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第262話

Auteur: カフェイン中毒男
ただ彼に一目会いたい一心だった。怖いものなんて何もなかった。

でも二十七歳になった今の葉月には、あの頃のように向こう見ずな行動はできない。

「葉月、俺は有紗と付き合ったことなんて一度もない。

彼女のことを好きだと思ったこともない。

俺が好きなのはお前なんだ……本当に、本当に俺はお前のことが好きなんだ」

もしかしたら、一目惚れだったのかもしれない。

雪の降る中、泣きじゃくる葉月の顔を見て、心が揺らいだのかもしれない。

葉月が何度も逸平に向けてくれた笑顔に、彼は溺れていたのかもしれない。

とにかく、逸平は葉月が好きで、今までずっと一途に思い続けていた。

口を開いてしまった以上、逸平はもう隠すつもりはなかった。長年押し殺していた感情が一気に溢れ出した。

「お前はなぜ俺を愛してくれないんだ?」

以前は、自分は葉月にとって特別な存在だと思っていた。もしかしたら彼女も自分のことを想ってくれているのではないか、と。

しかし現実は容赦なく逸平を打ちのめした。

「やっと帰ってきたのに、お前は甚太と結婚しようとしていた。

お前達が婚約した日、俺は本気でお前を奪いに行きたいと思ってたよ。

甚太のどこがいいんだ?何であいつなんだ?あいつは俺より優しいのか?」って。

彼の目には、甚太は言葉巧みに人を騙す男としか見えなかった。誰に対しても優しく穏やかに接しているが、本当は誠実なんて微塵もない。

そんな奴が、葉月にふさわしいわけがない。

逸平の指先がかすかに震え、瞳には長年抑え込んできた執着や痛惜の色が渦巻いていた。

彼は、誰よりも葉月を愛していた。

「お前達が婚約してから、俺はお前に会うのが怖かった。会えば自制が効かなくなり、お前を自分のそばに引き留めたくなってしまうから」

逸平の声は次第に小さくなっていった。

あの頃の苦しみが今も目の前にあるかのようだった。

逸平は何度も清原家の外に立ち、明かりのついた窓を見上げたが、彼はもう昔のように彼女を呼び出すことはできなかった。

「お前を恨んだことさえある」逸平は突然、自分がとても幼稚で滑稽に思えてきた。

「お前はなぜそんなに俺に冷たくできるのか、って。以前はあんなに優しくしてくれたのに、俺を捨てないって言ったのに、って。

なのにお前は俺を捨てた。

ほんの少しでもいいから、俺のために悲しんでほしい
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