เข้าสู่ระบบ勇気を出して、マッチングアプリを始めることにした。初対面の人と会うなんて、これまで想像したこともなかったし、正直に言えば怖かった。それでも――「新しい恋で前を向きたい」という気持ちのほうが、恐怖をわずかに上回っていた。メッセージを重ねるうちに、Rさんという男性に少しずつ惹かれていった。彼は穏やかで、いつも積極的に話しかけてくれる。初めて電話で話したとき、その優しい声と言葉遣いに、張りつめていた緊張がほどけていくのを感じた。たった一時間ほどの会話だった。それでも、家庭環境や価値観に共通点があることを知るうちに、自然と笑顔になっていた。――もしかしたら、これが運命の始まりなのかもしれない。そんな予感が、胸の奥に静かに灯った。最初に目に入ったRさんのプロフィール写真は、後ろ姿だけだった。顔は見えない。それなのに、なぜか胸の奥がわずかにざわついた。輪郭の線、首筋の角度、全体の雰囲気。「イケメン風」という曖昧な言葉が、勝手に頭の中で形を持ちはじめる。一瞬、心臓が跳ねた。けれど、すぐに強く自分に言い聞かせる。――騙されてはいけない。写真はいくらでも加工できる。後ろ姿なら、なおさらだ。本当に顔が整っている男が、わざわざマッチングアプリを使うはずがない。そんな人間は、現実世界でいくらでも選択肢がある。これはきっと、よくできたトリックだ。そう思い込むことで、私は必死に冷静さを取り戻そうとした。もし万が一、好みど真ん中の男が現れたとしても、それは「遊び目的」だと決めておく。最初から期待を潰しておかなければ、また同じことを繰り返してしまう気がした。過去の失敗が、頭の中で次々と蘇る。何度も痛い目を見てきた私は、自分なりの統計を導き出した。――九割は、冴えない男が来る。そう思い込むことでしか、心の均衡を保てなかった。待ち合わせの時間が近づくにつ
SNSをすべてブロックして、みおんとつながる道を、自分の手で断った。 それからの二週間、私は仕事を休み、家に閉じこもった。生きているのか、死んでいるのか、自分でも判別がつかないほど、ただ眠り続けた。 目を覚ますたび、現実が胸にのしかかる。 受け入れたくなくて、また目を閉じる。 逃げるように、沈むように、眠った。 ――眠っている間だけは、何も考えずにいられたから。 けれど、不思議なことに、長い眠りの底から浮かび上がったとき、心の奥に、ほんのわずかな光が差しているのを感じた。 壊れきってはいなかった。 そう思えただけで、呼吸が少し楽になった。 「……ほんとに、ごめんね。紗月」 ゆりちゃんは俯き、申し訳なさそうにそう言った。 派手な見た目は相変わらずだけど、人を想う気持ちは昔から変わらない。 あの日から、ユウトくんからも何度も心配のDMが届いた。 ゆりも、ずっと気にかけていると。 二人に心配されていると知ったとき、胸の奥がじんわりと温かくなった。ユウトくんは言った。 「後輩の異変に気づけなかったのは、俺の責任でもある」。そう言って、騙し取られたお金を肩代わりしようとまでしてくれた。 ――こんなにも、親身になってくれる人がいる。その事実が、折れかけた心をそっと支えてくれた。 「もう、みおんとは連絡取らないようにね」 ゆりちゃんは、言葉を選ぶように続ける。 「……こんな言い方するのもあれだけど、新しい恋を探すのが一番だと思うよ」 「うん」 私は小さく息を吐いて、笑った。 「心配してくれてありがとう。私、これ……勉強代だと思うことにする。次の恋、探す!」 無理に強がったわけじゃない。 そう言えた自分に、少しだけ驚いた。 「うん。私も応援するよ」 ゆりちゃんは、やさしく笑って言った。 「マッチングアプリとかどう? 私、担当のユウトとマッチングアプリで出会ったんだよ」 そこから私は、前を向くようにマッチングアプリに手を伸ばした。 新しい出会いが、きっと何かを変えてくれると信じて。――その選択が、また別の、もっと深い闇を孕んだ恋へと続いていくことを、そのときの私は、まだ知る由もなかった。
「久しぶり〜。みおんとは仲良くしてんの??」TikTokのDM。自撮りのアイコン。ヤンキーっぽいメイクをした男の顔を見た瞬間、胸の奥が小さく沈んだ。――知っている。ゆりちゃんの担当、ユウトくん。なぜ彼から連絡が来たのか、その理由だけははっきりしていた。店では、姫同士、ホスト同士、無断で連絡を取ることを「爆弾」と呼ぶ。見つかれば罰金。だから普通は、連絡なんて来ない。でも、みおんはもう“いない”。正式に辞めたわけじゃない。ある日突然、先輩と暮らしていた家を出て、そのまま消えた。夜逃げ。そんな言葉が、一番しっくりくる形で。「うん……もう連絡取ってないから、わかんないな」自分でも驚くほど、落ち着いた返事だった。「そっかそっか。ごめんな。みおんが」その一言で、胸の奥がズキ、と鳴った。理由は知っている。みおんは、姫たちからお金を借りていた。そして、そのうちの一人が店に連絡を入れたことで、問題になった。逃げるしかなかったのだ。私も、その“姫の一人”だった。総額二十万円。返ってきていない。今月のクレジットカードの請求額を思い出すたび、胃の奥が重くなる。数字は冷静で、容赦がない。私がどれだけ感情で動いたかなんて、知ったことじゃない顔で、そこにある。――そう。私は、騙された。「今月きつくて」「本当に助けてほしい」「正直、もう限界」理由はいくつもあった。彼が苦しそうに見えるたび、胸が締めつけられた。この人を楽にしてあげたい。ただそれだけで、振り込みボタンを押した。大金を送ったあと、彼は消えた。既読もつかない。電話も鳴らない。不安が、じわじわと全身を侵食していく。翌日の昼になって、ようやく来たLINE。「ごめん!高熱で寝てた」その言葉を見た瞬間、ほっとしたはずなのに、なぜか胸の奥が冷えた。――おかしい。そう思ってしまった自分を、必死で否定した。疑うなんて最低だ、と。彼は苦しんでいるんだから、と。けれど、私は知ってしまった。彼のホストアカウントのフォロワー。そこから辿った、あるコンカフェ嬢のストーリー。私が振り込みをした“その日”に、高額を貢がれている証拠。視界が、滲んだ。ズキズキと、胸が痛む。息をするたび、内側から壊れていくようだった。怒りも、悲しみも、裏切られたという実感も、全部が一気に押し寄せてきて
『みおんくん、今までありがとう。もう私お別れする。』 短い言葉を打ち込み、震える指先で送信ボタンを押した。 数秒後、画面に「既読」の文字がつく。 心臓が一瞬止まったかと思うほど、強く胸が締めつけられる。 そして間髪入れずにスマホが鳴り響いた。 「もしもし?!」 受話口から聞こえてきた声は、息が荒く、追い詰められた獣のように震えていた。 「あ、あのさ、紗月……俺なんかしたかな?」 かすれた声。戸惑いが滲んでいる。 けれど私の中ではもう、答えは決まっていた。 「彼女、いたんだね」 声は驚くほど冷静に出た。けれど手は震えていた。 「……え?どゆこと?」 「見たよ。さやって子のツイート」 「さや??あいつまた……何回も俺から注意してるし、店からも注意されてる」 慌てたような早口。けれどその弁解は、もう心には届かない。 「うん。隠さなくていいよ?」 涙で滲んだ視界の中、天井の照明が揺れて見える。 「え、なにが?」 「私のこと、好きなんて嘘だってわかってたよ。もうでも限界……さようなら」 通話の向こうで、何かを言いかける声がした。 「え……ちょっ」 それを最後に、私は勢いよく通話を切った。 指先で「ブロック」を押す瞬間、全身の力が抜けていくような感覚がした。 スマホをベッドの上に投げ出す。 静まり返った部屋に、時計の針の音だけがやけに大きく響いていた。 ――もうお終いだ。 ずっと、離れなきゃと思っていた。 けれど、ようやく心が限界を迎えたのだ。 これでいい。 大好きだったけど、この人から離れた方がいい。 これでよかったんだ、と自分に言い聞かせる。 けれどその夜、堰を切ったように涙が溢れた。 枕を濡らしながら、声を殺して泣いた。 胸の奥に残っていた温もりが、痛みに変わっていくのを、ただ受け止めるしかなかった。 みおんがいなくなって、丸一日が過ぎた。 頭の中は四六時中文章のように彼で埋め尽くされていたけれど、夕方にはまたいつもの、何の変哲もない日常が戻ってきた。 今日だけは、どうしても笑えなかった。 心のどこかがもう限界を宣告しているようで、身体中がだるく、ただただ疲れていた。スマホをそっと伏せ、深いため息を吐く。 仕事は溜まっていない。これもフリーランスのいいところだ——気晴らしに映画でも見に行こう
毎日、彼から返信があるのは、来店の時以外は夕方だけ。 それでも私は、朝になると必ず「おはよう」とラインを送ってしまう。返事がなくても、せめて一言でも彼の目に映りたくて。 しばらく経っても既読はつかない。 寂しさに耐えきれず、「今日の朝ごはんはね」なんて、どうでもいいことを理由に追いラインを重ねた。 ――彼からしたら、どれだけ鬱陶しかっただろう。 彼女がいるのに。ホストに本気で恋して、必死に縋って。 私って、ほんとに馬鹿。馬鹿すぎる。 ポンっとラインが鳴り、「今日はありがとうね!」の一文が画面に浮かんだ。 まるで義務みたいな文章。温度なんて、何ひとつ感じられない。 ――ああ、もうやめよう。 彼のことは、きっぱり諦めよう。 「幸せな時間をありがとう」 そう心の中で呟いた瞬間、なぜか涙が頬を伝った。 出会ってから今日までのことが、いっぺんに胸に押し寄せてくる。 私は必死だった。彼が好きで、好きで、どうしようもなく好きで。 どんなに騙されても、利用されても、クズでも、鬼枕でも、嘘つきでも――それでもいいと思った。 ただ、彼の隣にいたかった。その一心で、ここまで来てしまった。 うん。私は本当に、彼のことが大好きだった。心から愛していたんだ。 ……でも、もう終わりにしよう。 決意を胸にスマホを閉じ、布団に潜り込む。ようやく浅い眠りに落ちていった。 *** ――ブーブー。 振動で目が覚めた。 ぼんやりと時計を見ると、午前四時。 「……え?」 こんな深夜に誰? 眠気で重い瞼をこすりながら画面を見ると、そこには「みおん」の名前がずらりと並んでいた。 信じられない。 着信履歴は数分おきにずっと。スクロールしてもしても、彼からの発信履歴で埋め尽くされている。 ――百件以上……? 喉がからからになり、鼓動が早くなる。 指先が汗ばんで、スマホを持つ手が震えた。 ラインを開くと、そこには怒涛のメッセージが並んでいた。 「ちゃんと帰れた?」 「なんで返信ないの?」 「なんかあった?」 「事件に巻き込まれてないよね?」 「返事して!」 いつもの営業口調ではない。 必死さすら滲む言葉が、画面を埋めていた。 ――なんで。 あんなに冷たかったのに。 私が距離を置いた途端、どうして。 胸の奥で、切ったは
通知が鳴るたびに、胸がひくりと波打つ。 「もしかして――」そんな希望がよぎる。 けれど、そのたびに期待してしまう自分に呆れ、そして深く落胆した。 ようやく彼から返信があっても、それはあまりに素っ気なくて、かえって胸を締めつけられる。 「うん」「またね」「ありがと」 絵文字も気遣いもなく、温度すら感じられない乾いた言葉。 その一言が、かえって過去のやさしさを思い出させ、胸を痛めた。 ――まるで、砂漠に置き去りにされたよう。 たしかにあったはずのぬくもりが、今はどこにもない。 *** 気づけば、寂しさに耐えきれずラインを打っていた。 「今日、お店行こうかな?」 驚くほどの速さで既読がつく。 「え!まじで」 すぐに返信が来た。 「うん、今日の21時くらいとかどうかな」 「俺めちゃめちゃ楽しみ!!」 そのあとの彼は、まるで別人だった。 ハートの絵文字が飛び交い、ラインはすぐに返ってくる。その変化が、嬉しかった。 でも――やっぱりお金が関係しているのかもしれない、と複雑な思いが胸をよぎる。 だから私は、あえて少し冷たく、塩対応のラインを送った。 それでも彼のテンションは変わらない。 ハートの絵文字つきのメッセージが次々に届く。本気で楽しみにしている様子だった。 心が揺れる。 また、あの優しさに期待してしまいそうになる。 冷静にならなきゃいけない。 だけど、今だけは――彼の声が、また聞きたい。 気づけば私は、彼に給料の半分を費やすようになっていた。 「今日もありがとうね」 店前でバイバイと手を振る彼。 にこやかに見送られるたび、まるで夢の国から現実に引き戻されたようで、彼が急に遠い存在に思えて胸が切なくなる。 私の姿が見えなくなるまで立ち尽くし、手を振り続ける彼。 その優しさにすがるようにしながら、何度も離れようとした。 ラインをブロックしようとしたこともある。 相互フォローのSNSを外そうとしたこともある。 ――それでも、できなかった。 彼がいない世界はどこか物足りなく、私の日常は空虚で、つまらないものに戻ってしまいそうで。 だから結局、私は彼の隣にいることを選んだ。 すべて、自分が望んだ結果だ。 馬鹿な女だと、自分でも思う。 利用しようとしている彼を、どうしようもなく好きでたまらないのだから。







