店には最近もっぱら向井ちゃんに会いに来てるわけ。なのに何で他の娘《こ》にレジ頼まんとならんのよ? それこそ時間の無駄遣いだろ」

言って、私の手首をギュッと握ってくる。

「はっ、離してっ……!」

いきなりの暴挙に慌てて手を引こうとしたら、グイッと強く引っ張られて距離を詰められる。

そのまま鼻先が触れ合いそうなくらいの至近距離で顔を見下ろされた。

な、何、これっ。……近いっ。

あまりに間近過ぎて、思わず息を止めたからか、何だか心臓《むね》のあたりが痛い……。

私、男性への耐性低いんだから無闇に抱き寄せたりしないでよ……。

心臓止まったら責任とってくれるの?

「俺さ、キミが思ってるよりずっと……向井ちゃんのこと気に入ってると思うぜ? ほら。世の中にはさ、一目惚れってのがあんだろ。一目見た瞬間、あー、コイツ、自分のモンにしてぇなぁ、みたいなの。何か俺もよく分んねぇけど、あの日向井ちゃん見た瞬間、ビビッて来たんだよ。だからわざわざあん時――」

そこまで言って私を掴んだ手にほんの少し力を込めると、

「要りもしないあれこれカゴにてんこ盛りにしてキミと少しでも長く話せる機会設けたっちゅーのに。この鈍感娘、全然気付かねぇんだもん。そりゃ、連れとも険悪になんだろ」

そこで、何かを思い出したようにニヤリと笑うと、

「そういう鈍感なところも、この、すぐそばに立った時の身長差も。なんか〝あいつ
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